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労働新聞 2021年7月25日号・3面 労働運動

コロナ禍におけるごみ収集の現場

区民とともに歩む清掃事業

東京清掃労働組合
江森秀稔委員長に聞く

 昨年からのコロナ禍の下、医療や福祉、物流、公共交通など多くの労働者が「エッセンシャルワーカー」として注目された。そして、このなかには地域で日常的にごみの収集や運搬、処理に携わる清掃労働者も含まれ、関心を集めた。だが、清掃事業やそこで働く労働者の環境など知られていない課題も多い。東京二十三区の清掃労働者で組織されている東京都清掃労働組合の江森秀稔委員長に、清掃事業の課題や展望などについて聞いた。(文責・編集部)


 私たちは東京二十三区におけるごみの収集と運搬、そして中間処理施設で働く労働者、また一部都に委託をしている最終処分場の労働者で組織しています。
 もともと清掃は都の事業でしたが、二〇〇〇年に二十三区に移管されました。
 区移管後、職員採用が一気に抑え込まれました。区移管当時は、組合員は一万人近くいましたが、現在は四千人にまでに減っています。
 同時にさまざまな事業の委託が始まりました。
 一番先に委託化の手がついたのは、資源、粗大ごみに関わる事業です。そこで「車付雇上」(注)がだんだん拡大しました。可燃ごみや不燃ごみの清掃事業にも、車付雇上での対応や公社への委託化、また清掃工場においても同様に運転係等の委託化が進みました。
 しかし、ここ数年、東日本大震災の教訓、また台風被害などが頻発する状況になって、災害時における早期の復旧・復興には、直営職員による「現場力」が必要不可欠であることを訴えた結果、徐々に採用が戻っています。もちろん現場で不足している人数を十分埋めるほどの採用数ではありませんが。
 現在、清掃事業への採用ゼロの区が五つあります。基本、「退職不補充」という方針がありますが、私たちは、採用のない区にも方針転換を求めています。明らかに年齢構成もアンバランスです。
 この是正に向けて、この間採用に踏み切ったという区も結構あります。今年度は十一区と一組で五十三人採用がありました。これは区移管以降、最多ではないでしょうか。

積極的にごみ減量へ
 私たちには各区の環境行政に対するチェック機能が求められていると思います。現場では、区民の皆さんから直接、区のあらゆる事業について、「もう少し何とかならないのか」と声をかけられることが多くあります。
 今年六月の通常国会で、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が成立しました。プラスチックの製造、提供、販売、各自治体における回収、処理とあらゆる段階での取り組みが努力義務として求められます。
 現状でもプラスチックの取り扱いは二十三区でそれぞれ違います。すべてのプラスチックを資源回収している区もあれば、容器包装プラスチックだけを回収している区、可燃ごみと一緒に燃やす区もあります。二十三区で取り扱いがバラバラになっており、法律の成立もあって、統一的に考える必要があります、また、最終処分場が現在のところあと五十年で満杯になると言われており、それを少しでも長く使用できる方向にしなければなりません。
 以前は、「ごみを減量したら仕事がなくなる」という発想もあって、なかなか踏み込めなかった部分でした。しかし、労働組合として、ごみの減量に積極的に関与していくことが必要だと思っています。

つらかったコロナ禍での清掃事業
 感染が広がり始めた昨年はまだコロナに対する知見が少ない段階でしたから、「ごみから感染するのでは」ということを現場は非常に懸念していました。マスクの確保にも苦労し、備蓄のない区ではマスクなしでの作業が続いた区もありました。
 コロナに感染した在宅療養者の方が出すごみがあったとしても、私たちは普段と同じ格好と装備で収集します。特別な格好で収集をすれば、周囲の人から、「この集積所にごみを出している人の中に在宅療養者がいる」と見られます。感染した方、そのご家族の方のことを考えると特別な態勢というわけにはいきません。
 収集車はごみをつぶして押し込む構造になっていて、どうしてもごみ袋が破けて、中のごみが出てくることもあります。またそこからマスクとかティッシュも飛んできます。非常にストレスと不安を感じながらの作業でした。
 昨年四月に一度目の「緊急事態宣言」が出て、学校が一斉休校に入り、企業にテレワークが普及するなど多くの人の在宅時間が増えました。
 年末年始期間を除き、もともと四〜六月にかけては例年ごみが一番多い時期です。年間の平均ベースを一〇〇とすると、四〜六月期は一一〇くらいの感じですが、そこに「緊急事態宣言」の影響が加わって、ごみの量はさらに増えました。
 人手不足にごみの増加が重なり、昨年四〜六月期は、ほとんど休暇が取れない状況でした。組合員はかなりつらかったと思います。
 こうした現場の仲間に報いるためにも、宣言期間中における「特殊勤務手当」の増額を求めましたが、応えてくれたのは一区のみでした。

