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労働新聞 2020年4月5日号・4面 労働運動

コロナ対策など申し入れ

国民経済支える港と労働者


玉田雅也・全国港湾書記長

 新型コロナウイルスの肺炎拡大は労働者の職場や生活を直撃している。こうしたなか、全国港湾労働組合連合会(全国港湾)は三月十七〜十九日にかけて毎年恒例となっている中央行動を実施、デモは中止したものの、厚生労働省や国土交通省などに対して、感染拡大の防止や情報技術(IT)化による一方的な「自動化」導入などの労働環境の悪化を許さない観点から申し入れを行った。この申し入れなどについて、玉田雅也・全国港湾書記長に聞いた。(文責・編集部)


「仕事量が減っている」との声も
 新型コロナウイルスの感染予防策については、港湾労働者に対して医療機関による検査が常時行われるよう、厚生労働省、国土交通省などに申し入れを行った。
 現場からはマスク不足を訴える声が出ており、マスクが行き渡るよう対策を求めた。また業界でもさまざまな手配をして、マスクを用意するなどの対策をとっている。
 荷物を積んだ本船が港に入ってきたとき、作業で船に乗り込む際にマスク着用を求められたり熱を測るなど、マスクの着用は基本的に必須だ。
 また逆に、私たちの立場から本船に乗っている船員の皆さんの不安もあるだろうし、大丈夫なのかという点もある。船員の安全確保と検疫検査を徹底的に行い、異常がないことを確認した上で、荷役作業を行わせることなどを外国船舶協会に申し入れをした。船員といちばん最初に接触するのが港湾労働者であり、この点で不安をもっている仲間も多い。
 港湾労働者は班単位で仕事をするので、例えば十人いる班のなかで一人が感染すると、班全体の仕事ができなくなる。一人が感染して、残りの九人を含めて「十四日間休め」といわれたら、同じ会社のなかではとてもカバーできない。結局、別の会社が引き受ける形になり、その企業の存続にも関わってしまう。
 あるいは、仮に倉庫の作業を行う労働者のなかから一人でも感染者が出たら、その倉庫にある食料品などは全部ダメになってしまうし、荷主も「あの会社の倉庫は使いたくない」という心情になる。ひとたび、そうした事態が起これば、仕事がなくなるという不安はとても大きい。まずできることとして、組合員には、マスク着用や手洗いの徹底などを周知している。この課題は労使共通のものだ。そのためにも、マスクの確保などの体制をつくっていかないと、安心して仕事ができない。
 この間、日本でも独占的な企業が自国を離れて、中国など世界へサプライチェーンを広げていった。いわば、この「グローバル化の矛盾」が噴出したと思う。また、中国など海外からの物流が何かのきっかけで寸断される怖さも示している。国民生活の安定のためには物流が非常に大事であり、それを港湾など交通運輸労働者が支えているという点も再認識されればいいと思う。
すでに現場から「仕事量が減っている」との声も出ている。とくに日中トレード(貿易)が多くを占める大阪や九州からはそうした声が多い。今後、北米・アジア・欧州の三極を貨物の積み替えすることなく直接結ぶ基幹航路にも影響が出てくるだろう。

