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労働新聞 2013年3月5日号・4面~5面 労働運動

19春闘に際して訴える

連合・神津指導部の
協調路線打ち破り、
労働運動の再建をめざして
戦略的に闘おう

安芸津 慎吾

はじめに

 二〇一九春闘は、一月下旬に開かれた「労使フォーラム」を皮切りに事実上始まり、労使交渉の真っただ中にある。今春闘は、一四年から始まった安倍政権によるまやかしの「賃上げ要請」が象徴するような「官製春闘」と揶揄(やゆ)された状況から、大きく変化したなかで闘われている。
 今こそ労働運動を大幅賃上げや賃金格差の是正、安定した雇用の確保、長時間労働の規制などすべての労働者の切実な要求実現のために断固として闘うことが求められている。また、労働者は自らの要求のために闘うのは当然だが、併せて、対米追随と売国極まる安倍政権によって苦境に追い込まれている中小商工経営者の営業、そして農漁民の生活の危機突破に向け、共に闘うことも重要な課題だ。子どもの貧困問題の解決も急務である。子どもを保育所などに入れることができない母親などの悲痛な叫びが今も続いている。学生も高い学費に押しつぶされようとしている。その上、今年十月には消費税の一〇%への増税が国民に重くのしかかろうとしている。一九春闘ではこうした国民的課題も併せて掲げて闘おう。そして、何よりも国民大多数の苦難の根源=安倍政権を打倒する国民的な闘いをこの春闘のなかでも積極的に提起しようではないか。
 安倍政権による「官製春闘」の破たんを受け、日本経団連は「賃金の引き上げは、政府に要請されて行うものではない」「労使による議論をへて企業が決定する」などと息巻き、「ベア中心の賃上げは今の時代にふさわしくない」などと言い立て、従来の一律賃上げ(ベア)中心の労使交渉から企業の競争力強化に直結する年収ベースの賃上げを中心とする「総合的な処遇改善」のための労使の「話し合い」へと最終的に春闘を破壊しようとしているのだ。そして、かれらは、競争著しい国際的な技術革新の大波を受けて、労働生産性の向上に貢献できる「新たな賃金・雇用の仕組み」の構築をめざしている。その上で、「イノベーションの創出」による「日本経済の自律的な成長」と、そのための人材育成を呼号しているのだ。経団連会長・中西は「春闘という言葉をやめよう」「統一要求、統一回答という春闘で培われてきた習慣は成立しない」などとあけすけに言い放っているのだ。
 一方、一九春闘に際し、連合・神津指導部は「ベア二%程度を基準」とし、「定期昇給相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め四%程度」という賃上げ要求を掲げた。加えて、「中小組合の賃上げと格差是正」「非正規労働者の均等待遇」「男女間賃金格差の是正」などに力を入れるとしている。そして、「格差是正のため」には、「従来のベースアップで満足するのではなく、賃金水準(賃金の絶対額)を高めることに力を入れる」と主張している。これは、一律の賃金引き上げ要求だけでは中小の格差が是正できないので、中小企業組合は個別企業の業績なども勘案した要求を出せということだ。
 この点で、すでにトヨタ自動車労組を先頭とする自動車総連は従来続けてきた統一要求額を示すことを止め、ベア要求については各社労組が個別に決定するとした方針を打ち出した。また、トヨタ自動車が妥結額を公開せず、同社労組もこれを受け入れ、自動車総連全体もこうした動きを追認した格好だ。
 これまで春闘相場を左右するといわれてきた大企業労組連の一角である自動車総連がベアを掲げないことは、大企業労組が春闘をリードして、賃金相場を形成し、これが中小にも波及させようという統一的賃金闘争をまさに破壊しようというものだ。経団連の春闘形骸化の策動に呼応するものであり、すべての労働者に対する裏切りにほかならない。
 一方、同じく大企業労組で構成される電機連合は、今年も「統一要求はベア重視」(野中委員長)ということで「ベア三千円」の統一要求を掲げて闘うとの方針だ。
 果たして、連合・神津指導部は構成組織の労働組合を率い、財界、経営者の賃金抑制攻撃を打ち破り、かれらが言う「底上げ・底支え」「格差是正」が実現できるであろうか? 結論から言えば、神津指導部は経団連など財界の春闘形骸化の策動と本格的に闘わないばかりか、唱和している。また、共産党が指導する全労連もこうした連合・神津指導部への批判を避け、もっぱら春闘を統一地方選、参議院選の集票の場に変質させようとしている。
 労働運動はいかに闘うのか、厳しく問われている。世界はまさに歴史的な転機にある。闘う者にとっては歴史的なチャンスである。わが国労働者階級は、目前の切実な大幅賃上げや雇用の安定的な確保のために闘うだけでなく、金融を頂点とする多国籍大企業のための覇権的な利潤追求に奉仕するともに、トランプ米政権に追随し、中国に敵対して政治反動を強め、国益を売り渡す安倍政権を打ち破るための闘いに立ち上がろうではないか。
 一九春闘と結び付けて労働者階級は農漁民、中小企業経営者、商工自営業者ら国民諸階層と連携した統一戦線を構築し、独立・自主の国民政権の樹立をめざして力強くその一歩を踏み出そう。こうした戦略的な展望を堅持して闘ってこそ、春闘でも大きな成果が勝ち取れるのだ。
 真に革命的で闘う労働運動の再建は短期間にできることではない。しかし、激変する内外情勢、また労組活動家のなかから闘いを求める声や動きも広がっている。何より現場労働者が打開を求めており、「階級的革命的労働運動の形成発展」の客観的な条件は成熟してきている。まずは連合内部の批判派やその内外の「左派」が結集して、話し合うことから始めよう。戦略観をもって、大きな構えで目的意識的に闘うことが求められている。

