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商法改正・分社化
企業再編で大リストラが

労組はリストラに歯止めを

日本労働弁護団・井上幸夫幹事長に聞く


 日産など大企業によるリストラ攻撃はますます激しくなり、失業者は増大している。また労働法制の規制緩和によって、派遣労働の緩和や裁量労働制など、雇用や労働条件の悪化が進んでいる。さらに政府は、産業再生法や商法改正など産業法制の改悪を進め、企業のリストラをいっそう促進している。労働者の雇用や労働条件を守るために努力している労働弁護団は十一月十三、十四日に第四十三回総会を開いた。企業法制の問題点などについて同弁護団の井上幸夫幹事長に聞いた。

 労働者へのリストラ攻撃が続く中で、産業法制の問題が重要になっている。産業再生法、商法改正は特に注意しなければならない。特に商法改正では、来年の通常国会で会社分割を認めることになる。その中で、企業再編による大規模なリストラが行われる危険性が強い。
 労働弁護団総会でも、「営業譲渡、分社化とどう闘うか」が一つのテーマだった。
 営業譲渡、分社化が進む中で、人員削減、労働条件切り下げがすでに出てきている。こうした動きが、商法改正を機にかなり進むとみられる。
 今度の商法改正は、会社分割を新たに認めることになる。これまでは、ある部門を分社化する場合は、だいたい一〇〇%出資の子会社をつくっていた。こんどの改正は、例えばA社を分割してA社とB社をつくることが可能になる。では、雇用契約、労働条件がどうなるのかについては、中間報告で一切触れられていない。
 さまざまなケースが考えられるが、A社、B社に分割する場合に、どの労働者をA社、B社に行くのかを会社が一方的に決めてしまう恐れがある。そうなれば、特定の労働者だけをB社には行かせない。それは組合の役員や活動家などだろう。
 また、分割の場合に不採算部門だけをB社に移し、倒産させてしまう。その場合にも、不採算部門に労働者をつけていくことも考えられる。
 逆に、B社に移す部門の社員を従来の半分とか四分の一にして合理化を進め、A社に残った社員には仕事がないとして辞めさせる、などが考えられる。
 そもそも商法には、労働条件や雇用などにかんする規定は入っておらず、これから重大な問題になってくるだろう。こうした新しい問題について至急アピールしなくてはならないし、労働組合が声を上げるためにもわれわれが訴える必要がある。
 これまでは労働法制が問題だったが、今後は商法など産業法制も重要になる。
 労働法制では、労働者派遣法が十二月一日から施行になるので、それが一番大きな問題になるだろう。派遣法の条文では、一年以上利用してはならないとなっているが、それは法律の上での話でしかない。それをまったく無視して、正規社員の代替として派遣労働者を使おうとする動きが強まるだろう。また、企業組織の再編と同時に、正社員から派遣労働者への切り替えがすでに出ている。 新裁量労働時間制にしても法律の要件からすれば、かなり厳しいものがある。しかし、チェック機能がなければ企業に都合のよいように行われる。
 労働契約期間の延長も上限三年が認められる職種は、専門的な資格をもったものに限られているが、それをどう守らせていくのかが、課題になる。
労働弁護団としては、労働者の権利を踏みにじる企業再編に反対する声をあげ、世論に訴えていく努力をいっそう強めたい。
 当面の行動としては、十二月四日、全国一斉に「リストラ倒産一一〇番」を行う。また、リストラの実態を明らかにし、これをはね返すためにリストラ告発集会(別掲)を準備している。

リストラ告発集会
◎12月13日
 午後6時半
◎東京・総評会館
◎セガ、カンタス航空 など現場からの報告
連絡先 03-3251-5363


資料

労働者の権利を踏みにじる企業再編に反対するアピール

 企業再編が大規模に進められ、そのための企業法制、税制の一体的かつ急速な改変が図られようとしている。これらの企業再編や企業法制・新会計制度の改変で最も問題なのは、企業で働く人びとの雇用と労働条件をどう維持・確保するかが看過されていることである。市場を重視して利益追求至上主義を押し通すあまり、人間の尊厳を脅かす行為がまかり通っているのである。
 (1)企業法制の改変とその運用にあたっては、いかなる企業再編ケースにおいても労働者の雇用と労働条件が守られ、労働組合の団体交渉権が実質的に保障される法制度が確立されるべきである。
 (2)「雇用関係は継承しない」分社化や事業譲渡は、経営組織の移転の場合には雇用関係の承認を認めた多くの判例や整理解雇制限の法理などに反して許されないという立場から、職場や裁判の場で闘いを強めていく必要がある。
 (3)労働組合は、企業再編決定前にできるだけ早い段階で使用者との協議権を確立したり、雇用や労働条件を維持・確保するための事前協議協定を締結するなどして、労働者に犠牲を強いるリストラに歯止めをかけるために全力をあげるべきである。


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