日本労働党政府綱領(案)

 (三)新しい日本の経済、社会、国土政策
−−国民生活水準の大幅な引き上げ。自然と調和し、
先端技術で花開く、バランスよい国土

(2)科学技術立国で新しい経済・産業構造を実現する


1、科学技術立国を国是にする

 21世紀にわが国の生きる道は、科学技術創造立国であり、これを国是とし、新しい産業経済構造をめざします。経済同友会が、「あえて象徴的にいえば、戦前は『軍事立国』、戦後は『輸出立国』、これからは世界人類との共生をめざした『技術創造立国』である」といっていますが、この範囲、あるいは言葉でいえば基本的に同じです。
 新政権は、科学技術・文化の研究、教育、開発に、国の将来を切り開くための先行投資として思い切って資源を集中投入し、高度に科学技術を集積・発展させます。科学技術立国は「教育立国」でもあります。こうして日本でしかできないような技術創造型発展で地球環境維持と国民生活向上をめざします。
 わが国経済の発展は、労働者と国民が勤勉に働いた結果でもありますが、すぐれた技術(とくに量産技術)、それらを背景とした国際競争力の結果でもあります。今後も、エネルギーや重要資源を海外に依存せざるを得ないわが国にとって、一定の国際競争力をもった技術を基礎とした生産力の維持は、民族の生存と繁栄に不可欠です。
 しかし、これまでの日本の科学技術は、独自技術とそれを生み出す基礎的な研究・開発が弱く、唯一、輸出大量生産のための「生産技術力」「量産技術」だけが独自技術といわれるような状況でした。これはすでにのべた大企業の輸出第1、すなわち「貿易立国」を国是とする、戦後の政府の政策の結果でもありますが、限界は明らかです。戦後、急速に世界の水準に追いつくための努力を重ね、いくつかの分野では追いつき、世界の先端をいく分野も現れました。しかし、まだ基礎研究でも、独自技術でも全体としては立ち遅れたままです。また、追い越して先端にたったと思われた自動車生産とかコンピュータなどの製造分野でも最近、再び欧米にキャッチアップされたとの認識も広がっています。このままでは21世紀の日本の科学技術と経済は憂慮する事態を迎えます。
 しかも、地球環境を守り、持続可能な経済発展を実現する上で、わが国は科学技術面で大きな貢献が求められています。また、アジアとの共生を進める上でも、進んだ技術の移転が必要です。
 21世紀の日本のために、基礎科学研究と独自技術開発を強力に進めなければなりません。これはわが国の命運に関わる問題です。
 これまでも「技術立国」は言われてきました。しかし、それはたくさんの「立国」の1つに過ぎず、実際は、大企業のための「輸出立国」こそ、国是だったいえます。だから、「科学技術の重視」がたびたび語られながら、自民党とその後の連立政権は、とくに大学・研究所などの基礎研究・独自技術開発部門には予算を投入しようとはしませんでした。大企業の輸出支援と技術開発とはいっても新製品開発などに財政はつぎ込まれました。
 現在のわが国の研究費総額は世界第2位ですが、大部分は大企業の新製品開発・生産技術開発です。主に基礎研究の振興と推進を図るべき政府が支出する研究開発投資額のGNP比は、主要先進国の半分程度(米1・1%、独1・0%、仏1・2%、日0・5%)に過ぎません。企業リストラで、企業の研究開発投資は激減しています。
 政府が今思い切った手をうたないと、民族の将来に取り返しのつかない事態を迎えかねません。新政権は、「科学技術立国」推進のために、科学技術研究・教育政策を転換します。


2、教育を重視し科学技術振興をはかる

 新政権は、民族の将来のために教育と研究を思い切って重視します。
 学校教育とさまざまな機会に、創造的独創的人材の育成、科学文化教育をとりわけ重視します。初等、中等教育で、偏差値教育を打破し、ゆとりある教育で自然・文化と親しむ教育、「夢を育てる」「考える」能力を引き出す教育、科学や技術への関心を育てる教育を重視します。こうした角度で、高校・大学の入試制度を改革します。そのため、文部省による管理教育、統制を廃止し、カリキュラム、教科書などを思い切って地域と教育現場に委ねます。これまでの教育はいわば、「追いつき追い越せ」で、欧米から技術を導入し、効率的に生産するのための知識偏重の詰め込み・管理教育でした。この教育が大企業の生産・輸出立国を支えたといえます。これを転換します。
 高等教育への資金の投入と研究教育体制の充実は火急の課題です。自然科学系学部卒業者、とりわけ大学院卒業者の、賃金面などとあわせて社会的待遇の大幅向上などめざします。
 経済的理由で教育を受けられない意欲ある青年がでないよう、募集人員、金額面、返済条件などで奨学制度の充実につとめ、勉学の機会均等を保障します。
 科学技術研究の国家的目標としては、当面、情報関連、生命科学、新素材研究などの基礎科学研究を重視します。また、新エネルギー創出技術開発構想や環境資源問題を重視する「ゼロ・エミッション(企業活動の結果吐き出される廃棄物のすべてをゼロにする=国連大学で研究開始)」「逆工場(製品を解体し、再び資源とするシステム)」などの構想研究を長期の重点目標にしなければなりません。
 研究開発の体制面では、アジア諸国との共同、官民の共同、中央と地方の共同などを重視し、とくに、地方のエネルギーに着目し、多彩な発想と多様な協力関係を活用するようにします。
 大学・研究所などへの研究投資額を大幅に増額し、少なくともGNP5%以上をめざし、当面一挙にGNP比2%まで増額します。累積投資額で世界のトップをめざします。


