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労働新聞 2020年4月25日号・4面 労働運動

新型ウイルス危機/
20春闘の成果引き継ぎ、
雇用確保と生活望遠に重点


組合員、職場の仲間の命と
生活、雇用を守る


JAM・中井 寛哉書記長

 20春闘は電機、自動車などの大手先行組合への大手組合から中小に闘いの場が移り、闘いが続いている。大手組合に対する回答では「ベアゼロ」が続出するなか、4年連続で中小が大手を上回る回答額を引き出した。このなかで中小労組を中心に組織している「ものづくり産業労働組合」(=JAM、安河内賢弘会長)は絶対額と賃金水準を重視した取り組みを展開してきた。また春闘終盤には新型ウイルスによる感染拡大が直撃、対応が求められてきた。雇用不安が現実化するなか、労働組合の役割は重要だ。JAMの中井寛哉書記長にインタビューした。なお、インタビューは電話とメールで行った。(文責・編集部)


会長名で「緊急事態宣言」を発出
 政府が四月七日に出した東京都などにおける「緊急事態宣言」を受けて、JAMも同日、安河内会長名で「新型ウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言」を発した。
 組合員はもちろん、職場で働くすべての仲間の命と健康、そして雇用と生活を守ろうというメッセージだ。この感染拡大の先行きはまだ見えないが、雇用環境に悪影響を与えることは間違いない。JAMとしてはすでに設置している「雇用対策本部」(本部長・安河内会長)の体制強化を図ったところだ。
 今回の感染拡大前から、米中貿易摩擦の長期化が予想され、昨年春くらいから景気も悪化する兆しがあった。三月の日銀短観でも、サービス業はもちろん、製造業でも景況感が大幅に悪化している。
 JAMが三月に行った加盟単組への調査では、国内で臨時休業や一時帰休を「実施している」と回答したのは、報告を上げた七百四十八単組のうち、二十四単組(三・二%)であった。
 だが、「四月以降に何らかの影響が出るか」という問いかけについては、全体の約五割となる三百四十五(四六・二%)もの単組が「影響が出る」と答えている。
 二〇〇八年のリーマンショック直後も、生産減少は顕著だった。当時を振り返ると、〇八年九月のリーマン・ブラザーズ破たん後、企業状況の悪化が最も顕著となったのが、ショックからおよそ半年が経過した〇九年四月だった。この時が一番厳しかった。私は当時、JAM大阪にいましたが、加盟組合がある企業の約六割で生産ラインが止まった。多くの企業で一時帰休が進み、雇用調整助成金の受給対象となった。後で調べると、リーマンショックに起因した雇調金の助成金の総額は、日本全体で約八千億円にも達していたことが分かった。
 今回もこのような事態が起こることを想定し、JAMでは雇調金受給要件の緩和、特例措置など中身の拡充に取り組んできた。この制度を積極的に活用するよう加盟組織に呼びかけている。

20春闘―浸透した絶対額と賃金水準重視の交渉
 二〇春闘は、日中貿易対立、新型ウイルスの感染拡大、日本を代表する大手企業での「ベアゼロ」等、厳しい社会情勢であったが、JAMでは、大手の賃上げ額を中小が上回る健闘を見せている。
 今年で七年目となる「ベア春闘」。当初は(一四〜一五年頃)、三月中旬の回答指定日に相場形成の牽引役を任されている先行組合が高い回答額を引き出す。後続組合は先行組合が作った相場をめざして交渉を展開する。四月から五月、そして六月と日が経つにつれて獲得額が小さくなっていく傾向にあった。
 しかし、一六年からこの流れが変わった。先行組合がつくった賃上げ額を、後続組合も確保し出したことだ。つまり、賃上げ相場が維持されだしたのだ。とくに一九年は四月中旬頃にいったん底を打ち、その後、賃上げ相場が上昇していった。この背景にあるのは、中小における人手不足・人材不足だ。賃金を上げないと、人手不足・人材不足の問題が解消されないという経営者のマインドを反映したものだ。
 今春闘はどうなるかだが、今のところ昨年と比べると現在、三百〜四百円ぐらい低く推移している。規模別でみると、「三百人未満」が千三百二十七円で、「百人未満」が千三百八十三円と高い「ベア・改善分」を引き出している。「五百〜九百九十九人」「一千〜二千九百九十九人」「三千人以上」と規模が大きくなると、その数字は三ケタという結果になっている。一番高いのは「三百〜四百九十九人」で、千五百八円。これはある一部の組合が非常に高い金額で獲得したことで、全体の平均値を押し上げた結果だ。いずれにしても、組織規模が小さくなるほど、改善額が高くなるという傾向が出ている。これは一六年から出ている特徴であり、賃金水準の絶対額を重視するというJAM方針が、加盟組織全体へ浸透した結果だと考えている。
 経営側とは、「三十歳」、「三十五歳」といった組合員の賃金水準を前面に出して交渉している。繰り返し言いますが、規模が大きくなるほど、賃金水準は高くなっているということ。これを交渉の中で示していくと、小さな規模の経営者は「ウチの賃金水準は低い」と思う。「同じような仕事をしているのに、規模が違うだけで、賃金格差がこんなにもあるのか、だから人が来ないんだ」となるのだ。いわば交渉の中で、現在の労働市場の実態を炙り出すことで、経営側に対して生々しい迫力を持った交渉が展開できるのだ。このように賃金水準を前面に出す交渉を本格化してきたことも、中小が大手を上回ることを促進した一つの理由であると言える。

困難乗り越え、組合員と仲間との団結強める
 二〇春闘はまだ闘いを続けている組合もあり、この間健闘してきた成果を二〇春闘の結果へとつなげていきたい。併せて、前述したように、新型ウイルス感染拡大とその影響を最小限にとどめ、雇用の確保、そして生活を守ることに運動の重点を切り替えていく。
 景気悪化が確実視されるなか、中小企業が発注元の大企業から不当な値引き要請が行われる可能性もある。JAMは、製品の価値(公正取引)と労働の価値(賃金水準)が正しく評価される「価値を認め合う社会へ」の実現に向け、これをひとつの社会運動として取り組みを強化していきたい。
 最後に労働組合にとって、一番大事なことは「団結」だ。具体的には、職場討議や集会という組合員が集うことが、今回の新型ウイルス感染拡大により、できにくい状況となっており、このことが私たちの悩みでもある。
 しかし、「感染しない、させないのも組合活動」という意識をもって、WebやLINEなどのツールを使いながら、これも労働組合の新たな試みとして、組合員とのコミュニケーションを深化させていきたい。
 まだまだ先は見通せないが、JAM本部、地方JAM、地協、単組が密接に連携しながら、企業危機と雇用不安を引き起こさないための運動を推進していく。


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