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労働新聞 2018年2月5日号 投稿・通信

田舎暮らしの中から
見えてきたこと(7)
移住7年、まだまだ勉強中

  国の「担い手づくり」に問題あり

宮崎県・黒木 隆男

 定年退職後この中山間地で暮らすようになって七回目の正月を迎えることになりました。この正月も、集落の家々には子や孫たちが訪れ、村はひと時の賑わいを見せました。私がお借りしている住宅の隣家の孫娘は、七年前はかわいい幼稚園児だったのですが、今はもう中学生です。あらためて自分も年をとったのだということを感じました。
 移住当初、集落の人たちからは「よそ者がやって来た」というふうに見られていることを痛感しましたので、できる限り集落に溶け込むように心がけてきました。集落の共同作業はもちろん、飲み会にもせっせと足を運びました。煩わしさも含めてですが、集落内の人間関係も分かってきましたし、付き合いの幅も少しずつ広がってきました。
 この正月には最近知り合いになった隣の集落のAさんとじっくり話をする機会がありました。そしてAさんがかなりの理論家で、国や地域の農業のあり方を実に深く考えていることも分かりました。
 彼は町の農業委員をしています。農業委員会は教育委員会などと同じように市町村に設置が義務付けられている組織で、農業者の意見を行政に反映させる任務があります。農地の売買や転用に際し、農地の無秩序な開発を監視・防止することが重要な仕事の一つです。教育委員は行政の任命ですが、農業委員は農民の選挙で選ばれます。形式的ではありますが民主的な制度が残されています。
 農業を成長戦略の一つの柱と位置付ける安倍政権は、農業の大規模化、農業への企業の参入を進めるため、障がいとなる農業協同組合(JA)と農業委員会に攻撃を加えているのはご承知の通りです。
 Aさんの話では、町の行政にはその農業委員を認定農業者から選ぶようにしたいという意向があって、彼は「それはおかしいだろう」と反対しています。
 この認定農業者についても少し説明が必要になると思います。これは一九九三年に成立した農業経営基盤強化促進法に基づき、地域農業の将来を担うものとして市町村から認定された農家及び農業生産法人で、市町村に申請し認定されると金融措置や税制措置などで支援を受けることができます。原則として農地を四ヘクタール(約四町歩)以上所有する農業者であることが条件のようです。自治体によっては既に農業委員を認定農業者の中から選ぶということが実質化されているところもあるとのこと。
 Aさんは「確かに認定農業者も大事だが、小規模でも真面目に仕事をしている農家もたくさんいる。特に中山間地では、国土の保全という意味でも小規模農家は大切な役目を果たしている。また、これからの農業を考える上で、新規就農者をどう支援するかということが重要になってくる。新規就農者は出発時には小規模経営にならざるを得ない。農家といっても経営規模も多様で、その多様さを大事にし多様な意見を反映できる農業委員会でなければならない」と考えています。本当にその通りだと思いますし、そう主張しがんばっているAさんをあらためて見直したものでした。
 新規就農者の支援に関して、さらに彼はこう言っています。「農家要件というのがあって、農地を取得しようとする時、取得後五十アール(約五反)以上の農地を所有しなければならないという規定がある。新規就農者にとって五反の農地を持つというのは高いハードルだ。ハウス栽培では三反もあれば十分やっていけると思う。ハードルを下げる必要がある。大規模化だけでは日本の農業の将来を展望することはでない。いくら規模を広げても米国や豪州にはかなうはずもない。遺伝子組み換え作物でない、安全な農産物を作ることで勝負すべき。その意味では、新規就農者や定年帰農者を支援することが重要になってくると思う。企業の参入などは論外。企業は目先の利益だけを考えるから、広大な農地を取得しても、利潤が上がらなければ廃業して農地を転売するというようなことを平気でやるだろう」、とのこと。
 自分の営農のことだけでなく、国の農業のあり方を憂えているおじさんの言葉を、正座して聴くことになりました。まだまだ多くのことを学ばなければならないと痛感した正月でした。


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