1、19春闘を取り巻く内外環境について

 世界経済の成長鈍化と停滞、世界的な債務(政府、家計、企業)増大が限界に、新たな金融危機(金融バブルの破たん)がいつ起きても不思議ではない情勢である。
 ほんの一握りの超金持ちと貧困を強いられる何億人の労働者人民とのアンバランス、政治に「忘れ去られた人びと」の増大など、現存する政治への人びとの不満は爆発寸前であり、もはや耐え難くなっている。世界的な難民の増大、地球温暖化の危機、加えて技術革新をめぐる激しい争奪戦。こうした事実は、資本主義の歴史的な限界を示している。
 第二次世界大戦戦後の米国主導の経済政治秩序は今や破たんした。一九七一年のニクソン・ショック、八五年のプラザ合意、そして二〇〇八年のリーマン・ショックを契機とする米国発の世界金融経済危機に際し、米国は世界最大の経済力、軍事力と基軸通貨ドルを使って生き延びてきた。リーマン危機から十年、膨大な国家財政の支出で、主に米連邦準備理事会(FRB)による超金融緩和と超低金利によって、米経済は見かけ上の繁栄を維持してきたが、財政はさらに拡大、民間(企業、家計)負債も膨張し、もはや限界だ。ボルカ?(レーガン政権時代のFRB議長)などが指摘するように、今また新たな金融危機が起ころうとしている。世界は破局が迫っている。
 また、米国一極支配から特殊な多極化の世界へシフトしてから久しい。中国の台頭、米国の衰退と覇権維持のための「歴史の巻き返し」戦略、技術優位をめぐる各国間対立、とりわけ米帝国主義による中国への攻勢が、経済・政治・安全保障すべての面で激化している。アジアでの軍事的緊張が高まっている。
 「米第一主義」とそれに基づく中国、ロシアへの対抗は、華為技術(ファーウェイ)問題や中距離核戦力(INF)全廃条約への対処の違いにあらわれているように、帝国主義、先進諸国間の分裂を加速させている。
 米欧でのいわゆる「ポピュリズム」の興隆と既成政党への不信と反発の激化、フランスの「黄色いベスト運動」によるデモなどは上部構造(世界政治、イデオロギー)の激変と、世界が歴史的な転換期にあることを示している。
 こうした激変を受けながらもわが国安倍政権は外交・安全保障などあらゆる面で米国に追随し、自主的なカジ取りができず、いわば漂流状態で亡国の危機である。
 日本経済は九〇年前後のバブル崩壊以降の長期デフレ不況を未だ脱しきれていない。全く外需頼みであり、国内経済、内需は振るわないままだ。安倍首相が公約した「日本経済の回復」は実現されなかった。黒田日銀総裁の「異次元金融緩和政策」をテコとするアベノミクスの下で多国籍大企業、金融資産家たちは海外投資と輸出、それに資産インフレでボロ儲(もう)けしたが、労働者国民各層は搾取・収奪強化でさらに窮乏化し、所得格差は拡大した。国内総生産の約二五〇%前後まで膨張した財政赤字は安倍政権にとって大きな重荷であり、深刻な事態になっている。
