大隈議長・99年新春インタビュー (2)


危機の現状や見通しについて


 昨年を振り返って、世界経済の危機がいちだんと深まったとの印象をもたれたようですが、危機の現状や見通しについて、どういうふうに見ておられるか、諸説がありますけれども、議長の見方についてお話しいただければと思います。

大隈議長 まず、危機の広がりという点ですね。一昨年はアジアの通貨危機ということから始まって、後半になりますと時々世界恐慌になるんだろうかという意見が出てきましたが、主としてアジアの通貨や金融あるいは経済危機といわれていた。昨九八年のはじめになりますと、これはいよいよ深刻というか、容易でないなというようなことで語られるようになって、夏にはアジア危機からロシアに広がった。秋口には中南米に広がった。こうした広がりからみますとね、文字通り世界的な危機といいますか、そういうことだと思いますね。

 つぎに、アジアからロシア、中南米と広がった経済危機は、たんなる地域的な広がりというだけでなく、アジア危機が日本に深刻であるように、ロシアはドイツを中心としたEU諸国に、中南米は米国に大きな影響を与える。だからこの危機は、先進諸国、日本、ドイツ、米国をも、圏外にたてなくなったという意味で、いっそうの危機の深まりを示すことだとみていいと思います。
 さらに重要なのは、LTCMなどヘッジファンド危機が意味するところの問題です。
短期資金を操作しながら荒稼ぎをするこういう商売は、ここ数カ年、続々とはやっていたわけです。LTCMなどの損失、これはロシアの危機を境にして表面化したわけですね。LTCMだけでなく、ソロスのところも、日本の野村ようなところも、みんなかかわって、多かれ少なかれロシア危機の中で逃げ遅れた。そしてLTCMの大損失に、米国のニューヨーク連邦準備銀行や主要な銀行、国際金融資本がすばやい反応をして、この危機を救ったことの中に、いわば今のドルを中心にした世界の金融の状況が端的に示されているわけですね。
 ちょうど日本の例でいいますと、サラ金が大問題になった時期がありますよね。サラ金は高利で困った人たちに金を貸して荒稼ぎをするんですね。まっとうな商売とはみられない。自殺者も出ましたし、やくざも使って取り立てる。しかしある時期から、これの背後にはみな、第一勧銀はじめ日本の一流の銀行がついているということがはっきりしたんです。それを思い出すんですよ。あれは、もともと日本の大手銀行が、あの時期に金が余って、どこかで稼がなければならなかったんです。
 今回のヘッジファンド、詐欺まがいのようなことも含めてやっている、その背後にも巨大な銀行がいるわけです。ヘッジファンドが大きな損失をして、大手の銀行が表面に出て助けなければならんということは、大手銀行は実は、こういうヘッジファンドをつかって大もうけをしているということなんですね。
 このことの意味です。米国は八五年を境にして借金国家に転落しており、借金はすでに世界一で、一兆数千億ドルもある。それでいて米国はいまでも年々一千億ドル以上、九八年は二千億ドルを超す、こんなに経常赤字をつくりながら、やっているんですね。
米国は、年間六千億ドルから七千億ドル、世界中から資金を環流させないとやっていけない国になっている。これがないと経常赤字も埋められないし、借金の利子も払えない。要するに米国経済も人の暮らしも現状維持さえできないといわれています。
 たしかに、米国は基軸通貨ですから、自国でドルを印刷することは可能でしょうが、すでに長い間世界中にドルを垂れ流していて、新たに毎年の赤字をどんどん輪転機を回して、紙で払う。そんなことはできない。
 では、どうやってるかというと、世界中、とりわけ貿易黒字を稼いでいる国から資金を流入させるしくみをつくっているんですね。たとえば日本は貿易で稼いだ金を持っていき場がない。だから、米国の債券や米国の株を買って、稼いだ金をせっせと米国に環流させる。日本だけではなく世界中から米国に資金が還流している。長期もあるかもしれませんが、大部分は金融資産として投資している。
 黒字国は、景気のいい米国に投資する。米国はなんで景気がいいかというと、ものすごく株が高い。この手のいわば、証券市場、債券市場があるわけですね。ヘッジファンドも盛んです。デリバティブの人気は高い。ハイリスク、ハイリターン、たとえて言えば「ふぐ屋」ですね。命がけだけれども、とてもおいしいよ、という具合なんでしょうか。そういうのが米国にあることによって、米国は金融市場がとても活気がある。これが、資金を呼ぶ米国のいわばしくみですね。日本は超低金利政策で、これをわざわざ支えることまでやっているんです。
