99年新年旗開き


大隈議長あいさつ(2)


(2)世界情勢の発展と関連していくつか

 次に、これからの情勢問題について少しご報告してみたいと思います。前提としての世界情勢の発展、関連した問題に触れてみたいと思います。

 まず、世界情勢の全体をどう見たらよいか。世界情勢の変化、出来事を、経済や政治や軍事などといういくつかの概念で仮に分けてみるとすれば、冷戦以降の大きな流れは、比較的短い局面でもますます経済の動きが重要となり、他の政治や軍事に影響を及ぼすという意味で、最も大事な視点だろうと思います。

 長期的には一般論ではありますが、経済が最も大事な点ですね。その上に世界情勢が動く。もちろん軍事も動く。経済に依存しない、あるいは触発されないで動く政治、軍事などありえません。これは一般論です。そういう意味でも経済は最も大事です。

 しかし、冷戦崩壊以降は皆さんがすでに常識にしておられるように、とりわけ経済が、基礎的な意味でも、あるいは長期的な意味というだけでなく日々の政治生活でも、国際政治の移り変わりにも、ますます大きな影響をもつ。まさに世界の政治家たちはビジネスマンのように動くといってもよい面があるんですね。

 さてごく最近の動きですが、もっと端的に言って昨一年の動きをよく見ますと、なんといっても経済の動きで大きな変化がある。これが世界政治、軍事も含めて突き動かしている。さまざまな変化は経済に起因していると見て差し支えないと思います。

まずその経済問題です。

 よくいわれる『グローバル化』だとか、『市場主義』などという問題の背景について若干申し上げてみたいと思います。

 まず昨一年、ご存じのように企業の合併とか買収などによる世界の巨大資本による集積や集中がいちだんと進んだという点について触れたいと思います。

 日本の国内でも企業合併は日常茶飯事のようになった。とくに昨年はすさまじい勢いだった。買収もありますけど。各国内で、あるいはヨーロッパのような域内で、資本の集積と集中が進んだわけですね。それから、そういう域内にとどまらないで、ドイツの企業が米国の企業と合併したとか、国際的広がりで急速に資本の集積と集中が進んだと思います。金融部門でも、製造業でも、流通でもその他さまざまな分野で企業の合併等々で集積と集中が進んだ。

 これは、ますますきわめて少数の人たちの手に、世界の生産も、生産の結果としての成果も、あるいは資本も、握られるようになったということ、つまり世界の人びとの運命がますますきわめて少数の人たちによって支配されるようになったということ、この点を一つ申し上げておきたいと思います。

 そのなかでも金融資本がますます大きな意味をもつようになった。世界は財やサービスで動く資金のほぼ四十倍近い巨大なマネー、つまり資金が世界を駆けめぐっているといわれています。

 日本の大蔵省の財務官である榊原氏は、昨年の十月末の新聞で見た発言ですが、「実体経済は世界中で年二%しか成長しないのに、金融資産は二〇%を超して成長する。こんな状況が続くはずがない。世界のいろんな経済危機を見ると短期資金がますます大きな役割を演じている」と言っているんですね。このように現在巨大な資金がひとにぎりの人たちの手に握られて、そして利を求めて、血に飢えたように弱いところがあればたちどころにそこに食らいついて、それをうち倒しながら生き血をすするようにして世界を駆け回っている。ヘッジファンドがますます大きな役割を演じ、実体経済をかく乱するようになった。一昨年のタイから始まって、今も続いているこの危機を見てもおわかりだろうかと思います。

 そして、その巨大な国際的影響力をもつ金融資本、銀行の本拠が米国にある。

 米国は基軸通貨国でありながら、長年の経常赤字国。それに、米国はコンピュータ技術が最も進んだ国です。金融業というのが、他の製造業や流通部門の業態と比較して、コンピュータで最も効率的に合理化できる、そういう具合なんですね。

 こうした条件下の米国で、ヘッジファンドとその技術が生まれたんですね。そして米国は世界で最も活気のある金融市場としてウォール街が発展した。いわば、ウォール街は金融資本家たちのラスベガスなんですね。バクチ場なんですよ。

