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労働弁護団が緊急シンポ

労働者保護の法整備を

労働者派遣法改悪反対


 労働者派遣法の改悪に対し、問題点を問うシンポジウムや集会が派遣労働ネットワークなどにより取り組まれている。

 「労働者派遣法『改正』案の問題点に関する緊急シンポジウム」が十一月五日、東京・総評会館で開かれ、労働者など二百五十人が集まった。主催は日本労働弁護団。

 また、十一月十一日には「派遣法改悪と派遣労働者の権利を考える集会」が東京・渋谷区で開かれた。主催は派遣労働ネットワーク。

 両集会では、弁護士の中野麻美氏が講演し、派遣労働の実態と改正案の問題点などが指摘された(要旨別掲)。

 シンポジウムでは、労働弁護団元幹事長の鵜飼良昭氏が、「一方的な労働条件切り下げは、女性、老人、障害者から、若者、全労働者に及んでおり、現状に対する危機感や怒りは共通の思いがあると思う。昨秋以降、労基法改悪反対で運動のうねりができた。今回の派遣法改悪は、全面自由化が狙われており、労働法の否定になりかねない。労働者の怒りを燃えあがらせ、さらに大きいうねりにしよう」と運動を呼びかけた。

 両集会では、派遣会社の「テンプスタッフ」で派遣労働者の情報が外部に漏れ出した事件で損害賠償裁判を闘っている労働者や、十九年間同じ企業に派遣されていて、突然契約を解除された事例について、現場からの報告が行われた。


中野 麻美弁護士の講演(要旨)

 最近の派遣労働をめぐる状況には、三つの特徴がある。

 第一に、雇用調整弁的活用が広がっている。中途契約解除に対する保護規制があるので、短期契約を繰り返す。つまり、いつでも便利にクビが切れるようにしている。

 第二に派遣先の権限乱用が非常に目立ってきた。派遣先が自ら派遣スタッフを選別していくという、派遣関係ではあり得ないことが日常茶飯事に広がっている。派遣先が自らスタッフに対して試験をする。あるいは数日間の試し使いするというケースも出ている。また、あたかも自社社員のように契約業務を超えて命令するケースが増えている。

 第三に派遣元で労働者が非常に弱い立場に立たされている。スタッフが異議を申し立てると、仕事の紹介はしない。そして派遣先の発注である、若い人優先、容姿優先といった選別基準に基づいて、派遣を決定していく傾向も増えており、「三十五歳定年」という言葉がささやかれている。

 時給は調査では、九四年には千七百四円、九八年には千六百六十円と低下している。

 また二重、三重に行われる派遣では、時給千円をきるという事例もある。さらに、ビジネスインターン制度という名で対象業務を超えた違法派遣も存在する。

 改正案は、臨時的・一時的な需給調整のために派遣を活用するという。派遣対象業務の拡大で、財界は雇用が拡大するというが、それは極めて不安定で権利が保障されない雇用だ。派遣労働が拡大されることによって、今までかかえていた矛盾が、他の労働者にもより広く拡大していくだろう。

派遣労働者を保護する改正を

 いまこそ、問題を多く含む現行派遣法の欠陥を修正する必要が求められている。

 第一に、登録者と派遣元の法的な関係をきちんと働く者の権利を守る視点から整備する必要がある。情報が流出したり、差別的な派遣形態が行われているからだ。

 第二に、雇用者と使用者の責任について法整備が求められている。残業など労働時間の規定はうまくいっておらず、こうした問題で派遣先にも責任を負わせる仕組みが必要だ。また労災保障に関して、現行では派遣元だけで責任を負うことになっているが、果たして労働者保護の趣旨にかなったものかどうか、点検する必要がある。

 第三に、プライバシー保護の問題がある。そもそもその情報の持ち主は労働者であり、労働者の合意なくして他に伝達しないのは当たり前のこと。働く者の人権としての個人情報を保護する視点がきわめて薄く、この点に関する法整備が課題。

 第四に、均等待遇の原則を徹底させること。派遣先の正社員労働者との均等待遇が求められている。

 第五に、契約解除に関する法整備が必要だ。解除は正当なものでなければならないのが、現行派遣法の趣旨だが、これが確保されていない。

 ゆるい規制では違法契約解除がまかり通る。それをどう規制するかが大きな課題だ。

 現在提出されている改悪案は、派遣労働者の実態を見る限り到底容認できない。


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