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労働新聞 2019年4月5日号・4面 労働運動

改定入管法が施行

外国人労働者への
人権侵害生み出す構造変えよ

小山正樹・JAM参与

 改定出入国管理法が四月に施行された。新たに外国人の単純労働者を三十四万人規模で受け入れるという。しかし、悪質な経営者による外国人技能実習生に対する不払い労働、労災隠し、果ては暴行、セクシャルハラスメントなどが社会問題化しており、こうした問題を解決しないままの受け入れ拡大は大きな問題をはらんでいる。外国人労働者の人権問題の解決に取り組んできたJAM参与の小山正樹氏に聞いた。(文責編集部)


まさに「施行ありき」の入管法改定
 国会で昨年十二月に改定入国管理法が成立し、この四月一日から施行となった。国会で審議される段階でも、外国人労働者受け入れの具体的な内容がよく分からないまま進んできた。
 外国人労働者の受け入れ資格について、「特定技能」という新しい在留資格が設けれられた。介護や建設、外食業など十四業種が挙げられているが、各業界では新たな在留資格の技能試験や日本語試験の準備が十分ではなく、四月の施行日に間に合ったのは介護や宿泊ぐらいではないか。
 まさに「施行ありき」の拙速さで、官邸主導の改定といわざるを得ない。なぜ急がなくてはいけないのか。
 すでに、日本では二〇一八年十月末時点で、外国人技能実習生や留学生のアルバイトなどで外国人労働者が約百四十六万人働いている。しかし、技能実習生や留学生は「技能実習」「留学」のための在留資格であるが、実際上は低賃金労働者として働いている。
 政府の試算では、一九年度から五年間で最大約三十四万人の外国人労働者を受け入れるとし、人数の上限枠についても業種ごとにつくっていくという話だが、実際どうなるのかまだイメージがつかめない。
 本来、外国人労働者をどう受け入れるか、もっとしっかりとした議論を行うべきだ。実際の職業紹介を民間の人材ビジネスに全部ゆだねてしまうのか。あくまで国がキチンとハローワークを中心にして管理すべきことだと思う。
 現在の技能実習制度で多くの問題があるのに、これから日本にくるであろう外国人労働者の人権や諸権利を本当に守ることができるのかどうかが肝心だ。私たち労働組合の立場からいえばそのことがいちばんの基本だ。

365日、朝7時から夜中24時まで作業で賃金は出来高払い/農業分野で横行する労基法逃れ
 これまで私たちは在日ビルマ市民労働組合(FWUBC)と連携しながら、ミャンマー人の技能実習生の問題に取り組んできた。そこで急増する技能実習生からの労働相談について直近のものを報告したい。
 愛知県のある大葉栽培の農園で働く女性のミャンマー人技能実習生からの相談だ。彼女たちは「助けてください」と今年一月にFWCBCに訴えてきた。
 彼女たちは大葉十枚を輪ゴムで結束してパックに詰める作業を休日なしに行っていた。朝七時から深夜二十四時まで働き、途中休憩は昼食時の十五分間と夕方の一時間半だけだ。日曜日もない。昼間は大葉を栽培する温室に隣接した作業場で働き、十七時以降や日曜日の作業は、自分たちの住居に壁一枚隔てて設営された作業場で行っていた。
 長時間労働もさることながら、賃金の支払いの仕方も出来高払いという。月に三千パックを作って九万六千円。三千一パックから三千五百パックは一パック三十五円、三千五百一パック以上は一パック四十円という単価で計算され支払われていた。作業が早い人でも一日百五十〜百六十パックが限界で、しかも、「月四千パック」が目標とされ、彼女たちの指先はアカギレで血がにじんでいた。
そして、これを時間給に換算すると二百二十円から三百四十円にしかならない。愛知県の最低賃金は八百九十八円で、話にならない額だ。本来、技能実習であれば、時間給で支払わなければならず、時間管理もしなくてはいけないことになっている。
 そもそも契約の段階で「雇用契約書」という雛形があり、そこには労働時間管理するとしかあり得ない書き方をしているわけで、出来高払いの雇用契約というのは、制度上あり得ない話だ。
 彼女たちは夜中二十四時に作業を終え、その後シャワーやお風呂に入って、ようやく寝ることができる。そして、朝六時四十分に宿舎から自転車で会社の作業場に向かう。また、昼食のためのお弁当を作っていくので、本当にじっくりとした睡眠は取れなかったのではないか。日曜日も、朝八時から住居に隣接した作業場で作業を行っている。
 これが三百六十五日、人間の働き方としてはとても考えられず、人権侵害と言うほかはない。労働者としての権利どころか、人間としてまともな生活ができない状態に置かれていた。
 労働基準法では農業については労働時間規制の適用除外になっている。その理由は労働時間が自然条件に左右され、季節による繁閑の差が激しいからだ。
 しかし、このケースは温室による栽培であり、朝から夜まで例外なく、ただ収穫されたものパックに詰めるというまったくの単純作業であり、工場労働と何ら変わらない。
 相談を受けた私たちは今年二月、実際に現場へ行き、「社長」と言われる人と会い、労働組合法に基づく団体交渉の申し入れと要求書の提出を行った。そこで立ち話ではあったが、「社長」からは「違法なことはしていない」「朝七時から十五時半まで作業はしているが、夜の作業などさせていない」という話が出た。そして、賃金についても「雇用契約書の通り、時間給で払っている」と言い張った。
 私たちは技能実習生から詳細に話を聞くなど実態をつかんでいたので、この主張がウソであると指摘すると共に、彼女たちをこれ以上働かせ続けることは大変危険なので、五人を保護した。そして、外国人労働者技能実習機構に他の実習実施者への移行を申請した。同時に彼女たちは労働基準監督署に労基法違反を申告、未払い賃金の支払いなどについてはこれから交渉を行っていく。
 これまでの労働相談では縫製関係が多く、今回のような農業分野は初めてのケースだった。これで改めて農業分野における労働実態というのがあまりにもひどいということを再認識した。
 先に述べたが農業については労基法で労働時間規制について適用除外になっている。しかし、それは労働時間規制だけが適用除外であって、労基法そのものが適用除外になっているわけではない。悪質な農家は、労基法そのものが適用除外になっているとわざと解釈しているのではないか。

