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労働新聞 2021年6月5日号・3面 労働運動

菅政権の「非効率石炭火力
発電所の廃止・縮小」

雇用と地域経済守る政策こそ/
諸外国の先進例見習え

全港湾/松永英樹書記長、
松谷哲治書記次長に聞く

 安倍政権下の昨年七月、経済産業省は二酸化炭素(CO2)を多く排出する非効率な石炭火力発電所(非効率火力)を二〇三〇年度までに段階的に「廃止・縮小」する方針を示した。全国百十四基の非効率火力のうち約百十基が対象となる。菅首相は今年四月、バイデン米大統領との間で「日米気候パートナーシップ」を交わし、「五〇年温室効果ガス排出実質ゼロ」を目標にすることを宣誓した。目標達成のため、原発再稼動・新設と抱き合わせで「非効率火力の廃止・縮小」の動きを強めている。だが、これは地方経済や雇用に深刻な影響を及ぼすおそれがある。「CO2削減」を名目に、雇用を一方的に奪うことは許されない。全日本港湾労働組合(全港湾)の松永英樹書記長と松谷哲治書記次長に聞いた。(文責・見出しは編集部)


原発再稼動・新設と抱き合わせの菅政権のカーボンニュートラル政策
<松永>
 最初に強調しておきたいのは、私たちは地球温暖化の原因であるCO2の削減には大いに賛成で、太陽や風力などの自然エネルギーやバイオマス発電への転換の必要性を強く感じている。
 しかし、菅政権が進めるカーボンニュートラル政策は「CO2削減」を名目に「非効率火力の廃止・縮小」を打ち出す一方、それと併せて原子力発電所の「再稼動」をセットとしている。「五〇年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、原発の新設まで盛り込まれている。
 東日本大震災と福島第一原発事故から十年を迎えたが、未だ復旧・廃炉の見通しが立っていないにも関わらず、再稼動など絶対に許されないはずだ。
 その上、石炭火力発電所やその関連で働く労働者の雇用を省みることなく、一方的に「廃止・縮小」を打ち出したことに危機感と憤りを感じている。
 昨年の時点で組織内を調べたところ、「廃止」とハッキリ挙げられた発電所が約十カ所で、労働者は六百五十八人いる。これは単純に石炭荷役に携わるだけの人数だ。石炭を本船から港に揚げて野積みし、発電所に持っていくダンプカーのドライバーなどはカウントしていない。実際には、その倍以上の雇用に影響を与えると思われる。
 加えて、この数字は廃止・縮小計画を明らかにした発電所の人数だけだ。まだすべての電力会社が廃止・縮小に向けた計画を明らかにしていない。当然、仕事を発注する発電事業者は受注する港湾運送事業者よりも規模も立場も強い。だから、なかなか発電所側に計画について聞くことさえ難しいのが実際だ。
 しかも、これらは発電関係に関わる石炭荷役に限った話だ。製鉄所では石炭をコークスにして使うが、これもなくなれば、製鉄関係含めてもっと雇用に影響するだろう。
 火力発電所の立地は地方に集中しており、北海道の留萌港、七尾港や舞鶴港を有する日本海、四国などは一〇〇%といっていいぐらい石炭荷役に依存している。すでに留萌港では、砂川発電所で使う石炭を今年度に二割削減するということで、雇用に影響し始めている。石炭荷役を担っている事業者自体がなくなる可能性がある。

<松谷>
 港湾労働者の仕事のなかで石炭荷役は古い部類に入る。液体であればパイプラインで輸送できるが、石炭荷役は「人海戦術」で成り立つ仕事であり、それだけに「廃止・縮小」の影響は大きい。
 また、雇用への影響はもちろん、地域経済への影響も心配している。地方ほど石炭関連の依存度が高い。
 私の地元である長崎県には電源開発の松島、松浦両火力発電所があるが、発電所の維持・管理だけで年間十五億円くらいのお金が地元に回っている。工事業者など含めると「廃止・縮小」は大きな経済的打撃だ。
 しかし、環境問題への関心が高まるなか、「まだ石炭を使っているのか」と見られれば企業のイメージが悪くなる。政府が国策として「廃止・縮小」を打ち上げればそれがインセンティブとなり、発電会社は一気に「廃止・縮小」へ動きを強めるだろう。

