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労働新聞 2020年2月25日号・4面〜5面

連合指導部の「生産性3原則」論打ち破り、
大幅賃上げ求め闘い抜こう


「第4次産業革命」への
立ち遅れに焦燥する
財界の攻撃許すな


高柳 良一

 二〇春闘は日本経団連と連合とのトップ会談、連合による春闘開始宣言中央総決起集会を経て、三月十一日の自動車、電機などの大手労組に対する集中回答日を当面の山場に、組合のある職場では労資交渉が繰り広げられている。
 本紙二月五日号では、二〇春闘に際しての経営者、資本家側の指針となる経団連の「二〇二〇年版経営政策特別委員会報告」を取り上げ、労働者への一大攻撃をもくろんでいると暴露した。「報告」は「Society5・0時代に必要な人材の確保・育成が大きな経営課題」になったとして、「新卒一括採用、長期・終身雇用、年功型賃金などを柱とする『日本型雇用システム』」を最終的に解体すると宣言、その第一歩として「全社員を対象とした一律的な賃金要求は適さなくなっている」「『春闘』が主導してきた業界横並びによる賃金交渉は、実態に合わなくなっている」と、春闘そのものを公然と否定した。グローバル化の中で非正規雇用が激増し、実質賃金は先進国で唯一マイナスで、貧困と格差がかつてなく拡大したが、財界は労働者にさらなる犠牲を押し付けて乗り切ろうとしている。
 背景には、リーマン・ショックから十二年、世界資本主義が行き詰まる歴史的局面を迎えた下で、「労働力人口の急速な減少」「デジタル技術の革新」での米中からの立ち遅れなどでの、わが国財界の危機感がある。財界は国際競争力を取り戻すため、またしても労働運動内部にいる労使協調の日和見主義幹部に頼り、「健全な労使関係」という伝家の宝刀を持ち出して乗り切ろうと企んでいるのである。
 こうした財界の危機感に満ちた春闘に臨む態度と方針に対して、連合は、どう闘おうとしているか。
 神津指導部は、ここ数年の取り組みの延長にとどまらず、「分配構造の転換につながり得る賃上げを」「その基盤となる『生産性三原則』に基づいた取り組みを社会全体に広げる」としている。果たしてそれは、財界の段階を画する一大攻撃を効果的に打ち破ることができるのか。