労働組合による先進的取り組み/母国語で対応できる体制を
 連合四国ブロックでは連合徳島にいる中国人の職員が、四国全体の外国人労働者の労働相談に対応している。連合大阪では「外国人労働者なんでも相談」と題して、九カ国語に対応した定期的に行っている。岐阜県では自治労全国一般加盟の岐阜一般労組が地場産業でもある縫製関係の職場を中心に外国人技能実習生の労働相談に応じるとともに、シェルターをつくり、外国人労働者の心身のケアも行っている。
 JAMの場合は〇二年のFWUBC結成を支援して以来、日本に来ている多くのミャンマー人労働者からの労働相談にFWUBCと連携しながらやってきた。
 こうした活動で大きいのは当たり前だが言語の問題だ。そして、相談する労働者と母国語で気持ちを慮って、話ができることが必要だ。
 ミャンマーから来る人はたいがいスマートフォン(スマホ)をもっているが、日本では通話ができない。だから、無料Wi—Fiがつながる場所を見つけたり、LINEなどの無料アプリなどの手段で相談に来る。また、一口に相談といっても簡単ではなく、非常に閉鎖的な職場に置かれ、自由が制限された状態に置かれている。


サプライチェーン全体で不公正な取引関係の是正こそ
 経営者とも話をするが、外国人技能実習生と同じように日本人のパートに夜中まで働けと言えるのか。差別意識なのか、外国人を隷属させようということがなぜ起こってくるのかとても腹立たしい。一人ひとりの人権を守るという基本的な意識を、この国の経営者はもう少ししっかりと持たないといけない。
 残念ながら企業のサプライチェーンの最底辺では、違法行為や人権侵害という形で働いている労働者にシワ寄せが強いられ、その多くは外国人労働者という現実がある。
 経営者からは「この単価で仕事を取ってきて、まともな賃金が払えない」という声も聞く。実際、中小零細企業は発注元から安い単価で受注せざるを得ない。こうしたいびつな取引関係ではなく、適正で公正な価格での取引関係が求められている。国連でも「ビジネスと人権に関する指導原則」がつくられ、わが国でも国内行動計画の作成が進められている。
 そういう流れのなかで、頂点に立つ発注元がサプライチェーン全体での違法行為や人権侵害を防止するための具体策をつくっていくべきだ。発注元には直接の雇用責任はないとしても、社会的な責任というのがあるはずだ。
 私たちはこの間、労働相談を通じ、その場で苦しんでいる労働者を助けることはできたかもしれないが、こうした人たちを生み出している構造それ自体を改めていかない限り、問題は解決しない。
 大企業労組は自らの企業がサプライチェーン全体における法令順守とサプライヤーへの注意喚起、そして適正取引の実現を労使の課題として提起する必要があるだろう。
 また旗を振って役割を果すことはナショナルセンターとしての役割である。すでに構成組織では先進的な事例もある。母国語での労働相談や、組織化に向けた全国的なネットワークをつくっていくべきだと思う。


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