航空労組連絡会
シンポジウム「規制緩和でどうなるの 航空の安全、運賃、公共性」が十月二十日、東京・労働スクエアホールで開かれた。主催は航空労組連絡会と日本乗員組合連絡会議で、労働者など約五百人が参加した。
シンポジウムでは、はじめに航空労組連絡会議長の芝佳宏氏が問題提起を行った。芝氏は、まず米国における航空の規制緩和でニアミスが急増したり、航空会社の合併や倒産が繰り返されるようになった実態を報告。ついで日本における実情について、航空機の安全や、航空労働者の労働条件の問題について報告した(要旨別掲)。
続いて規制緩和推進派である中条潮・慶應義塾大学教授が、「日本では本格的な規制緩和はほとんどされていない。米国では規制緩和で、労働条件は多少悪くなっただろうが、雇用は増えた」などと意見を述べた。
次に安部誠治・関西大学教授が発言した。安部氏は、まず規制緩和万能論に対して「官僚が権益を守るための規制は緩和した方がよいが、国民生活を安定させるという側面の規制は緩和させるべきでなく、新たに設けるべき規制もある」と述べた。そしてテーマである航空分野について、「米国の規制緩和では、同じ飛行機の乗客の中で運賃が五倍、八倍も格差がひらく現象が起きた。これは望ましくない。米国では、規制緩和で業界が混乱しただけだ」。また日本のスカイマークについて、「整備まで外注に出し、自社で運航管理ができない会社を参入させていいのか」と提起した。さらに労働現場の問題について「いちばん大事なのは雇用の安定。職業倫理が要求される航空現場では、雇用の安定など職業倫理を発揮できるような環境が必要」と、中条氏の意見に反論した。
パネルディスカッションでは、三人の議論が白熱。続く質疑応答では、会場から中条氏への反論や質問が相ついだ。
最後に芝氏が「市場原理を前提とした考え方を突き詰めていくと、規制緩和に協力しないと生き残れない、となってしまう。私たちの賃金をゼロにすれば競争に勝てるのか、となる。規制撤廃論、市場主義万能論を、労働組合として変えさせていかなければ、労働者だけでなく、航空の安全も守れないだろう」とまとめ、終了した。
芝 佳宏議長の問題提起(要旨)
日本では八五年から規制緩和の道がとられ、日本航空の民営化、国際・国内の競争力の向上がうたわれてきた。その結果、現在の状況はどうか。
飛行に航空機関士の乗務義務がはずされ、パイロットは八時間から十二時間の長時間乗務へと変化した。整備では飛行間点検が二人から一人になった。老朽機材といわれる二十五年以上の飛行機の整備間隔も長くされた。客室乗務員は、一人で二つのドアを担当し客を避難させるように変わったように、最少客室乗務員数が減らされている。
このようななか、機材故障、とくにエンジン関係の故障が多くみられるようになってきた。とくに空中でエンジンが停止するとか、あるいは空中から引き返すという状況が多くなっている。また、収益を上げている路線は各社増便しているが、収益の少ない便では、運休が目立つなど、切り捨てられている。
労働環境は、運航乗務員の長時間乗務、整備士の連続夜間勤務など悪化し、契約スチュワーデスが増えている。全日空の子会社では、労務倒産ともいえることが起きた。
現在、国際線で四千四百万人、国内で七千八百万人が飛行機を利用している。たとえ何千分の一でも、事故で亡くなった人にとっては一度の人生だから、「絶対安全」という観点から政策をつくらなければいけない。
また米国の規制緩和の結果、雇用が増えているというが、給料が半分以下になり、「エアライン・ジプシー」といわれる空港を転々とする労働者が増えており、それが人間の幸せといえるのか。
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