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労働新聞 2021年2月25日号・4面 労働運動

21春闘/勝負の
カギは「中小による底上げ」

重み増す「1日8時間
働いてメシが食える賃金」の思い

JAM(ものづくり産業労働組合)・
安河内賢弘会長に聞く

 二一春闘については、一月十九日に開いた中央委員会で方針を確認しました。中身は昨年までとまったく同じです。
 基本的なスタンスとして、コロナ禍という厳しいときだからこそ、要求書を出して労使対等な立場で交渉し、「今後、自分たちの会社はどうするのか」「日本経済はどうしていくのか」などをしっかり議論することが重要だということです。
 厳しい状況であることは間違いないですが、二〇〇八年のリーマン・ショックのときと状況は違います。あのときは金融システムが壊れ、それが複雑に実体経済に波及した危機で、克服するためにはかなり複雑な作業が必要でした。今回は実態経済、個人消費を直撃した形の危機です。
 一企業だけではなく、日本経済全体の問題として個人消費を回復するためしっかり賃上げをやっていくべきだと主張しています。

忙しい中小の現場―高まる春闘への期待感
 これまでJAM春闘をけん引してきた軸受、工作機械、大手建機メーカーは厳しい状況です。それでも、「一律ベア」でなくても賃上げに向け、要求をしっかりと出そうというのが大手の姿勢です。
 中小では多くの単組で「一時休業」を経験しました。「一週間に一日休み」「月に二日休み」という形の「一時休業」がほとんどで、「人手不足感」も続いています。むしろ休みが増えた分、職場そのものは忙しい状況です。
 同時に残業が減少して組合員の生活は厳しいです。定時内で忙しいと共に残業がなくなり、会社の利益率も上がっていること、そして先行きも仕事がなくなるわけではないので、春闘への組合員の期待感は非常に高いものがあります。
 正直、「要求段階でボロボロになるのでは」という危惧もありましたが、それぞれの単組が努力している結果、「厳しくても、仕事は忙しいのでしっかり要求しよう」という機運が高まっています。
 二一春闘全体の勝敗はこれまで以上に「中小による底上げ春闘」をいかに確立させていくかがカギになると思っています。

堂々と「残業なしでも生活できる賃金」要求しよう
 「生活実態に合わせた賃金を」という思いを形にしたのが個別賃金要求です。
 例えば、標準労働者「三十歳・二十七万円」(到達基準)という内容ですが、非常にささやかな要求だと思っています。一部から「この状況で六千円のベアはとんでもない」と言われますが、私たちの要求はあくまで「二十七万円」であって、それぐらいないと生活できないということです。また、「三十歳」=「一人前労働者」なので、「一人前」の仕事ができる人が十分に生活できるだけの賃金をもらうのは当たり前で、そこは堂々と要求していこうと呼びかけています。
 この間、物価上昇を根拠にベア要求を行ってきましたが、物価上昇率がマイナスという状況のなかで、要求する根拠はこれしかないと思っています。本来はまず生計費をしっかり確保した上でプラス物価上昇分という考え方なので、もう一度原点に立ち返ってしっかり要求していこうと思っています。
 また昨年からは「一日八時間、週四十時間働いてメシが食える賃金」という主張を前面に押し出しています。
 最近、中小の現場では残業がなくなった結果、「生活できないから会社を辞める」という組合員が出始めています。長時間働かないと生活ができない状況こそおかしいので、今年はいっそうこの主張の重みが増していると思います。