 このシステムによって米国は、年々、膨大な経常赤字を埋め、資金を還流させる。このような還流装置をつくりあげたんですね。ノーベル経済学賞をもらったという人たちが、ヘッジファンドを本式にやっているわけで、他国がまねをしても勝ちようがない。

 よく考えてみますと、巨大な、世界を支配したこの金融資本とその担い手たちは、米国を根城にして全世界を自分の最も商売のしやすい環境に、改造しようとしているんですね。

 これがいうところの『グローバリゼーション』、あるいは『市場主義』おう歌の源泉なんです。つまり、この巨大な金融資本こそが、あらゆる内外の学者やマスコミや政治家やおすそ分けにあずかる企業家たちを総動員して、全世界の改造に取り組んでいるわけですね。「これからは国際化の時代。グローバル化は避けられない」と。

 ある国が抵抗したとすると、外から圧迫し、内側からも同調者をつくるわけですね。たとえば身近な例では、マレーシア。マハティール首相が、外国資本を規制した。そうすると内側にそんなことをしたんでは、国際社会で認められないという者があらわれる。これなどがそうですね。日本にもおります。

 『市場主義』のおう歌、まさに圧倒的な国際金融資本の世界的な影響力なんですね。ある特定の時期における特定社会の支配的イデオロギーは支配階級のイデオロギーである、とかつて言った人がおりますが。まさに、こんにち世界を支配しておるこの考え方は、ウォール街に巣くうバクチ屋どもの見解なんです。これが実態です。

 ここに、かげりが出てきたのも、また昨年ですね。京都大学に佐和という教授がおりますね。少し変わった方ですかね。私は正確には知りません。しかし彼が「市場がより完全なものになったことによって、市場のかかえておる欠陥が暴露された」という言い方を(日経新聞で見ましたが)最近しております。

 また、ヘッジファンドの帝王といわれるジョージ・ソロス。この男も、昨年はロシアで大損失を被(こうむ)ったほうですが、あまりもうけすぎたのか、やりすぎたのかわかりませんが、市場万能主義はもういかん、これを放置しておくと、世界資本主義は崩壊すると言いはじめた。空恐ろしくなったのか、そういえば、まっとうに聞こえますがね。あるいは彼は二つの顔、慈善事業もやっているそうですから、まっとうにも聞こえますがね。

 しかし実際には、ボロもうけのできるこの得がたい商売、これを続けていく上では、ある程度まで市場と国家の妥協が必要であると言おうとしているわけですね。つまり、引き続きもうけるために、しおらしいことを言っているに過ぎない。そう思いませんか。

 さっきの京都大学の佐和教授が言った、市場経済が完全になったことにより欠陥が顕在化したというところですが、もともと八〇年代なかば以降、ひんぱんに短期資金がかく乱要因として一定の役割を演じたとことは、よく知られていることですね。ソロスはかつて、ポンドを攻めて大もうけをして一躍有名人になった男ですね。ですから、バクチのような仕事は今始まったことではありません。歴史があります。

 しかし、一昨年から始まったアジアの通貨下落、そして今に続いている今回の危機は、ヘッジファンドのような、ああいう短期資金が巨大な役割を演じ、世界を大規模にかく乱する要因となるまでに成長をとげ、そのことによってドル世界の維持の限界を垣間見せたんですね。

そこで、軟着陸の考え方がいろいろ出ております。

 今、小渕首相はヨーロッパに行っておりますね。そして、ドル、ユーロ、円、この三通貨間で、目標相場制、ゆるやかな規制をやって、世界の金融システムを安定させようではないか、こういうことを言っております。これは、ドル支配体制が限界に来て、このまま放置すれば、世界の資本主義は大激動を迎えざるをえないということを懸念してのことですね。

 とりわけ日本は、まったくドル世界にゆだねている、そういう従属国なんですね。ドルが暴落すれば日本経済はたちどころに崩壊する。その兆しはすでにあります。昨年暮れからの動きを見るとよくわかる。円高と日本の新聞は書いておりますが、正確にはドル安なんですね。ドルが下落している。もしドルが暴落すれば、日本は吹っ飛ぶわけですね。

