日本労働党政府綱領(案)

(二)新しい日本の外交、安全保障政策
−−独立・自主、アジアの一員として生きる平和日本

(3)徹底した国際民主主義を実現する外交の推進と国際貢献


1、「反覇権・国際民主主義、平和5原則」の外交

 わが国がどのような進路、外交を進めるかは、世界の戦略環境、すなわち世界の平和と安全に大きな影響を与えます。世界平和に大きく貢献もできるし、逆に、大きな撹乱要因となることもありえます。そうしたものとして、われわれの進路の選択は、世界から問われるわけです。
 新政権の外交理念、ないし目的は、わが国自身と世界の国々、人びとが平和で自主的に発展できる国際環境を実現する、すなわち国際社会の徹底した民主主義の実現です。すべての国々の国家主権の尊重と内政不干渉、政治的平等の実現で、各国が自らの力で、自らに最も適した方法で経済発展と文化的発展を実現できる国際環境を保障することです。
 したがって外交の基本は、いずれの国をも敵視せず、世界のすべての国々と友好関係を確立・推進し、いかなる国であろうが覇権主義を許さないことです。領土主権の相互尊重、相互不可侵、内政不干渉、平等・互恵、平和共存の「平和5原則」を基礎に、自主・非同盟・平和の外交を積極的に推進し、国の大小、遠近、社会制度にかかわらず世界中のすべての国と、等しく平等に友好協力の外交関係を発展させるようにします。
 とくに社会体制の違いで、人権とか民主を理由に他国内政への干渉する覇権主義に反対します。西欧的価値観優先ではなく、アジア的な、あるいはイスラム的な価値観も相互に尊重し、また社会制度の違いも認め、社会主義諸国とも平和共存を厳守します。
 この反覇権、平和5原則の国家関係は、日中国交正常化の時の「共同声明」に明記されています。しかも、「社会体制の違いがあるにもかかわらず平和友好関係を樹立すべきで、可能」とも明確に言いきっています。今日でも、光輝く国際関係の原則といってよいでしょう。
 こうした外交、国際関係の構築は当然のようですが、実際はそうではありません。戦後のわが国の外交は、アメリカに縛られ多くの国を敵視した、冷戦体制のもとでの戦略外交でした。そのアメリカの外交路線は、冷戦時代の「封じ込め戦略」から、市場経済体制をとる民主主義国家群の拡大をめざす「拡大戦略」に変わりました。それは「民主、人権、環境」、あるいは核拡散問題などを前面にした「イデアルポリティーク」(理念外交)とよばれるもので、これらの課題の実現のためには各国の国家主権なども制約を受けるという露骨な内政干渉の外交政策です。自国の利益のために、「理念」を口実に中小国、体制が異なる国などの内政に干渉、介入を図る覇権政策に外なりません。
 小沢一郎氏らも、こうした「理念外交」による、覇権政治をめざしています。「日本外交の基本課題は、民主主義国の一員。……民主、人権、市場経済といった価値観は他の民主主義国と共有する日本の理念であり、この理念を追求することを通じてわが国の安定と反映を維持していく」。
 こうした考えに立つと、「理念」を同じくしない朝鮮民主主義人民共和国や中華人民共和国の国家主権は完全には尊重されず、差別扱いや内政干渉は許されて当然ということになります。事実、小沢一郎氏は、「(中国の)混乱への対処を準備しておく……民主化問題で真摯に対応するよう促す」「台湾との関係は、今後は何らかの公的関係を模索」などと露骨な内政干渉を公言しています。朝鮮半島の核問題をめぐるやりとりにもこうした方向ははっきり出ています。
 これではアジア諸国とともに生きる日本、共存共栄などおよそ不可能です。アジア諸国も、こうした「理念外交」という、新たな覇権主義外交に対して、「ダブル・スタンダード」「新植民地主義的」と激しく批判し、「生存権」「経済発展権」「開発権」などの概念で対抗しています。
 新政権は、米国と小沢氏流儀の「理念外交」の考え方をあくまで否定し、「反覇権・平和5原則」を順守した国際関係の構築をアジアを始め発展途上諸国と共にめざします。


2、第3世界諸国の経済発展と地球環境維持を支援する外交

 現実の世界では、貧富の差がますます拡大しています。こうした状況を放置しては、各国民の問題というだけでなく、世界の不安定化がいっそう進むでしょうし、世界の経済的発展そのものが(環境などを要因に)、限界にくることも間違いありません。
 新政権は、徹底した国際民主主義の実現で「南側」各国の経済建設の環境を保障するとともに、わが国の経済力、科学技術をつかって、これら諸国の経済発展、南北格差の是正と貧困の解消のための努力を支援します。とくに、環境問題と両立する経済発展を支援し、貢献するようにします。こうした「国際貢献」こそ、世界が日本に求める貢献です。
 ODAの大幅な増大など、経済援助拡大に努めます。政府援助を大幅に拡大し(当面、GNPの1%をめざす)、第3世界のすべての国々の発展・人民生活向上の努力を支持し、飢餓など緊急さ、人口規模、経済的困難の度合いなどを勘案しつつ、すべての国々を支援します。とくに第3世界の自立に役立つ技術・教育援助、また緊急の食料援助などを大幅に増やします。
 新政権は、第3世界諸国、特に貧困な国々が、わが国に対して負っている債務について、利子支払いと元本返済を無条件に免除します。他の債権国に対しても、第3世界の発展と国民生活のため、返済猶予に応じるよう主張します。
 また、新政権は地球環境維持と両立した経済発展の支援を強化しますが、この場合、とくに相手国の自力更正の努力を支援する原則を重視します。各国の経済発展と環境維持はすぐには両立が難しいだけに、相手国の主権を尊重した援助にとりわけ配慮を払います。こうしたことを前提に、当面、GNP1%程度の財政支援や先進的技術支援を強め、国際的な環境研究教育センターを日本に設置するなど、地球環境維持に貢献する新しい日本をめざします。
 こうした援助政策の前提は、援助対象国の国家主権を厳しく尊重し、一切の内政干渉を排除することであり、自力更正の努力を支援するということです。新政権は、自民党とその後の連立政権の「民主化の促進、市場経済の導入、人権・自由の保障状況を配慮する」などの原則を決めた「政府開発援助大綱」(92年6月)を破棄し、新たな主権尊重の「基本法」を作ります。また、これまでの援助政策では、まずわが国の大企業・商社の輸出を支援するといった面が色濃くありましたが、政権の基本路線の転換で改められるのはいうまでもありません。


