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「使い捨て労働者」をつくる労基法改悪

労働法制の規制緩和反対

労働弁護団 シンポジウム開催

団結した闘いでハネ返そう


 政府は労働法制の規制緩和を進めるため二月十日、労働基準法の改悪案をまとめ、今国会に提案することを閣議決定した。労基法改悪は、多国籍化した大企業が大競争時代を勝ち抜くために、好きなときに労働者を低賃金で使い、いつでも解雇できる仕組みをつくるものである。いわば労働分野の「改革」の一つであり、リストラ、失業などの攻撃の中で、さらに労働条件を悪化させる改悪を大衆的闘いで阻止しなければならない。これに対し、すでに労働組合、学者、弁護士などが強く反対しており、闘争が展開されている。日本労働弁護団が反対の気運を盛り上げようと開催したシンポジウムの模様を紹介する。

 日本労働弁護団は二月十四日、労基法改悪に反対してシンポジウム「労働法制の規制緩和は許されるか? 対話集会―働くものの声を国会へ」を東京・千代田公会堂で開催した。このシンポジウムには連合、全労協、全労連からナショナルセンターの枠を超えて労組役員や活動家が参加した。発言した十五人は、団結して労基法改悪反対の闘いを前進させようと訴え、連帯して闘う気運が強まっている。 シンポジウムは最初に労働弁護団の徳住堅治幹事長から「労働法制はどのように変えられようとしているか―その内容と問題点」と題した問題提起が行われた。
 まず長時間労働の問題として、「週四十時間労働制になったが、三十五時間労働制への動きがみられない。しかも時間外労働についての三六協定は約二八%しか締結されておらず、極めてゆるい実態がある。さらに緩和する必要はない」と指摘した。
 また派遣労働については「労働者のレンタル制」だとして「政府はこれを全面自由化しようとしている。製造業でも、年収二百六十万円前後の派遣労働者が多くなろうとしている。これによって雇用が流動化され、ますます労働者の労働条件や権利が奪われる」と批判した。

社会的運動構築で前進を
その後、ゼンセン同盟流通・サービス政策担当の村越直嗣常任執行委員が「流通職場の現状と労働法制規制緩和の問題点」について訴えを行った。
 村越氏はまず週四十時間労働制の特例措置の存続問題について、「従業員十人未満の商業職場においては、特例措置が適用されるが、小売業に働く労働者は七百万人おり、そのうち五百六十万人が十人未満の卸小売業で働いている。この五百六十万人が週四十時間労働が適用されない」と指摘した。その上で「しかも特例措置は商業だけではない。こうした実際の一つひとつに照準を当てて対策を講じていく必要がある」と述べた。
 次に女子保護規定の廃止問題について「大事なことはどういう社会をつくるのかということだ。その議論をしないで個別の問題を議論をしている。これでは全体の労働者や国民には理解されない」「ゼンセン同盟では紡績職場で働く女性労働者の勤務開始時間を引き下げた経験がある。紡績職場では早番の就業開始が朝五時であったが、これを六時にさせた。戦後労働運動の歴史のなかで、一時間だが勝ち取った実績がある。新しい時代に新しい仕組みをつくることはよいが、環境整備についてもっと議論すべきではないか。例えば、未組織の多い中小製造業では『深夜勤では女性の正社員を廃し、パート労働者を増やしていこうとしている』との危ぐの声が上がっている。ゼンセン同盟としてはそれを阻止していくが、現状の組織率からすれば労働運動の枠内でやれるとは思えない」と語った。
 そして「公的保育は夜六時で終了する。土日の保育は保障されていない。若い女性労働者が深夜勤、日祭日出勤をする場合、公的保育を受けられない。こうした実際がある。だから社会的運動をつくりながら議論し、政策をつくることが必要だ。そうしないと労働者が分断される」と具体的に問題を指摘した。
三点目にパート労働問題に触れ、「小売業労働者では社員が五四%、残りがパート・アルバイトであり、パート労働者の大きな市場になっている。パート労働法の見直し問題があるが、パート労働者の権利や保護については、ほとんど使用者の努力義務しかない。パート労働者は一年単位の雇用が繰り返され、雇用に不安を抱いている。この問題についても議論すべきだ」と問題を提起した。

闘う決意あふれる報告
 次に全建総連の老田靖雄労働対策部長から建設業の実態が報告された。「建設業には六百八十万人が働いているが、使用者との間には労働協約が締結されていない。しかも末端では労働基準法さえ無視されている。週休二日・四十時間労働など別世界の話だ。そのため最低の基準を守らせるために運動を行っているが、労基法が改悪されれば、最低の基準さえなくなってしまう」と述べた。
 そして裁量労働問題について「労働時間を管理せず、残業代を払わないものだ。建設業ではすでに手間請け制度がある。手間賃を請け負う制度だが、これはすでに労働時間の管理がない。早く終わらせればもうかると一生懸命働いている実際がある」と問題を指摘した。
 さらに変形労働時間制について「下請けは、下へいけばいくほど変形労働時間が行われている。時間管理をしない裁量労働制や変形労働時間制が低賃金をつくりだしている。東京の調査では五十歳代の熟練労働者の年収は五百万円程度である。出来高払いは低賃金をもたらすものでしかない。労働に見合った賃金を要求しているが、それに逆行する法改正には反対である」と決意を表明した。
 その後、全労連、全労協などの報告と現場からの報告が続いた。
 裁量労働制について、中村宗一・国労高崎地本委員長は「JRは会社に都合よく就業規則をつくっている。すべての職種に裁量労働が適用され、配転・出向が自由に行われている。その中で国労組合員が会社と闘っている」と報告した。
 客室乗務員連絡会の内田妙子氏からは「アルバイト・スチュワーデスが取り入れられて三年経過した。正社員をいったん退職させ、再雇用している。その賃金は約半分。そして正社員の乗務手当は三分の一になった。その他の手当も廃止・抑制されている。そして労働密度が高くなった」と報告し、それと同時に安全性も無視されていると批判した。
 派遣労働、年俸制などについても現場から報告が行われた。旅行代理店の労働者は「一年契約の年俸制。しかし諸手当はつかない。営業売り上げに関係ない家族手当などは外されている」と指摘。派遣労働について東京ユニオンから「雇用契約を結ぶ会社と実際に働く会社が違う。雇用主が二つあるようなものである。今の仕事がいつまで続くのか、今の仕事が終わっても次があるのか、常に不安がある。しかも契約は二、三カ月ごとで再契約している。雇用契約期間が残っていても打ち切られることもある。非常に不安定な就労形態、労働者の使い捨てシステムだ」と報告があった。
 最後に日本労働弁護団より「議論のなかで怒り、闘う決意を感じた。労働法の規制緩和は何をもたらすのか。報告で実態が明らかになった。規制緩和という土石流が労働者に襲いかかってきた。長時間・過密労働は、国際的な基準からみても許されない。逆に規制を強化する必要がある。また規制緩和は労働者だけでなく社会保障にも浸透し、基本的人権さえ奪っている。国会での論議は見えにくいが、労働法制の規制緩和反対の運動は国際的にみても正しいし、労働者が団結できる課題である。今が正念場であり、いっそう運動を広めていこう」とシンポジウムをまとめた。


発言団体

私鉄総連本部
ゼンセン同盟本部
全建総連本部
全労連本部
全労協本部
民法労連日本テレビ
電通テック労組
銀行産業労組関東地本
国労高崎地本
全医労本部
客室乗務員連絡会
全国一般ISAユニオン
東京ユニオン
全労働省労組本部
都職労労働局支部


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