労働新聞 2018年4月25日号・4面 労働運動
全国港湾/
24時間スト構え、成果引き出す
認可料金制度、港湾労働法の
全港・全職種適用、定年延長…
産別制度賃金の闘いは
新たなステージに
大きかったストのもつ意味に
玉田雅也・全国港湾書記長 |
全国港湾労働組合連合会(全国港湾、糸谷欽一郎委員長)は18春闘に際し、認可料金制度の確立など諸要求を掲げ闘いを続けてきた。なかでも、産別制度賃金の課題を最重視し、4月8日に24時間ストライキを設定、業界である日港協との中央団交を通じ、要求実現を求めた。こうしたなか、スト直前の5日の中央団交において、修正回答など前進が見られたとしてスト態勢は解除となった。この闘いについて玉田雅也・全国港湾書記長に聞いた。(文責・編集部)
大きく3点の成果得た春闘
成果は、大きく三つあると思っている。
一点目に、認可料金制度の確立の要求がある。一九九九年に港湾運送事業の規制緩和によって中小企業間の競争が激化して経営が危機的になった。長年、制度を復活させることを要求してきたが、業界側は「要求はありがたいが、規制緩和の時代の下で、認可料金制度の確立は難しい」「港湾運送事業法自体の廃止の議論につながりかねない」という警戒心があり、なかなか進まなかった。
これまで労使が認可料金制度の復活に向けてそれぞれに取り組んできたが、今年の中央団交では労使共同で「目的達成に向け具体的に取り組む」ことで合意に至った。
二点目として、港湾労働法の全港・全職種への適用に道筋がついた。港湾労働法は六大港(東京港、横浜港、名古屋港、大阪港、神戸港、関門港)の船内沿岸の職種、いわゆる現場労働のところのみの適用で、元請けや検数、検定事業などは適用対象外だった。私たちはこの間、全港・全職種に適用すべきと要求してきた。業界側は「要求は理解できる」と応えるのが精一杯だったが、今回初めて、労使が「適用について合意」した。
労働法制については国際労働機関(ILO)の「三者構成原則」に基づき、「政労使」の合意が必要になる。すでに「労使」で一致したので、残りは「政」の合意だ。労働政策審議会のなかにある港湾労働専門委員会の場で、港湾労働法の全港・全職種の適用を提起することになる。労使が一致したことで、行政に対して強く主張できる。一方、港湾労働法の適用対象の労働者は、せいぜい五万人くらいしかいないので、「なぜそこまで国がやる必要があるのか」という規制緩和論者からの主張を呼び起こす恐れもある。だから、具体的な取り組み方は、時期などを見ながら工夫する必要がある。
三点目は定年延長の問題だ。私たちはこの三年間ぐらい「六十五歳定年」を要求し続けてきた。業界側は「コストがかかる」と難色を示してきたが、高齢者雇用安定法との関係で年金支給期間の空白をなくすため、二〇二四年末までには定年を六十五歳にしておかなくてはいけなくなった。今回の団交では、二四年末までに定年六十五歳制とすることでようやく妥結した。
産別制度賃金の課題は中労委に
この間、最大の焦点であった産別制度賃金の課題については一切動かなかった。したがって、今回の妥結合意では「別枠扱い」とした。結論的にはこの問題については、第三者機関である中央労働委員会の判断を仰ぐことを決意し、ストライキを回避した。
業界側は「団体交渉も産別協定も大事だ」と言いながら、「客観的に独占禁止法の問題があり、回答したくてもできない」という姿勢に終始してきた。
北海道から沖縄までどの港で仕事をしていても、港湾労働者は基本的な仕事内容は同じだ。したがって、賃金も最低基準は必要であるし、標準的な賃金水準があってしかるべきだ。逆に、これが崩れたら労務コストを下げる企業間競争の渦に巻き込まれてしまう。そういう意味で、産別制度賃金は、港湾労働者にとって決して譲ることのできないものだ。港湾では労働時間や作業体制などさまざまな協定があるが、労働者が労働力を売るにあたっての最低ルールが産別制度賃金であり、団交ではこれにこだわり、あきらめなかった。
