労働新聞 2003年1月1日号 14面・青年

 新春座談会

土井 昨年9月の小泉首相の訪朝と日朝首脳会談は、さまざまな反響を呼びましたが、一連の経過を見るとわが国の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)敵視政策は継続されており、その上、米国追随の自主性のかけらもない外交姿勢が、劇的に示されたと思います。実に情けないことですが、にもかかわらず日朝の国交正常化は、両国の未来にとって極めて重要なことで、アジアの平和にとっても欠かすことができない課題です。労働青年団は、むしろこれ以降、この課題を実現するための国民運動の発展が重要になると考えています。青年、学生がその先頭に立つべきで、みなさんの取り組みはその意味で、教訓に富んでいると思います。ぜひ紹介して下さい。

新春座談会 参加者

土井 くみ(日本労働青年団委員長)・司会
川口 みどり(日本アジア学生交流センター)
奥平 尚吾(日本アジア学生交流センター)
チョウ ミングン(大学生 日朝友好京都学生の会)
チェ サンミ(大学生 日朝友好京都学生の会)
渡辺 優加(大学生 日朝友好京都学生の会)
大川 二郎(大学生 日朝友好京都学生の会) 
中村 研(大学生)
川人 理恵(大学生)

渡辺 日朝友好京都学生の会(以下、学生の会)を10月に立ち上げたばかりで分からないことも多いが、1人ひとりがやりたいことを日朝国交正常化にどうつなげるかが重要だと思い、企画を立てている。
川口 主にベトナムとの交流を行っている。沖縄の米軍基地問題にも取り組んでいる。韓国を訪れて駐韓米軍の巨大さや被害に驚き、米国の軍事的圧迫を見せ付けられた気がしました。日本とアジアの友好を、学生からつくり出していく必要があると思う。
チョウ 在日3世。昨年くらいから、朝鮮文化研究会などで意識の高い学生ががんばっているように思う。学生の会も立ち上げたばかりで議論が必要だが、この厳しい情勢の中で多くの可能性を秘めた会だと思う。
大川 法学部生で、無料法律相談を行っている。こんなに近い国同士、なぜ仲が悪いのかと思っていた。在日の問題をとっても、日本は過去を現在まで引きずっている。私たちは、まだ終わっていない過去をしっかり学ばなければ。
チェ 在日3世。日本に住んでいる在日朝鮮人は、例えばパスポートの色が違ったり本名を隠して生活したり、差別を受けることが多い。とにかく、戦後何十年も国交がないのは異常。私たちは外交官ではないから直接正常化交渉はできないが、民間レベルの国交正常化への努力が、この情勢で求められていると思う。
中村 有事法制がきっかけで運動を始めた。大学では岡村昭彦さんのベトナム戦争写真展を行った。今は、アジアと日本というテーマで活動し始めている。
川人 高校の時から部落問題など人権の課題に取り組んできた。在日朝鮮人への偏見や差別は、歴史の事実がないがしろにされていることに基づいている。
奥平 自分の住んでいた地域には、在日朝鮮人が多く住んでいた。近所に朝鮮学校があるが、送迎バスの「朝鮮」の二文字を色紙で隠して走っているのを見て、がく然とした。日本のマスコミ報道を見ても、歴史観の欠如に大変な危機感を覚えている。

土井 小泉首相の訪朝、またその後の対応について感じたことは?


