20020415

失業対策求める署名に参加

失業者の境遇や感情知る
「がんばって」と激励される

日本労働青年団関東運営委員会 茨木 美智


 日本労働青年団は、各地で取り組まれている「失業者に職を!」署名キャンペーンに参加し、街頭で積極的に署名活動を展開している。署名活動や請願行動に参加した労働青年団員のレポートを紹介する。

3月23 日(土)東京就職サポートセンター(有楽町)
 土曜日だが開いているハローワークの1つ(都内では6カ所)。土曜日でも利用者は平均して300人ほどいるそうだ。失業者には、土曜も日曜も祝日も関係ない!
 署名初参加なので、どの人が失業者なのかも分からないし、どう声をかけてよいかも分からない。ただし、土曜日は平日と違って宣伝重視ということで、とにかく道行く通りすがりの人にもビラを渡し、署名を募る。
 反応としては、まず「何の署名を募っているのが分からない」らしい。手段的にはいろいろと考えられるだろうが、やっぱりこちら側の人数もたくさんいて、元気よく大きな声で呼びかけなければ、関心を持ってもらえないのかな。

*  *  *

 この日署名してくれたのは4人。1人は通行人のおばちゃん。この人は、別に失業しているわけではないが、はじめに声をかけた時は用事があったらしく、その後走って戻ってきて署名してくれた。そして「前にもやってたわよね?」とのこと。やっぱり見ている人は見ているんだなあと実感。継続は力なり。失業者が350万人もいると話すと、「容易でないご時世だねえ」と嘆く。
 次は若い姉妹。「まわりに失業してる人とかいない?」と聞くと、「いません」ときっぱり。私の知り合いには結構いるんですよ。とくにあなたの住んでいる東京はひどい状況なんです。ニュースとかチェックしてみよう、と話してみると、「はぁー」といった感じ。まだ実感としてはないだろうけど、将来のこととして、この署名をきっかけに、関心をもってもらえたらいいと思った。
 次のケースには正直驚いた。夫婦が歩いていたので、休日の買い物客かなと思い署名をお願いすると、なんと「新潟から夫婦で職を探しに来た」とのこと。もともと何の仕事をしていたのかまでは聞けなかったけれど、地方では残酷なほどに職がないそうだ。「それで、東京ではどうですか?」と聞くだけ野暮で、「ないね、やっぱり」。もう新潟へ帰る期日も迫っているが、なんとか見つけないとな〜と悲痛の面持ちだった。毎日どれだけの数の失業者が職安から職安を渡り歩いているのか……。
 初日はこんな感じで終了。あとは、党員の人と自分の分をあわせて本日6人なり。なんというか、もっと、「怒りを共有できる」話ができればよかった。

