20010515・発言

小泉政権成立の事情と政局について(2)

目前の参議院選挙で社民党は支持しない

会議における大隈鉄二議長の発言



 ところが、その米国のバブル経済が崩壊し、去年の十月以降状況は変わった。つまり、米国のバブルを前提にした世界経済は、バブルが崩壊した米国経済の現状を踏まえて、全世界がある意味で一般論ですが、再調整期に入った。こういうことになった。
 米国経済の落ち込みが、いわば森政権の末期に重なった。むしろ、そういう兆候が出たので、森政権に対する厳しい批判も起こった。
 つまり、財界は、米国はもうすでに落ち込みがはっきりしてきた、このままで日本はどうなる、この政治ではもたない、というようなことです。結局、経済界の危機感の深まりが政治の刷新を求めたというか、そういう流れ、前提があった。
 その状況を指して、私は経済がむしろ政治を突き動かしている、政治が経済を主導するということはありますが、いまの場合はむしろ政治が立ち後れていて、経済が政治を突き動かしている、という意味のことを、当時言おうとした。
 だから、この危機の進み具合では、米国経済の落ち込みが日本経済にもろに響いて、日本はまだバブルの後遺症も解決していないし、不良債権その他も残っておるのに、このうえ米国経済が落ち込む。これが非常にはっきりした時点で、日本の経済界の危機感は頂点に達したんだと思うんです。
 そういう状況の中で、政治が突き動かされている。そう言って、政治の急激な変化や、支配層の焦燥感を指摘したんです。
 ここでは、こうした変化のメカニズム、構造的なことを、前回の政治局会議での発言をふりかえりながら、少し話してみました。
 経済界の要求は当然、経済界と結びついている保守政治家、自民党だけでなく鳩山の民主党、小沢の自由党もそうですが、財界の走狗(そうく)どもの意見となる。澎湃(ほうはい)とわき上がってくる。さまざまな動きを始める。しかも、参議院選挙を控えている。そういう状況ですからね。
 それで、総裁選を見ながら、前回の政治局会議では、政治再編の「第二幕」「第二ステージ(場面)」とか、言ったんですが、九三年前後の当時と今度の財界の対応とは、明確な違いがある。それが目立つ。
 九三年の時には、あの時も「改革が進まない」ということで、しかも他方で自民党の崩壊というのは明らかだったから、「民間政治臨調」が八〇年代終わりに発足して、そして五十年を経て耐用年数がきれた自民党政治、これに代わる新たなシステムの問題を提起していました。これに呼応しようとしての動きもあった。リクルートだの佐川だのあって、その危機感の中で九三年の選挙を迎えた。
 九二年には、もう小沢らは「21世紀フォーラム」などをつくった。その前に細川の動き。政治改革、つまり小沢らの感覚でいうと、旧来のシステムの中でやってきたこの自民党では改革は進まない、という結論ですよね。小沢らは財界と同意していたんだと思うんです。
 だから九三年の総選挙の時は、財界は政治改革を促進しなければならん、あるいは二大政党制に移行する上からも、自民党がある程度野に下ることを望んで、自民党批判をマスコミあげてやった。あるいは容認した。だが、今度はやらなかったですね。
 財界の態度は、前回は自民党を批判する、今回は自民党を批判しなかった。どういう点に違いがあるかというと、政治改革、再編は望んでいるし、それから森政権の末期から見て、このままでは自民党は敗北するということは見越したにしても、財界が恐れたのは、自民党が政治的にハードランディングする、つまり激減して、結果として政局の混乱、政治危機を恐れたんです。比べてみるとそれは非常にはっきりしたと思うんです。それがマスコミの対応に、九三年との違いとして現れた。
 というのは、それほど財界は、九三年当時よりはるかに危機感を持っていたということでしょう。経済状況は深刻。日本経済はデフレ。米国もソフトランディングに失敗したわけだから、こういう局面で、相乗効果で、日本が世界経済を大きく世界恐慌のような所に巻き込む。橋本は、日本発にはさせないといったが、そういうことが起こりかねないという状況。しかも米国も非常に危機感持っている。
 この状況で財界は、政治改革を望みながらも、政治的なハードランディング、自民党が衰退するのはよいけれど、その結果として政治混乱が起り、この経済危機のさなかに政局混乱ということになれば、そこから崩れるという心配をしたんですね。
