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労働新聞 2018年1月1日号・12面 労働運動

18春闘/生活改善、格差是正へ「額」にこだわる

結成20周年に向けて、礎の年に

ものづくり産業労働組合・JAM 
中井寛哉書記長

 明けた新年、一八春闘が本格化しようとしている。安倍政権は財界に対し「三%程度の賃上げ」を要請、労働者の賃上げに「労組は無用」と言わんばかりにまたも「官製春闘」を演出している。こうしたなか、連合は一八春闘に向けた「基本構想」で「ベア二%程度を基準に定期昇給相当分を含めた四%程度」の要求基準を示した。安倍政権の下で実質賃金は下がり続ける一方、企業利益は最高を更新、内部留保を積み上げている。また、世界経済も不透明さを増し、いつ二〇〇八年のリーマン・ショックのような危機が再来し、わが国を直撃する可能性も否指摘されている。その上、電気自動車(EV)化などの技術革新の進展は労働者の雇用環境に大きな影響を与える。このようなかつてない大変動が来るなか、労働運動の役割は決定的である。この間、中小を中心に賃金闘争を熱心に闘ってきたJAMの中井寛哉書記長に聞いた。(文責・編集部)


「社会的公正労働基準の確立」込めた春闘要求
 JAMは一九九九年九月に結成して以来、「社会的公正労働基準の確立」という目標を掲げています。これは、産業社会における労働者の労働価値を正しく評価させ、働く者の権利を守るために取り組まなければならないということです。
 こうした考え方の下に、JAMは賃金要求を組み立てるにあたって、「JAM一人前ミニマム基準」というのを設定しています。JAMの加盟組合には、軽金属・住宅設備、鋳鍛造、バルブ、ロープ製線、金属製品、自動車部品、軸受、工作機械、農・建機、機械・交通関連、電機・精密等々、一言で「機械金属」といっても作っているものはさまざまであり、多岐にわたっています。これら多岐にわたる業種で構成されるJAMが、目指すべき賃金の労働基準として、示したものがJAM一人前ミニマム(JAM全組合員の賃金全数調査・第1四分位の水準で設定)です。今、JAMでは、個別賃金要求をもって、この水準にすべての一人前労働者の到達をめざす運動を展開しています(表1参照)。一人前労働者とは、「組立、部品加工、営業、開発など職種を問わず、一定のまとまった範囲の仕事について、緊急時対応や不具合チェックなど定型的仕事を除いた部分についても自分自身で判断し、責任をもって行っている労働者」としています。「一人前労働者」の中身と到達年数は、職場や仕事によって異なりますが、職場ごと、仕事ごとに、必ずそのポジションはあるはず、「もう一人前だ」と言われる労働者の賃金ポジション(年齢と金額)が、それに該当するものと考えます。また、同様にすべてのJAM組合員の到達すべき基準として「年齢別最低賃金基準」(表2)を設定するという二本立ての考え方です。
 これを具体的に単組要求に組み入れる際には、各々の組合員の賃金水準を確認したうえで、組合執行部や職場での討議を踏まえ、あっていい格差なのか、あってはならない格差なのかを明らかにして組合要求をまとめ、「JAM一人前ミニマム基準」「年齢別最低賃金基準」に到達させていこうというものです。
一八春闘に向けた「職場討議資料」ではJAMとして初めて臨んだ二〇〇〇年春闘時の賃金実態値を「一〇〇」とおいて、この十八年間の指数化したもので比較してみました。この間の加盟単組の若年層の賃金水準引き上げや人手不足などもあって、十八歳から三十歳ぐらいまでは賃金上昇しているものの、三十五歳以降になる低下していく傾向にあります。こうしたことを際立たせることによって、小さな組合のリーダーに「なるほど」と理解してもらうように努力しているところです。

