大隈議長・99年新春インタビュー (5)


待ったなしに問われるわが国の進路


 ドル基軸体制の危機が深まる中、対米従属下のわが国の進路が深刻に問われる局面になったと思います。この問題についてどうお考えか、お聞かせください。

大隈議長 危機が深まったわけですね。特にわが国は深く米帝国主義に従属している国なんです。これが一つの前提だと思います。もしドルが危機的に下落したらどうなるんだろう。たとえば端的に言ってこうでしょう。昨年末ですが経済企画庁の堺屋さんが○・五%、片っ方が一%、中をとって…というような議論がありましたね。だけど日本で経済予測をいくらやりましてもどうにもならんことがあるでしょう。つまり、世界経済がどうなるかですね。ドルは全体的に不安定なんですね。中南米等々からどうなるだろうかというようなこともありますね。ユーロがいよいよ決済通貨として始まったわけですが、これだってドルを相対化させる。等々で何かのきっかけでドルの信頼が大きく崩れたということになれば、さっきの日本政府の議論などどうにもならんわけですよね。もちろん、世界中その問題はありますよ。だけど日本はそれが見通しが狂うじゃすまなくて、即、死活にかかわる。そんな状況があるんですね。だから日本はどうやってその大きな予測される危機から脱却することができるんだろうか、というような意味でも、何らかの意味で日本はそのショックをやわらげる方向を探らざるをえないわけですね。

 これは日本の国の進路、外交問題です。しかも単なる戦術ではなくて、国策として戦略的に日本をどういうふうにして生きていこうとするのか、こういう問題を深刻に問う事態になっているわけです。これが一つの状況ですね。

 もう一つ、最近の米中関係を見ますと、かつて米国が中国との関係を作るときに頭越し外交ということがいわれたんですが、こんにち中国もまた、ほんの隣の日本ではなくて、世界の超大国である米国と連携しながら、国際政治をやっているわけです。

 昨年十一月に江沢民さんが訪日しましたが、歴史問題と台湾問題、あるいはガイドライン問題といってもいいですが、各所でこのことには一歩も譲らずやってきたんです。なんといっても中国は政治大国です。中国は中国なりに戦略があるわけですね。それなりにしたたかに生きているわけです。

そういう状況がある中で、日本の外交はいかにも危なっかしい。これは日本人がみな知っているわけです。このままではいかんということが長い間いわれてきたが、どうにもできず今日に至っている。

 そういうわけで私は、日本の進路の問題は危機の深まりの中で待ったなしの状況に来たと、こう思うんです。

 従来は、対米基軸についての批判は左翼の中だけだった。自民党は、「日米安保があると戦争になると左翼はいったが、戦争にならなかった。第一このおかげで日本は繁栄したではないか」と堂々と反論してたですね。

 六〇年代以降も何度も何度もこの問題は議論をされた。自民党政府は湾岸戦争で米国の言いなりで銭をむしり取られ、そのうえ「血を流さなかった」というのでまっとうに評価されなかった。それでも、だから血を流さなきゃならんという理屈だってあったわけですね。そして今でもその流れは、たとえばガイドライン問題などで、そういう考えを主張する者が確かにある。この人びとは米国の信用第一で通そうとしている。そして昨年暮れのイラクの爆撃についてもいち早く支持声明を出す。こんな具合なんですね。

 ところでイラク攻撃のことは、フランスでも英国でもどこでも、なかには一日も前に、米国から連絡があった。日本はほんの一時間前に爆撃すると教えられた。つまり日本など後回しでいいわけですよ。米国からみるとそんな国なんですね。それでいち早く声明を出さにゃならん。この理屈はまたまた、「そうしておかないと朝鮮でことが起こったら日本が助けてもらえない」、こういうことなんですね。

 ところで、朝鮮とことが起こる可能性は十分あるわけですが、起こったら朝鮮はなんと言っているかというと「韓国はもちろん日本にもミサイルを打ち込む」と言っているわけです。だから戦争に巻き込まれるということなんですね。

 日本には、ここまで来ててもそういう部分があるわけですね。今の小渕内閣、自自連立政権はそういう流れでしょう。他の中間諸政党も、この問題を深刻に打開できるかどうかは分からないですね。

 ところが、一昨年から始まっているこの危機は、いよいよドル基軸の世界支配があやうくなって、かげりが出てきている。そして世界恐慌が言われている。こういう状況になってきていて、根底から日本が今までの生き方を変えなければどうにもならない。

 もちろん、いままでの完全にドルに隷属させられた日本の生き方を、ドルを相対化させたり、円として生きていく道は平坦ではない。だけれども、今度予想されるような危機は、選択の問題ではなくなっている。従来はきわめて観念的で、イデオロギー論争と言われるような論争でよかったかもしれないが、今度はそういうことでない。余儀なくされる。

 私は、そういう事態にたちいたっているので、今こそ日本が明確に、いわばリスクは覚悟してでも、本格的に国の進路を戦略的に決定し、決断して実行しなきゃならんと思うんです。そこに来ていると思います。

 自民党の、あるいは日本の支配政党の多くは、この問題でずるずるしている間に、彼ら自身もこのことを口にせざるを得なくなっている。これは言い始めれば日米関係は深刻なんでしょう。だけれども、この問題は早晩彼らにも余儀なくさせる、という状況になっているんだと思います。

