970825


雇用・技術の空洞化に対応

ものづくり基本法制定へ

ゼンキン連合・関根甫副書記長に聞く


 ゼンキン連合(服部光朗会長・三十一万千人)は、「ものづくり基盤の再構築」をめざして「ものづくり基盤技術振興基本法」制定を提起し、九月の定期大会で確認しようとしている。これは、ここ数年、急速に進むわが国産業の空洞化、特に中小企業の苦境、雇用問題に対して、技術・技能というものづくり基盤の角度から対応しようというものである。ゼンキン連合は九六年三月から調査を始め、現状ではわが国製造業、特に中小企業の衰退は必至であると労働運動の側から警鐘を鳴らし、法制化の取り組みにまで至った。この取り組みには、金属機械、電機連合などの組合や行政も協力している。ゼンキン連合の関根甫副書記長に聞いた。



 ゼンキン連合には海外に進出している企業が多く、海外で雇用している人間は約十六万人になっている。これはゼンキン連合の組合員数のおよそ半分に匹敵する。そのためゼンキン連合の構成組合のなかで雇用問題が発生している。同時にこのままでは、われわれが持っている技能・技術がどんどん海外に流出してしまう。安い労働力を求めて海外に進出し、気がついてみると日本ではもう、ものをつくれなくなってしまう。われわれは日本は資源も少ないので、技術立国として国民経済を維持すべきだ考えている。

 雇用の空洞化・技能の空洞化にしても、国内の雇用が減って、海外の雇用が増える。それをそのままにせず、新しい産業を興していけば、新しい雇用を創出することで空洞化は避けられる。そのことは技術・技能についても同じことである。

 東アジアに技術や技能が移転することを否定はしないし、技術・技能が海外に出ることで、途上国が国力をつけるのに役立っている。

 しかし、基本になる基盤技術までが海外に流出し、日本でそうした技術を使わなくなってしまうことは、新しい技術を開発する上でゆゆしき問題だ。

技術の伝承は7割が困難

 昨年、組合では高度熟練技能を今後、各企業でどのように育成、集積、伝承していくのかについて調査を行った。

 育成・集積というところでは、企業はぎりぎりの人数で仕事をしているので、中堅以下のところでは育成できない。おまけに新しい人は製造業ばなれで定着しないし、教える側には暇がない。伝承ということでは、お先真っ暗だという回答が七割にのぼった。

 いくら海外に技術が流出しないとしても、製造業に新しい人が入らないとできない。そうなると初等中等教育からものづくりに関心を高める教育が大事になる。ものづくりを行っている技能者に対する社会的な評価は決して高くない。したがって、技能者あるいは技能の大切さを重視する土壌をつくっていく必要がある。それにはあくまでも、技能・技術は国の宝、公共財としての位置づけが必要になる。

 するとこれにかかわる省庁は労働省、通産省となってくる。これが縦割り行政で、雇用については労働省、技術・技能については通産省となる。同じようなことをしているのだが、なかなか連携がとれていない。これを一本化して全体に網をはっていく必要がある。網をかけるのに何が一番よいのかとなると、基本法がよい。基本法は精神法という意味あいが大きいが、一度できればそのもとで各省庁間で連携プレーもしていかなければならないし、基本法に定められた事業について政府は実施義務を負うことになる。基本法によって省庁を活性化させていくことになる。

超党派による議員立法へ

 この基本法の提案をいまわれわれの組織内議員などの協力もうけ進めている。ただし、この提案はゼンキン連合だけでやるべきものではない。全国民的に進めていくものだ。たまたまわれわれが警鐘を鳴らしたもので、今後はゼンキン連合を離れて金属労協(JC)や連合などに移していく。連合では中小労働運動センターを中心に各産別でのヒアリングや勉強会をやっていくことになっている。

 JCでは今年度の政策制度要求で労働省、通産省にも要請している。電機連合は大会で鈴木委員長が基本法を進めるといっていただき、大変心強く感じている。

 今後は超党派の議員立法でやりたい。新進党はもとより社民、民主、太陽も協力しようとする動きもある。

基本法は精神法 職場の運動が大事

 日本では、これだけではなく、これもあれもできるというスーパーマルチ型の技能者を育ててきた。例えば、旋盤なら旋盤で神業的な技術者がいる。だが、今の企業ではそういう人を四六時中必要とはしていない。研究開発をするときに必要になるが、習熟した人を必ずしも毎日は必要とはしていない。国として技能者をどう活用するのかという考えが必要だ。

 企業ごとに高度熟練技能者を擁していても、普段の仕事ではもっとレベルの低い仕事をさせなくてはならない。「宝の持ち腐れ」になっている。そこで技能者のデータバンクをつくり、ネットワークを全国的に広げ、こういう技術者が必要だとか、職業訓練の先生に使うとかの柔軟な対応を取るべきだと思う。

 企業のなかで「こいつは偉いんだ」といっても、それだけではだめで、偉いんなら偉いという処遇をすべきだ。

 基本法制定はあくまで精神法だから、スタート台に立っただけで、これですべてが解決するわけではない。制定後の運動がますます大事になる。われわれは今度の大会で政策制度として、ゼンキン連合の総意として進めていく。



いまなぜものづくり基盤か
ものづくり基盤技術振興基本法(前文)

 基盤技術は、わが国の基幹的な産業である製造業の発展を支えることにより、生産の拡大、貿易の振興、新産業の創出、雇用の拡大など国民経済のあらゆる領域にわたりその発展に寄与するとともに、国民生活の向上に貢献してきた。また、ものづくり基盤技術の担い手として、その水準の維持及び向上のため重要な役割を果たしてきた。

 われらは、このようなものづくり基盤技術及びこれに係る業務に従事する労働者の果たす経済的社会的役割が、国の存立基盤を形成する重要な要素として、今後においても変わることのないことを確信する。

 しかるに、近時、就業構造の変化、海外の地域における工業化の進展などによる競争条件の変化その他の経済の多様かつ構造的な変化による影響を受け、国内総生産に占める割合が低下し、その衰退が懸念されるとともに、ものづくり基盤技術の継承が困難になりつつある。

 このような事態に対処して、わが国の国民経済が国の基幹的な産業である製造業の発展を通じて今後とも健全に発展していくためには、ものづくり基盤技術に関する能力を尊重する社会的気運を醸成しつつ、ものづくり基盤技術の積極的な振興を図ることが不可欠である。

 ここに、ものづくり基盤技術の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、この法律を制定する。


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