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労働新聞 2021年6月15日号・3面 労働運動

神奈川・横須賀市
フェリー就航で地元
企業が廃業の危機

問われる市の姿勢
全国港湾がスト
背景に解決迫る

 神奈川県横須賀市の上地克明市長は二〇一八年十二月、「第二の開国」との触れ込みでフェリー誘致を発表した。運航はSHKグループ(関東汽船や新日本海フェリーなどで構成)が行う。週六回の就航を計画している。当初は同市久里浜港と北九州市・門司港を結ぶものといわれていたが、久里浜港はふ頭が短いため、フェリーの就航が困難ということで、横須賀新港ふ頭へ変更となった。
 だが、横須賀新港ふ頭では北米などに向け、日産やいすゞの完成車を運搬船に積み込む作業が行われており、いくつもの会社が操業を行っている。また冷凍マグロの輸入に関わる作業も行われており、フェリーの就航によってこうした作業スペースの確保が困難となり、既存業者は縮小・廃業の淵に立たされている。また周辺の市民からも騒音や光害などの影響を心配する声も出ている。
 しかし、横須賀市はあくまでフェリーの就航に固執、七月一日の就航に向けて旅客用フェリーターミナルの建設など関連工事を進めている。
 こうしたなか、同市の相模運輸倉庫が横須賀市を相手取り、フェリーの就航を前提にした同市の対応を「違法」と、就航計画の見直しを求めた訴訟を昨年十月に横浜地裁に起こしている。同社は地元港湾関係企業十六社でつくる横須賀港運協会の会長も務めている。
 港運協会では横須賀市が主張するフェリー就航による経済効果について「何ら具体的なデータを示していない」と指摘するとともに、周辺道路の渋滞や騒音、光害など周辺住民への影響、そして既存事業者との協議不足などを挙げ、「横須賀市の行政運営は不誠実としかいいようがない」と反発を強めている。そして、「国際貿易埠頭へ週六日の定期便フェリーを共存させるという事案は、形式的・実質的にも先例がない」と指摘、「このように実現の可能性に疑問ある計画はさまざまな角度から検討をし、また、周辺住宅地域への影響等を十分調査した上で、港湾計画の変更を経て実施されるべき」と訴えている。
 また、全国港湾労働組合連合会(全国港湾)は五月二十日、使用者側の全国団体である日本港運協会に対して、「港湾労働者の雇用と職域に係る問題」とし、「ストライキを含む行動の自由を留保する」との通告を行った。併せて、国土交通省に対しても同日、港湾運送事業を所管する立場から関係者間における協議の場を設置することを求めた。
 また横須賀市に対しても二十五日、(1)関連工事を中止し、ふ頭を元の仕様に戻して労働者の雇用、職域を守る、(2)新規航路を近隣他港に変更することなどを申し入れた。
 こうした労働組合の働きかけもあり、六月八日には国交省を立会人とする、横須賀市、横須賀港運協会が参加する「横須賀港利用振興協議会」の初会合が行われた。しかし、あくまで横須賀市はフェリーの就航に固執する姿勢を崩していない。また市議会でも「粛々と進める」(上地市長)との答弁を繰り返している。 長年、地元経済に貢献してきた企業の意向を軽視する横須賀市の姿勢は許されない。


港湾事業と労働者の雇用奪うな
全国港湾・玉田雅也書記長の話

 横須賀市に対する抗議行動を予定していたが、国交省が仲介する形で市と市港運協会との協議が始まり、解決に向けた努力が続いていることを踏まえて延期した。あくまで市がフェリーの就航を強行する構えであれば、労働組合として必要な行動を行う態勢は整えている。
 私たちとしては第一に港湾労働者の雇用と職域に関わる問題として受け止めている。
 市は「フェリー就航ありき」でふ頭に旅客ターミナルの建設やフェリーの船体を受け止める防舷材の設置などの建設を進めている。しかし、それによって、この一月を最後に車両を積み込む船が入港できなくなっているので、事実上、横須賀新港ふ頭での仕事はなくなってしまっている。これは事業者とそこで働く労働者にとっては大変なことだ。仕事がなければ、それだけ赤字のという形で「出血」している状態なので、その部分をどう「血止め」するかが早急に求められている。
 事業者としては荷主さんをつなぎ止めておかないといけない。本当に「共存」するには港を大規模に改修する必要があり、その間、どう「血止め」をするか、その議論を行っているはずだ。
 また、すべての人の公共財である港を何の相談もなく港湾管理者である自治体の首長の意向で勝手に使われたらたまらない。その意味でも業界団体である日港協に対しても、協会傘下の企業が困っているのだから、自分たちのこととして解決に向けて動くべきだと申し入れている。同時に全国の港で同様のことが起きれば大変なことなので、場合によっては全国でのストライキを行うことを含む「行動の自由の留保」を通告した。
 港湾は地方自治体の首長がその管理者としての権限をもち、その管理・運営というのは基本的に自治体に委ねられている。
 このことは地方自治の観点から見ればよいことだが、だからといって、地方自治体が港を好きなように使っていいということとはまったく違う。
 国交省は所管している事業者が港湾管理者である自治体の一方的な意向によって仕事がなくなる、あるいは港が使えなくなるという事態がいかがなものかという視点から、一連の混乱を招いた原因と中身について精査して、どう解決するかというスタンスで協議に臨んでいるはずだ。
 これまで横須賀新港では完成自動車の積み込みとその輸出で年間二億八千万円、輸入マグロの水揚げで四千万円、合計三億二千万円の収益を上げている。それがフェリーだけになれば市の見通しでも二億四千万円の収益しかならず、マイナス八千万〜一億円くらいになってしまう計算だ。
 当初、市は久里浜港にフェリーを着ける予定だったが、同港はふ頭が短いため、市長が突然横須賀新港ふ頭に変更した経過がある。
 しかし、横須賀新港埠頭では船に完成車を積み込むため、自動車を何千台と港に並べる必要があり、とてもフェリーが接岸できるスペースはない。市は「共存」というが、まったく現実を見ていない。
 横須賀新港ふ頭でこれまで通りに船に自動車を積み込むことができ、かつフェリーも接岸できるような大規模な改修を行うような案であれば検討にまだ値すると思うが、現在の「フェリーありき」の市の姿勢はとても受け入れられない。このままでは横須賀の国際貿易港としての位置も失うことになりかねず、市にとっても大きなマイナスになるだろう。


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