 国家財政に余裕がない状況では安倍お得意の「地球儀俯瞰(ふかん)外交」も困難さをきわめ、国際政治での発言力を低くしている。何よりも、緊張・激化する国内の階級矛盾・対立を緩和する手段としての財政が危機であることは、わが国支配層にとってゆゆしき事態である。安倍政権は今年十月に消費税率を引き上げると明言しているが、わが国の巨額の財政赤字を解消するにはまさしく「焼け石に水」だ。だから、さらなる増税、そして社会保障分野(年金、国民健康保険、医療、福祉など)で国民への負担転嫁は避けられないだろう。
 また、アベノミクスの下で農漁民の経営と暮らしはさらに悪化したが、環太平洋経済連携協定(TPP)と日欧経済連携協定(EPA)はそれにいっそう拍車をかけるであろう。安倍政権のまやかしの「地方創生」で、地方はさらに疲弊し、二〇二〇年東京五輪を機にいっそう東京など関東への一極集中が進むことは目に見えている。
 経団連と並ぶわが国財界の一つである経済同友会の小林代表幹事は「平成三十年間、日本は敗北の時代」と言い、米中の狭間で沈むわが国大企業の現状を嘆き、アベノミクスについても、「国内の総負債を増やしてしまった」「次世代が利用する技術の研究開発費は欧米や中国に出遅れている」などと失敗を公言してはばからない。わが国財界からもこうした認識が噴出しているのだ(神津指導部より正しい認識だ)。
 こうした点で見れば、まさにわが国支配層・安倍政権は窮地に立たされている。活路を求める労働者階級、国民大多数からすれば、本来は歴史的なチャンスである。しかし、議会内野党はどの政党も基本的に「日米基軸」で、安倍政権への戦略的な対抗軸を提起できず、また目前の選挙に熱中するばかりである。共産党も「野党共闘」にうつつを抜かし、国民の怒りを選挙に解消しようとしており、まさに裏切り者だ。
 このように世界は大きく変わりつつある。どの国の支配層も従来通りには階級支配が維持できず、労働者国民に襲い掛かってくる。それはわが国でも例外ではない。昨年から続いている全日建建設運輸連帯労組関西地区生コン支部への敵・警察権力への執拗(しつよう)な弾圧はその一例である。関生支部はその結成来、ストライキで闘い、また労組主導で中小企業経営者と共同戦線を組んでゼネコンやセメントメーカーなどの大企業と闘ってきた。また、安保破棄など政治的課題でも果敢に闘ってきた。労働者、国民諸階層が立ち上がることが必至となる情勢の下、わが国支配層にとっては、関生支部のような闘う労働運動が国民の怒りと結びつくことに恐怖心を感じるのは想像に難くない。われわれは連合内構成組織も含めてすべての労働組合、活動家に関生支部を共同の力で守ることを呼びかける。
 わが国労働運動は、今こそ労使協調でどっぷり浸かった連合路線から脱却し、また共産党などの「左派」を自称する日和見主義的な指導を打ち破り、階級的革命的な労働運動へと変革することが求められている。そのための客観的な条件は成熟している。