 この底流は、森降ろしをやった背景、動機と同じものなんです。それでマスコミは連日、総裁選を取り上げた。すでに別の所に政局の受け皿があって、そこで受けてもらえると、財界がそういう判断をしておれば、あの総裁選は単なる自民党の問題にすぎなかった。自民党内部のこと、相変わらずのことをやっているという批判となったんだと思うんです。
 しかし、それでは済まされなくなったような日本支配層の危機感があった、というふうに理解するのが自然ではないかと思います。九三年と比較すると、そのことは非常に浮き彫りになる。
 総裁選のこと、初期の頃、橋本が勝つだろうといわれていたが、少しずつやってみて、最初は小泉のスローガンは、「解党的出直し」ですよ。「改革なくして……」の前には自民党なんです。私が出ないと自民党は負けるよと。小泉が言っていたのは国の運命じゃないんです、最初の入り口は。
 そこから入って、だんだんに言い方を変えた。恐らく、勝てないと思っていたのが、党員選挙になった。地方の党員は、いろいろな要因が重なっていたと思うんです。自民党の危機と理解し、最終的には自民党がこのままではいかんというような危機感、参議院選挙は闘えないとの危機感が党員を動かした。
 昨日もB君の意見を取り上げて、C君が国民の中にある政治不信やその他の話をしましたが、自民党批判がとても厳しいということを地方の自民党員が感じ取っているわけです。このままでは参議院選挙も闘えないし、自民党は崩壊すると。やはり小泉がいうような解党的出直しにつながる。
 最終的に小泉は勝つわけですが、終盤戦の頃、小泉は自民党の下部地方組織の変化と、自民党選挙でありながら自民党以外の大衆の中で、あれだけマスコミが取り上げたから、小泉人気というのが出て、圧倒的に勝利した。
 マスコミの動きを見ると、日経もそうですが読売も、終盤戦の頃、政策がない、安全保障政策や何がないという批判をやったが、その時になって、小泉はそれにこたえている。はじめから勝算があったわけではない。
 しかし、いずれにしてもあれだけの茶番劇をやったので、国民の中には閉塞感を打ち破るという、期待感が急速に広がった。自民党の中にもさまざまな動き、変化が出てきた。小泉が党内だけでなく国民的支持を受けていることを前にして、小泉の組閣人事とか従来の派閥に何も相談しなかっただとか、派閥の領袖(りょうしゅう)が提起したのはむしろ落としたとか。そういうことを小泉はやりやすくなってやったんですが、橋本やその他が抵抗できなくなった。小泉は自民党内での主導権を握った。
 そこで小泉の政策を、総裁選挙の始めと後半と、いよいよ総理大臣になって取っている政治などを見ながら考えてみると、こういうことになると思うんです。
 つまり、彼らは経済に突き動かされて生まれた政権ですから、これにこたえることが小泉内閣の使命ということになる。いま、日本が当面している問題を考えますと、非常に大ざっぱにフォルダ(パソコンの)に入れるとすれば、「政治」と「経済」の改革が課題で、経済は手前からいくと、景気問題、銀行の不良債権問題、規制緩和だとか、もう少し先の話というと構造改革、財政再建など、そういう問題を抱えている。政治でいくと、要するに橋本の九六年の日米新安保、それからブッシュ政権が出来たこと、ブッシュ政権の流れの中で、端的にいうと、安全保障、有事立法問題、憲法改悪などですね。二つの課題での優先順位は経済ということになる。
 この二つですが、私は、この二つの課題をふまえて小泉は、どうしようとしているのか、についてふれてみたい。
 小泉は、支配層の危機感と、米国経済、日本経済、あるいはもう少し大ざっぱにいえば世界経済の現状から見て、経済を前面に出している。経済を前面に出しているのは、政治的混乱はなるべく避けて、経済の問題を片付けるということです。
 それではなぜこの時点で、政治を後ろに置くか、経済は差し迫っているからという意味ですが、政治は経済を解決する上での、無用な政局の混乱だとか、解決する上での阻害要因になりかねない、こうした状況があるからで、当面それは避けたいということだと思うんです。
 だから政治問題も、つまり海外派兵問題や国内の憲法問題など、この課題もどうせ解決しなければならないんだから、政治として混乱を生まないという条件があれば、手をつけるんだと思います。こういう構図になっている。経済には代え難いといっても、響かないという条件が整えばやるんだと思いますね。
