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労働新聞 2018年10月25日号・4面 労働運動

予算と定員の確保が
重要な課題


農林水産業守る運動を
「点」から「面」へ聞く)

全農林 柴山好憲委員長に聞く

 全農林労働組合は7月20、21日の両日、千葉県佐倉市で第64回定期大会を開催した。大会では2018年度運動方針案が承認され、雇用や労働条件の向上、また持続可能な農林水産業に向けた政策対応などを進めようとしている。折しも、この9月に開かれた日米首脳会談では物品貿易協定(TAG)の締結に向けた協議開始が決まり、「貿易戦争」を仕掛ける米トランプ政権によるわが国への圧力が本格化しようとしている。環太平洋経済連携協定(TPP)11の「最低ライン」どころか、いっそうの農産物などの市場開放要求が強まることは必至である。この間、全農林はわが国における農林水産業の維持・発展などに向けて活動してきた。今回の大会で委員長に就任した柴山好憲氏に聞いた。(文責・編集部)


定年延長は喫緊の課題
 七月の大会では、「攻める」「稼ぐ」ことを前提とした「農政改革」が進むなど、農林水産業を取り巻く環境が変わり、組合員の働き方などにさまざまな影響を与えるなか、安心して働き続けられる環境をいかにつくっていくのかという議論が行われた。
 大会以降直近の課題を幾つか申し上げると、一つは、農林水産業の現場においては高齢化が進み、担い手を含めた労働力の確保が課題となるなか、規制緩和と民間活力の導入等を主眼に置いた政策の推進と、対外的にはTPP11や日欧EPA(経済連携協定)、さらには、これから始まる日米のTAG協議のなかで、日本の農林水産業や地域社会の持続可能性を追求する運動である。
 次に、職場環境が変化するなかにおいて、そこで働く組合員の雇用や労働条件をしっかり守っていこうということである。この間の累次に渡る国家公務員の定員合理化では、過度とも言うべき農林水産省への定員削減が求められている。定員削減の対応として事務・事業の見直しやアウトソーシングなどの効率化対策、さらには、組織の再編合理化も余儀なくされている。 他方、所管の独立行政法人においても同様である。研究開発法人では研究成果の社会実装化として、短期間での成果を強く求められることから、基礎的研究が等閑になるのではないか?との不安の声も寄せられている。
 また、組織・業務運営の主体的な予算は国からの運営費交付金となるが、毎年のように効率化が求められることから、予算状況も厳しく、特に、施設の整備や修繕等に必要な施設整備費補助金が大きく減額されていることから、多くの老朽化施設を抱える法人では、業務遂行はもとより安全面への課題も生じており、予算確保の重要な課題となっている。
 もう一つは、組合員の生活改善に向けた賃金改善の取り組みである。全農林は、国家公務員法適用の非現業と行政執行法及び労働関係法が適用となる独立行政法人の連合体である。非現業では、人事院勧告制度の下で産別である国公連合、さらには公務労協・公務員連絡会に結集し、この人事院勧告期に向けた取り組みを進めてきた。現状は、八月に行われた人勧の完全実施に向けた秋期段階の取り組みとして、早期の閣議決定と給与法改正案の早期成立が課題である。
 一方、独立行政法人は、通則法を踏まえ自律的な労使関係の下で春闘段階から賃金改定交渉を継続しているが、法人側は非現業公務員の賃金水準を意識しすぎるばかりで具体的な回答が先送りとなってきた。この秋段階で一定の回答が示されているが、労使自治を基本に非現業公務員の賃金決定を待たずして、早期の自主的決着が課題である。