2、連合・神津指導部の過ちと闘うことが労働運動の前進にとって不可欠

(1)連合・神津指導部は労働者の現実の暮らし、怒りに接近して闘争を組織することをしなかった。
 五年間の「ベア春闘」の経験と結果はどうであったか。
 連合本部・神津会長は、一四春季生活闘争以降「底上げ春闘」に取り組み、「一定の成果を上げた」。しかし、「賃上げ」の流れが社会の隅々まで届いているとはいえず、「格差是正」についても「道半ば」と評価している。問題はなぜそうなったかである。しかし、神津会長はこの疑問に答えていない。代わりに今後の方針に触れて、これまで以上の「賃金水準」の追求にこだわり、すべての労働者の賃金を「働きの価値に見合った水準」へ引き上げる闘争を展開すると述べている。
 この五年間の連合春闘の賃上げ結果を見てみる。
 非正規雇用労働者を含む民間労働者全体の一七年平均年収は一九九八年比で三二・六万円減の名目で四三二・二万円である(民間給与実態調査)。「毎月勤労統計」によれば、実質賃金(指数)は、二〇一五年を一〇〇としてピーク時の一九九七年は一一五・七、対して二〇一七年は一〇〇・五であり、かなり下落している。
 昨年の一八春闘だが、連合の要求はベア二%、定昇込みで四%であった。一八春闘の妥結額は経団連加盟の最大手企業でも平均八千五百三十九円の引き上げで、賃上げ率は二・五三%である。これは定期昇給込みであり、実質的な賃金引き上げ(ベア)率は〇・三〜〇・五%でしかない。中小含めた賃上げ率は定昇を除いて〇・三〜〇・四%程度にとどまる。
 企業サイドには資金はあり余るほどあるのだ。法人企業統計によれば、リーマン・ショック後の〇九年を一〇〇として一七年度の企業の経常利益、売上高、従業員人件費総額を比較すると、経常利益は二六〇・一に増加しているが、売上高は一一二・九であり、人件費に至っては一〇六・三でしかない。消費者物価は四・一%上がっているから、それを考慮した実質値では人件費は二・二ポイントの増加にとどまっている。
 こうした事実に照らし合わしてみれば、この五年間、現場の労働者や中小労組を多く抱えるJAMなどの奮闘もあり、連合とその傘下の労組は賃上げ闘争である程度の成果を上げたが、組織労働者からみても「賃上げで暮らしがよくなった」と実感できるものではなかった。中小零細企業で長時間労働を強いられる経営者とその雇用労働者の賃上げはごくわずかなものであった。資本規模での大小の、非正規と正規社員との、そして地域間の賃金格差は縮小どころか拡大しているのである。こうした面から見ても、連合・神津指導部が掲げる「二%」要求はあまりに低額ではないか。黒田日銀の「円安誘導」により輸入原材料品の価格は上昇、今年に入り、食料品の値上げラッシュも続いている。
 連合はこの冷厳な事実を受け入れた上で、この四年間の闘いを総括すべきであろう。連合・神津指導部は、「ベア中心の一律の賃上げ闘争にこだわりすぎた」「これからはすべての労働者の賃金を『働きの価値に見合った水準』へ引き上げる闘争を展開する」と主張している。問題はそうした「闘い方」の違いにあるのではない。ベア引き上げだろうが、賃金水準の引き上げだろうが、何故それができなかったのか、どうすれば可能なのかを明らかにしなければならない。そうしなければ、賃金水準を追求すると百回叫んだとしても水準が上がるわけではない。
 連合・神津指導部は財界・安倍政権と真に争い、大幅賃上げを真剣に追求しなかったと指摘せざるを得ない。
 一四年に発足した第二次安倍政権はこの間、アベノミクスを叫び、「脱デフレ・経済再生」を公約した。黒田・日銀総裁はこれを受けて「異次元金融緩和」に踏み切り、「二%の物価上昇」でデフレ脱却を図ることを公約した。連合本部は一四春闘で「ベア二%」を掲げたが、日銀の「物価目標二%」の尻馬に乗って賃上げをやろうとしたことは明白だ。こうした浅はかな根性では企業の賃金抑制の壁を打破することはできない。労働者の苛酷な現実に接近し、そこにある切実な要求に依拠して、かれらと共に闘うということが欠けているのである。これでは労働者の怒りや不満を理解できず、そこにあるエネルギーに依拠して、大幅賃上げ、格差是正に向けて闘いを組織することはできないのだ。
(2)より本質的な問題点は、安倍政権が掲げるアベノミクスの考え方を受け入れていることである。
 連合・神津会長は安倍政権が主導した「経済の好循環のための政労使会議」に参加してアベノミクスの実現に事実上協力してきた。
