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労働新聞 2017年9月5日号 投稿・通信

故都の夏と鎮魂

京都市・大松 右京

 皆さん、厳しい残暑を無事乗り越えられ、初秋を迎えていらっしゃることでしょうか。さて、私の住む千二百年の古都(奈良の人は京都を新地と皮肉を込めて呼びますが!)の夏の風物詩をご紹介します。
 皆さんご承知のことでしょうが、七月の祇園祭は、京都の三大祭りのひとつであり、日本三大祭り(東京の神田祭り、大阪天神祭)のひとつでもあります。巡行は、七月十七日で長刀鉾を先頭に多くの鉾と山が夏の市中心部をコンチキチンの祇園囃子の音とともに一日かけて練り歩きます。『京都の夏』は、その前日の十六日の宵山から始まり、八月十六日の五山の送り火までの一カ月です。
 さて今回、三年前から久々に復活した祇園祭の「後祭(あとまつり)」について少し話します。
 後祭は還幸祭であり、魂を八坂神社へお返しする巡行で、一九六五年の東京オリンピック翌年までは実施されていました。しかし経済の高度成長で個人の自動車が増え、交通事情も悪化し、後祭は前祭(さきまつり)に統一されました。しかし二〇一四年、本来の姿に戻そうと保存会や観光協会などが協議して復活しました。復活が決まった時は、地元の保存会だけでなく、多くの京都市民が歓喜したものです。
 前祭は鉾、山二十三基で、その先頭はおなじみ長刀鉾です。後祭は十基、その内唯一の鉾が大船鉾で、最後尾を務めます。大船鉾は、幕末の蛤御門の変で消失し、長い間復活が待望されてきましたが、ようやく二〇一六年に復活にこぎ着けました。しかしまだ復活途上で完成してはいません。あと二〜三十年かかるだろうということです。
 私は今年、後祭でトリを務める大船鉾の関係者から招待されまして、なんと祇園ばやしが流れるなか、鉾に乗ることができました。目の前で揃いの浴衣を着た囃子方の奏でる「コンチキチン」を聞きながら、この大船鉾のオーナーになったかのような心地で聞いていました。巡行は前祭から七日後の二十四日に行われ、回る道順は先祭の逆コースです。また宵山など前祭であった沿道の屋台など後祭にはなく、静かで落ち着いた雰囲気のなかで祇園囃子が流れていました。
 祇園祭は、七月一日の切符入りから始まり、十七日、二十四日の巡行の後にも七月いっぱいは諸々の神事が摂り行われています。
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 そんな暑い都の夏も、八月十六日の送り火を迎える頃になりますと、セミの声もクマゼミにヒグラシ、ツクツクホウシも混じるようになり、夜にはちらほらと虫の音が聞こえ、そこはかとなく秋の気配がしのびよってきます。
 八月十六日の五山の送り火は盂蘭盆会(うらぼんえ)の最後の大きな行事で、各家庭に戻ってきていた霊をまたあの世に送る仏事のひとつですね。
 今年、客人を案内することになり、いろいろポイントを考えたのですが、各山の火床が燃えているのはせいぜい十五分、きれいに焔が浮かび上がるのは五〜六分くらいです。
 まず東の如意ヶ嶽(いわゆる大文字山)に八時に点火されます。それから、北側の「妙」「法」、西賀茂の「舟形」、金閣寺裏手の「左大文字」、嵯峨鳥居本の「鳥居形」。
 今回は、五分おきに点火されるそれらの山を車で追っかけました。左大文字まで来た時に火勢も小さくなり、火の消えるのを見届けてから、『法音寺』を訪れました。 このお寺が左大文字の火元になっています。お寺の世話役の人が、「もうすぐ保存会のものが山から下りてきますので、迎えてやってください。」とのこと。やがて、「大」の文字を染め抜いた法被を着た集団三十人あまりが松明を持って下山してきました。
 この「左大文字の送り火」を事前準備の段階からNHKの海外放送部門が密着取材していました。当日も朝から一日中カメラを回していたそうです。後日、海外向けに放送するそうです。
 この日のために、地元では各火床の責任者、担当者が決められ、他の山との連絡責任者、消防団の配置など、綿密な組織体制が作られています。七月下旬からの下草刈り、火床周りの清掃、一週間前から薪の運び上げ、真夏の重労働が続きます。これを担うのは、麓の旧大北山村(現在の京都市北区衣笠)の村人が一子相伝で守り続けています。かつてはこの村の男系男子のみがこの作業に関われるという規約だったそうです。しかし、時代の流れの中で、この村の出身であれば女系男子も来年から参加できると決定したのだそうです。
 余談ですが、大文字は左京区に、左大文字は右側ですが北区にあります。如意ヶ嶽の大文字が仙洞御所の池に映って反射した所にあったのが左大文字だったそうです。ちなみに左京というのは、御所から羅生門を見た時に左手ということなんだそうです。なんと風雅なことでしょうか。
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 さて、この八月、日本はまさに鎮魂の月です。六日の広島、九日の長崎、十二日の日本航空一二三便の御巣鷹山墜落事故、そして十五日は盂蘭盆の最中でもあり、敗戦の日でもあります。無謀な戦争のために亡くなった人びと、そしてアジアの犠牲者を弔う日でもあります。個人的には豪雨や地震、津波などの自然災害はもちろん、不慮の事故で亡くなった多くの人びとの霊も送りました。今年の夏は各地で雨も多く、痛ましい被害も出ています。
 しかし、そんな中にも稲穂は色づき始め、収穫への期待が膨らみます。皆様、稔り豊かな秋をお迎えくださいませ。


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