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労働新聞 2018年11月5日号 投稿・通信

ウソとゴマカシの政府統計

「農産物輸出拡大で
農家所得向上」の正体

兵庫県・農業 尾崎 光

  私は農業をやっています。住んでいる地域は酒米と上質の和牛肉の産地として知られています。
 ここ数年、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で日本中が大揺れでした。農協の総代会でも、先行きを心配する各総代が「TPP協定締結後の組合運営方針を」と組合長に問いただしても、以前から「うちはこれからも、輸出でも伸びるであろう清酒原料米や上質和牛肉の生産技術と実績を持っているので心配ありません」と、組合員をとりあえず安心させるだけの答弁を繰り返してきました。
 確かに、酒米でも産地間競争に打ち勝つため、穀粒選別の網の目を一ランク大きくしたりして、品質を向上させて全国の酒造会社に売り込む努力もしてきました。全国的にみても歴史と伝統のある県の肉牛共進会でも毎回上位を獲得するなど、努力も重ねてきてはいます。しかしこれで本当に安泰なのでしょうか。
 政府が八月十日に発表した今年度上半期の農産物の輸出実績は、前年度同期に比べて三百四十四億円増え、二千六百二十八億円に達し、農林水産物と食品の輸出額は前年同期比一五・二%増の四千三百五十九億円だったそうです。上期として六年連続で過去最高となり、海外で日本産の人気が高まっていることを追い風に、牛肉や果物などの輸出が好調だったとのこと。「日本農業新聞」が調査したその主な農産物輸出品目データ資料には、牛肉(特上ランク和牛肉のブランド名である神戸ビーフになる但馬牛を含む)と、清酒(地元で生産している酒造好適米としての山田錦)が堂々第三、第四位にランクインしています。また米菓(あられ、煎餅)、イチゴも地元でよく作られています。これらはほぼ国内産原料の製品です。つまり農家の所得形成につながると思われます。しかしよく考えてみると肉牛肥育に不可欠な小麦、大豆、トウモロコシはほとんどが輸入飼料であり、輸入できなければ輸出どころではありません。
 ところで、主な農産物輸出品目リスト一位の「ソース原料調味料」、二位の「清涼飲料水など」は原料のほとんどが輸入原料です。ほとんど国産原料は使っていないでしょう。ソースやたれ、マヨネーズ、ドレッシング、カレールーなどの調味料は昨年度三百億円を輸出しています。「世界中の和食ブームで増えている」と農水省が説明するしょう油(七十一億円)とみそ(三十三億円)も大半の製品が輸入大豆や小麦が主原料。
 さらに、海外で人気の「緑茶」「ビール」「リンゴ」に続く十位の「野菜の種」は上半期で四十二億円ですが、九割は海外で採種した物で国産は一割。十八位の「メントール」は化粧品やシャンプー、薬品食品添加物に使われていますが、木材原料から化学合成します。政府の輸出統計でも「有機化学品」に分類されるれっきとした工業製品。リスト最後三十位の「ゼラチン」十億円の主原料牛骨の大半は輸入品。
 政府は「二十一世紀新農政二〇〇六」において、農林水産物・食品の輸出額を〇四年からの五年で倍増する目標を掲げ、〇六年九月の臨時国会での首相所信表明演説では「一三年に輸出額を一兆円規模に」とする目標を示したが、これは達成されず、今度は一九年には一兆円を突破したいと息巻いています。
 しかし、見てきたようにウソやゴマカシでつくった政府統計データを使っても、私たちの所得拡大や生活向上につながることはありません。そもそも農産物輸出政策自体が、TPPや自由貿易協定(FTA)などの貿易自由化に農業関係者が懸念する状況のなかで、「輸出促進・所得拡大」を掲げて目をそらして反発・批判を緩和させようとするものです。政策的意図があきらかです。
 地元選出の与党代議士も、いろいろな会合の来賓あいさつのなかで、「私が中央との太いパイプ役として、地元がほかの地域との競争に打ち勝つように貢献します」とアピールしますが、「疲弊した地方同士の勝ち残り競争をさせてどうするんだ。それが現政権の地方に対する方針なのか」と怒りがこみ上げます。


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