 さて、小泉が当面している状況ですが、森政権では、経済も片付かなかった。外交も行き詰まった。例えば、日朝、日ロ、中国問題では最後に李登輝問題までもつくりだした。教科書問題もある。というわけで、小泉内閣はこれらの難問を引き継いでいる。それにブッシュ政権ということでも当面していることがある。
 これから先のことですが、だから小泉が総裁選で言ったようなことを、(まるで別のことはできないにしても)そのままうのみにもできないと思います。それに、組閣や発言はともかく、現実にやっていることは公明党問題なども含めて、かなり用心深い。
 それは彼には二つの要因があるんだと思います。経済がまず第一だということと、何せ参議院選挙を乗り切らなきゃならん、という二つですね。しかし、参議院選挙で勝つことは、政権を安定させ、政策遂行の条件をつくるという意味でとても大事なことなんだが、その選挙を除けば、経済と政治が課題になっている。そして何といっても経済が先と。基本的には二つが当面している課題なんだけれど、優先順位はそうなっている。
 そういうことで、今の現状を理解すると、小泉政権の政策は割と理解しやすいと思うんです。例えば、今度「金正男らしいという人物」が来たでしょう。これだって、外交問題を解決することにはならなかったんだが、これ以上深みにはまらないということ。それから田中真紀子を配置したのだって、中国の問題をにらんでいるわけですよ。あれはまさに中国をにらんでいる。難問を抱えているし、時間稼ぎにもなる。これ以上参議院選挙前に、他国との関係は悪化させたくない。教科書問題、セーフガードなど、相手国は出すでしょうから、これに小泉は対処しなければならん。向こうはともかくとして、こっちが新たに深みにはまらんためにも、ああした配置が必要だったんですね。
 そういうようなことで見てみると、問題は、以後、小泉が課題をどんなふうに展開するだろうかということも分かりやすい。基本的な課題は、経済と政治の問題、特に経済では何か、政治では何かと特定して理解しておかなければならないのですが、大ざっぱにくくれば経済と政治で、この局面では、優先順位は経済にある。これらはすでにふれました。
 しかし、政治が混乱を生まなければ、政治にも手をつけるということですから、楽観は許さないですね。例えば、参議院選挙で自民党が大勝するというようなことになり、政権がしばらく揺るがないとすれば、経済に手をつけながら、同時に政治の必要な問題にも手をつけるということだと思います。というようなことで、憲法は目前に来たり、三年、五年と遅れたりという幅があるんだと思うんです。
 それから、外交問題でも手直しをしようとしています。ブッシュはクリントン時代とは違うでしょう。対中国では、「戦略的パートーナー」が「戦略的競争相手」になった。その線で日本も手直ししなければならん。李登輝問題はすでにそれだった。
 C君の発言の中でも、一種のせめぎ合い、例えば対中関係をめぐっても日本国内でのせめぎ合いというか、対立というか、綱引きというか、それを指摘した。
 だから、非常に大ざっぱにいうと小泉政治の展開は、以上のように理解しておけばよいのではないかと思います。
 別の側面から、もう少し述べたい。問題は総裁選挙結果と小泉のこの支持。これは分析しますと、例えば小泉人気、改革を望んでいる人たちは、非常に具体的にその支持を見ますと、小泉の改革、支配層の望んでおる改革を進めると、これによって利益を受ける者も、極端にそれで損をする者も、「現状を変える」ということで、この時点で一時的に一致しているんです。とりあえず「現状打破」を、というわけです。政治が停滞して、「こう苦しくっちゃたまらん」ということになった。これは二つあるわけでしょう。都市の富裕層、金利生活者というのは、改革を望んでいる。支配層だけでなくとも、小金持ちには有利ですから。
 しかしあの改革が進むと、例えば地方の自民党がえらく小泉を支持したというんだけれども、何をやるかということになって具体化してくると、あの自民党の基盤は「小泉だって同じではないか」という批判に変わる。その同じことが都市でも中小業者の中で起こる。一部に「小泉のお陰だ」というふうに変わるものもいる。
 そういう未分化の形で、とりあえず「現状打破」という意味での雰囲気ができて、八五%か八〇%が成り立っているということ、これをわれわれ読んでおく必要がある。この構造は、支配層と小泉政権の弱さだからです。

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