日本労働党政府綱領(案)

(三)新しい日本の経済、社会、国土政策
−−国民生活水準の大幅な引き上げ。自然と調和し、
先端技術で花開く、バランスよい国土

(3)農林水産業を重視し、農山漁村の発展をはかる


1、「農業・食料基本法」を定める

 近年わが国の農業は、自民党政権とそれにつづく政権による売国農政の結果、農業の担い手と農地の大幅減少、農業生産力の弱体化、農村の過疎化の進行と農産物の自給率の大幅な低下など深刻な危機に陥っています。93年末のガット合意は、わが国の農林畜海産物の輸入量を増大させ、農林水産業の衰退と農林漁業者の生活破綻に拍車をかけることは明らかです。
 新政権は、こうした事態を打開するため、「農業のある国づくり」をすすめる「農業・食料基本法」を制定します。基本法には以下のような内容を盛り込みます。
 まず、基本理念として、農業と食料は、国の独立と安全保障の最大の基礎であること、安全、良質、安価な食料の安定供給は国民への政府の責任であり、それなしに民族の将来、繁栄がありえないことを明記します。また、農業は国土の保全と自然環境の保護、景観保全や快適な環境提供など国民の保健休養、地域経済安定、地域伝統文化の継承など、国民の生活向上に大きな役割をおっています。こうした農業と食料の意義と役割を明確にし、国民経済の中で特別に重要な基礎的産業として位置づけ、農業を発展させることを明記します。
 また、基本法では、食料の基本的自給の原則を明確にし、重要作物毎の長期の達成すべき自給量・率と備蓄量を明記し、政府に実現を義務づけます。とくにコメについては基本的に自給を堅持し、200万トン以上の備蓄を行います。その他穀物(飼料穀物を含めて)についても、当面60%程度の自給と一定量の備蓄目標を設けます。
 こうして農家が、農業について確かな展望と保証をもって、したがって希望をもって営農を続けられるようにします。
 これは食料需給が逼迫し、食料危機が予測される世界で、最大の食料輸入国の選択であって、国際的に重要な意義をもちます。
 ガット合意は、食料自給を各国固有の権利とする国際民主主義に反するもので、見直しが必要です。農産物生産は自然的条件に大きく依存し、農産物貿易を工業製品貿易と同じように扱おうとするガット体制自身が見直される必要があります。農産物貿易問題民間人会議がだした「ジュネーブ宣言」(90年2月)がいうように、どういう農業を営み、どんな食料をどの程度自給して生産するか、それぞれの国が自分たちの条件に応じて自主的に決定していくことを各国の固有の権利とすべきです。こうした原則にそって新政権は、新たな農産物の貿易ルールを作り上げるために世界に働きかけます。