農林水産業軽視する経済連携・貿易交渉は問題
 この間のTPP 、日欧EPAなどを見ても思うが、あらゆる貿易交渉で常にシワ寄せを受けるのが農林水産分野だ。全農林から見たとき日本の貿易政策における農林水産分野の占める位置が低いのではないかと感じる。
 安全・安心で安定的な食料供給、言い換えれば、我が国の食料安全保障を考えた場合に、食料自給率を高めていくことは当然必要であるし、先進国ではそれが当たり前になっている。日本は国土が狭く、耕作面積も限られていることから全ての食料を一〇〇%自給するのは難しいかもしれないが、減少傾向にある食料自給率を少しでも高めていくことは「食料・農業・農村基本法」(一九九九年七月施行)の考え方であり、その方向性は今も変わっていない。このことは、多くの国民はもとより、農林水産関係の法案審議に携わる国会議員の皆さんも同様の思いと受け止めている。
 経済連携・貿易協定が不必要だとは思わないが、各国が共存できるようなルールを日本から提案すべきではないだろうか。今後、TPP や日欧EPAが発効され、具体的な貿易流通が始まることとなるが、日本の農林水産業、そして地域経済への影響が強く懸念されるところだ。
 また、先般協議入りを合意した日米のTAGについても非常に警戒している。
 TAGについてマスコミがさまざまな解説記事を出しているが、私たちは実質的な「日米FTA(自由貿易協定)」になるのではないかと懸念している。このことは、この間行われた新たな日米貿易協議(FFR)の協議以降、多くの学者などからの「紛れもないFTAだ」という声や、先般の合意を踏まえ米通商代表部(USTR)は「FTAの入り口」と表現しているからである。私たちがいちばん警戒しているのは、自動車分野が焦点になるなかで、また農林水産分野が犠牲になるのではないかということだ。TPP を「最低限」のラインとしているが、それ自体が日本の農林水産業にとっては相当厳しい内容だ。政府は、今後TPPやEPAへの対応として国内対策を講じるとしているが、年明け以降と言われる日米TAG協議においても、日本の農林水産業を育成・強化するとの立場に立つと同時に、地方、地域が壊滅的な打撃を受けることのないように毅然として対応してほしい。
 いずれにせよ、私たちがこの間主張してきたような、地域社会と持続的可能な農林水産業の確立という課題がいよいよ正念場を迎える。この間も多くの団体と連携し様々な取り組みを進めてきたが、さらなる運動展開が重要と考えている。
 なお、全農林では『農村と都市をむすぶ」誌を毎月発刊し、それには多くの学者やジャーナリストの方々に協力して頂いている。こうした方々からシンポジウムを開催して一般の人びとにも呼びかようという声も出ている。これまで毎年「食とみどり、水を守る全国集会」などをさまざまな方々と協力して行ってきたが、こうした「点」としての運動を「面」にしていく役割も私たちの課題だと思っている。


地方の担い手支えるためにも十分な人員確保を
 先に、定員の確保が課題と申し上げたが、具体的にお話ししたい。
 農林水産省では、他省庁に比べて過度ともいえる定員削減の大半を地方出先機関で対応するため、業務見直しやアウトソーシングなどの効率化に加え、組織の再編合理化として農政事務所や統計情報センターなどの整理統合、直近では、二〇一五年五月の農林水産省設置法の改正に伴う地域センター・支所の整理統合と支局としての集約化などを行ってきた。
 新たな農政展開による複雑化・高度化する業務の遂行と広域化するエリアのなかで、これ以上の定員が減少した場合、地域における農政推進と中央と地方を結ぶ窓口としての機能が十分に果たせるか不安を持っている。また、水際対策を担う植物防疫所や動物検疫所、漁業調整事務所における業務と人員のミスマッチ、加えて、事業予算が増加する国営事業所における定員の確保も重要なため、年間を通じた対応対策が重要となっている。
 併せて、この間の新規採用抑制もボディブローのように組織にダメージを与えている。全省的にも職員の高齢化が進んでいるが、農林水産省は他省に比べ四十歳代後半から五十歳代の職員のウエイトが多く、平均年齢でも三歳程度高い実態にある。特に、地方農政局・支局では、新規採用者はもとより若手職員の配置も限定されてきたことから、その傾向は顕著で、職員の平均年齢が五十四歳を超える支局も存在している。業務に対するノウハウなど技術の継承への懸念も高まっていることから、定員をしっかり確保し未来にわたって安心して働ける職場をどうやって構築していくのかが大きな課題だ。
 われわれも新規採用者が急激に増えるとは考えていないが、徐々に若い人が職場に入っていくような環境をどうしてもつくっていきたい。省全体としての採用が少しずつ増えているので、新規採用者を含めた若年層の職員が地方の支局にも配置されれば、職場の活性化となり、全体のモチベーションが高まるのではないか。合わせて、現在課題となっている障害を持った方々の雇用促進も重要であり、そのための環境整備を労働組合の立場から求めていく。
 なお、今年五月に出された「食料・農業・農村白書」では、地方自治体における農林水分野の担当職員の減少が指摘されている。私も、「農・林・水」という文字がつくような部・課が「産業…」として集約されている自治体を多く見てきたが、地方自治体も厳しい定員と予算状況にあるなかで、似たような現象が起きているということだ。
 「地方創生」が言われているが、やはり地方の担い手は第一次産業だ。そこに軸足を置くための政策展開と、必要な予算・定員の確保が極めて重要だと思っている。