 したがって、そういう立場にある者がなにか世界は破局にいたらないで、円満な解決法がなかろうかと望むのは、自然でありますが、忘れてならないのは、かつて支配者が一戦も交えず、さっきから申し上げるように、自分の力の限界を知って、円満に政治の舞台を去ったためしはまったくないということです。これが、現実的な問題になってきているというこの事実こそ、私は、今、世界を理解する上で、もっとも重要なポイントであると、こう申し上げたい思います。

 すでに、この小渕の考え方、あるいはフランスも政府としてはそういう考え方を支持して、今度日本にやってくるなどと言っておりますが、にべなく断れない付き合いかも知れません。

 しかし、米国はドルをユーロ、円との間で相対化する、つまり、地位を下げていくことに甘んじることは、主観的にも望まないでしょうが、客観的には困難なことです。なぜなら、ドルが相対化して、地位が下がれば、米国はどうやって膨大な経常赤字を埋め合わせすることができるでしょうか。米国人の生活を何分の一に切り縮めますか。米国の企業がそのバクチ場で得たぬれ手にアワのようなその資金で、自分の企業の設備投資、技術革新をやる、あるいはアジアや中南米に投資する。それらの資金を手に入れることは不可能になる。

 つまり、米帝国主義は、ドルのその地位を明け渡すことによって、危機に陥る。大激動は避け難くなる。そのことはまた、日本はもちろん、あっと言う間に全世界に広がるかもしれない。だから、ヘッジファンドのなんらかの規制や、通貨の安定を望み、円満な妥協点を求める意見はますます高まると思うんです。実際、主要国はほとんど、なんらかの意味で規制を要求している。しかし、米国は応じる気配はない。応じられないんです。これが世界の現実だということです。

 そして、引き続き、巨大な資金は世界経済をかく乱することは避けがたい。企業合併等々で金融業界はますます巨大になっていきますが、その弱小部分、これも不安でしょう。ましてや、製造業は不安定な通貨体制では商売をやっておれないんですね。だからヨーロッパを軸にして、あるいは日本の経済界も、巨大な製造業でも、みな、なんらかの規制を求めるわけですね。

 しかし、これはとても、二度三度、力だめしをやることなしに、世界情勢が別のところに移るというのは、幻想に過ぎない。そのことを理解する必要がありはしないか。

 

次に、発展途上国問題、その発展戦略ですね。

 他国の資金をあてにして、そして、輸出主導でやっていく。これがこんど大きな打撃を受けたわけですが、例外なく、発展途上国はみな打撃を受けて、こんにち経済危機に見舞われている。ここから、どんな教訓を得るんだろうかという問題があると思います。

 これからどんな道をとるだろうか。政治的独立に続いて、自国の経済建設、そして、先進諸国の仲間入りをしたいというのが、まさにそれぞれの民族的悲願であろうと思います。八〇年代以降最近まで、限られた条件のもとでながら、東南アジア諸国連合(アセアン)その他、一連の諸国では経済的な成功が見られましたが、これからは、最近の経済危機の傷あとや、資本主義世界の危機の現状からみて、しばらくはそう安易に前進できないと思います。また帝国主義との闘いも避けがたいと思います。

 ますますこれらの諸国は、自力更生でやる以外はなく、先進諸国からの資金もこれまでのようなわけにはいかない。政治的には、たとえばアセアン諸国ならアセアンとして、いっそう連帯し、世界政治での一定の発言を確保しながら闘わなければ、これまでのような発展は不可能だと思います。最近の経済危機の中で、どさくさにまぎれて、米国資本はアジアにいっそう食い込んできています。諸国の団結のむずかしさでもあります。

 米帝国主義と他の先進諸国との間の協調関係も、これまでとは異なってくると思います。そこまで危機がきたと思いますが、そういう大国の争いの中で、これまで発展戦略で前進してきた諸国がどんな対応ができるのか。米国以外の先進諸国がこれら諸国にどんな手をさしのべるのか、こういう問題があろうかと思いますが、世界はこれまでとは大きく変わった動き方をするのではないかと思います。



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