大隈議長・新春インタビュー (2)


 
−−次に、わが国外交に関連し、一昨年の四月末の日米安保共同宣言の問題について、例えば、共産党批判の演説会でも共産党が非常にそれを戦争と平和の問題にわい小化しているというような指摘がありましたけれども、この点は非常に重要だと思います。もう一度この問題についてお話し下さい。
 
大隈議長 日米安保共同宣言がやられた頃の議論では、よく「安保再定義」という言葉が使われました。安保条約が再定義される、しかも十万の米軍をアジアに配置するということで、どちらかというと狭義の意味での安全保障、軍事問題、共産党もそういう印象が強いのですが、いわゆる戦争と平和の問題というように捉えがちです。
 しかし、この日米安保共同宣言の問題を全面的に正確に理解しようとすれば、結局のところなぜこれが出てきたか、あるいはなぜ共同宣言という形で、両国が約束ごとをしたのかということを知る必要があります。これの前提には冷戦以降の新しい国際環境、とりわけアジアの情勢があります。
 日米安保共同宣言は、日米両国がアジア、あるいは世界の情勢を見て、広い意味で政治的な手を結ぶということ、政治的な戦略同盟なんです。政治的な戦略同盟、より正確に狭い概念でいえば、政治、経済、軍事同盟ということです。
 さて、その場合にきちんとしなければならないのは、アジアにアメリカはどんな方針で臨んでいるかということです。アメリカは冷戦以降のアジア情勢をどうにらみ、どう対処しようとしているかですね。
 これは九五年にアメリカのジョセフ・ナイという人物が中心になってやった国防総省の報告、「東アジア戦略構想」といわれるものですが、それが前提になっているわけです。アメリカはそこにもられたような状況に対する認識と戦略をもってアジア情勢に対処している。これに日本を巻き込んでいるわけです。だから、けっして軍事問題だけじゃないわけです。
 軍事は手段です。他の手段をもってする政治の延長ということでしょう。広い政治的な戦略目標を達成する一つの側面、一つの構成部分なんです。そういう点で私は共産党の決議を見て、奇妙にいわば日米安保共同宣言を狭めて、とりあげているという批判をしたわけです。
 東アジア戦略構想はなんといっても、ますます強大化している中国が念頭にある。アメリカは、その覇権、経済権益の確保のため、とりわけ経済的に活気のあるアジアに大きく関与したいわけですが、中国がこのまま強大になっていくと、ASEANをふくむアジア全体が大きな影響を受けると見ているわけです。
 こうなるとアメリカは自由がきかなくなる。だから、いろんな意味で中国を牽制したり、よくいわれる「積極的な関与政策」ということで、中国をふつうの資本主義国といいますか、いわば世界の中で、ある程度西側諸国にとっても扱いやすい国にしたい。それでさまざまな画策をする。ここに東アジア戦略構想のポイントがあります。
 日米安保共同宣言は、なによりもこの東アジア戦略構想を下敷にした戦略同盟なんです。ですからこれは、確かにこの中には十万の大軍を配置したり、それからガイドラインを見直して、それがよく機能するように等々ということも含まれておりますが、しかし、より包括的なものです。ですから日本外交もけっして日米安保共同宣言と無関係にやられているわけではない。対外的な経済援助の一つだってそうなんです。
 確かに日米間に利害の対立もあります。しかし基本的に日米共同宣言の方向での戦略的な同盟、この枠組みに大きく響くようなことはきちんと調整されていくべきものとして、運営されているわけです。こういう点をきちんとしませんと、日本の今日の政府が進めておる外交について、実質が見抜けないんだと思います。
 例えば先ほどあげた橋本のユーラシア外交、これもその一環なんです。対ロ関係は確かに日本の課題でもあります。北方領土問題もありますし、あるいは日本の外交の枠を広げるという意味でいえば、積極面が確かにあります。しかし、だからといって、これがアメリカの利害と調整されていないということはありえない。それは東アジア戦略構想にそったもので、一口に言って、中ロ間の「戦略同盟」にくさびを打つことを狙っています。そこをちゃんとにらんでやっているんです。
 三極外交とか四極外交という言葉で米中日ロ関係が論じられることがありますが、真の意味でわが国の外交は独立、自主ではない。
 いま私が、特にこの問題を強調するのは、日本の外交を文字どおりきちんと二十一世紀を見据えた自主・独立の外交として進めていくには、現状をきちんと把握しておく必要があるからです。
 例えば一連のEAEC(東アジア経済協議体)構想に日本がなかなか参加しなかったという問題があります。最近のことでいうと、アジア基金。これは日本の支配層はやりたかったんだと思いますよ。ところが、アメリカが頑強にIMF(国際通貨基金)中心だといって、押し通した。アジア基金構想になれば、アジアの人たちから見れば、使える銀行が二つできるわけです。IMFが厳しいこというなら、こっちと。二つできる。歓迎されます。しかし、出す金は同じでもIMFを中心にしてということで、アジア基金はご破算になった。IMFを中心にしてその横にくっついて日本はいくらも金を出させられている。これだって本来は、日本が自主、独立ふうなら、やっぱりきちんとすべきなんです。
 もっとある。これはおかしなことだけど、国内政治までそうでしょう。去年の暮れの景気対策、二兆円減税だって、もうだれでも知っている。クリントンから言われたわけです。日米首脳会談のときに、もともとは約束があった。いわば不況の尻ぬぐいをこっちにもってきなさんな、と。橋本は財政改革を犠牲にしてもこれにこたえざるを得なかった。
 そんな具合で、根っこのところが縛られているわけですよ。
 もともと両国間は従属的だけれども、安保共同宣言はアメリカの東アジア戦略構想の下敷の上に両国間が手を結んでいる政治同盟なんだと。そして軍事問題というのはその手段に過ぎないと。日本の外交が、けっして自主外交になっていないというこの実態を暴露することによって日本の外交の基本にふれるところで、闘いを構築する必要があると思うんです。

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