国は雇用に責任を持つべき/関係省庁等に働きかけ
<松永>
 全港湾も加盟する全国港湾は毎年春闘期に中央行動を展開しているが、今年も三月に行った中央行動で、国土交通省や厚生労働省、資源エネルギー庁など各省庁への申し入れを行った。
 この課題では国交省と厚労省がエネ庁に対し、「雇用と就労への影響の発生の防止・最小化」を要請するなど、結構労働者の視点に立って動いてくれている。
 エネ庁に対しては改めて六月に開く全国港湾の地方港対策会議の場を利用してリモート形式で申し入れを行いたい。
 併せて、全港湾としても直接影響を受ける港を抱える地本、支部が協力関係にある政党、議員などへの要請行動も行っている。参加した議員からは「雇用を守ることが大切」「原発再稼動につながる動きに反対」との声が上がるなど、私たちの要求にかなり理解を示してくれた。国会でも労働者側の立場に立った質問を行ってくれた議員もいた。
 またこの問題で連合とも意見交換を行い、「廃止・縮小」が港湾の職場にも多大な影響があるという認識を共有することができた。

<松谷>
 今、二カ月に一回、国交省と「港湾労政懇話会」を設置し、定期的に意見交換を行っている。赤羽国交相が国会で言及するなど、正式なものと位置づけられているものだ。この場も活用しながら、私たちの主張を訴えていきたい。
 一九六〇年代に本格化した「石炭から石油へ」というエネルギー政策の転換の際、炭鉱離職者を救済するための法律までできた。それで十分だったわけではないが、今回も国は雇用保障をセットに考えるべきだ。しかし、未だに国は電力会社任せのままだ。
 また地方港の事業者の中には「石炭荷役がなくなれば、会社を畳む」と平気で言う経営者も多い。本当の経営者なら、別の荷物を必死で探して会社の存続と雇用を守るはずだ。

一部の富裕層しか見ない菅政権/現場からの声こそ力
<松永>
 石炭火力発電所の廃止をめざす韓国では、政府が巨費を投じて新たな環境産業での雇用創出に乗り出している(注)。欧州連合(EU)加盟国も「公平な移行」をスローガンにあくまで国が雇用に責任をもつ形で進めようとしている。例えばフランスでは水素の製造施設を建設するなどして雇用を維持しようとしている。
 この点でいえば日本では各省庁はがんばっていると思うが、それを束ねる政権がダメだ。一部の富裕層しか見ていない。労働者がいなくなった日本という国を想像したことがあるのか。労働者がいなくなるということは購買力がなくなるということだ。本当にこんな国のあり方でいいのかと思う。労働者の生活や雇用を含んだパッケージで政策をつくっていかなくてはいけないはずだ。
 また二一春闘を闘うなかで、日本港運協会(業界団体)にも対応を求めていたが、協定書のなかに「日港協として…事業継続と雇用維持の観点から必要に応じ関係行政に働きかける」との文言が盛り込まれた。この課題でようやく業界とも一致点が見出せた。
 港湾職場をめぐっては技術革新に伴う自動化による雇用への悪影響など労働者の職域を守る闘いがこれまで以上に求められている。
 いまやあらゆる職場で派遣など非正規雇用が顕著になっている。私たちの取り組みの甲斐があって、港湾職場では派遣雇用が認められていない。その点では結構がんばっていると思う。
 こうした成果を基礎に政治でも力関係を何とか逆転したい。やはり、痛感するのは現場、地方の労働者が闘わないとダメだ。その基本方針を中心に地方の仲間に支えられて本部の私たちがある。
(*注)韓国、石炭火力発電所の閉鎖に伴い、雇用創出へ巨費投じる
 韓国は2020年10月に打ち出した「韓国版ニューディール政策」の推進と併せ、50年までに「炭素中立(カーボンニュートラル)」の実現をめざす」と宣言、石炭火力発電所の閉鎖を打ち出した。だが、同時に今後5年間で5500もの環境保全型事業を興し、国費含む総事業費409億ウォン(約39億8050万円)もの巨費を投じて、雇用創出を図るという。


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