運動の発展に向け活発に議論する日朝学生

渡辺 首相が北朝鮮に行ったことは、すごいことだと思った。しかし、3カ月たっても拉致問題ばかり騒いで、いつになったら戦後補償について話し合われるのか。テレビには両国の歴史を考える学者は出ないというより、黙殺されている。大学の新聞ですら、一般の新聞と変わらない。これにはとても落胆する。
川人 小泉の訪朝は最初画期的だと思った。大勢が注目しただろう。しかし、北朝鮮の悪い側面だけを流す報道は不愉快だなと思う。
チョウ 報道については、自分がどういうふうにとらえるかというだけのこと。私も小泉訪朝は画期的なことだと思ったが、出た答え=拉致があった。
 しかし、共和国としてもきちっとした立場で臨んだ。被害者の感情もよく分かるが、それを利用して世論をあおるのはだめだ。拉致家族はいったん帰すという合意、約束があったのだから。もっと冷静に!
 世論が正しい判断を許さないこともあるが、日本国民の中には12月に入って拉致問題の扱い方に批判もあり、修正されつつある。
チェ 小泉に対して期待もあったが、本当に友好的な国交正常化をやる気ならば、1国の首相として靖国神社には参拝しないだろう。国交正常化をしようというのに、国と国との約束を反故(ほご)にするのはとんでもないこと。これでは日本は国際社会でいつまでたっても信用されず、不利益になると思う。9月17日の報道はショックだった。平壌宣言の全文を読みたいのに、ニュースではなかなか流されなかった。
 だけど、人間として、拉致被害者のことを考えるとつらい気持ちもある。だからこそ、家族が引き裂かれる悲しみを同じように感じられる人びとだと思う。ある拉致被害者の家族が、在日朝鮮人の学生のチマチョゴリが切り裂かれる事件について、まったくの筋違いだからやめてほしいとこぼしていた。手紙を書こうかと思ったこともあった。
渡辺 そんなこと、在日の人に思わせてるなんて…。
大川 首相訪朝に期待していた。ところがテレビを見たら、拉致一色。核開発についても、米国の反北朝鮮に乗っかっている。米国に利用された。日本はもっと主体性をもってやらなければ。平壌宣言をしっかりと履行すべき。
川口 小泉訪朝は、疑いをもって見ていた。日米首脳会談もあって、小泉は米国の意向に逆らえない。平壌宣言も、拉致問題だけでなく戦後責任問題もあるのに、マスコミは取り上げず、利用されていると思った。米国に追随する小泉政権に危機感をもっている。国会議員の「北朝鮮は経済的に弱っているから、こちらが強くでれば譲歩する」という発言にあるように、外交に誠実さを欠いている。自主的に国交正常化をやらなければ結局だめ。
奥平 米国に追随する日本はアジアで孤立していく。イラク攻撃に対する反応から見ても、米国の覇権への反発は世界的に強まっており、日本も例外ではない。
中村 考えてみれば、日本は米国のお得意先で、ブッシュ政権が「悪の枢軸」論で北朝鮮攻撃を強めれば日本も追随する。そういう日米関係があるのに、北朝鮮との溝が埋まるわけがない。拉致問題もあったが、過去の植民地支配は清算されていない。第2次世界大戦で、日本はアジアに侵略した上、戦後は日米安全保障条約の下で敵視政策を継続。朝鮮戦争やベトナム戦争でも国益も考えずに米国に追随した。最近参加した南京大虐殺の写真展示会では、そんな事実はなかったと言う人もいる。厳然たる歴史をなかったことにしてしまう人も多い。

土井 今年はどのように活動していくか、抱負などお聞かせください。

渡辺 靖国神社に一国の首相が参拝するなんて。歴史軽視ではこれから日本に明るい未来はないのでは。日本人はどんどん鈍感になってきた。歴史を振り返ればうんざりするけれど、学生の会は、多くの人に支えられていると思うし、学んでいきたい。
川口 アジアで生きていくための日本の在り方、そこを軸に活動していきたい。今年はベトナムと日本の国交回復30周年。ベトナム戦争から見えるのは、米国の戦争に日本が加担している構図。
 イラク攻撃では、米国は内政干渉で政権転覆まで狙っているが、ブッシュ政権の戦略として、イラク攻撃と北朝鮮敵視の問題はつながっていると思う。アジアで生きる上でこのままでは日本に未来はない。自主的外交を貫くべきではないか。
チョウ 学生の会を立ち上げたばかりで模索中だが、朝鮮半島の平和を、共和国と日本が早期に国交を結ぶように、地道にがんばっていく。こういう活動はなかなか表面に出づらいが、多くの人びとと対話を中心に理解を広げたい。今年を学生の会躍進の年に!
大川 日本国憲法の保障する、日本の未来とは何か。差別や偏見からすべての人びとが解放されるように、今年はみんなと協力しながらがんばるつもりだ。
チェ 在日朝鮮人、日本人、朝鮮半島、すべての人びとのために何ができるか。より強く運動を推進していかなければいけない。学習もしているが、より多くの人に呼びかけ、語り合いたい。
 朝米関係がうまくいけば、日本と韓国もやりやすいのではないか。人権やマイノリティというテーマを学んで、多くの人びとと対話する中で、価値観を築きたい。
中村 さまざまな国、社会問題、矛盾。経済の問題から考えていきたい。自分の大学を中心に、学生を集めてアジアと日本というテーマをより発展させる1年にしたいと思う。
川人 日本の中の問題をさしおいて海外での活動というのではなく、足元の問題を考えたい。同時多発テロでも感じたが、諸問題に政治のかかわりを見ないと、世の中変わらない。元気にやっていくつもり。
奥平 情勢の分析をしっかりすること。世界的な経済のひずみは数年前から現れていたが、ここ最近は特に切迫している。日本では失業や就職難、生活の困窮の問題と外交の問題、これらは最終的に富を独占する一部の資本家と、それを代弁する政治の問題へつながっている。どれだけ認識を深め、広範な連携を広げていけるかにかかっている。

土井 ありがとうございました。米国のイラク攻撃や北朝鮮敵視政策は、そうでもしなければ帝国主義の世界支配が維持できなくなっているという、米帝国主義の危機感の表れ、つまり弱さの表れだと思います。それに追随するわが国の態度は、世界での孤立、亡国に導くものです。
 日本共産党や民青がこれに完全に屈服して、小泉の北朝鮮敵視政策を擁護していますが、こういう連中を暴露し、対米従属の根源、日米安保体制を打ち破る、国民的な運動の先頭に立つ学生運動を、ともにつくっていきたいと思います。がんばりましょう。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2003