3、自主的で環境と調和するエネルギー政策

 自民党政治のもとでのわが国のエネルギー政策は、石油ショック後の一時期を除けば、大量消費型であるとともに、海外依存を深め、とくに米国依存で自立したものではありませんでした。原油などエネルギーを他国、とりわけ米国に依存するわが国が、いかに危機に弱く、自主的発展が難しいか、最近でも湾岸戦争の際に痛感させられたところです。
 世界の現状から、自主的で安全な、環境に適応するエネルギーの確保は新政権の当面の重要な課題です。国内での石炭、水力、風力、海流、地熱発電、太陽、薪炭などのエネルギー開発・利用を進めるとともに、アジア諸国と共同でエネルギー開発につとめます。
 長期にはCO2・地球温暖化問題など「成長の限界」が現実の問題になるなど、エネルギー大量消費の経済成長路線をつづけることは不可能です。省エネルギーを徹底するとともに、環境と調和する安全なエネルギーへの転換を積極的に進めます。
 原子力発電については新増設は行わず、建設中の原子力発電所は建設を即刻中止します。稼働中の原子力発電所については、全体的なエネルギー政策の発展の中で、可能な限り短時日のうちに、これが運転を中止できるようにします。
 地球環境と調和する新エネルギーの開発研究と省エネルギー経済社会の実現を重視します。


4、中小企業政策及び大企業について

 新政権は、中小企業の社会的役割を重視し、積極的育成、支援を行います。それは決して、大企業を敵視するものではありません。また、犠牲を受けてきたから、という「弱者救済」的な発想でもありません。すでにのべた、国民生活水準の徹底した向上、科学技術立国などの日本の新しい国家目標を実現する上で中小企業の役割が重要だからです。中小企業は事業所数の約99%、従業者の約80%、製造品出荷額の50%強、小売業年間販売額の約80%を占めるなど、わが国企業の中心を担っています。また、これから新政権が重視する地域主体の国づくり・産業発展という面では、とくにこれまでも中小企業はそれぞれの地域社会で、その地域の有する資源や蓄積された技術、伝統を生かして特色ある活動を展開しており、今後、新政権の新しい国土政策・産業政策の下で重要な役割の発揮が期待されます。
 優れた中小企業の創業、発展を国策と位置づけ、企業・自治体・研究機関が一体となって施策を講じます。現にある製造業のいっそうの高度化、知的・創造的産業化と生活活性型産業の強化を支援・促進します。中小企業の研究開発、デザイン開発などの高付加価値型企業への転換を支援し、こうした企業がさらに意欲的に発展できるようにしなければなりません。リサイクル、福祉・医療産業、マルチメディア、生命科学などの分野を重視します(例えば、岸本重陳・横浜国大教授が言う補聴器など身体の機能を支援する製品開発のような)。中小零細・下請け企業の技術向上、新技術開発、また業種転換などに対して、大企業、親企業の支援を義務づけます。
 一方、大企業の(海外)移転に際しては、企業の社会的責任を定め、下請け企業と地域に犠牲を及ぼさぬようにさせ、地域産業の新たな発展と結び付けるようにさせます。
 円高で大きな打撃を受けている地場産業、産地型産業への特別の支援を行います。それは地域経済の維持、また文化伝統産業の保護・育成のために、政府の責任であるからです。
 商業の発展につとめます。新政権は、製造業(鉱業や建設業を含め)や農業(林、水産を含め)など、いわゆる生産的な産業を発展させ、それを基盤に国民大多数が生活を豊かにすることに全力を上げるわけで、消費と商業サービスは非常に重要となります。国民の消費・サービス面での生活向上のため、大型小売店舗の出店、営業について、地域社会との調和・協調を重視し、中小零細の商店の維持、発展を支援します。物価の安定、住民の利便、地域・町づくり、地域文化の維持継承など、地域の中小商店が社会的にはたす役割が大きいからです。
 新政権は、大企業を敵視するものではなく、正当にその役割を評価します。また、不当な差別はしませんし、独立・自主、国内での民主主義の徹底をめざす政治変革に対して抵抗、妨害をしないならば、法律の範囲内で、すべての企業の営業活動の自由を保障します。ましてや没収などは行いません。
 しかし、旧自民党政権とその後の連立政権のような特別の優遇措置はとりません。大企業へのさまざまな税制優遇特別措置、研究開発支援、企業立地支援、各種補助金、その他いっさいの優遇措置は廃止、正常化されます。


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