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労働新聞 2017年12月5日号 投稿・通信

簡易水道組合をご存じですか

山梨県・杜川 信

 日本は水道普及率九七%以上といわれ世界でトップクラスを誇るそうですが、それは簡易水道も含まれての数字ではないのでしょうか。日本の地勢からみて、都会のような水道設備が全国を網羅しているとは思えません。
 私たちの集落のような市街地から二十キロ近く離れた山間地では、泉、清流、沢の流水などを活用してきた江戸時代以前からの水利に、今風の技術、設備を取り入れ改良を加えて今の簡易水道をつくり上げてきたのだと思います。一九六〇年代に金の卵ともてはやされて東京、大阪、名古屋などの都会へ出た方の中には、故郷の簡易水道を、ああ知ってるよ、手伝ったこともあるよという方がおられるのではないでしょうか。
 私たちの集落では簡易水道組合でムジナ沢に取水堰(ぜき)を設け、二〇〇mほどを導水し、濾過(ろか)器を通した後、塩素消毒して貯水槽から三十軒の家庭へ配水しています。三十数年ほど前から続けられているのです。
 簡易水道組合の基本は自主管理ですから、日ごろから組合員相互の協力で日々の水質検査、設備のチェック、整備、メンテナンスは欠かせません。水質検査は自治体の指導・チェックを受け、報告もしますから、法律に定められ、行われているものなのでしょう。
 貯水槽と取水堰の清掃は全組合員が参加する、欠かせない、大きな年間行事です。今年は、予定日直前に台風二十一号の直撃を受け緊急出動、続いて二十二号のため予定日は延期となり、組合員それぞれの生活に狂いが生じました。
 台風二十一号で取水堰に土砂が流入し、濁水のため濾過器は作動停止、貯水槽への給水がストップしました。このときは数人の組合員が数時間の必死の作業で、なんとか濾過器への送水を回復させ、一時的ではありましたが、断水の危機は逃れることができました。ところが台風二十二号が続きました。取水堰は完全に土砂に埋まりました。
 清掃作業の当日、貯水槽の清掃は全員が心得ておりますから、予定通りに終わりましたが、二度も台風の暴れ水にさらされた取水堰は悪戦苦闘でした。まずは土砂のか掻(か)き出し作業に二時間半、次に濾過石を取り出して流水で洗います。ヌマといわれる微細土砂がびっしりとこびりつき、埋まった濾過石の取り出しには苦労します。堰内を清掃し、取水パイプなどを修復後、濾過石を戻し、完了したのは例年より一時間半ほどオーバーした夕刻でした。
 なんとか今年の清掃作業はクリアしましたが、このような作業をいつまで続けることができるのか、大きな問題なのです。老齢化、若者の減少・不在がこの地域を覆います。不安がのしかかります。
しかし、自然災害への対応、漏水対策などできる限り自分たちで知恵を絞り、なんとか自立して運営しているのです。
 日本全体の水道会計は年間十兆円を超す赤字で、各自治体が一般会計から繰り入れ補填(ほてん)しているのが実態だと聞きます。また水道施設が広域化に誘導され、その施設維持管理にカネがかかり続けるといいます。
 そんな心配をしていたところ、朝のニュースに耳を奪われました。
 土木学会の発表では全国の水道事業を営む小規模自治体の九一%は水道施設の老朽化に直面し、今後施設の更新にはとてつもないカネと時間がかかるというのだ。高度成長の太鼓をたたいて推し進めた水道施設が四十年を過ぎ、老朽化の津波が沖から近づいてきているというわけだ。
 そうなると簡易水道もまんざらではない、優れものなのかもしれないという気持ちになります。基本的には自己完結型だから自立しています。組合員は日ごろから簡易水道に関しては、鍛えられ、知恵もあり、自在対応できるのです。
 地球とムジナ沢がある限りわれわれは「水難民」になることはないぞと、まあ能天気な安心感に落ち着いているわけです……。


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