 アベノミクスは海外で稼ぐ多国籍企業や輸出企業、そして金融資産家たちを大いに儲けさせた。大多数の労働者は、生活がより苦しくなった。輸入物価の高騰(原材料費、エネルギーコスト、食料など生活関連品)で中小企業の経営はさらに厳しくなり(製品価格に転嫁できないこと、親企業の単価切り下げ要求)、仕事が増えても利益が上がらない状況に追い込まれた。
 連合中央は「経済の好循環」の謳い文句につられて安倍政権に事実上協力していたのだ。その安倍政権のアベノミクスによる黒田日銀の「異次元金融緩和」で労働者をはじめ、中小零細企業経営者・商工自営業者、農林漁業従事者など大多数の国民から輸出大企業・多国籍企業・金融投資家へと「富の移転」を促し、国民大多数から収奪した元凶である。その結果、労働者・国民の貧困化は進み、一握りの大企業や金融投資家たちは笑いが止まらないほど荒稼ぎしたのである。
 連合・神津指導部は一七春闘から「経済好循環」のスローガンを降ろし、「経済の自律的な成長」のスローガンに置き換えた。これを連合の「アベノミクス絶縁宣言」と評価する人たちもいる。その理由は、労組が闘い取る賃上げこそ「経済の自律的な成長」の起点であるとのことだ。しかし、なぜこのスローガンが必要なのか、われわれは理解に苦しむ。労働者は日本経済の自律的な成長のために賃上げを要求しているわけではないのだ。苦しい生活を何とか少しでも改善するために賃上げ闘争を闘っているのだ。
 もはや、アベノミクスを支えた客観的な条件は完全に吹っ飛んだ。世界経済の成長は鈍化、停滞している。この期間の日本経済の成長は完全に輸出に依存してきたが、最近のデータを見るまでもなく、中国経済の成長低下、米中貿易戦争、米国経済の金融リスクなどで日本の輸出は低下してきている。「連合白書」の情勢認識は全く立ち後れている。そればかりか、「社会保障と税の一体改革」と称して、消費税一〇%増税を予定通り実施せよとまで安倍政権に要求しているのだ。統計偽装が暴露されてもなお、安倍首相は「五年間で最高水準の賃上げが続いた」と居直り、忘れずに「連合の調査によるもの」と付け加える。連合・神津指導部も「継続して賃上げを実現してきた」(「連合白書」)と事実上追認している有様である。まさにこれまでの「労使協調」から「政労使協調」へと見事な「成長」である。こんな実態認識では有効な闘いなどできないことはもはや明白だ。
(3)連合・神津指導部は、経団連の指針に追随している。
 経団連の「二〇一九年版経営労働政策特別委員会報告」や「労使フォーラム」での中西会長の発言に見られる、一九春闘に臨む財界の考え方はおおよそ以下の通りである。
 それは、デジタル人材をめぐる国際的な人材獲得競争に打ち勝つために、旧来の「横並び」の慣行から「仕事・役割・貢献度」を基準とする新たな総合的な処遇制度に移行することが必要である。技術革新、デジタル時代にふさわしい人材育成、労務管理、賃金・雇用制度を構築しなければ日本にイノベーションは起こらず、したがって日本経済の再生と「経済の好循環」も生まれない、というものである。
 意図するところは、従来のベースアップなど一律賃上げ中心から労働生産性を高めるための個別の処遇改善を重視する姿勢への転換である。その背景は、労働力不足、働き手のニーズの多様化と高度化、労働運動の内部から従来の賃金闘争が崩れてきていること、などである。
 経団連の見解が通れば、賃金差別と所得格差は拡大する。労働者はバラバラにされ、統一的な賃金闘争が成立しなくなるし、労働組合の団結も低下する。
 経団連と連合の間には確かに賃上げ手法で違いがある。しかし、神津指導部は、「包摂的な社会の構築」「経済の自律的な成長」を大義名分に掲げている点では、経団連と同じ考え方に立っている。また、神津指導部は今春季労使交渉の「手引き」の中でも「生産性三原則」の「意義」を説き、「社会全体へ広げよう」などと主張しているのだ。「生産性三原則」とは、雇用の維持・拡大、労使の協力と協議、成果の公正な分配のことである。なぜ今さら、この考え方を強要するのか。米国も欧州も、先進資本主義社会は二十一世紀に入ってから、とりわけ米国発の金融経済危機以降、所得格差が著しく拡大し、厳しい階級分裂の只中にある。こうした情勢下で、「生産性三原則」は欺まんであり、労働者が本格的な闘争を求めるときの妨害物になるものだ。
 結局、神津指導部が率いる連合労働運動は、思想政治面で支配層、財界に追随しているのである。
 また、神津指導部は、従来のベア中心の一律賃上げから賃金水準の重視へと闘い方を変質しようとしている。これは、経団連の「総合的な処遇改善」と照応するもので、適当なところで両者の妥協が成立することになろう。
 連合路線の限界、弱点は今一九春闘の中でも顕在化するであろう。労働運動の路線をめぐる本格的な論戦がいよいよ必要だ。