 ただ政治の世界では実際にそう決断する、あるいは人びとの認識が客観的に余儀なくされて、それを自分の政治の指針とするにはズレがあるわけです。誰かが早く提唱する。誰かは遅く、誰かは最後までのたうち回るという具合に進むと思いますが、この問題がいよいよ切実となった。二十一世紀を待たず、今年はこの問題で真剣な方向の模索が始まらなきゃならん、そういう年だと思います。

 ではどういう方法が考えられるだろうか。たとえば、アジアと共に生きようという意見がとても強いわけですね、その通りだと思います。あるいは中国の江沢民さんが昨年日本に来ましたが、その時、歴史問題、あるいは台湾、ガイドライン問題、この二つを提起して、ついに日本はこの問題で明確な態度をとれなかった。この点に日本の外交の立ち遅れというか、明確に日中関係を改善せにゃならんという意見。支配層が決断できなったという一つの流れもある。良識的な意見として日中関係をきちんと解決すべきであるという意見もあった。確かにそれはそうだと思います。歴史問題はきちんとしなきゃならん。台湾問題もきちんとしなきゃならん。

 しかし私は、日本がまず「日中間をどうする」とか、「対米関係をどうする」という前にやるべきことがあると思うんです。

 わが国は経済的には世界で二番目。経済的には大国なんですね。もう一つ、日本はアジアで生きていくわけですから、アジアのなかで最も先進的な国であるわけですね。アジアのなかでは本来政治としての小国ではありえない。

 だから考えなきゃならんのは、個々の問題の前に日本がどうやって世界とアジアで生きていくか、全体的に議論する必要があろうかと思うんです。そういう全体的な議論なしに、アジアとの共生の問題を論じ、あるいは従来型の日中問題を考えるというかたちで日本の進路の問題を論じられるのは、私はもはや時期に合わないと思います。

 まず日本は、アジアのなかで孤立しているわけですね。だから経済はこれほどアジアのなかでは巨大な意味を持ちながら、それでいて政治としてはとてもとても小さな国と見られる。「米国の言うなりではないか」と見られる。

 しかも中国に言われるまでもなく、二次大戦まで日本はアジア諸国に、たとえば隣の韓国や朝鮮民主主義人民共和国に対しても、中国に対しても、東南アジアに対しても、さまざまな侵略行為によって大きな損害を与えたわけですね。こういう問題を処理していない。

 したがって私は中途半端でなく、大胆にこういう問題で日本自身の問題として(歴史問題というのは日中間の問題ではないんですよ)、きちんと清算すべきだと思うんです。そしてまた「これからは前向きで行きましょう」などと言うことではなくて、そういう歴史的にきちんと整とんしなきゃならんことはして、その上で今までにも倍してアジア諸国の発展に努めるべきだと思います。貢献すべき、支援をすべきだと思うんです。だってこのあいだは韓国の首相が鹿児島に来たときに三千億ドル基金をつくりませんかと言った。宮沢は三百億ドル、こういうことになるわけですね。日本はいわば大きな資金を持っているわけですから、大胆に二次大戦以前のことを反省し、謝罪をする。

 二次大戦以後だってそうでしょう。たとえば朝鮮民主主義人民共和国を考えてごらんなさい。日本は米国といっしょになってあの三十八度線の闘いでこれを支えた。ベトナムはどうですか。朝鮮にも沖縄の基地から飛び立ちましたが、ベトナムに対してもそうでしょう。長い間、米国の側に立ってベトナム人民が独立する闘いを抑えた。二次大戦までもそうですし、二次大戦以降もアジアに敵対してやってきている。アジア人でありながら、米国の側に立ってアジアに危害を加えた。

 こういう現実があるわけですから、これらをきちんと清算をし、認識を変えるだけでなく、その償いとしても、アジアの発展に日本が貢献する必要があるわけです。こういうことはとても大事なことだと思うんです。

 ですから「これは対中問題、これは朝鮮との関係」などなどという個別のことではなくて、そういうことをきちんとすべきだと思いますね。そして日本はまずアジアで孤立しない道を選ぶ。アジアで孤立したまま、例えば朝鮮民主主義人民共和国でも、中国でも、アジアで孤立した日本が対等に渡り合えるでしょうか。評価されると思いますか。尊敬されるはずがない。そんな状況では対等な外交などできないと思います。

 だから私はアジアの諸国と孤立化を避けて、広く友好を取り戻す。正常な関係ですね。ついには尊敬を受ける、力強く頼られる、そういう道を歩くべきだと思うんですね。

 日本の進路というと「やれ対中だ」と言うような狭い次元は、もはや有効ではないと思います。中国も政治大国ですから、経済的にも自信をつけてきている。しかも頭越しに米中関係を展開しながら日本に迫ってきている。そういう流れの中では特に、全体的な考慮をしてアジアと共生するという道を選ぶべきだというふうに思います。

 ここまでくれば、いくらかの日米関係にぎくしゃくがあっても、保守派のなかにも早晩余儀なくされるということがますます明らかになってきたわけですから、外交問題での世論、国論を統一していく、そういうことが早急に求められてきていると考えております。

 また、日中関係だけについていえば、わが党は、アジア諸国との広い連携を図る一つの問題として、これからも対中問題を真剣に考え、友好運動にも取り組んでいきます。


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