労働新聞 2008年11月15日号・4面 労働運動

連合の「歴史の転換点に
あたって」について

日本労働党中央委員会
労働運動対策部部長 中村 寛三

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 最近、連合中央が『歴史の転換点にあたって〜希望の国日本への舵を切れ〜』を発表した。
 現下の米国発の世界的金融危機を「市場原理主義の終えん」と認識し、「効率と競争最優先の価値観から公正と連帯を重んじる日本へ」「パラダイムシフト」を各界に呼びかけたものである。
 だが、それは世界的金融危機の真の原因と元凶(敵)を覆い隠し、「パラダイムシフト」も真の打開の道を逸(そ)らすもので、労働運動が担うべき任務が正しく提起されていない。
 まさにこんにち、「歴史の転換点」にあたって、労働運動が認識を整とんし、全人民を率いて主導的に情勢を切り開く役割が求められている。先進的活動家の皆さんが、連合中央の見解を批判的に検討し、真の打開の道を確立して、断固たる闘争に向けて準備を急がれるよう呼びかける。

 2
 連合中央の見解は、こんにちの危機の元凶を「暴走する市場原理主義の罪」などと「市場原理主義」に非難を集中することで、そうした政策、風潮を生み出した真の原因を暴露せず、ドルを基軸通貨とする世界資本主義が末期的危機に瀕し、資本主義制度の限界を曝すまでになっていることを労働者の目から覆い隠す見解と言わなければならない。
 第一に、この二十数年来、米国が「市場原理主義的な政策」をとるようになった背景には、資本主義の不均等発展の結果、国際的競争力が衰退し、米国が膨大な経常赤字を積み上げ続ける実体経済面での実態があった。その劣勢を金融面で巻き返そうとしたのが、一九九〇年代後半以降の、いわゆるドル還流システムで、これが破たんしたのである。したがって、ドルを基軸通貨とする米国の世界経済支配は末期を迎え、世界は重心の移動、再編期、変動期に入ったと認識しなければならない。連合の見解は、「歴史の転換点」と言いながら、労働者階級に有利な、この重大な歴史的変化を覆い隠している。
 第二に、より根源には、いわゆるカネ余り、利を求めて世界を動き回る膨大な投機資金の存在がある。
 「市場原理主義の罪」などと言うが、グリーンスパン・前連邦準備理事会(FRB)議長や行天豊雄・元大蔵省(当時)財務官が指摘しているように、「過剰資金が世界にあり余っている以上、金融バブルは避けられない」のであり、資本主義がそこまできていることこそ大問題である。こんにちの資本主義が、過剰生産を基礎にして生産と結びつかない投機資金を、世界を押しつぶすほどに肥大化させ、もはや管理不能、限界をさらすまでに爛熟(らんじゅく)・腐朽したのである。それはまさに、私的所有を基礎とする資本主義制度そのものの危機を示すもので、「百年に一度の危機」といわれるのも、それゆえであろう。
 したがって、こんにちの危機を真に打開する道は、生産手段の私的所有を廃絶して全社会の手に取り戻し、搾取のない社会制度をつくる以外ないことは明白ではあるまいか。そして、この歴史的事業の担い手は、無産の労働者階級だけなのである。この点を、先進的活動家の皆さんに訴えたい。
 こうした変革なしに、帝国主義を打ち破ることなしに、どんな「規制」も、過剰資本の「暴走」をとめることはできず、金融バブルの再燃を避けることはできない。
 連合中央の「市場原理主義の終えん」という言い方は、その対語としての「コントロールされた資本主義」「ルールある資本主義」が可能で、それによって労働者が苦難から救われるような幻想を振りまくものである。
 先進的活動家の皆さんが、こうした連合中央の欺まん的な見解を打ち破り、全世界の労働者階級と団結し、全世界の人民、中小諸国と連合して、米帝国主義を中心とする帝国主義を打ち破る事業を担われるよう訴える。

 3
 すでに述べたことから、オバマ米大統領の誕生を「パラダイム転換の象徴」として大々的に持ち上げ、日本もこれに続けと、総選挙での民主党の勝利をあおる連合中央の欺まん的役割は、明らかである。
 連合中央は、オバマ大統領の「危機を乗り超えるための国民の協力」にも共感を示し、「公正と連帯を重んじる日本」への価値観形成の「国民的合意」を強調しているが、これは危機の時代における危険な「労資協調」「階級協調」の提唱と言わなければならない。この危機の下、独占資本家階級は、自ら生き残るために、内外の資本家・企業同士で闘い、労働者階級に法外な犠牲を押しつけてきており、利害対立はますます激化し、労資間の合意などあり得ない。
 戦後一貫して独占資本家階級がとってきた対米従属政治を転換し、国民大多数に政治の基軸を移してこそ苦難から救われるのである。だが、連合中央は「公正と連帯を重んじる日本」「労働を中心とする福祉型社会」などと言って、このもっとも肝心な転換に一言もふれない。
 ドルに依存し、米国市場に依存して「繁栄」してきた日本経済、対米依存・対米従属の経済、政治、軍事のあり方が行き詰まり、転換が迫られているのである。すでに農民、商店主、中小業者などは、早くから対米従属政治の下で犠牲にされてきたが、こんにちではトヨタのような独占企業でさえ、対米一辺倒ではやっていけなくなった。対米従属政治を転換し、発展するアジアとの共生を実現する政治の転換があってこそ、日本の活路が開けるのである。
 この転換なしに、「安定した雇用システムや安心できる社会保障の仕組みを再構築する」経済的保障は確保できるのか、「内需主導型の経済システム、経済・財政運営への転換」はどんなものになるのか、展望を見出すことはできない。
 われわれは、先進的活動家の皆さんに、労働者階級が対米従属政治を転換するために、広範な社会層を統一戦線に結集し、政治権力を握る政治闘争の先頭に立たれるようよう呼びかける。

 4
 すでに「百年に一度の危機」の津波は日本を襲い、非正規労働者の首切りが始まり、連合傘下の労働者にも苦難が及び、一部では反撃の闘いが始まっている。
 闘いの中で、労働運動がこれまでの労資協調路線、「名ばかり労働組合」から脱却し、ストライキで闘う力を再構築することが急がれる。さらに、行動で異議申し立てを始めた農民、漁民、トラック業者をはじめ中小業者など広範な各界の人びとの力を結集し、強力な国民運動を構築しなければならない。
 総選挙で民主党を中心とする野党に「政権交代」させる道では真の活路を切り開けない。なぜなら、民主党は、肝心な対米従属政治の転換を示していない。財界が画策する保守二大政党制の装置である限り、望むべくもないからである。さらに、戦後六十年余、選挙運動で政治を変えるために力を投入しながら、政治が変えられなかった経験から学んで、断固たる闘争の道に踏み込むべきだということも率直に訴えたい。
 活動家の皆さんが歴史的転換点にあたって、認識を鮮明にし、先進的役割を果たすために奮闘されるよう訴える。

 以上


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