990705


「日の丸・君が代」

憲法違反の法制化反対

日本教職員組合副委員長 西澤 清氏に聞く


 「日の丸・君が代」を国旗・国歌とする法制化策動が急だ。六月二十九日には国会で法案審議が始まった。小渕首相が「君が代」について「『君』は天皇のこと、『代』は天皇を象徴とするわが国のこと」との新見解を示したが、国民主権の憲法を無視するものである。「日の丸・君が代」強制に反対してきた日本教職員組合の西澤清副委員長に、法制化の問題点などを聞いた。


 「日の丸・君が代」問題について、基本は一九七五年の大会で決定した、いわゆる「七五見解」があります。その見解では、まず日の丸については、船や飛行機につけて国のシンボルとすることについて否定はしない。しかし日の丸が国旗となることは反対です。なぜかというと、日の丸は戦前、国家主義の象徴として使われ、侵略戦争で掲げられました。その時の総括、侵略された現地の人びとの問題、植民地支配した問題、それらについての反省や謝罪や補償が十分なされていない現状では、アジア太平洋地域の人びとの気持ちを考え、そしてこれから平和なアジアを築くためにも好ましくない。

 君が代については、歌詞が現憲法の重要な柱である国民主権に抵触する。したがって現憲法下では君が代そのものを国歌にすることは反対だというのが基本的な見解です。 その上で、いずれにしても強制することは反対です。強制することは現憲法の思想信条・良心の自由、宗教の自由にまで触れる問題です。

教育問題から国民的課題に

 これまで政府はこの問題を教育問題として扱ってきて、「日の丸・君が代」問題は学校の中に限定されていました。問題の根拠は学習指導要領ですが、私たちは「教育内容は学校で定める。いかなる人も学校のもつ教育課程編成権に関与するべきでない」という立場で、政治的な争点として持ち出すことは避けるよう主張してきました。しかし今回はまったく事態が違う。問題の次元が変わってきたと考えています。

 法制化によって国民全体に強制する、国民全体の思想信条の問題になった。そういう意味で今までの「教育内容は学校に任せる」という次元を越えて、国民全体の問題として取りあげなければいけない。

 また日教組の綱領に「われらは平和と自由とを愛する民主国家の建設のため団結する」とありますから、綱領に基づいても、この問題についてはかかわりをきちんともたなければならない。先日の大会では運動方針として「『日の丸・君が代』のいかなる強制にも反対して、『国旗・国歌』法制化に反対する取り組みをすすめる」と盛り込みました。

 この間の経過をみてみると、二月十五日に小渕首相が「法制化しません」と答えた後、日本共産党が「国会で議論すべきだ」と主張して、この問題が浮上した。私たちは、日本共産党が引き金を引いたと考えています。それから二月二十八日に広島・世羅高校で校長が自殺したことが国会でただちに取りあげられ、参考人として現地の校長が呼ばれた。そして三月二日の野中発言となって、法制化ということです。

 「日の丸・君が代」の内容よりもむしろ「自自公」というような、政党再編がらみで踏み絵に使われている要素が非常に強い。中身の問題を抜きにすることはきわめて危険だと思う。

引き金引いた共産党の「誤り」

 私たちは「共産党が引き金を引いた」と考えます。「しんぶん赤旗」などを見ると、このことで共産党は言い訳をしている。たとえば「法制化問題が出てきたのは、自民党が今までのやりかたについて行き詰まったからだ」というが、決してそれだけではない。共産党はこれまでもさまざまな「誤り」をしている。今度もその一つではないか。非常に残念なことをやってくれたと思う。

 共産党にはかつてもそういうことがあった。六〇年代から七〇年代にかけて革新自治体がでてきた時に、ものすごくブレた。「教師聖職論」などもあった。その時も政治的にうまく利用されて、「またか」という感じだ。

 また「自自公」では、自民党の中にも賛成、反対はあると思うが、今回の法案は自由党案でそれに自民党がのっている。公明党には、自自公連立にむけて踏み絵を踏ませるということでしょう。

 当初、この問題についてはどの党も、「十分時間を取って議論すべきだ」ということで反対してましたが、国会会期が八月十三日まで伸びたことで、「時間がない」という論議はつぶされた。本来なら、天皇制の問題、憲法問題などがあるのに、内容に立ち入って議論することをどの政党も避けているようにみえる。

 私はこの問題を議論するときに三項目のルールを提案しています。第一点は、現憲法に照らして適切かどうかという議論をすべき。例えば現憲法で教育勅語は廃止されたが、「日の丸・君が代」は議論しないできた。国民主権の問題、思想信条・宗教の自由とどう関連があって合致するかという議論が必要だし、今回の法制化では「日章旗」とするからなおさらだ。

 二点目に「慣習化、定着している。合意を得ている」という感覚的な議論はやめるべきで、いやしくも国会でやるべきではない。

 三点目は、国民全体に自由な議論を保障すべきだ。権力的な、暴力的な圧力はやめるべきだ。すでに広島や大阪で被害者が出ているし、組合員がこの問題で発言したりすると脅迫電話などのいやがらせを受けている。この三点をお互いに合意して議論すべきだと思う。しかし今の国会は、いちばん重要な一点目が忘れられている。

各団体と連携し戦線づくりを

 各県で出身議員全員に会って反対の意思をよく説明してくるように緊急指示を出している。また各種団体、連合を含めて地域で話し合う必要がある。というのは、今の段階でこちら側、いわゆる野党側の戦線が、国民レベルも含めて整っていない。政府に押しまくられている状況だから、徹底して戦線づくりをやらざるを得ない。いまいろいろな団体にあたっていますが、話せば話すほど反対という人が多い。しかし国民運動が起こってないから、国民全体が問題に気がついていない。

 だから憲法フォーラムや、連合は鷲尾会長も反対と表明しているので、それを軸に全ての産別を固めていく。それから人権団体、宗教団体などの団体からも発言してもらうようにすすめていく必要があります。


にしざわ きよし

 一九六二年、都立向島工業高校教員。六五年都高教執行委員をへて、八六年三月日教組。九二年から現職。


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