3、核兵器のない世界をめざす

 新政府は、核武装の永遠の放棄を宣言します(法制化し憲法改正の折には憲法に明文規定する)。アメリカに匹敵する経済力をもつまでになり、科学技術先進国で核兵器開発能力はもちろん核兵器大国とさえなることのできる条件をもったわが国が、率先して核軍縮・廃絶に努めることは、世界の非核化、軍縮に大きな貢献となるでしょう。
 新政権のこうした核問題への明確な原則を前提に、核兵器禁止の国際条約を推進します。即刻、アメリカなど核保有大国に中国政府が行っているような「核先制不使用宣言」を求め、条約体制化していきます。同時に、すべての核兵器の廃絶(研究、製造、配備・備蓄、使用の禁止)の国際条約を実現するため奮闘します。
 核保有大国の核独占を保障する不平等条約であるNPT体制に反対します。NPTは、核廃絶どころか、大国の永遠の核保有を正当化するものです。この結果、非核保有の中小国は、軍事面で永遠に核大国に追従を迫られ、政治的経済的な干渉を招くことになりかねません。この体制の下では真の国際民主主義の確立は不可能です。核保有大国は、自らの核兵器を完全に放棄するか、中小国の一定規模の核保有を認めるか、いずれかしか選択肢はありません。
 わたしたちは中小非核保有国のこうした権利を認めるとともに、核兵器のない、民主主義の世界のために奮闘しなければなりません。


4、国連安保理常任理事国問題

 新政権は、国際政治のあらゆる場面で、国の大小、強弱、社会体制の違いなどを問わず徹底した国家主権の尊重・内政不干渉、真の国際民主主義が保障されるよう、一貫した努力を強めます。とくにわが国は国際実務で、一貫して中小国、大国に抑圧された国々、社会体制の違いを理由に差別を受ける国々の立場を理解し行動しなくてはなりません。
 国連問題にもこうした立場で対処します。
 現実の国連は、主権国家の国益がむき出しで争われるなかで、5大国が決定機関である安保理事会の常任理事国としておよそ民主主義とは相入れない拒否権を持つなどまったく非民主的、不公平な国際機関です。実際の役割も、朝鮮戦争から湾岸戦争、ハイチまでの国連の介入の歴史からみても平等な国際機関とはいえず、一貫して米国の世界戦略遂行の手段となってきました。こうした国連は今日、行き詰まっています。最近では、ソマリア、ルワンダ、旧ユーゴなどへの不当な干渉、介入が惨めな破綻を見せたことは記憶に新しいことです。
 新政権は、国連による他国内政への干渉・介入にあくまで反対します。加盟国の圧倒的大多数を占める発展途上の中小国は、一貫してこの非民主的な制度と大国の行動を批判し、国連改革を主張しています。新政権はこうした国々の側に立って、国連の真の民主的国際機関への改組のため行動します。とくに若干の大国に特別の権利を与えた、最も非民主的な機構である安保常任理事国制度を廃止し、すべての加盟国の少なくとも政治的な平等が保障されることが最低限必要です。
 したがって新政権は、民主的改革がないままの国連では、わが国が国連安保常任理事国になろうとはせず、世界の大多数の国々と共にあくまで国連の民主的改革のため行動します。国連の平等な民主的国際機関への改革なしに常任理事国になるという考えは、国際民主主義を求める立場と正反対の、まさに大国主義的発想です。
 しかし、現在の国連でも参加各国の大方の意見の一致がみられる、郵政事業や通信、海運、民間航空分野の国際規制、保健衛生問題などは、大国主導に反対しつつ、支持し、積極的に貢献するのはもちろんです。
 PKO、あるいは構想され、一部は具体化も進んでいる「平和強制」など、国連による大国主導の軍事的秩序形成に反対します。大国の意志を当該国国民に押しつけるだけのこうした行動は、真の平和、問題解決にならないからです。PKF(国連平和維持軍)解除は行わず、PKO法そのものを破棄します。紛争当事者の双方(国と国の間でも、1国内の内戦でも)が自らの意志で平和(停戦)を達成し、双方が一致して国際社会になんらかの「平和維持活動」を要請し、周辺国も完全に合意する状況下であれば、わが国は文民、とりわけ民間での協力を個別的協定によって積極的に実行します。


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