3、労働運動の階級的・革命的な形成・発展めざして闘おう

(1)労働運動は世界に目を向け、大いに語ろう。
 目を世界に向ければ、天下大動乱であり、世界は猛烈なスピードで動いていることに誰もが驚くであろう。国際政治、上部構造面での大事件には奥深い経済的な基礎が存在している。資本主義は歴史的に限界に来ており、まさに末期症状である。その中で新しい生産様式、社会主義への客観的な条件が成熟してきている。労働者階級と闘いを求める人びとにとって世界はまさに「夜明け前」である。
 労働者階級がこうした時代認識を確立することが、闘いを進める上で決定的に重要である。権力を握る支配層から思想政治面で決別しなければ、労働者階級は引き続き隷属し、勝利することはできない。われわれは労働者階級に労働者解放の思想=マルクス主義を届けなければならない。かれらの自覚と闘争の発展を手助けしていかねばならない。
 大局的にみれば、素晴らしい情勢である。
(2)第四次産業革命が急速に進んでいる。安倍政権は「未来投資戦略」などをぶち上げ、「明るい未来」を売り込んでいる。しかし現実は、一七年末の三メガバンクでの大量リストラ発表、一八年の製薬業界の経営悪化とリストラ、最近では電機大手の富士通やNECがリストラを強行している。にも関わらず、「この変化をむしろチャンスと捉え、働き方改革や生産性向上につなげていきたい」(高倉・金属労協=JCM議長)などと、労働運動の側から、技術革新に無批判に飛びつく者も出てきた。
 AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、5G(第五世代通信規格)、ロボット化などの第四次産業革命は危機に瀕した資本主義の再興を約束するものではない。それどころか、資本主義の危機を加速させる。長期的には、一握りの支配層から国家権力を奪い取った労働者人民自身が技術を握り、新たな生産様式(社会主義)を建設する意識的な闘いが不可避に発展していくであろう。まさに「収奪者を収奪する」偉大な時代が訪れるのだ。労働者階級はこうした角度から支配層が推し進める第四次産業革命に戦略的に対処していかねばならない。
(3)労働者階級は自己の階級的な利害のために闘う。しかし、それだけではなく、農林漁業者、中小企業経営者、商工自営業者ら広範な国民諸階層の切実な利害のためにも積極的に闘わねばならない。連合傘下の一部の民間大単産のように、消費増税や原発再稼働、さらに対米追随の軍事大国化、改憲策動などに賛同し、協力するようでは国民大多数の信頼を得ることはできない。
 総評時代には「労農同盟」「労商提携」で闘った経験がある。現在は関生支部の闘い、JAMなどによる共同行動、対政府・対大企業交渉の経験などが眼を引く。こうした傾向を強め、広げることは労働運動の本格的な再建にとっても必要である。
(4)労働者階級は消費増税阻止、沖縄県名護市辺野古の新基地建設反対、対米追随の軍備増強と海外派兵に反対、憲法第九条改悪や原発再稼働反対など、全国民的な課題を取り上げて闘わねばならない。日米物品貿易協定(TAG)など、窮地の米帝国主義による対日圧力をはねのけなければならない。
