971005


行革会議の「民営化」に反対

国民と連携し闘うチャンス

全林野労組・吾妻實委員長に聞く


 政府は、国有林事業における伐採などの現業部門を全面的に民間に委託し、現在一万五千人いる林野庁職員を五千人にするという行革攻撃をかけている。全林野労働組合をはじめ、郵便、印刷、造幣など国営企業の労働組合と連合は、「国民が必要とする公共サービス」を守るため行革反対の闘いに立ち上がっている。今日、橋本政府の行革攻撃に対して、業界や行政内部からなどさまざまな反発が高まっている。「改革」に反対する国民的戦線は拡大している。これらの闘いのなかで、労働組合の闘いは、最も確固とした力である。全林野労働組合の吾妻實(あがつま・みのる)中央執行委員長に聞いた。


 われわれは、全面民営化について反対だ。現在すでに、国有林事業の七割が民間で行われている。しかし、山づくりは今までのような市場原理でやってきたものから、環境・国土保全など公益性重視に変化している。そういう時に、民間手法の市場合理主義でよいのかというのが、最大の問題だ。
 過去二十年間の流れをみても、民間でやってきたところでは山が荒れている。そういう意味で民間に全面的に任せるのは公益性に反する。
 二つめに民間というが、山全体が採算が合わないのに民営化すれば、より無理な仕事をしてしまう。技術的な面や一番心配な労働災害が出てくるだろう。山は災害が非常に多い。国の場合に比べ、民間は生産量が少ない上に災害が多い。
 三つめは、民間労働力というが現実には人が集まっていない。人がいないのに、なぜ民間というのか。それでこれからの森林管理ができるのか、という問題だ。
 なぜ人がいないのかというと、ケガが多い。賃金が安い。だからよい人材が集まらない。こうした問題を放置しながら民営化というのは、「生血を吸う論理」だ。安い労働力で高生産を上げる。その犠牲は労働者へ押しつけられ、山は荒れてしまう。
 あえて四つめをあげれば、官の役割は何かということだ。国有林の中には、地理的に非常に奥地にあるところ、非常に急な斜面のところもある。そういうところは市場原理ではいかない。
 また国土保全的な分野、森林管理、技術継承の問題などは、民間ではやりきれないから、そこで国の役割が出てくる。
 民間が入ってきたのには三つ理由がある。一九六〇年代からの高度成長時代、林業はもうかった。山林地主は資産を築けるほど繁栄した。
 その理由の一つは、当時若者、つまり低賃金労働者が山村に多くいた。二つめは、伐採が当時の政府によって、奨励された。三つめは、異常物価によって、材木の値段が異常に高かった。
 ところが一九八〇年代からは、二度のオイルショックを経て、総需要抑制時代に入った。これによって林業が栄えた三つの条件がすべて崩れた。

赤字は大蔵省の失政

 労働者は都市型に向かい、低賃金では雇うことはできなくなった。次に乱伐採ができなくなった。自然保護団体からは、山を荒すな、林道はいらない、との声があがってきた。そして、材価は現在、一九七五年の五割にしかならない。こんな安い値段の産業はない。
 だから林業は構造不況になっている。その構造不況を放置して民間活力といっても、結局は民間の安い労働者に依拠するということだ。そうなれば政府の山村定住化方針にも反してしまう。だから全面民間はなりたたない。逆に国が民間から直接に雇って森林管理を行えばよい。われわれは決して民間は寄せつけないなどという閉鎖的発想ではない。
 また、国有林の赤字というが、それは大蔵省の政策の失敗だ。欧米は一般会計で山林事業を行っている。日本だけが借入金で山林事業を行っているが、こんな国はない。しかも財政投融資の資金で、これは固定金利でいまでも八・五%の金利は払い続けている。だから政府の政策の失敗が赤字の原因だ。

情勢は有利! 打って出る時だ

 今後の闘いだが、ストライキに匹敵する体制をどうつくるかだ。それはどう国民世論をつくるのか、地域の人びとと一体感をみいだしながら、共通の利益のなかで闘うということだ。
 それは、決して闘いを止めるわけではない。問題は自分たちの利害だけでなく、地域山村、社会問題として国民との連携をつくりだそうということだ。
 今日の林産業、国有林業をとりまく状況は、制度構造問題である。だから労使でかたずく問題ではなく、制度政策がらみの政治問題だから、国民世論とともに闘うことが必要だ。
 例えば、北海道津別では労組だか自治体だか分からないほどに地域の人びとと連携している。また九州の全地区では超党派で「森林・国有林を守る議員連盟」ができている。今は自治体にくらいついて、地域の人びとと連携する運動を強めている。
 雇用を守るためには、われわれだけの問題としてとらえては解決しない。なぜなら今の林業、山村問題の全体を解決し得ない限り、雇用は守られないからだ。地域との連携、世論づくりが大事で、社会問題として闘うことだ。
 世の中、行革・規制緩和ばかりの情勢だが、私は有利な情勢、チャンスだと思う。政府の行革方針では、現場の事業をいっさい止めるというもので、山村定住化、国土の均衡ある発展、国土保全という面からみれば国家的な対立問題が提起されたものだ。
 行革だと恐れおののかないで、国民との連携を強め、風を受けて空に舞い上がる凧のように進むべきだ。
 規制緩和は誰のためなのか。競争のオープン化というが誰が損をするのか。独占禁止法や大店法の緩和にしても誰がもうかるかはっきりしている。
 いずれにしても、「打って出て、世に問う時代」だと思う。政治の舵取りはどこを向いているのか、指導者は今こそ指導性が問われている。だが、国の将来像を出していない。それが大問題だ。
 具体的な行動としては、連合の官公部門が十月二十四日に東京の日比谷野外音楽堂で行革に反対する集会を準備しているが、われわれもそれに合わせて全分会から動員して闘う。


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