大隈議長・99年新春インタビュー (3)


「ユーロ」誕生の影響などについて


 新年の一月一日から、ドイツ・フランスを中心に、欧州の十一カ国がユーロを発足させたわけですが、これの意味するところですね。それから先ほどらい言われている危機の世界的な深まりの中で、それがどんな影響を及ぼすかについてお話しいただけますか。

大隈議長 特にドイツ、フランスを中心にした欧州の主要国は、ドゴール以降、米帝国主義のドル支配に批判を持ち、抵抗を繰り返していました。しかも米国経済はだんだんと衰退しドルは動揺を重ねる。だが基軸通貨国としての米国は、自国の利益を追求するわけですから、当然欧州の人たちがこれを打開したいと思うのは当然なわけです。欧州経済の浮揚だけでなくそういう面もユーロには当然あると思います。

 ユーロ圏というのは、米国に続いての大きな生産規模、あるいは市場規模なわけですね。GDP(国内総生産)は六兆ドルあまりですか。この域内では、面倒な手続きも為替リスクもないわけで、ユーロ諸国の経済活動に及ぼす影響はきわめて大きいと思います。圏内での企業再編が進み、その過程で規模が大きくなる、競争と活気。通貨や国境を気にしないですむ。刺激しあって欧州の企業活動を大きく前進させる。これが一つあるんだと思うんですね。

 もちろん、矛盾がないわけじゃない。単一通貨、国家は十いくつもあるのに中央銀行は一つですから。国家の経済政策では、金融政策と財政政策は柱ですが、金融政策は自由につかえない。財政政策も自由になるかというと、当然むずかしくなる。そういう点で、地域格差みたいなことをどうやって調整するか、企業が移っていくか、労働者が移って行くか、むずかしい問題もたくさんあるようです。経済がうまくなければ当然政治的な危機が生まれる。だからかえって社会的な矛盾、対立を激化させるのではないか、こうした意見もたくさんあるわけです。

 ただ、さしあたって確実なことは、欧州経済、欧州企業の発展に影響を及ぼして、それが世界市場で大きな競争力として登場してくる。個々の国々の企業がばらばらに世界市場で競争していたのとは違った局面が出てくると思うんですね。

 世界の通貨や金融の問題ですが、広い市場があることによって欧州は、これまでもマルクが中心になって結構やっていたにしても、はるかにドル価値の変動に揺さぶられないですむというか、自分の陣地をもっているという意味で、その陣地がはるかに強固になったんだと思うんです。

 それは当然のことながらドルとドル体制に、もちろん円にも影響を及ぼすことになります。

 世界の安定につながるだろうかという問題ですが、ドルの地位は従来と比べるとはるかに相対化する、つまりドルの支配力は弱まるというのが常識的な見方です。というのは、世界の国々からいいますと、「ドルだけが世界のカネではないですよ」「ドルがなければユーロがあるさ」という面がでてきて、その分だけドルの信頼は低下するんだというわけです。

 それは米国にとっては従来のように基軸通貨としての勝手な振るまいがずうっと制約をうけることになる。ユーロに乗り換える人たちが出てくるわけですから。

 もうすでに先取りして、ドル離れというのは顕著になっています。これがいよいよ加速される。決済の手段としてユーロが広がるだけじゃなくて、手持ち外貨としてユーロが用いられる、ドルはとても心配だということになれば、半々でもというようなね。中国だってやるようですね。日本だって、米国に逆らえないので、国策として大きな転換はできないにしても、やはりいくらかはそういう流れになる。

 日本でも、投資家や個々企業にとってこの問題は大きなことなんで、そういうことが全体に出てくる。リスクを避ける意味からもユーロに向かうことはおおいにある。決済や蓄積する手段としてだけでなく、運用としても使われる。そういうことになれば当然、ドルオンリーではないわけですから、その分だけ米国の立場は弱くなる、と思いますね。

 ですが弱まるとはいえ、ドルがまだ支配的な現実のドル体制、世界の金融システムの不安定さがどうなるだろうかという点です。

 ユーロの誕生は、ドル以外になくてどこかの時点で大きなパニックがあるというような流れからみますと、少なくとも世界の通貨体制を一般的には安定させる要因であることは間違いないと思います。理屈の上からは。

 けれども、現実にそうなるかというとなかなか分かりにくいんだと思うんですよ。実際にドルがなんらかのことをきっかけで危うくなる。逃げ場がないときにはそれでも我慢するとか、緊急に大国間の協調をするとかさまざまなことがあり得ると思いますが、逃げ場があることは、逆に言えば、ドルが何らかのきっかけで暴落する可能性を高めることにもなります。これは大いにあり得る。

 ですからユーロの誕生は、結果として世界の金融システムを安定に向かわせるとは限らないのです。必ずしも保証されていない。ましてやいま世界経済は非常に深刻な危機ですが、その流れをかえる決め手になるわけでもありません。

 昨年後半から米国のヘッジファンドを使った金融支配に対して批判が強まっていることはすでに話しましたが、ユーロが発足するということは、そういう意味からもドル支配を困難にする要因とみて差しつかえないのではないか。米国は、ユーロの登場を心穏やかに歓迎する雰囲気ではないと思います。


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