財界は20春闘にどのように臨もうとしているか
 今年の「報告」は、「Society5・0時代」を前面に押し出し、「新卒一括採用や長期・終身雇用を特徴とする『日本型雇用システム』」の解体を狙ったものである。
 「新たな働き方とこれによる生産性向上を実現させながら、競争力強化と収益拡大を図り、生み出された成果を様々な形での処遇改善に活用していくことで、働き方のエンゲージメントをいっそう高め、さらなる生産性向上につなげていく」という基本的スタンスである。
 それを実現する方針として、(1)生産性向上による収益拡大を社員に還元する「多様な方法による賃金引上げ」と、(2)職場環境の整備や能力開発に資する「総合的な処遇改善」を車の両輪として位置づけ、多様な選択肢の中から自社に適した方法・施策を検討・実施していくことが重要と提起している。
 これは、連合の春闘方針を「賃金引き上げ、特に月例賃金の引き上げに偏重」と批判して対置したもので、財界の狙いがどこにあるか、労働者にどのような犠牲が押し付けられるのか、見極めることが重要である。
 第一、「多様な方法による賃金引き上げ」とは何か。
 「賃金決定の大原則」として、改めて「『総額人件費』の観点が不可欠」と強調、定期昇給やベースアップ、諸手当の増額など所定内給与の引き上げが、所定外給与やボーナス、退職金、社会保険料に波及し、総額人件費を増大させることになるとしている。しかも「各社一律ではなく、自社の実情に応じて」とし、「基本給」と併せ、「諸手当」「賞与・一時金」を三本柱に、多様な組み合わせで対処するよう指示している。今後、総額人件費を増やさないために「基本給」を抑制しようというもので、「一律ベア」を要求する組合側に分断を持ち込み、労働者の団結の基礎を破壊することは明白である。重大なのは、「基本給」の決定にあたって「職能給や職務・仕事給、業績・成果給与の割合を高める」と提起していることである。これはIT(情報技術)人材を最優遇し、成果主義賃金をさらに拡大し、「基本給」さえも個人の業績に応じて差別化するものだ。
 第二に、「総合的な処遇改善」を特別に強調している。
 働き手一人ひとりの自発性と主体性を高める「エンゲージメント」の向上を「働き方改革フェーズII」の中心的課題として進めると提起している。「総合的な処遇改善」は、「エンゲージメントの向上を通じイノベーションの創出力を高め、Society5・0の実現につながる重要な施策」と強調し、「働き手には顧客に寄り添った、より創造的な仕事に取り組むことが求められる」と述べている。二〇春闘では、テレワークの導入、時間単位年休、転勤猶予制度や育児・介護・治療と仕事との両立支援制度などの各種施策が実際のエンゲージメントの向上につながっているのかを総括すると同時に、「社員の自律的なキャリア形成と能力開発を促し、働きがいをもって成長できる環境整備を」と踏み込んでいる。
 これは、「エンゲージメント」を基準に労働者を競わせ、デジタル化に対応できる人材と対応できない人材に振り分ける分断攻撃と言わなければならない。
 以上、「多様な方法による賃金引き上げ」と「総合的な処遇改善」を両輪とする労務政策が導入されるなら、グローバル大企業の正社員でさえ、一握りの「ジョブ型雇用」人材と、多数の従来の「メンバーシップ型雇用人材」に振り分けられ、深刻な差別と格差がもたらされる。
 一九九五年、財界はグローバル競争に勝ち残るために、「新時代の日本的経営」を発表、低賃金で不安定な非正規労働者を激増させ、かつてない貧困と格差社会に変質させた。連合結成時はまだ全労働者の二割程度だった非正規労働者が、二〇一八年には二千百二十万人と四割を占めるまでになった。賃上げの恩恵にあずかったのは限られた大企業の労働者だけで、全労働者の実質賃金は、一九九七年をピークに下がり続け、二〇一七年時点で、主要国では日本が唯一、九%マイナスという結果となった。
 財界がこんにち、競争に勝ち残るために推し進めようとしている新たな労務政策が具体化されるなら、さらなる重石となる。「新時代の日本的経営」がもたらした以上のに想像を絶する過酷な犠牲が押し付けられることになるに違いない。AI(人工知能)やロボットなどデジタル革命に対応できなければ、三〇年には七百三十五万人が雇用喪失するとの経産省の試算も出ている。
 労働者にとって、また労働組合にとって、まさに正念場である。
 最後に、「報告」の中には、春闘を闘う労働組合、労働者が見抜かなければならない財界の策略がある。
 未組織労働者の増加、また、同一業種の企業の間で大きな差ができていることを取り上げ、「『春闘』が主導してきた業種横並びによる集団的賃金交渉は、実態に合わなくなっている」「同じ企業で働く社員においても、仕事や役割・貢献度を基軸とした賃金制度への移行・見直しによって、個々人の処遇の違いが明確化していくにつれ、全社員を対象とした一律的な賃金要求は適さなくなってきている」と言っている。「春闘」を全面否定するものであり、これまでの労使関係を一方的に破棄するものにほかならない。
 その一方で財界は、労働組合に向かって、ぬけぬけと「企業の競争力と成長の源泉である良好で安定的な労使関係は、ますます重要性を増している」と説教している。「健全な労使関係を維持・強化する」上で、「『労使(団体)交渉』『労使協議』の一層の活用が不可欠」「様々なチャネル・施策により企業内コミュニケーションを図り、社員との個別労使関係を深めていくことが重要」と、「労使一丸となって難局を乗り切ろう」と呼びかけているのである。
 労働組合、連合指導部もなめられたものである。
 戦後復興以降、労働組合幹部を篭絡してきた自信のなせる業か、わが国財界人の厚かましさとずるがしこさここに極まれり、というほかない。