 ついでですが、いまモノの経済で決裁するためのカネのやりとりと、金融資産でそれをやりとりするカネと比較してみますと、実体経済と比べると二十倍、三十倍、あるいはもっとという比率になっている。
まさに世界は、モノの経済というよりばくち場みたいな雰囲気になってしまっているわけですね。そのばくち場のもっともにぎやかなところが米国ということになっている。そこで手荒い稼ぎをするその商売がヘッジファンド。その商品がよくいわれるデリバティブなんですね。
 このヘッジファンド、デリバティブを先兵に、活気のある債券、株式など金融市場で、米国の巨大銀行も企業も膨大な利益を得ている。そして、日本のようにせっせと黒字を稼ぐ国もカモにされている。第三世界が質屋通いをしなければならないように、みなカモにされたわけですね。そして、もちろん米国市場に投資した人たちも、一部その金で潤い、もちろんその黒幕になっている巨大な銀行は膨大な利益をあげる。そういうしくみで米国経済がなりたっている。
 米国経済、ドル体制は、そういう形で維持されています。ですから、これが止まれば、この市場に少しでも狂いがでれば、世界経済はたちまち動揺する。
今回の事件はそこにかげりが出てきたということなんですね。このことのもつ意味はとても大きいんだと思います。
 マレーシアの首相、マハティールさんは、「アジアの経済はいままで順調にいっていたのに」と言って、「やったのはソロスだ」「米国はああいうヘッジファンドと連携してアジア経済を崩壊させた」と非難した。そして、外資にたいする規制措置を行った。マハティールさんが言いはじめたとき世界の支持はたいして得られなかったが、昨年暮れには、主要国にさえ、ヘッジファンドに資金を供給している銀行の情報公開が必要だとか、それだけでなくなんらかのヘッジファンドの活動に対する規制要求も出るようになった。
 こうした変化、これは還流システムの限界、かげりです。
米国は膨大な経常赤字、日本をはじめ一部諸国の膨大な経常黒字、そういう不均衡はどうなるのか。しかも実体経済と膨大な金融資産との間の大きな乖離(かいり)があって、膨大な金融資産は血に飢えて世界を駆け回っているんですね。
この限界が見えてきたことの世界経済と以降の世界情勢におよぼす影響は、とても深刻だろうと思います。米帝国主義、ドル基軸の世界経済、このシステムの本質にふれる意味でのかげりだと思います。
 私は、早晩、このしくみがやっていけなくなる兆候として、昨年からの変化はとらえるべきではないかと思います。
 経済とか金融に限っての面からでしょうが、昨年の十一月だったでしょうか、新聞で大蔵省の榊原財務官も言っていましたね。米国の金利の払いも限界の面が出てきていると言って、世界経済をこんにち動揺させる背景には短期資金の流れがあると言っている。第一、実体経済は二%しか年間伸びないのに、金融資産だけは二〇%も伸びる。どこかで、こんなこと続くはずがないわけで行き詰まる、と。なんらかの意味で規制が必要になってきているといって、マハティール氏がやったことは緊急措置として認められるべきではないか、という意見でした。
 暮れになって宮沢蔵相が、この問題に触れています。ユーロも出ることだし、ドル、ユーロ、それから円の間にゆるやかでも一定の幅を持たせた為替の制度が、完全に変動制ではない、連携があってもいいではないか、という言い方をしていますね。
 こういう変化は、世界の主要国の支配層が、このシステムの限界を意識しはじめたということだと思いますね。これはとても重要なことです。
 しかし、米国帝国主義はこのシステムをよりグローバル化することによって、世界支配を維持し続けようとしているわけで、米国とそれ以外の国々との間で、あるいはもっと端的に言えば主要国との間で、この問題をどうやって打開していくかについて、なかなか一致はできないだろうと思いますね。危機の深まりは主要国間の協調よりも矛盾を拡大するだろうと思います。

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