「自動化」進めば減るのは労働者と職域
 いわゆる「自動化」については、基本的に反対というスタンスはハッキリしている。
今、焦点化されているのはRTG(ラバータイヤ式ガントリークレーン)といわれる遠隔操作できる巨大クレーンの導入をめぐる課題だ。今まではクレーン一基を二人が二時間交代で動かす形だったが、RTGでは一人が三〜五基を動かせることになる。三基動かせるとなれば、これまで単純に六人必要だったものが、一人になる。残り五人はいらなくなってしまう。
 自動化をめぐっては、「安全と労働環境がよくなる」「人手不足が解消される」と言われているが、本質的には労務コストを削るというのが前提にあるので反対だ。
また、港湾事業は人を出して初めて料金が発生する。これまででいえば、クレーンを三基動かすなら六人分の料金をもらう。これが一人でいいとなれば、六分の五の収益はゼロになってしまう。これでは港運事業者はとても保たない。
 そういう意味では、中小事業者の職域と労働者の両方が減るので、大問題という認識だ。この点は労使が合意できる課題なはずだが、事業者は「人手不足が解消できる」という目先の議論ばかりしている。
 もう一つ、見逃してはいけないのは、港は荷物が入ってきてから、それを降ろす、あるいは船に積むなかでさまざまな作業がある。RPGを導入することで「効率化が図れる」と言うが、トータルとしてのスピードは同じであり、結局変わらない。圧倒的に変わるのは、人と職域が減るという二つに集約される。
 「人手不足だからRTGを導入しよう」という議論もあるが、現在導入されている名古屋港の飛島埠頭と他の港では、その性格はまったく違う。もともと飛島埠頭はトヨタ自動車が開発を進め、国も二〇〇四年度から既存のターミナルではさばき切れないという事情で新ターミナル建設が構想され、「スーパー中枢港湾」のモデルとして整備してきたものだ。つまり、新たな需要にこたえるためのものであったことと、ものづくりを背景にもった港であり、東京港や大阪港など消費地を背景とした港とは生まれも育ちもまったく違う。
 国土交通省は国内の主要港の競争力の強化を打ち出し、取扱貨物量が世界第二位のシンガポールや香港などを引き合いに出しているが、こうした港は全部中継港だ。日本の場合はサプライチェーンの展開のなかで、中継港という側面は減っている。そういう点で名古屋港が先行事例になるとは思えない。
今、港湾事業に必要なことは、「自動化で何人を減らせるか」という「算数の問題」ではなくて、国民に安心・安全な荷物を届ける、そして違法薬物などの社会悪物品をブロックするという本来の役割を発揮できるよう整備することだ。
 実は港湾事業でも雇用が乱れ、派遣労働者に依存するような形もある。「人手不足で自動化」云々ではなく、国民生活を支える上で重要なこの港湾事業が本当に魅力ある職場しなければ新しい人も入ってこない。雇用を確保し、なおかつ港全体を正しい働き方ができる場所としてキチンと整備していく観点こそ必要だ。
 「機械は税金を払わないが、労働者は税金を払う。トータルで言えば、どちらの方が経済に寄与するのか」ということを海外の組合がよく言っているが、そういう発想だって必要ではないか。

カジノではなく、港本来の姿こそ
 今、横浜や大阪などでIR(カジノを含む統合型リゾート)の誘致が行われているが、基本的に反対だ。カジノというバクチ場をつくることの是非も当然あるが、もう一つの観点として、港頭地域(港の出入口付近)を整備していく場所をカジノと共有させられたらたまらないということがある。あくまで港頭地域は港湾施設として整備していくことが必要だ。もし、カジノなんかと並存すれば、仕事上も問題が起こってくる。
 大阪では昨年の二十カ国・地域(G20)サミットの開催で港では三日間仕事ができない状態になった。警備上、「コンテナを開けろ」と言われても、ドライバーは開けることができない。また大阪では二五年四月に万博が開かれるが、開会期間中の半年間、仕事が止まってしまう可能性もある。港にカジノなど商業施設をつくれば、当然渋滞も引き起こす。カジノをつくる場所があるならコンテナのプールや、待機場して整備すれば、もっと物流はスムーズに流れるはずだ。
今年夏の東京五輪は「延期」が決まったが、会場近くの東京港―大井埠頭における開会中の渋滞対策について議論を重ねてきた。都側は朝早くゲートを開けて、早い時間帯で作業を行う、あるいは現在午後四時半にゲートを閉めているが、それを予約制で夜八時まで開けることも可能になっているものを、それを超えて、二十四時間ゲートをオープンにして、朝四時まで仕事ができるようにするなどの考えを示してきた。
 港湾労働者の働き方というのは自動車工場などとは違って、交替制ではない。結局、荷物量に左右されるから、例えば八時間労働・三交替制という形にはできない。そうすると結局、一直(交替制で勤務するうちの第一番目)のみになり、労働者はとてつもなく残業させられてしまう。五輪開催は一年「延期」となったが、まだ課題は残っている。


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