徹底して貫く「総人件費抑制」の姿勢
 二〇春闘について日本経団連は「賃上げの勢いを維持することは重要だ」(中西会長)などと甘言を弄しながらも一律賃上げには消極的な考えを示している。「報告」でも「経営側の基本的スタンス」として「『総額人件費』の観点が不可欠」などとクギを刺し、「多様な方法による賃金引上げを企業労使で検討する」「各社一律ではなく、自社の実情に応じて前向きに検討」などといい、ベースアップについては「選択肢」の一つに過ぎないとしている。そして、ベアに対して、「多様な方法による賃金引上げ」を対置、「適切な総人件費管理の下、支払能力を踏まえ」た上で、「基本給」と併せ、「諸手当」「賞与・一時金」を加味した賃金決定で対応しようというのである。また「基本給」の決定にあたっては、「職能給や職務・仕事給、業績・成果給与の割合が高い企業が多くなっている」ことを挙げ、これが「適切な手法」と推奨している。これは業績主義を徹底させた上で、「基本給」さえも企業業績の変動などで削減できることを意味しているのだ。
 一方、わが国多国籍大企業をはじめとする企業の内部留保は一八年度で四百六十三兆千三百八億円と七年連続で過去最大を更新している。「報告」ではこの内部留保については一切口をつぐみながら、「総額人件費の観点」=「総人件費の抑制」を労働者に強いようとしているのだ。

危機感も大局観もなく、展望を示し得ない連合指導部の情勢認識
 財界の春闘方針に対して、連合はどのように闘おうとしているか。
 冒頭に述べたように、連合の神津指導部は二〇春闘に際して、ここ数年の取り組みの延長にとどまらず、「分配構造の転換につながり得る賃上げを」と打ち出し、「その基盤となる『生産性三原則』に基づいた取り組みを社会全体に広げる」と提起している。
 これが、財界の時期を画する春闘方針に対して有効に闘える方針かこそ検討すべき肝心な点だが、その前提として連合指導部がこんにちの情勢をどう見ているか。

危機感がないのは誰か
 連合の情勢認識を知るには、この「経労委報告」に対する連合見解が適切である。
 第一番目に、「報告」は、日本全体の問題にかかわる危機感が感じられない」と述べている。だが、これはそっくり連合の情勢認識に当てはまる評価だと指摘せざるを得ない。
 連合は、「報告」が、約二十年にわたる格差拡大、賃金水準の劣後、大企業と中小企業の賃金格差、不安定雇用の増大、さらには税財政問題の先送りなどを列挙し、「こうした問題意識にあまり触れられておらず、日本全体の問題がどこまで視野に入っているのか、疑問」と述べている。
 確かに、指摘されている問題すべてではないが、「報告」は問題を取り巻くより広い環境については触れている。財界の立場という限界はあるが、連合見解の「日本全体の問題」を列挙するだけで、その背景となっている時代の転換期にある世界と切り離して静止的に見る見方よりも、よほど広い視野に立っている。
 それゆえ「報告」には、世界経済の危機がいよいよ資本主義の行き詰まりの歴史的局面に入った下で、次代を決するデジタル革命の技術革新の進展、その国際競争戦で米国、中国に大きく水を空けられ、二流国に転落しかねないという危機感がにじみ出ている。そうした情勢認識から、財界は、遅ればせながら「Society5・0時代」を打ち出して世界的競争戦に参戦し、それに勝ち残るための国内体制づくりの一環として「人事・賃金制度の再構築」を提起して、「日本型雇用システム」の最後的解体という荒療治の「行動の指針」を見出しているのである。
 そうした財界の情勢認識と比較してみるなら、連合の情勢認識は世界経済、政治についての分析もなく、ましてや歴史的転換期という時代認識もない。財界がかくも危機感に駆られて、労働者に襲いかかってきている分析も、組合指導部としての危機感もなく、したがって情勢の現状と見通しを描き、労働組合の活動家に展望を示しえていないのである。連合指導部の情勢認識には致命的弱点があり、主導権が財界の側に握られている。


