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労働新聞 2019年5月25日号 8面

ベネズエラ国民は制裁に屈しない

 独立と主権を守り抜く

セイコウ・イシカワ・ベネズエラ大使

 トランプ米大統領はベネズエラのマドゥロ政権を「独裁」などと決めつけ、包囲と制裁を強化している。狙いは、世界一の原油埋蔵量を誇る同国に親米政権を樹立して原油市場の支配を強化することである。併せて、同国に多額の投資を行う中国と、支援するロシアの両国が「米国の裏庭」に進出することを防ぐ狙いである。わが国安倍政権も米国に追随している。日本共産党や進歩派の一部も、同様の態度をとっている。ベネズエラ政府・人民の、独立と主権を守る闘いは正義の闘いであり、これと連帯することが求められている。最近のベネズエラ情勢について、セイコウ・イシカワ駐日大使に聞いた。(文責編集部)


ーーベネズエラでは一月、グアイド国民議会議長が「暫定大統領」を宣言しました。グアイド氏は四月末、軍にクーデターを呼びかけましたが、わが国マスコミでさえ「失敗」と報じるほどです。まず最近のベネズエラ情勢について教えてください。

イシカワ大使 今回の事案は四月三十日、グアイド氏ら二十人ほどの首謀者グループが、偽りの命令で百人あまりの兵士を「動員」して仕掛けたものです。
 グアイド氏は「暫定大統領」を宣言後、「軍隊の切り崩し」「国民の支持獲得」、そして「政権奪取」をめざしましたが、どれも達成されていません。何の成果もをあげていないのです。
 それどころか、時が経つにつれ、彼を支持して街頭に出る人びとの数は減ってきていました。グアイド氏は、五月一日のメーデーに際して事前に大量動員を呼びかけていましたが、成功しないと見るや、今回の暴挙に至ったのです。
 そもそも、労働者を代表しているわけではないグアイド氏が、メーデーの動員を呼びかけるなど、矛盾以外の何ものでもないのですが。
 結果、クーデター策動は、首謀者の一人であるレオポルド・ロペス氏が外国の大使館に逃亡するなど、完全に失敗しました。四日に予定されていた反政府デモは、不発に終わりました。
 一連の事態を受けて、グアイド氏を支持した諸国の動きにも変化があります。
 グアイド氏は、次の大統領選挙までの「暫定大統領」という建前でした。それが、武力によるクーデターを呼びかけたわけですから、彼の掲げた「民主主義」がデタラメであったことが暴露されました。
 このため、欧州連合(EU)や中南米諸国には、米国とは一線を画し、「グアイド氏支持」の態度を変化させる国があります。
 ベネズエラ人自身による対話と合意以外に、問題解決はあり得ません。

ーーマスコミは、ベネズエラ情勢を「混乱」とし、その原因は、チャベス前政権とマドゥロ政権の「失政」だけに求めています。

イシカワ大使 グァイド氏は、米国によってデザインされ、世界に知られるようになった存在です。いわば、米国製パズルのピースです。
 トランプ大統領、ペンス副大統領らの米政権幹部は、ベネズエラ軍に「グアイド氏に従う」よう呼びかけ続けました。
 米国は、数日から数週間で、グアイド氏が政権を掌握できると見ていたようですが、それは完全な誤りでした。ご存じの通り、「人道支援」という名による軍事介入も試みられましたが、これも失敗しました。
 そこで仕掛けられたのが、三月初旬からの全土停電であり、断水でした。この背景にあるのは、米国によるサイバー攻撃です。
 私が恐れているのは、ベネズエラへの軍事介入です。この介入は、米国が軍隊を直接送り込む手段よりむしろ、ベネズエラ国内で「混乱」をでっち上げた上で、傭兵部隊を使って、もしくは他の中南米諸国の軍隊を使ったものとなる可能性があると思います。
 わが国の「混乱」の原因は、米国による制裁と内政干渉なのです。