まだ現場では「オレの賃金はいくらか」「定年はどうなる」というのが最大の関心事だ。産別最低賃金をクリアしない労働者はほとんどいないので、正直にいえば「そんなのを決めるのにストまで構える必要があるのか」という声もあった。各組合の幹部も産別制度賃金の重要性は分かっているものの、「これで行くぞ」と決めたときに職場全体で闘い抜けるかどうか議論にもなった。
しかし、もし、中労委で紛糾して前に進まないようであれば、臨時大会を開いてでも全組合員の意思一致を図り、「勝負」という腹固めはしないといけないという気持ちをもっている。 産別制度賃金のところを除き、他の要求課題については、ストライキを背景に追い込んだ成果だと思っている。
やはり、ストライキのもつ意味は大きかった。
雇用保障なき自動化は認めない
港湾をめぐる大きな課題としてあるのは、労働力不足とそれに伴うIT(情報技術)による自動化だ。 港運事業者は人を仕事に出すことによって、初めて儲(もう)けが出る。貨物が動くから儲かるわけではない。自動化で人がいなくなると、儲け口はなくなる。AI(人工知能)などは社会進歩なので否応なく進むだろうが、自動化と一体となって、これで「労働力不足」をカバーしようというのはまったく別だ。自動化が進めば労働者は減るが、それで貨物の動く量が変わるわけではない。したがって、中小事業者の経営は苦しくなる。これが政策的に大きな課題になるだろう。
港湾作業の自動化は、名古屋港・飛島ターミナルで導入されている。それでも労働者の交替制を導入するなどいろいろな工夫をして雇用を守っている。
自動化が無制限に導入されれば、港湾事業の免許をもった事業者と、そこで雇用される労働者である必要はいという議論すら起きかねない。すでに国土交通省は、港湾における自動化の社会実験を横浜港と神戸港で実施している。私たちはあくまで「社会実験の場を提供する」立場で、仮に自動化を導入するなら「労使協定が必須」という協定を結んで歯止めをかけている。
元請け事業者である大企業からすれば、自動化で人件費も安くすむと思うだろうが、その下にいる中小事業者からすれば、本当に職場がなくなってしまう。今回の中央団交でも、業界側から「自動化は無理」との声が上がっている。
自動化の最大の問題は、その導入によってモノを買う賃金労働者が減ることで、国民経済に寄与しないことだ。港は「受注型産業」で、船が来るかどうか、貨物があるかどうかは、港の側からは決められない。自動化機器を整備したものの船や貨物が来ず、稼動しないという恐れさえある。また、人がいなくなることで、自動化でカバーし切れない仕事の技術継承ができなくなる問題が出てくる。
こうなると港運事業は立ち枯れ、産業として成り立たなくなる。こうした認識は労使で一致しているので、国交省など国の政策について労使共同の取り組みも必要になるかもしれない。
港で働くすべての仲間のために
中央団交と並行して、全国港湾統一行動に取り組み、国交省など関係省庁や政党などへの要請行動に取り組んだ。
これまでは関係省庁などと個別に交渉し、交渉団以外の組合員は外で座り込みやシュプレヒコールを上げるだけだったが、「仲間に交渉の様子を見てもらおう」ということで、議員会館の一室を借りて院内集会を開催、各省庁の担当者を揃えて交渉した。交渉では私たちの要求に対して、関係省庁の担当者による棒読みのような回答に怒りの声も上がるなど、「よし、やろう」と確認する場にもなった。
今後についてだが、産別制度賃金については反省もあるが、中労委に闘いのステージが移るとなれば、組合員にこの課題についてすべての港湾の仲間の問題としてどこまで理解してもらうか、この点が肝心になる。これから港湾の職場に入ってくる仲間に、よい職場環境を提供するという意味合いもあり、私たちの責任はいっそう重要だと実感している。
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