○政治思想面の準備が決定的
 こうした「時代の大きな転換点」における、労資の彼我の攻防、二〇春闘を主導的に闘うには、労働運動側にとって情勢認識を含む政治思想上の準備こそ決定的に重要である。
 わが党は、そういう問題意識で集中的に世界経済、世界政治、技術革新、労働運動、政治党派闘争を研究してきた。ここでは、ポイントだけを述べておきたい。
・リーマン・ショックから十二年、世界経済の危機はいちだんと深まり、国家間でも、一国内でも政治闘争は激化してきたが、デジタル革命と言われる急速な技術革新は、危機を加速、資本主義の死滅を早める。
・そうした中で、資本家側の内部に資本主義は行き詰まったという認識があらわれている。ダボス会議で「資本主義の再定義」が主なテーマになったものの、「再定義」はできず。「日経新聞」は、新年早々から「逆境の資本主義」を特集したが、出口は見い出せなかった。
 これらの事実は、私的所有を基礎とする資本主義の生産様式が限界となって、命脈尽きつつあること、新たな社会主義の生産様式にとってかわらざるを得ない歴史的局面に至ったこと、労働者階級にとっては「夜明け前」であることを示している。
・昨年後半から先進国、発展途上国を問わず、世界中に広がった大規模な反政府デモや集会は、貧困と格差拡大に耐え難くなった各国人民、労働者の怒りの爆発であり、選挙による投票に待ちきれなくなった直接民主主義の行動である。
 だが、この「転換期」の決着は、労働者階級が人民を率いて政権を握ることによってしかつけることはできない。
 二〇春闘を闘っている活動家が、こんにちの世界情勢の中に、展望があることをつかんでいただければ幸いである。わが国財界はそうした中で世界競争の立ち遅れを取り戻すためにあがき、労働者に対する段階を画する攻撃をかけていること、しかし決して彼らには展望が描けないことを見抜くよう希望したい。