2、持続可能な農業で現在と将来の国民の食料を確保する

 基本法をもとに、農業生産、農産物流通、価格、後継者育成と農地問題など各方面での目標とその実現のための政策を定め、実行します。もちろん、この政策の実行は農家の努力に全面的に支えられてはじめて可能です。これらのことは農家経済が成り立つようにし、日本農業の永続的発展を保障するための施策でもあります。
 (1) 新政権は、予期せぬ緊急時に国民の最低必要エネルギー(1人1日当たり2000Kcal)を生産するに必要な最低限の農地として、将来にわたって全国で500万ha(現在は520万ha)を最低限として維持・管理する責任をもちます。これはまた、安全で緑豊かな国土、空気、水を維持する上からも必要です。こうした角度から、とりわけ公共性の高い多目的ダム、水路、道路などをはじめ農林業の基盤整備事業を、国土政策として位置づけ、農家の合意のもとで政府事業として進めます。また、中山間地と呼ばれる条件不利地域に農地全体の42%がある現状からも、この地域農地と農業の維持を重視します。
 また、農地が(水などもふくめて)、将来にわたって農業が営めるように維持しなくてはなりません。生産効率はもちろん考慮しなければなりませんが、民族が未来にわたってコメを中心に日本の大地で採れた安全な食料を食べられるように保障するのは、新政権の大きな義務です。農業でもハイテク化は当然ですが、「将来にわたる持続可能な農業」を第1義的に重視し、農薬、化学肥料などの使用に大幅な規制を設けます。また、規模拡大農家、集落を基礎とした農場的経営などを含む多様な生産・経営主体のいずれの積極的意義も認めるとともに、機械化・科学化が不可避な大規模化を必ずしも一律には進めず、家族経営の複合農業を推奨します。
 地域で(国内で)生産すべき主要農畜産物の生産量目標とそのため確保すべき農地面積について5年先の目標と施策を明示し、農家が長期の営農計画を立てられるようにするとともに、政府は必要な施策を責任をもって進めます。
 農機具、肥・飼料、農薬など農用資材の独占価格を大幅に引き下げさせます。また、試験研究・技術普及などで、効率化を進めコストダウンをはかります。
 (2) コメの管理と流通では、基本的自給維持と安定供給に政府が責任をおうため、新しい食料管理体制をつくります。経団連など財界も食管制度の変更を熱心に提唱し、コメの生産から流通まで「市場原理」を徹底させ、政府の役割をできる限り少なくすることを求めています。こうしたことではコメの安定的な供給は実現されず、またコメ農家への再生産費用の保障も困難になります。コメの需給、管理については、生産者、消費者双方の利益をはかるため、基本的に国家管理の手法をとりますが、同時に、政府による管理に「自給の維持という限度」をもうけます。自主流通米制度のようなかたちで、ある程度の市場原理は導入します。
 (3) 価格・所得政策では、市場原理が基本ですが、その範囲内で消費者に安価な食料を安定供給し、農畜産物の国内再生産を維持するため、価格安定策、価格暴落対策が必要です。重要農産物については価格暴落時に、一定の買い支えと所得補償などを行います。
 (4) 農業後継者の育成は農業を維持する上で重要な国家的な課題です。
 義務教育で農業の意義と価値を教える教育を重視し、農家での農業実習を義務づけます。
 後継者のための農業教育の充実をはかり、また、青年農業者就農助成金制度、特別融資制度の充実など、資金面からも支援します。
 (5) 農地の保有・集約、管理については、意欲ある青年後継者を最大限支援することを前提に、基本的に農家の自主的判断に任せます。
 しかし、「持続可能な農業」維持のため、農家、協同組合、農業生産法人以外の営利第1の企業法人には農地保有、管理は認めません。
 農家の債務負担を軽減、整理し、農業を維持しやすくするため、金利低減、利子補給、返済繰り延べなどの措置を大規模に行います。