 中でも肝心なことは、米国が中国への攻勢を強化するなか、対米従属政治を打ち破り、独立・自主で国民大多数のための国の進路を実現することである。日米安保条約を破棄し、沖縄県民と連帯して在日米軍基地を一掃しなければならない。
 労働者階級はこうした課題を闘ってこそ、組合運動では得られぬ経験を積むことができる。
 昨秋にストライキを構えて空前の賃下げ攻撃を打ち破った東京清掃労組と特区連、規制緩和などに対抗してときにストを闘う全国港湾、中小地場の労働者を組織する全国一般、「ライドシェア導入」を阻止する全自交など交運労協傘下労組の闘い、無権利状態に置かれている非正規労働者の組織化などに力を尽くす地域ユニオンなどの闘いがある。自治労も、秋の確定闘争を春闘時期から開始しようと呼びかけている。眼を凝(こ)らせば、労働運動が活性化する「芽」はいたるところにある。
(5)労働者階級は、こんにちの事態を根本的に打開しようとすれば、結局、政治の実権を支配層から奪い取る以外にない。
 共産党は「選挙で政治を変える」と主張して、単独では不可能なので「野党共闘」を叫んでいる。しかし、選挙では政治の根本的変革は不可能である。〇九年の旧民主党政権発足とその後の崩壊を見ても分かるように、それは敗北の道である。
 われわれは労働者階級がストライキやデモなど実力で闘ってこそ、政治を変えることができると断固として主張する。世界に眼を転じれば、フランスでは「黄色いベスト運動」が実力闘争を闘い、政権に譲歩を強いた。米国全土で教育労働者がストを打ち抜いた。国際的にも排外主義・右派勢力と対決する労働者階級の闘いが広がりを見せている。
 わが国では明確な戦略展望を堅持して、労働者階級が主導権を握りながら、農林漁民、中小・商工企業経営者など国民大多数の統一戦線をつくることが肝心であると考える。さらに、ファーウェイへの対処に見られるような支配層内部の亀裂や矛盾を利用して、対米追随を強めながら「ニセの独立」を策する安倍政権と対決し打ち倒してこそ、独立・自主の国民的な政権を打ち立てることができるのである。
 日本の労働者階級はこの道を通ってこそ、社会主義へと接近することができるのだ。
 日本の革命政党の建設は先進的労働者や意識分子の共同の事業である。強固な革命政党なくしてすべては空語である。意識的にマルクス主義を届ける先進的労働者がいれば、労働者の政治的、階級的な自覚は促進される。共に力を合わせてこの歴史的な事業のために闘おう。


むすび

 今一九春闘で労働者階級が団結を固め、いざとなれば断固たるストライキで闘うことを訴える。
 大幅賃上げ実現・すべての労働者が生活できる賃金を取り戻す、あらゆる賃金・所得格差の是正、経団連の新しい総合的な処遇改善に反対、長時間労働の規制、真の「同一労働・同一賃金」の実現、などの課題で闘う。
 消費税一〇%への増税を中止させ、安倍政権が企む日米同盟強化の下での憲法改悪に反対して闘う。沖縄の辺野古基地建設に反対して職場や地域で闘う。
 安倍政権打倒を掲げて闘おう。
 今春闘を闘う中で、独立の幅広い国民的な政権樹立をめざして諸条件を整えることを意識的に追求しよう。


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