ーーグアイド氏や米国の誤りは、何に起因するとお考えですか。

イシカワ大使 米国や野党勢力は、ボリバル革命(一九九九年のチャベス政権誕生)と、それ以降のベネズエラの変化に気付いていません。
 チャベス政権成立前、ベネズエラ国民の五五・六%が貧困ライン以下の生活を強いられていました。しかし二〇一〇年には、貧困率は二七・八%まで改善しました。一二年には、中南米諸国でもっとも格差の小さな国になっています。これらはベネズエラ政府ではなく、米州開発銀行などによる客観的な調査結果です。
 好調な原油価格を背景に、衣食住、さらに教育制度の面でも、国民生活は大きな改善をみせたのです。国民の政治意識は高まり、軍隊は「国民と共に歩む」という姿勢を強めています。
 確かに現在、国内では食料や医薬品は不足しています。政府を批判する国民が増えているのも事実です。多くの国民が「以前の生活が良かった」というのは当然でしょう。しかしこの「以前」の意味は、ボリバル革命「以前」が良かったというのではなく、チャベス政権時代が良かったということなのです。
 先のクーデター策動の際にも、多くの国民が大統領府に駆けつけ、政権を守る意思を示しました。米国などは「マドゥロ政権=独裁、国民=被害者」という単純な図式で宣伝しています。ですが、国民が防衛しようとする政権を「独裁」とはいえないと思います。
 こうした変化を見られないのは、野党や米国だけでなく、国際的メディアも陥っている誤りです。

ーー米国の制裁はベネズエラにとって打撃だと思います。政府と国民は、この事態をどうやって乗り切ろうとしているのでしょうか。

イシカワ大使 米国は一四年十二月、ベネズエラに対する経済制裁を開始し、現在も続いています。
 米シンクタンク・全米経済研究所のジェフリー・サックス研究員によると、制裁によって二年間で四万人のベネズエラ人が死に追い込まれました。国連のある機関も、ベネズエラへの制裁を「人道への罪」に当たり得ると指摘しています。
 制裁はさらに、国営石油会社(PDVSA)に及んでいます。PDVSAはベネズエラの外貨獲得手段の九五%をもたらしているため、この打撃は三百億ドル(約三・三兆円)に達しています。仮にこれだけの外貨があれば、ベネズエラは五年間、食料と医薬品を輸入できます。
 制裁に対する国民の反応は、大きく二つに分かれます。
 野党、中流層や富裕層はマドゥロ政権への不満をSNS(ソーシャルネットワーク・サービス)に書き込み、街頭行動を行っています。しかし、グアイド氏の動員という意味では「尻つぼみ」であることは述べた通りです。
 一方で大衆層は、地域のコレクティーボ(民兵組織)などを基礎に、制裁からの活路を見つけるための自主的活動を強めています。たとえば、コミュニティでの清潔な水や食料の確保・分配、日用品の生産、都市労働者の帰農による食料生産などの動きです。
 国民はボリバル革命の成果を守り、解決策を見つける能力も高めているといえます。
 不当な制裁は、直ちに止めさせなければなりません。

ーー最後に、日本国民に望むこと、伝えたいことをお願いします。

イシカワ大使 ベネズエラ国民は、祖国の独立と主権を守る意志を固めています。この決意は、制裁や内政干渉で揺らぐことはありません。
 ぜひお願いしたいのは、「事実を知ってほしい」「真実を広めてほしい」ということです。
 大使館として、われわれができることは限られていますが、皆さんの力があってこそ真実が伝わると思います。
 また、現在ベネズエラに起きていることは、内政不干渉などの国連の原則そのものを揺るがしかねないことです。つまりベネズエラだけでなく、世界中に関係していることなのです。国際の平和と安定のため、国連の諸原則やマルチラテラリズム(多国間主義)の擁護を、皆さんにも支持していただきたいと思います。


ーーありがとうございました。

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