早期の定年延長を
 また、年齢層の高い農林水産省では、再任用・再雇用制度の運用における課題も有している。民間型の独立行政法人では「高年齢者雇用安定法」に基づき、本人の希望を踏まえ六十歳以降もフルタイムで勤め続けることが出来、年金の一部支給によりハーフタイムにシフトしていくケースが多い。しかし、非現業国家公務員では定員管理の縛りがありフルタイム任用の場合一人分の定員となることから、定員状況が厳しい農林水産省では希望者全員がフルタイム任用となっていない現状にある。
 今年度でいえば、全国の職場で約千二百人の再任用者が在籍しているが、フルタイムで働いている職員は一割を下回り、その多くがハーフタイム任用となっている。退職する人すべてが再任用を希望し、再任用希望者のすべてがフルタイム勤務を希望するわけではないが、定員枠が限られているためやむなくハーフタイムで働いている方が多い。
 これらの課題は、年金制度の見直しで支給開始年齢が引き上がった当時からの課題であり、未だ改善されないなど制度的限界を抱えていることから、早期の定年延長制度の確立が、私どもとしての喫緊の課題として取り組んでいる。


組合活動の「見える化」通じ、活性化を
 今はあらゆる面で厳しい時代だ。農林水産業や労働組合を取り巻く環境も厳しいことから、職員の労働組合への意識も低下傾向にある。しかし、組合員は、公務・公共サービスを担い、農林水産行政を全国各地で展開するという公務関係労働者としての尊厳をもって働いている。そのための、職場環境の整備や労働条件の改善、さらには、農林水産業の育成・強化や平和と民主主義を守る取り組みなど、自分たちの運動は「あたり前で正しい」ということを今一度確認し合いたい。
 全農林もこれまで厳しい局面に立たされた時代もあったが、その苦しい時代にも結集してがんばってきた仲間を信じてこれからの組合運動を進めていくつもりだ。そして、これまでがんばってきた仲間と、これから運動を担うであろう次世代へバトンタッチができる組織にしていくことが私たちの責任と考えている。
 今大切なのは、組合活動の「見える化・見せる化」との認識で、今まで取り組んでこなかった若い組合員向けの「用語解説集」の作成や機関紙への「組合の必要性」の掲載、役員総出でのチラシ配布行動にも取り組んでいる。また、職場におけるハラスメント対策も強化しており、職場アンケートの実施や顧問弁護士との連携による法律相談など、「組合員を孤立させない」取り組みも進めている。
 こうした「組合活動の見える化」を通じて、若い人に組合の重要性を伝えるとともに、期待される組織の構築と活性化に向けた努力が重要だと思っている。


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