3月28日(木)大森職安前
 遅刻するものの(反省)、団員の女の子といっしょに参加。この日も天気が悪く、もってるビラが風で飛ばされる。しかし、前回の反省(声をかけるタイミングとか)を胸に、今回はがんばろうと決めて参加した。大森といえば「中小企業の大田区」なわけで、失業者も多いと聞いている。現状を自分自身がリアルに認識できるこの上ない機会だ。「東京都への失業者対策強化請願の署名です。皆さん署名してくださーい」と声を張った。先に来ていた党員の方の話では、何回か来ているうちに、「おっ、こないだもいたね」と顔見知りになったり、「あんたら○○職安前でもやってたでしょ、見たよ」といってくる人もいたらしい。前回同様、継続は力なり!
 目に付くのは、40〜50歳代くらいのおじちゃんたち。仕事がないから、仕方なしに仲間といっしょに職安前でたむろしているおじちゃんたちもいて、署名しているこちらを遠巻きに眺めている。
 女の人も多い。おばあちゃんから若い人まで、やはり職安に通っている人は多い。次から次へと後を絶たない! こんなにも失業者っているのか……と圧倒される。ここ大森だけでもこれほどの失業者が職を求めて、重々しい顔してわんさか職安にやってくる。現実の重さにやや憔悴(しょうすい)する。いや、憔悴しきっているのは失業者当人たちなんだ。この現実を都はどう思ってるのか、えっ慎○郎(怒)。
 この日は、団では2人合わせて15人の署名と、2人の請願参加をとった。団員のIさんが声をかけたおじちゃんの話。
 「俺はここに通ってまだ短いけど、中では大変だよ、いっぱい並んでる。もうこの年齢になると、年齢を言っただけで『ああ、ない、ない!』でおしまいだよ。職安の連中なんか、こっちが何言ったって右から左に聞き流しやがって、ホント頭にくるよ。米国ではサポートセンターっつーのは就職を実際に斡旋(あっせん)することをさすんだけど、日本のサポートセンターは、パソコンで職を探す『作業』のサポートをするところなんだよなっ。意味ねーよ。土台、パソコン触れられないやつは門前払いなんだし。職業訓練ったってな、産業構造がおかしくなってるんだからさ、あいつらもっと知るべきだよね。やっぱり行政の方でなんとかしてもらわないと! まだまだ仕事したいって人大勢いるんだからさ。君ら学生か? 若い人にがんばってもらわなくちゃ困るんだよ、今の若いやつは安保なんて知ってるか、なんで昔の若者が安保闘争を闘ったか分かるか?」  「何言ってるんですか、今でも安保破棄っていって、うちら暴れてるんですよーっ」と返したら「何だ、そうか」と苦笑い。最後はそんな話だった。
 もう一人、請願参加にサインしてくれた、わりと若い男の人。署名を求めると、「何を請願するわけ?」と聞いてきたので請願内容を説明した。すると、「失業手当の延長なんて、意味ないでしょ。失業した翌日にもらえるように請願するならまだしも……」とちょっと怒り気味。
 「おっしゃる通りで、欠けているところもあるかもしれませんが、ではいっしょに都庁に行って、役人に怒りをぶつけましょうよ」と誘うと、乗り気はしなかったようだがサインしてくれた。やはり、現実の要求は、現実に触れないと分からない、ようやくそれを実感した。
 この日は、その他に「もう年だしね」とあきらめ顔のおばちゃんやおじちゃんと接した。今月末には都庁へ行って、請願書と署名簿突きつけてきますよ! と言うと、「あら、ほんと、ご苦労様ね。がんばってね!」と返してくれる人も増えた。
 ビラを受け取るのもおっくうで、署名している時間ももったいないといった感じの人も多いが、「もうギリギリ、がけっぷち!」という人ほど、こちらの行動に反応を示してくれるように思った。
 大森職安での反応には衝撃を受けた。予想だにしない失業者の「現実」だった。