生産性3原則を基盤にする労使関係では、「分配構造の転換につながる賃上げ」は実現できない
 連合の春闘方針は、ベースアップについては、「二%程度」とし、「定期昇給分(定昇維持相当分)を含め四%程度とする」というものである。「底上げ」「底支え」「格差是正」に向けて、「『働き方の価値に見合った水準』にこだわり、『賃金水準の追求』に取り組んでいく』としている。
 それを実現するために「分配構造の転換につながり得る賃上げ」が必要として、「『生産性三原則』にもとづいた取り組みを社会全体に広げよう」「『取引の適正化』を社会全体の課題として取り組もう」と呼びかけている。
 「取引の適正化」は是として、最大の問題は「生産性三原則」に基づいた取り組みによって、果たして「日本型雇用システム」の最後的解体を狙い、春闘を全面的に否定する立場に踏み込んだ財界、経営者と闘えるのかという点である。
 連合指導部は、「生産性三原則」は、一九五五年、生産性向上運動発足時には労働組合には「懸念や反発」があったので、「雇用の維持・安定」「労使の協力と協議」「成果の公正な配分」をうたうことで、生産性向上とは両立が可能になったと説明している。
 だが、それは事実と異なる。連合指導部が言うように労働者の利益を保証するものではなかった。
 まず、生産性向上運動は、戦後米国の世界戦略の一環として、直接指導の下、財界と政府が一体となって推進した一大合理化運動であり、「三原則」は労働組合の抵抗なしに推し進めようとする綱領であった。それは、技術革新や設備の近代化、合理化に協力してパイ(生産性)を大きくすれば、労働者への配分(賃金)も上がるという「パイの理論」で、労働者と労働組合を抱き込もうとする労資協調のイデオロギー攻撃であった。
 経営者は、「生産性三原則」を持ち込むことによって、わずかばかりの賃上げで技術革新と合理化を推進し、生産性をあげて膨大な収益を確保しただけでなく、嵐のような階級的な労働運動を分断、懐柔し、労使協調型の労働運動に変質させるのに成功したのである。
 こうして労資協調の組合幹部が組織され、次第に「健全な労使関係」が形成された。民間大企業の大半は、労使協調幹部が支配する労働組合に変質した。これによってわが国大企業は国際競争力を強め、高度成長を担い、八〇年代までは世界の大企業家の羨望の的となった。
 「生産性三原則」に基づく「健全な労使関係」が、その力を発揮したのは、第一次石油ショック後の七五春闘で前年に春闘史上最大のストを打ち、三三%もの大幅賃上げを実現した成果を、一三%にまで引き下げ、以降、一ケタの賃上げに収束させたことである。日経連の桜田会長は「健全な労使関係が日本の難局を救った」と絶賛し、「社会の安定帯」と豪語したものである。
 以降、第二次石油ショック、「減量経営」や八〇年代の「前川レポート」による市場開放と企業の海外展開に伴う国内空洞化など、わが国経済が厳しくなり、財界、経営者が難局に当面するたびに、「労使一丸となって危機に立ち向かう」と労働者への犠牲を抵抗なく受け入れて財界の危機を救った。
 八九年の連合結成は、「生産性三原則」を重視する労資協調の潮流が労働運動の指導部を握り、こんにちも連合の基本路線として引き継がれている。
 だが、連合結成三十年間を振り返っても、「生産性三原則」のおかげで労働者が首切りを免れ、賃金が上がったという事実は皆無である。
 むしろこの期間は、冷戦が崩壊して世界がグローバリゼーションの大競争の時代に突入、わが国多国籍企業は世界的競争に勝ち残るために、労働者に一大攻撃を仕掛けた時期であった。
 財界は九五年、「新時代の日本的経営」という新たな労務政策を導入、非正規労働者の大幅解禁、成果主義賃金の導入など、「生産性三原則」で保障されるとしていた終身雇用も、年功賃金も、一方的に反故にされた。その結果としてリストラによる膨大な失業者、低賃金で不安定な非正規労働者の激増、実質賃金のマイナスなど犠牲を強いられたことはすでに触れた。
 事実が示すところは、「生産性三原則」が保障するとした雇用も、賃金も守れないどころか、難局に当たって「協力」したにもかかわらず、労働者には犠牲が押し付けられたということである。
 それにとどまらない。労資協調路線に縛られたがゆえに、理不尽な首切りに対しても、賃金切り下げにしても、断固として闘い、ストライキで抵抗し、打ち破る道をとらなくなった。日本の労働争議件数は、国際的にみて異常に少なく、千九百九十一年に年間千件を割り込み、二〇〇九年から二ケタ台にまで落ちている。連合労働運動はストライキを忘れ、物わかりの良い「労使協調路線のなかにどっぷりとつかっている」(〇三年連合評価委員会)のである。ますます厳しい状態に置かれ、怒りを高めている未組織労働者、青年労働者への求心力はなくなっている。
 連合労働運動の基本路線である「生産性三原則」に基づく労使協調路線は、グローバル化の激動期にすでに破綻しているというべきである。ましてやこんにち、世界資本主義がいよいよ行き詰まり、デジタル革命の急進展によって世界的競争がますます激化する時代である。もはや「生産性三原則」が成立する条件は、なくなっている。
 財界は、二〇春闘に際して、難局を脱するために、「日本型雇用システム」を最後的に解体し、春闘をも否定して、労働者に大規模な犠牲を押し付ける新たな労務政策に踏み込んだ。
 したがって、「生産性三原則」に基づいた取り組みを社会全体に広げることによって「分配構造の転換につながる賃上げ」を実現しようというのは、まったくの幻想である。