ありがたい感謝のメッセージ
 ごみ袋に感謝や激励のメッセージが多く貼られたことで、働く仲間のモチベーションは非常に上がりました。私たちの健康や安全ということを気遣ってくれる内容もありました。本当にありがたいと思っています。
 当たり前のように行われているごみの収集に、多くの人が携わっているということを認識してもらえただけでも良かったと思っています。
 先ほども申し上げた通り、例えばプラごみの問題などは区民の協力が必要です。
 私たちは「環境学習」ということで、小学校四年生や保育園、幼稚園の児童を対象にごみの減量やリサイクルの大切さについて説明する機会を設けています。私も何度か行ったことがありますが、みんな目をキラキラさせながら、興味を示します。こうした接点をいっそう増やしたいと思います。

ごみの分別方法を統一化すべき
 非常に問題なのは、東京二十三区でごみの分別方法が統一されていないことです。
 これではコロナの問題や、大規模な災害が起こった際に、区同士で連携することがとても難しい状況にあります。例えば世田谷が現場の私が分別方法の違う区に支援に行っても、戦力になりません。
 私たちが現場に行くときは必ずごみの集積場を記した地図を持って行きます。こうした地図を隣接する区同士でも持ち合わせていません。また、災害時に備えた人的な交流も行われていません。こうした点について、二十三区がそれぞれ考えてほしいと要望しています。
 一九年十月に台風十九号が関東地方などを襲ったときに、多摩川沿いの世田谷区と大田区で浸水被害がありました。たまたま世田谷区には、国土交通省の官舎跡地が広いさら地としてあり、そこを中継集積所にしながら、粗大ごみなどをどんどん搬出できました。
 しかし、隣の大田区にはそんな場所がなかったので、復旧にかなり手間取りました。大田区で出た粗大ごみを世田谷区に持って行くわけにいかないのが現状です。行政区の違いが大きなカベになっているわけです。

清掃事業の未来ー求められる新たな人材づくり
 「よろず相談窓口」みたいな存在になれたらと思っています。例えば、集積所までごみを出すことができない高齢者や障害者を対象に玄関先まで出向いて収集するサービスがあります。私たちはこうした手助けを必要とする人たちのリストを持っています。災害時にごみ収集と関係なく、そうした方々のお宅に駆けつけて、安否確認をするということもできるし、子どもの見守りなどもできると思っています。また、私たちは区内・管内の細い路地まで把握しています。そうした能力を清掃の仕事以外に発揮できます。
 同時に、新しい業務については賃金面や安全面などキチンと求めながら行っていくことは当然です。
 委託化が進み、現在ではそこで働く多くの労働者なしに清掃事業は維持できません。しかし、労働条件は非常にひどく、劣悪な状況も見受けられます。私たちはそうした人たちの労働条件についても向上させなくてはと思っています。委託で働く仲間にも自信と誇りを持って清掃事業に従事してもらいたいと思っています。
 最後に、これからも若年層の自由な発想、ベテラン職員の知識や経験、また実際に事業を中心的に回している中間層が融合し、将来の展望を切り拓いていかねばなりません。そのため、特に若手の育成には力を注いでいきたいと考えています。
(注)東京二十三区の清掃事業においては民間の清掃事業者が利用されている。そのうち、「雇上」(ようじょう)は清掃車とその運転手を事業者から受ける形で、それに清掃職員が乗り込み収集を行う。「車付雇上」(しゃつきようじょう)は作業員を含めて清掃車の配車を受ける。本来は、臨時にごみが出る場合などに限る扱いだったが、正規職員の退職不補充の穴埋めとして、恒常的に活用されるようになった。


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