3、中山間地農業・森林の維持と発展を支援する

 中山間地域農林業(国土面積の約70%、市町村の約50%、農地面積・農業粗生産額の約42%を担う)は、食料生産とともに、国土の保全と自然環境の保護ではとりわけ重要な役割をおっています。この地域の安定と活性化は、安全で潤いのある国土形成にも不可欠で、また森林は、空気浄化と国民の保健・休養、木材の供給、水資源涵養と自然のダムとして水の保持・都市への水の供給、また災害防止などの大きな役割を負っています。
 しかし、これらの地域では歴代自民党政府とその後の連立政権の無策の結果、過疎化が極度に進み、地域社会として成り立たなくなっているようなところも少なくありません。
 新政権は、中山間地の農業生産を維持するとともに安全な国土を維持発展させ、また国民生活を向上・発展させるためにも、中山間地域に国土政策上特別の意義を認め、この地域の基幹産業として農林業を保護し、発展させるために特別の努力します。
 中山間地が地域として自立してやっていくために、農林業を中心に地域の諸条件に合致した地域経済の仕組みを作り上げる努力を積極支援します。まず必要なのは農業の活性化ですが、条件不利地の基盤整備への支援を特別に強化するとともに、地域の諸条件、状況にふさわしい作物、特性を生かした競争力ある特産物などの生産と加工の努力を支持し奨励します。また、消費地に遠い・時間がかかるなどの不利な流通条件をカバーするための道路整備、流通対策などを進め、地域農業者の意欲と努力を支持し支援します。
 それでも市場の競争では、中山間地農業が不利な位置にたつのは避けられません。中山間地の農地と森林の維持は、国土政策上の重要課題です。最近の異常渇水が、減反での中山間地水田の耕作放棄と森林荒廃で「緑のダム」が失われた結果であり、対策は、ダムをつくるよりも森林と水田の復活が肝心と指摘されています。したがって国土政策上の課題として、中山間地の森林と水田の維持を担う農家が地域で生活できるように、思い切った支援を行い安全な国土の維持に努めてもらいます。EU諸国が行っているような最低所得の直接的保障を行うものとします。また、後継者育成を重視します。
 とくに国土保全のための重要な国策として長期的視点で森林を管理し、そのため林業を産業として復活、成立させます。わが国の国土の3分の2は森林であり、世界でも有数の森林国であり、地球環境という意味でもわが国の森林と林業の役割は非常に大きなものがあります。
 森林管理を強め、「緑のダム」建設を進めます。国土保全と林業活性化のために、自然環境・景観を考慮しつつ林道、治山、砂防、水源林造成などの事業を積極的に進めます。国産木材コスト低減のための流通経費削減、道路整備など総合的対策、木材供給体制整備を進めます。地域の公共建築物は、基本的にその地域産の木材を使用し建造するようにします。民間建築物にも同様の措置を奨励します。国有林事業再建は、経済効率を考慮するにしても、開発や土地・林地の切り売りなどではなく、国土・環境保全第1に切り替え、長期的視点で進めます。リゾート開発は、地域主体で豊かな自然との共存を重視します。国産材コスト引き下げの努力を強めるとともに、地球環境維持のための森林資源を保護するためにも外国産材の無制限な輸入に規制措置をとります。
 今日のわが国森林と林業の荒廃は、戦後のパルプ・製紙大企業に原料を供給するための林業政策、その後の工業製品輸出のためにアメリカの巨大木材資本の要求に屈し、同時に安価な原料獲得をねらう大企業の要求でもあった外材輸入の拡大、さらに80年代の大規模山林所有企業や大規模開発業者のための森林のリゾート化促進と、一貫した対米追随で製紙などの大企業・大山林所有者中心の林業政策の結果です。新政権はこれを国民大多数のための林業政策に転換し、森林と林業の復活をはかり、農家、林業者の生活を安定させるとともに、安全で緑豊かな国土、水資源と空気をつくります。


4、漁業の振興

 国際的な海洋資源管理・漁業規制と各国の輸出攻勢の強まり、また、近海での資源の枯渇がいわれるなかで、国民の食料自給と漁家の生活安定のための漁業振興は重要な課題です。国民の摂取する動物性たんぱくの質の約40%は水産物からです。
 新政権は、沿岸漁業中心の漁業政策を進めます。そこでの漁業は、経営体数で全体の95%、就業者で83%を占める零細な漁業者によっています。漁業全体の発展につとめますが、とくに、経営が悪化し、後継者が減少し、高齢化が進み、生活地域としての維持にも難しさが生じているような、全国の漁村と漁業者へ努力への支援を強めます。
 漁業資源を管理し回復につとめ、資源管理型の漁業、また、栽培漁業、養殖業といった「作り育てる」漁業に力をいれます。開発、公害などによる破壊から漁場を保護し、造成・育成します。水産物加工など特産品形成への支援、流通と生活のための道路整備などを進めます。
 海洋に囲まれた島国であるわが国は世界有数規模の200カイリ水域をもっています。国際的責任としても、この水域の漁業資源の保護と回復、開発管理を進めます。千島海域を含む、ロシアとの漁業管理を見直します。韓国との間でも、国連海洋法条約に沿って200カイリ全面適用の漁業協力関係をめざします。
 国際的な資源管理に積極的役割をはたします。わが国の水産物輸入は、世界の総量の4分の1で、世界1の輸入国です。世界の漁業資源の管理・保護という面でも、「資源管理型」「つくり育てる」国内漁業を活性化させるとともに、輸入量の削減を進めます。
 また、わが国業者による東南アジア諸国でのエビなどの養殖漁業開発は、環境を重視し、技術移転につとめ、漁業資源の回復に協力し、地域住民の生活向上となるようにします。 


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