労使協調路線を打ち破り、団結した力で要求を実現しよう
(1)われわれは、二〇春闘を職場や地域、産別で闘うにあたって、財界との政治思想面での闘争、連合指導部との政治思想闘争を重視するよう、改めて強調したい。
 とりわけ、こんにちの「大きな時代の転換期」における闘いを、力関係として劣勢にある労働運動側が主導的に闘うには、政治思想上の優位を確保できるかどうかが決定的な意味を持つ。
 この文書でも、こんにちの時代認識、世界情勢をどう見るか、世界の資本家やそのイデオローグが展望を描けず、当然にもわが国財界も打開の道を見いだせていない点について触れた。
 この点での連合指導部の認識は、財界の認識と比較しても視野が狭く、大局観がなく、したがって、労働運動の展望を描き得ていない。
 われわれの見解のいくつかのポイントも紹介したので参考にしていただきたい。
(2)二〇春闘を真の意味で「春闘再構築」の一歩として闘おうとするなら、破綻した「生産性三原則」を基盤とする労使協調路線から脱却し、職場の労働者の切実な要求とエネルギーに依拠した団結した力に頼って闘う路線に転換することである。
 そうするうえでも、連合指導部をはじめとした大企業産別幹部に染みついた「生産性三原則」に基づく労使協調路線との政治思想闘争は決定的に先行させなければならない。この考え方は生産性向上運動発足以来六十五年もの長期にわたって形成され、定着してきた。
 一つ付け加えておかねばならないのは、この労使協調路線がかくも長期間にわたって日本の労働運動をとらえてきたのは、財界の手腕もさながら、日本の労働組合が企業別組合として組織され、企業内部の労使協議制によって制度化されてきたことも大きい。
 したがって、一朝一夕に打ち破ることはできないので、この闘いは腹を固めてかからねばならない。
(3)その際、現実に起こっている事実、見解を具体的に取り上げて批判することが効果的である。
 この文書では、財界の新たな労務政策をその観点から批判した。また、「生産性三原則」に基づく労使協調路線がどのように形成され、その効果と結果が労働者と労働運動にどんな影響を及ぼしたかを暴露し、連合結成三十年のグローバル化の時代には破綻したこと、これからのデジタル革命の時代にはなおさら破綻が見えていること、したがって「生産性三原則」の取り組みを広げることで「分配構造の転換につながる賃金引き上げは幻想にすぎないことを暴露した。参考になれば幸いである。
 併せて、MMT(新貨幣理論)などによる分配論もまた、幻想である。
 ここで付け加えねばならないのは、トヨタ労組の春闘方針に対する批判である。
 よほど昨年の豊田社長の一喝が効いたのか、「大変革期、会社を支える」(西野委員長)として、ベアについて人事評価に応じて五段階に差をつける新たな方法を組合として提案した。財界が「多様な方法による賃金引上げ」の二〇春闘方針を出す前に早々に表明し、他の産別や労組にも広がった。これによって、春闘を闘おうとしている労働者の間には分断が持ち込まれ、労働運動の唯一の力の源泉である団結力は弱まった。
 経営側に忠誠を誓ったトヨタ労組は、財界の春闘破壊に手を貸す労働運動内部の裏切り者として、以降、徹底的に批判しなければならない。
 そして、こうした動きについて「産別自決」などと容認しているのが連合中央・神津指導部なのだ。
(4)労使協調路線を打ち破って、団結した力によって要求を実現しようとする組合の闘いの実例を見つけ、学ぶことはとても重要である。
 中小モノづくり産別のJAM、私鉄総連などには、毎年闘って要求を実現している闘いがある。これを広げなければならない。
 それとの関連で、全日建連帯労組関西生コン支部に対する異常な弾圧に対する支援の闘いは重要である。関生支部は、セメント資本、ゼネコンに挟まれた生コン業界の零細業者と連携して闘うことで業界としての収益を上げ、労働条件の大幅な改善を実現してきた。この関生支部に対する弾圧は、歴史的変動期労働者国民各層が闘わざるを得ない情勢が迫るなか、今のうちに闘う労働運動をつぶしておきたいという支配層の危機感である。関生コン支部の闘いに連帯して闘うことは労働者全体にとって大きな意義がある。