自動車中心に目立つ事業再編の動き―労働界全体で対策準備を
 大手の一部で「希望退職」という形で合理化提案が結構出ている状況があります。JAMでいえば十二単組、総計約四千五百人もの希望退職案件を抱えています。最近はある光学機器メーカーで工場閉鎖・集約に伴う希望退職提案がありました。これはデジタルカメラがスマートフォンに置き換わる環境での再編の一環です。
 また、希望退職の提案が多いのが自動車関連です、自動車部品がEV(電気自動車)化するなかで、資本の統廃合や事業閉鎖などが行われています。大手中心なので、事業が行き詰った末という「悲惨な形」での希望退職というよりは、利益があるうちに退職金の上積みを行いながら整理しようという動きです。「希望退職」という「穏便」な形での合理化ですが、会社をクビになることには変わりないので当該は非常に苦労しています。
 特にEV化による業態再編の動きはトヨタ系で目立っています。
 EV化によってエンジンがなくなるので、エンジン部品をメインでつくっている会社は存亡の危機です。エンジン部品に限らず、オイルが要らなくなればオイルシールもいらなくなります。ギアが少なくなるので、ベアリングも要らなくなります。
 自動車はある意味、工業技術の「集大成」です。それが機械系から電気系の部品に替わり、電気系と機械系の部品メーカーの垣根がなくなっていくわけです。そこに自動運転の技術やAI(人工知能)が投入され、GPSの技術も…なると、これはエネルギー革命が起きたときと同じようなインパクトがあります。今後何万、何十万人単位で雇用が失われる可能性があるわけです。
 そのときに痛みを伴わずに労働力移動ができるかどうかは一企業、一産業だけでは難しいので、国を挙げて対策を講じるべきです。
 事業再編を全否定するわけでありませんが、労働者の犠牲によって行われることについては断固として反対です。一方、その力や準備が労働界全体でまだ十分整っているとは言いがたい状況で、この点を急ピッチで克服しなければと思っています。
 また業種による違いもあります。航空機関連でいえば、車輪のための油圧部品や、部品を作る工作機械を製造するメーカーなどありますが、厳しい状況です。
 ただ、航空機関連が厳しい直接の要因はコロナ禍であり、収束が見通せればいずれ需要は戻るかもしれないということで耐えられます。一方、自動車関連は先を見据えた変化であり、現状の動きはまだ「始まり」に過ぎないと思っています。

安い日本の賃金ー変えるのは労働運動の力
 私は五年前にJAMの労働政策委員長を務めていましたが、当時から「日本の賃金は安すぎる」と言ってきました。
経済協力開発機構(OECD)加盟国における製造業の賃金の伸び率のデータを見ると、日本はほぼずっと下位に位置しています。日本以外の国は、平均二%以上の賃上げが毎年ずっと続いています。日本だけがわずか〇・四九という低水準です。また、リーマン・ショック直後の危機を賃下げで「乗り切った」のは日本だけです。その後も戻っていません。
 その結果、平均年収はこの水準です。日本は全然上がっていない状態です。
 かつて日本はOECDのなかでもそれなりの位置にいましたが、二十年でここまで下がったわけです。すでに韓国に追い抜かれ、シンガポール、香港よりも低いので、いずれタイやインドネシアに追い抜かれる日が来るというのが実態です。
 財界などからは「賃金を上げると国際競争力が削がれる」という声が聞こえていましたが、逆に「賃金はこれほど下がったが国際競争力は上がりましたか?」と言いたいですね。
 この点をしっかりと認識した上で、賃上げ余地は十分あるし、賃上げしたからといって、かつて言われた空洞化が起こる状況でもありません。日本の低賃金はやはり労働運動で変えるべきで、堂々と賃上げを要求しようと単組に呼びかけ、現場での労使交渉を全面的にバックアップしていきます。

ピント外れの「中小企業淘汰論」
 菅政権が開口一番に「中小企業の統廃合」に言及したことに、強い憤りと危機感を持っています。中小企業庁が示しているデータでも明らかなようにバブル崩壊以降、中小企業の実質生産性向上率は大企業を一貫して上回っています。それにもかかわらず、経常利益率が低迷しているのは価格交渉力が経済危機の発生のたびに下がり、それが改善されていないからです。中小企業が儲(もう)かっていないのは生産性が低いのではなく、市場経済が歪められ、公正な取引が行われていないからです。
 また、中小企業は景気後退局面における雇用の受け皿になっています。コロナ禍で「中小企業淘汰論」を唱えるのはかなりピントがずれているのではないでしょうか。

コロナ禍での非正規雇い止めー自分たちの足元を見つめ直す
 私も実は新宿で行われた「年越し支援コロナ被害相談村」に参加し、相談を受け付けていました。労働相談というというよりは、生活相談が中心でした。
 コロナ禍は特にパートや派遣、学生アルバイトなど非正規労働者を直撃しています。こうした人たちのセーフティーネットをどうつくっていくのかが重要ですが、同時に労働組合としてどうやって手を差し伸べるか、大きな議論が必要だと思っています。
 併せて、自分たちの足元を見つめ直す姿勢も必要だと感じています。JAMで毎月行っている「雇用動向調査」によると、一月は非正規の雇い止めは六件で多い数ではありません。一方、JAM傘下で働いている非正規労働者の数は大幅に減っています。ということは単組が非正規の雇い止めは「会社の専権事項」で、労働問題だと思っていない可能性があります。すべてとは言いませんが、その可能性は否定できません。
 この課題については、まず組合のなかでの世論形成とその喚起が必要です。もはや非正規労働者の働き方が「非典型」でなくなっている現状があるわけですから。
「闘わないと権利は守れない」というメッセージを正規、非正規問わず伝えることが肝心だと思います。


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