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労働新聞 2017年8月25日号・4面 労働運動

ライドシェア問題に取り組み約3年
/「市民会議」発足で、
広がる反対の声

米国発の流れここで止めねば

松永次央・全自交労連書記長

 事実上の「白タク」であるライドシェアの導入をめぐる動きが続くなか、安倍政権の下に設置された「規制改革会議」は年内にも答申を出そうとしている。「経済重視」を再び掲げた安倍政権は、二〇二〇年東京五輪を最大限に活用し、ライドシェアをはじめとするシェアリングエコノミー導入に向けて、動きを強めている。加計学園問題で暴露された利益誘導の国家戦略特区も利用しながら。約三年にわたりこの課題に取り組んできた松永次央・全国自動車交通労働組合連合会書記長に、現局面の動きなどについて聞いた。 


 ライドシェア問題が浮上し、取り組み始めてから現在まで約三年経つが、そのなかでも大きな節目となったのが昨年八月の「交通の安全と労働を考える市民会議」の発足だ。この市民会議が主催するシンポジウムやそこでの議論を通じて、ライドシェアのさまざまな問題について海外での事例も示しながら世のなかに伝えていこうという点に力点を置いていた。
 その後、昨年十二月から日本労働弁護団の協力を得るなかで、ライドシェアを含むシェエアリングエコノミーそのものや、そこから生じる「雇用によらない働き方」という問題にも焦点を当てるという方向性が加わった。
 今後、九月五日には盛岡市で、三十日には東京の星稜会館でシンポジウムの開催が決定、年内中には北海道、福岡などで開催をしたいと目標を立てている。
また、私たちも一員となっている交運労協もシェアリングエコノミーに対して反対して、持続可能な交通運輸産業の確立を求める署名活動を全構成組織に呼びかけている。自治労も地方公共交通政策について研究に力を入れるなど、連合のなかでも理解は広がっている。そのうえで、組織外の一般の方々にどれだけ私たちの主張を広げられるかがカギだと思っている。

民泊の過ちを繰り返すな
 私たちは、シェアリングエコノミーや、ライドシェアという言葉は聞こえのいいものだが、本当の意味での「シェア」ではないということを主張してきた。本来の意味では、人と人が個々で理解し合い、結び合つくのが「シェア」なはずだが、その関係にマージンを取る事業者が介在するということは本来の意味での「シェア」ではない。そして、その仲介者が、利益を求めるということは大きな間違いだ。
 人材派遣大手の「パソナ」などが入る「シェアリングエコノミー協会」は、自公与党や行政に対して、「日本には人にモノを貸し与える文化がある。昔は家に醤油や、塩、味噌がなければ隣の人に貸してもらっていた。この文化を取り戻す」と言っている。しかし、ライドシェアは人を車に乗せることであり、人の命を預かる意味があって、醤油や味噌を貸すという議論とはまったく違う。
 ライドシェアに先駆けてスタートした民泊も最近ではさまざまな犯罪にまつわる報道がされている。私たちはこの民泊が約二年前に国に提案されてきたときから「危ない」と言ってきた。最近、マスコミも民泊の問題について報じているが、当時は問題点を訴えても、「事件が起きなければ報道しない」という姿勢だった。しかし、こんにち民泊の問題は事件という形で証明されている。「業界のエゴ」という発想ではない。


加計学園問題と構図は同じ
 安倍政権の支持率低下の大きな要因となった加計学園問題も、実はライドシェア問題と構図はいっしょだ。「国家戦略特区」と結びつきながら、ライドシェアの導入の旗振り役が竹中・元経済金融担当相や三木谷・楽天会長だ。竹中氏は人材派遣大手のパソナの役員を務めながら、現在の「未来投資会議」の前身である「産業競争力会議」や国家戦略特区諮問会議の議員として導入を盛んに主張している。このパソナはシェアリングエコノミー協会の特別会員であり、オリックスはライドシェアの導入を見込んで、カーシェアリングを以前から展開させてきた。三木谷氏も「産業競争力会議」の民間議員と同時に、二〇一五年にライドシェア企業の一つであるリフトに出資、取締役にまで就任している。
 これはまさに加計問題と同じで、政治と結びつきながら、自分たちの事業拡大と利益のために政治を利用していると言っても言い過ぎではない。もっとこの国家戦略特区に隠された部分についてオープンにしなくてはいけない。


地域の足守る工夫を
 地方では、地域の足が不足している現状について指摘されて久しい。そこがライドシェア導入の口実とされている。財政が厳しい自治体ではどうしても財政支出が少なく済む方法に頼ってしまう傾向がある。
 こうした下で、現在、自治労が一生懸命、地域公共交通政策について研究している。また、地方自治体議員も理解を深めている。そして、さまざまな自治体でライドシェアについて反対の意見書が相次いで出ている。県としては茨城県議会がライドシェア反対の決議をした。そこから広がり、もう十カ所を超えている。東京についても、中央区と豊島区で意見書が上がっている。こうした意見書を出す自治体議会はどんどん増えるだろう。
 地域の足をどう守るかは、地域によって全部違う。今年九月には、タクシーの貨物搬送やトラックによる旅客輸送という「貨客混載」が過疎地域に限り解禁される。「道の駅」やスーパー、コンビニを拠点にしながら、荷物や人を運ぶ、こうしたサービスを地域で取り組めば、過疎地の交通問題は大きく解消するだろう。何もライドシェアに頼る必要はない。

車の両輪としてのシェアリング—エコノミーと「働き方改革」
 小泉政権のときに郵政民営化の一環で、郵便局が担ってきた簡易保険はかんぽ生命となり、日本郵政はアメリカンファミリー生命保険(アフラック)との提携に走り、日本の保険制度は外圧で大きくゆがめられた。
 そして、今回、「働き方改革」と称して、企業と労働者との間にある雇用関係が、「雇用によらない働き方」ということに替えられる。例えば、「請負」「人材紹介」という形に変質させられようとしている。
 昨年十一月に経済産業省は突然、米国での実例を挙げながら、「『雇用によらない働き方』について」という文書を発表している。労働者を守る保険制度が変えられ、今度は雇用も変えさせられようとしている。米国の対日要求にも順番があり、一連の流れとして見る必要がある。
 シェアリングエコノミーも「雇用によらない働き方」が大きな前提となっている。そういう意味では、ライドシェアを中心としたシェアリングエコノミーと「働き方改革」は車の両輪ともいえるのではないか。
 日米経済対話が本格化するなかで、ウーバーなどのアプリ会社の要求も強まると予想される。
 「規制改革会議」が年内にもライドシェア問題で答申を出すといっており、いよいよ米国発の流れが日本にも到達しようとしている。一方的に米国の要求を受け入れるようなことがあってはならない。


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