「小さな組合も大きな組合も六千円」
 安倍政権が「三%の賃上げ」を「期待する」と打ち出し、一月下旬に出る日本経団連の「経労委報告」でも「三%」という数字が盛り込まれるとも言われています。マスコミの報道などでは残業代が目減りし、手取り収入が減少しているので、月例賃金中心の賃金引き上げをしないと「アベノミクス」の成功はないという安倍政権の意図を感じます。
 現在の労組組織率は約一七・三%、約千万人弱という数字です。しかし、全雇用労働者は約五千七百万人いるわけで、組織労働者以外の未組織労働者も含めた代表として、連合やそのなかで中小を担うJAMが前面に出なければ、本格的な賃上げにはつながりません。
 連合は一八春闘での賃上げ要求水準について「二%程度を基準とし、定期昇給相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め四%程度」とする方針を決定しました。また、金属労協(JCM)も「ベア三千円以上」という方針を打ち出しました。この方針に沿う形で、自動車や電機の大手産別はそれに準拠した取り組みをするでしょう。
 こうしたときに、JAMが「六千円基準」という方針を出した根拠には、「公正労働基準の確立」という観点から見ても、JCMの大手組合と比べて賃金水準が低位にある私たちがそれ以上の要求をしなければ、格差是正につながらないという思いがあります。その上、今年は物価上昇があるので、その分を上乗せしないと実質賃金が低下してしまうという意味も含まれています。
 しかし、産業別労働組合ですから、すべての組合が一斉に要求書を提出し、先行組合が回答を引き出し、春闘相場を形成して、後続組合がそこに乗るという「統一闘争」という観点から考えると、残念ながら昨年は「六千円要求」した組合はJAMのなかでも四割程度に止まりました。その時の反省も踏まえ、十八春闘では、より多くの組合を「六千円要求」へ結集させるためにも、このところの物価上昇(生成食料品を除く:八・九月「〇.七%」十月「〇.八%」)を「六千円要求」の内数に組み込み、実質賃金確保も念頭に入れることを強調しています。ただ、連合方針「二%」とJAM方針「六千円」の意味には大きな違いがあります。「二%」では、平均賃金が二十万円のところは四千円になるし、三十万円のところは六千円になります。つまり、賃金が低位にあるところは小さい要求となり、賃金が高いところは大きい要求になってしまいます。このことからもJAMの多くは中小で構成されていることからも、やはり「額」にこだわりたいと思っています。平均賃金が高い組合も低い組合も同じ「六千円」ということです。

「価値認め合う社会の実現」へ一歩でも
 またJAMは一八春闘でも「価値を認め合う社会の実現」というスローガンを掲げています。これは大企業と中小企業の格差の縮小・是正には公正な取引慣行の確立が必要であるという観点からで、労働の価値(賃金水準)だけではなく製品の価値(公正取引)も正しく評価されるべきであるというものです。一七春闘でもこの取り組みを展開し、組織内外から一定の評価を得たと自負しているところです。
 しかしながら、この「価値を認め合う社会の実現」というのは、賃上げのように必ずしも数値化できるわけではありません。この要求を単組のリーダーに分かってもらうために、安倍政権の「アベノミクス」で言われたような「大企業が儲かれば、やがて中小企業にも富が行き渡る」という「トリクルダウン」が今やほとんど機能不全に陥っていることを説明して、これを変えるための社会的運動の取り組みだと理解してもらっています。
 また、あわせて「中小企業振興基本条例」というものが一部の自治体で定められていますが、これも広げていきたいと思っています。この年始から地方JAMを中心に労使セミナーが各地で開催されますが、そのときに経営者も交えてシンポジウムを開催するところもあります。この場を通じて、この「価値を認め合う社会の実現」の意義を訴えていくことも必要です。
 また各地での条例化に向けて、地方JAMとJAM組織内議員との連携した取り組みも必要だと思っています。今、連合を通じて、各地方連合へ政策要求していくよう訴えかけているところです。

