ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

労働新聞 2018年12月15日号 投稿・通信

外国人労働者「使い捨て」の現実

神奈川県・元ハローワーク職員
和久 晴男

 先の国会で「人手不足」を口実に外国人労働者の受け入れを認める入管法「改正」案が強行可決されました。安倍政権や自公与党の姿勢に憤りを禁じ得ず、私の経験や思いを投稿することにしました。

無責任な国、現場にしわ寄せ
 三十年ほど前から日系南米人を中心に日本国内で就労する外国人が増加し始めました。一九九〇年に出入国管理法が「改正」されて日系人の定住及び就労が認められたからです。当時のバブル景気による深刻な人手不足に対応するためです。その頃から主要な安定所には外国人専門官と非常勤の通訳が配置されるようになりました。
 私(外国人専門官でないし、配置もされていない)が窓口で外国籍の求職者に対応していたのは、二〇〇八年のリーマン・ショック発生前後の時期でした。安定所職員にとって外国人対応はほかの求職者に対するよりも時間・気力・労力が何倍もかかります。国が政策を変えてもろ手を挙げてかれら受け入れたにもかかわらず、景気が悪くなり路上に放りだされた外国人への対応は冷たいものです。本来は国策を変えてかれらを受け入れたのですから、本来は予算や人員をきちんと手当するべきですが、それが十分ではないため、そのしわ寄せが現場である安定所にくるのです。
 まず言語の問題があります。求職票が書けない、話が通じない、求人票が読めないのです。次に名前の問題。国によって姓と名の順が違い、ミドルネームがあるのは分かりますが、父方・母方の姓などがあったりします。その表記の順番が入れ替わることもあります。また、在留カードにあるカタカナ表記した名など、母国語を正確に日本語に置き換えられない場合もしばしばです。
 求人情報はパソコンに登録されています。もちろん大抵の求職者(外国人)はパソコン操作はできるのですが、記載されている求人内容が判読できないので、結局職員が一件一件取り出し、説明することになります。
 ここで面白いのは、国籍・性別を問わずすべての外国人に共通するのですが、自己を過大にアピールすることです。悪気のないウソとも言えます。職員が、職歴や希望職種を聴くと「イロイロ」「ナンデモヘーキ」。仕事の経験や免許の有無を問うと「アル」「ダイジョーブ」という具合です。安定所職員には、外国人も含め求職者一人ひとりが持っている職業的能力や適性を把握したうえで、職業選択を補助し職業紹介することを求められています。しかし多くの外国人求職者は「ナンデモイイ」を連発し、求人企業に早く電話しろと身振りで急かすのです。
 さて、職業紹介に移り、求人者に電話を入れます。職員にもよりますが、私はあえて国籍のことは伏せ、対象者の技能や経験のことから話すことにしていました。しかし当方が得た本人情報もわずかな量なのですぐに底をつき、外国人であることを告げます。すると全求人者が示し合わせたかのように同じような態度をとります。リーマン・ショックの前も同じでしたが、まず受け入れまいと防波堤を築くような態度をとります。安定所としてここで引っ込むことはできないのでめげずに話を進めると、「日本語はできますか」と質問されます。「カタコトですが、私も日本語で説明しています」と答えるので、先方の壁は大きく崩れ出しますが、それでも何とかして断ろうと「作業手順書(あるいは日報)が漢字ですが、読めますか?」と言ってきます。私はいったん電話を保留し、求職者当人に「漢字、読める?」と尋ねます。中国籍以外の人は「ノー」と首を横に振ります。それを見て再度電話に戻り求人者に本人の返答の内容を伝え、謝礼を言って電話を切ります。
 こういうパターンを何百回となく繰り返していました。そのような中でも、数十件に一件くらいの割合でも、「じゃあ、会ってみましょう」と言ってくれる社長さんもいることは確かですし、私たちもそんな対応に救われていました。
 以上は一般企業のケースですが、次に求人者が派遣会社であるケースについてお話します。奇異に思われるかもしれませんが、安定所には派遣会社からも求人が出ます。私自身は「税金を使い、国が実施する労働力需給調整は十分機能していない。自分たちならもっと効率的な運用ができる」などと言って国に規制緩和を要求し、結果として緩和に緩和が重ねられ、規制を取っ払い「派遣業」が認められました。「そのあなたたちがなぜ安定所を利用するの?」との思いがあります。
 相手がそうした派遣会社である場合、先方の断る理由が「派遣先の意向で外国人は…」であった場合、私は「御社は厚労相の許可を得てますよね。今のお話は派遣法に触れるのではありませんか」と少々強気に言って当方から電話を切りました。それを受けて相手が「では面談を…」と態度を変えてきても当方から断ります。受け入れる風を装っているだけ、面接で時間と交通費を費やした挙句、ほかの理由で断られるのが関の山だからです。
 その後、職員として求職者本人に電話でのやり取りや経過を説明しますが、かれらは日本語は解さずとも「ドノミチ、ダメナンデショ」と言った目をします。求職者の恨みは、日本政府や企業ではなく、安定所の職員に向かいがちです。他県の安定所では、外国人求職者が「なんで私には真剣に紹介してくれないんだ」との逆恨みから、通勤途上の担当した安定所職員に化学薬品を浴びせ大やけどを負わせるという事件さえ発生しています。

受け入れ態勢整備が先だ
 そうした中、さらに釈然としないことを経験しました。ある朝、通勤電車の中で座って新聞を読んでいると、途中駅から乗車した人が「オハヨウ」と言って近づいて来ました。見上げると大柄の黒人男性がニコニコして立っていました。すぐに安定所を利用しているDさんだと分かりました。私はあいさつを返し「朝早くからどこに行くの?」と尋ねました。するとDさんは「仕事(夜勤)の帰り、ベントーの工場で働いている、奥さんもいっしょ」といった内容の話をしてくれました。
 彼の採用は安定所経由ではありません。しかし彼の勤務する会社は安定所にも求人を出しており、私もほかの外国人求職者たちの相談で何度か電話で話した記憶があります。大半は断られていたと思います。
 このように求人企業の多くは、公的機関の安定所を通しては外国人を受け入れませんが、実際には外国人がいないと事業が回らないので、安定所以外のルートで受け入れるケースが多くあります。推測ですが、安定所ではとうてい示せないような違法で過酷な条件で働かせているのだと思われます。
 入管法改悪をもくろむ勢力は激安で使い捨て可能な労働力の輸入を望んでいるのでしょう。しかしかれらも生身の人間です。笑いもすれば、痛みも感じます。家族もいるでしょう。
 日本国内には何十年も前から適正な在留資格(種類によって、一定の条件が付くが)を持った外国籍の人たちが就労していましたが、かれらに対する国や企業の扱いは検証・反省されているのでしょうか。
 今まず必要なのは、現在実際に在留している外国人労働者が安心して働ける環境を整えること、そして奴隷制度・人身売買と国際社会から批判されている「技能実習生」制度を廃止することです。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2018