20春闘を安倍政権打倒と結びつけ闘い抜こう
 また併せて、こんにちの安倍政権を打倒する闘いも二〇春闘で展開しようではないか。
 安倍政権は歴代政権以上に対米従属政治を推し進め、「日米同盟強化」を誇っていたが、トランプ政権の登場はこうした状況を大きく変えようとしている。トランプ政権は中国への貿易戦争を仕掛けているが、こうした攻撃は同盟国さえターゲットにしており、欧州連合(EU)に対する報復関税も決まった。そして、わが国に対しても自由貿易交渉(FTA)のなかで、日本の自動車関税の撤廃を見送ると同時に、対日貿易赤字に不満を示し、為替条項などさらなる要求を突きつけてこよう。また、駐留米軍経費である「思いやり予算」をめぐってもその大幅増を要求している。米国は形ばかりの「対等な同盟関係」さえ、捨て去ろうとしている。
 安倍政権は台頭する中国との「関係改善」を一定図りつつも、基本的には米国の中国包囲網に積極的に応え、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を進めている。これはアジア全体に敵対する道であり、わが国の進路を危うくするものだ。付言するなら、こうした安倍政権による対米追随と対中敵視政策に対し、この間、連合中央・神津指導部はまったく争わなかった。
 また、労働者の生活状況の悪化と同様に国民各層の生活もこんにち耐え難いものになっている。こんにち安倍政権は「農業の競争力強化」と大規模化・効率化一辺倒を押しつけ、家族経営や地域農業が守ってきた農地や農協制度の解体や種子法の改悪を進めてきた。個人消費の低迷もあって商工業者も大変な状況だ。
 先進的労働運動活動家は自己の階級的な利益を優先に闘うとともにこうした農林業者、商工業者の切実な要求のために闘おう。
 安倍政権に対し、野党は明確な対抗軸を打ち立てることができず、単なる「数合わせ」の「共闘」の演出に熱中している。
 立憲民主党と国民民主党の統合は当面とん挫した。だが、財界は一九八〇年代末以降、政治支配の「安定」を図るための保守二大政党制策動を止めていない。この先兵役である小沢一郎氏らに幻想を持たず、自らの力に頼って政治を変えることをめざさなければならない。
 対抗軸なしの「野党共闘」を叫ぶ日本共産党はいよいよ「野党連合政権」の閣内入りを狙って、連合への批判をやめ、秋波を送っている。共産党の影響下にある全労連は二〇春闘をもっぱら「野党共闘」に解消し、労働者に立ち上がることを呼びかけていない。
 世界を見渡せば、欧米各国や新興国でストライキなど労働者の闘いが高揚している。フランスでは「黄色いベスト運動」や年金制度改悪反対の闘いがマクロン政権を追い詰めている。米国でもトランプ政権の人種差別反対の闘いと結びつきながら、教育労働者がストライキを行った。中南米諸国でも、労働者・人民が緊縮財政政策に抗して果敢に闘っている。
 世界経済の成長率はいちだんと鈍化し、新たな金融危機の襲来が不可避的となっている。わが国の昨年十〜十二月期の実質国内総生産(GDP)も年率換算でマイナス六・三%に沈んだ。これに新型コロナウイルスによる肺炎拡大で企業活動の縮小が追い討ちをかけ、経済の起爆剤として位置づけられていた今年七月の東京五輪もその開催そのものさえ危ぶまれている状況だ。「生産性三原則」を保障していた経済成長は望むべくもない。
 わが国では労働者階級が指導権を握りながら、農林漁業者、中小・零細企業家など犠牲を強いられている国民大多数の統一戦線と、それによる院外の実力闘争の発展が求められている。対米従属と多国籍大企業に奉仕、中国に対抗してアジアの大国化を追求する安倍政権を打ち倒し、真の独立・自主の政権を打ち立てよう。そのためにも、連合中央・神津指導部の日和見主義を突破し、二〇春闘を闘い抜こう。


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