4月3日(水)大森職安前
 今日は天気が良い。心もち汗をかくくらいの陽気だ。そういうわけで、朝から大森職安へは、前回にも増して大量の失業者がドンドン入っていく(天気が悪くて寒くて暗〜い日に職安に行くよりも、よっしゃ今日は天気もいいし、職安でも行ってみっか!と思うんだろう)。
 これまで2回の署名行動をへているので、だんだん自信がわいてきている。むしろ、こちらが声をかける前に、失業者の方から近寄ってきて署名してくれるケースも増えた。
 職安に入る前にビラを渡す。出てきてから署名に声をかける。職を紹介してもらえた場合、たいていの人は、その紹介状を「ぐっ!」と握り締めて、職安から出てくる。  紹介状らしきものを持っていない人には、「何かご希望の仕事みつかりましたか?」と声をかける。たいていは、「あるわきゃないよ」とガックリきている。そして、自分たちに職が見つからないのは、国が悪いからだ! と怒りをぶちまける人もいる。
 紹介状を手にして出てきた人に、「仕事ありましたか。どんな仕事ですか?」と声をかけると、「一応面接に行ってみようかなと思ってるんですよ〜」と、ちょっと明るい表情だ。天と地の差。結構年配のおじちゃんが紹介状を持っていたので、「あら、なんのお仕事ですか?」とたずねると、「俺は鳶(とび)だからね」とニンマリ。
 ところが、これまでの状況が相当ひどかったらしく、また新しい仕事も面接いかんで、決まるかどうかなんて分からない。名前が「昇(のぼる)」というそのおじちゃん、「俺の人生、名前に反して下るばっかりだよ〜」と吐露する。そう、たとえ職を紹介してもらえたとしても、事がうまく運ぶとは限らないのだ。
 あるおばちゃんに、署名を求めると、「今日は息子の職を探しに来ているのよ」とのこと。息子さんは障害者だそうだ。「これまで20年勤めた会社を、障害のために足を悪くして、辞めてしまって。何とか完治したので、簡単な仕事でもいいから見つけてやりたいんだけどね」とおもむろに、息子さんの分も署名してくれた。ほとんど、障害者が就労できる職場の求人はないらしい。
 あるおばちゃんは、「自己都合退職」したらしい。それで、3カ月は再就職できず、また手当も「自己都合」だと薄っぺらなもんで、それでやりくりしなければならない。「ホント、水しか飲めないわよ〜(笑)」。深刻だ……。
 最後に署名をしてくれたのは、若い女性。たぶん私と同年代だろう。なかなか若い人は署名してくれないので、どんな環境にあるのか、これまで聞いたことがなかった。以下、紹介する。
 「見たところ私と年齢変わらないですね。今日はどうされたんですか?」  「今、失業手当の第一次審査をしてきたんです。少し前まで、小さいけど会社に勤めていたんですが、自己都合退職しました。でも、本当は『解雇』なんです!
 本社ともかけあったんですけど、『そういうことにするから』って押し切られちゃって。化粧品会社なんですけど、現場は売り上げを上げるために新入社員はいらないっていうスタンスで、本社はそれとは関係なく、決まった人員は採用するんです」。
 「現場に配置されると、とたんに『新人イジメ』。細かいミスを(何時何分○○ミスといった具合)ノートにメモされて、就業時間終了後に見せられて長いこと説教されて。要するに、キャリアをもっている人なら、どんなに態度の悪い人でも必要だけど、どんなに情熱をもっていようが、キャリアのない人間は要らないっていうんですね。数人の同僚は、陰では『がんばって!』と応援してくれていたんですが、それも上司にばれてしまって、『今後、あなたとはしゃべることもやめる』と、同僚からも見放されて。話に聞くと、私の前の新人さんも、同じ目にあわされて数カ月で辞めてるんです」。
 ここまで聞いて、憤激しない人がいるだろうか? 許せない、その会社! だったら採用するな! と、その女性におかまいなくキレまくる。労働組合とか、とにかく頼れる存在はなかったんですか?と聞いてみた。
 「母親に、そういうところに相談してみたらって言われたんですけど、いまいちよく知らないし、もう限界にもきていたんで、自己都合退職でもいいやって思っちゃったんですよね。ストレスもすごくて、顔にこんなに湿しんができちゃって。自己都合だと、失業手当もほとんどつかなくて、生活大変なんです。結局私にキャリアがなかったのが悪かったのかなーとか、自己嫌悪に陥っちゃって、失業当初は人が心配するほど落ち込んで、人生暗かったです」。
 この女性の話を聞いて、私たちはとにかく「あなたの責任ではない! それは会社の横暴で、労働基準法違反でしょ! 私の責任なんて思っちゃ絶対にだめ! 元気をだして! 私たち、力になりますよ!」と促す。彼女は、頼れるところもなく、これまで一人で悩んできたのだろう。つらかったと思う。希望に燃えて入社した会社で、そんなひどい目にあったのだから。今日、彼女に会えて、よかった。都庁への請願には来ると言ってくれた。

*  *  *

 この数日、署名を行って、失業者の具体的な状況と併せて、感情も理解できるようになった。失業者自身の立ち上がりをどう促すかは、私たちの力量にかかっているわけだが、それは、必ず、実現できる! とも強く感じている。