単組の求心力回復は喫緊の課題
 単組のヒアリング調査を行ったところ、大会や執行委員会を開かない組合の増加、あるいは開催頻度が減っている実態が明らかとなりました。また、昔と違い、執行部だけで方針を決めて、職場討議がされていないところも少なくありません。このことを踏まえると、単組における組織力が低下しているということは否めません。JAMは二〇一五年の参議院選で組織内候補を擁立して闘ったが、約三十五万人の組合員がいながら実際には十一万三千票しか獲得できませんでした。
 敗因を分析すると、単組内での職場・現場に根差した組合員と執行部との対話、討議、議論が以前と比べて、減少してきていることが明らかになりました。地方JAMと単組、単組執行部と組合員とのつながりをもう一度強めなければいけないということです。
 JAMの活動の基本単位は単組であり、単組の力がJAMの力の源です。約千八百五十組合、三十五万人の団結を図らなければJAM全体の力になり得ません。しかし、それが弱くなっているということは、労働組合のなかで一番重要な「団結」もまた弱くなっているのではないかという思いがあります。単組の執行委員長が「徹底した議論の末、この方針で行くぞ!」と組合員へ言ったときに、「委員長。これで行きましょう」と応え、組合員全員で行動に移すことが団結です。委員長が何を言っても組合員が知らん顔していたら団結はありません。まずは、単組の求心力を高め、同時にこれらの単組をサポートするJAMのオルガナイザーや職員の意識を高めていくことに注力しようと思います。中小労働運動を未組織労働者に広げていくという「社会的使命」が自分たちにあるということを今一度思い起こすということです。こうした職員、オルガナイザーの教育と、さらに世話活動する人の力量を高め、そして単組の求心力を引き上げるようなオルグを強化していきたい。組織強化にとってはこれに尽きると思います。

悪質な経営者などには社会運動で対抗
 日本コンベヤ(本紙一四年八月十五日号参照)ではこの間、現場や地労委などを通じて闘ってきました。今後たとえ、救済命令出ても、会社は一切それを無視するでしょう。もはや、この問題は一労使の問題ではありません。企業のなかでは労働組合と経営者がお互い胸襟を開いて話し合いをして、決まったことは労使共に守っていこうという考え方が当たり前ですが、日本コンベヤの経営者の目的は労働基本権の破壊にほかなりません。もはやこのような経営者の存在は「社会悪」であり、社会的なキャンペーンで包囲しなければいけません。
 また、私たちは労使紛争において、違法・不当な行為に加担するような社会保険労務士、いわゆる「ブラック社労士」の問題点も指摘しています。こうした社労士はインターネットでの広告などで、「一〇〇%会社側」とか、果ては「「労働基準監督官の指導・是正勧告の未払い残業代を支払いすることなくゼロ」などのうたい文句で、彼らの職域を拡大すべく経営者の顧客を募っています。
 現在、労働基準監督官を増員しようという流れがあるなか、「民間活用」ということで社労士を登用しようという動きがあります。社労士のすべてが悪いとは言いませんが、悪質な社労士を懲戒処分するようなシステムが十分に機能してないように見受けられます。この課題に対しても社会的運動が必要です。
「50万人組織の達成」へ決意
 まずはJAMの組織力強化をキッチリとやり遂げたいですね。そして、未組織労働者に対して、手を差し伸べることができるような組織にしたい。とりわけ、中小は組織率わずか〇・九%という数字です。この組織率を引き上げなければ、労働組合はすべての働く者の代表である組織であるとはいえません。そのいう意味では、JAMは二〇一九年九月に結成二十周年を迎えます。この結成二十周年に向けて、強固な三十五万人組織をつくり上げるとともに、五十万人組織をめざして、一歩一歩努力していく一年にしたいと決意しているところです。

表1・一人前ミニマム基準目標
(所定内賃金)
18歳 162,000
20歳 175,000
25歳 207,500
30歳 240,000
35歳 270,000
40歳 295,000
45歳 315,000
50歳 335,000

表2・一人前ミニマム最低賃金
(所定内賃金)
18歳 162,000
25歳 166,000
30歳 192,000
35歳 216,000

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