労働新聞 2006年11月15日号〜12月15日号

07春闘と労働運動の課題

 十一月七〜八日、連合は〇七春闘中央討論集会を開き、来春闘をどう闘うか方針づくりが始まった。
 「いざなぎ景気」を超える「戦後最長の景気拡大」と言われ、大企業は空前の高収益を更新しながら、中小企業の回復は遅れ、労働者への見返りはほとんどない。総額人件費削減の攻撃下、パート、派遣・請負など非正規労働者が増加し続け、雇用形態による格差が拡大するとともに、規模別の賃金格差が拡大を続けている。働いても働いても生活できないワーキングプア層が増大、貯蓄ゼロ世帯が四世帯に一世帯にのぼり、被生活保護世帯は百万世帯を超えた。
 こうした現実を変えるために、労働組合はどう闘い、力量を高めていくべきか、切実に問われている。
 そこで〇七春闘と労働運動の再構築に向け、若干の資料を提供しながら問題提起してみたい。


1、全体として悪化、「二極化」する労働者階級の生活

 まずは、労働者階級はどんな状態におかれているか、全体的状況を見ることから始めよう。

(1)労働者の犠牲の上に大企業、株主だけがぼろもうけ
 わが国の経済成長は労働者の働き抜きには実現できなかったのに、その成果はもっぱら大企業が独り占めし、労働者への分配はマイナスになっている。
 〇一年度から〇五年度の労働分配率=一人当たり雇用者所得(役員も含んでいる)/一人当たり国内総生産(GDP)の推移を見ると、六四・三%から五九・八%へと低下の一途。対照的に、企業への分配は二〇・三%から二六・一%へと五・八ポイントも上昇した。
 労働者が働くことで稼ぎ出した付加価値がどのように分配されたかを見ると、さらにその法外さが浮き彫りになる。
 (グラフ1)は、資本金十億円以上の大企業(金融、保険業除く五千六百十六社、〇五年)の付加価値の主な内訳構造の推移を見たものである。〇一年から〇五年の間に時期を画する変化が起こっている。


(グラフ1〜5)クリックすると拡大します

 (グラフ2〜5)は、さらに立ち入って見たものだが、企業の営業純益は一・九倍に激増、役員への給与・賞与も一・九倍に増やし、株主への配当金は二・八倍にも増やしながら、労働者への人件費だけが六・七%削られた。
 しかも、この数字は単体決算のレベルであって、多国籍企業の連結決算での営業利益となると、けた違いである。トヨタ自動車の〇七年三月期の営業利益は、日本企業としては初めて二兆円を超える見通しとなった。〇二年の一兆円突破からわずか五年での倍増である。
 このような暴利は、「世界的競争に勝ち残るため」として、多国籍大企業がこれまでの何倍も下請中小企業を収奪し、内外の労働者を搾り上げた結果もたらされたものだ。

(2)労働者の中でも格差が拡大
 前節は、労働者階級全体がどういう状態におかれているかをつかむために、まず各企業で労働者が働くことによって生み出した付加価値がどのように分配されているか、全体の状況を見た。
 高収益を更新し続けている資本金十億円以上の大企業の付加価値の分配の状況を取り上げたが、〇一年から〇五年の間に、経営側は一・九倍もの営業純益を手にしたうえ、「役員給与と賞与」「株主への配当金」という形で成果を独り占めし、他方、労働者の側の取り分はマイナスとなっている。
 労働者の側は、このように大企業労働者を含んで全体としてかつてない犠牲を強いられたが、それは一様でなかった。労働者内部にも格差が拡大、「二極化」が進んだ。
 そのもっとも中心をなすものは雇用と賃金の格差拡大だが、その実態を見てみよう。格差については、雇用形態別、男女別、産業別などさまざまな切り口で指摘されるが、ここでは資本金階級別、あるいは企業規模別の角度から暴露する。後に触れるが、この問題がさまざまな格差拡大を主として規定しているからである。

●大企業と中小の賃金格差は、2〜3倍に
 (グラフ6)は、法人企業統計を使い、資本金階級を四区分し、従業員一人当たりの年間給与(一時金など含む)の推移を全産業(ただし金融、保険業は除く)で見たものである。
 起点とした七五年は、もっとも格差が縮まった時期で、その後ほぼ一貫して格差が拡大、とりわけ九〇年代後半以降、急激に格差拡大の流れが強まったことが分かる。

 大企業がほぼ横ばいで推移しているのに対して、中小企業はすべてのランクで低下傾向を示し、九四年と比較すると一〇ポイントも低下した。また、金融、保険業を含む国税庁の「民間給与の実態」で見ると、現金給与総額の中で、一時金の格差要因が大きいことが明らかである。十億円以上規模の平均一時金を一〇〇とした場合、二千万円未満は二五にすぎず、五千万円以上一億円未満も四四である。
 この期間の大半、大企業労働者にも賃上げはなかったが、定期昇給をほぼ確保し、「成果配分」が一時金でなされた結果、ほぼ横ばいだった。対して中小企業労働者にとっては、定期昇給はなく、格差の大きい一時金も削られるなど、大企業労働者との格差は拡大する一方だったのである。
 福利厚生費、退職金なども含めた一人当たりの人件費で見ると、格差拡大はいっそう鮮明で、大企業と中小企業の格差は二〜三倍まで広がった(グラフ7)。

●雇用形態別格差も、男女間格差も資本金階級別格差と不可分
 九〇年代後半以降の、労働者階級内部の格差拡大としてパートなど非正規労働者の激増、男女間の格差などが指摘されるが、それらは大企業と中小企業の労働者の格差拡大と不可分で、多国籍企業として展開する大企業の中小企業に対する収奪・支配の強化が背景にあることを見抜く必要がある。この間、「二極化」非難は流行となったが、こうした視点からの分析と批判はあまりされてこなかった。
 (表1)を見ていただきたい。この期間、パートなどいわゆる非正規労働者が激増し、それは女性労働者の激増でもあった。彼女らはどこで働くようになったか。この十年間をとると、非正規労働者の伸び率は千人以上規模の大企業が大きいが、非正規労働者が占める比率で見ると、資本金階級が小さくなるほど比率が高く、一〜二十九人規模の企業ではすでに四割近くが非正規労働者である。千百二十万人にのぼるパート・アルバイト労働者のうち、五六%が百人未満の中小企業で働いている。このような労働者構成ゆえに大企業労働者との格差が拡大しているのである。
 別の面から言えば、この期間、中小企業の経営者たちは、多国籍企業として世界競争に勝ち抜こうとする大企業の収奪強化、支配の再編の下で、賃金が安く、一時金もなし、社会保険や福利厚生費など一人当たりの「労働費用」が安上がりのパート労働者に切り替えることによって、難局を乗り切ってきたのである。それができなかった小規模企業は、廃業、倒産の憂き目にあった。
 大企業労働者と中小企業の労働者の、正規労働者と非正規労働者の、男性労働者と女性労働者の格差拡大の背景には、このような多国籍化したわが国大企業の中小企業に対する収奪強化、支配の再編がある。
 グローバル化時代に生じた、この企業間関係の劇的変化のリアルな理解なしに、「二極化」の現状を打開する道を見出すことはできない。


2、労働者内部の格差拡大、「二極化」の背景について

(1)なぜ、大企業、中小企業間の格差に焦点を当てるべきか
 〇七春闘における労働運動の課題を鮮明にするために、労働者階級はどんな状態におかれているか、全体的状況を見てきた。
 おさらいをしておくと、二〇〇五年、「役員を除く雇用者」(部課長職も入るし、パート、派遣など非正規労働者も含んでいる)は、全部で五千七万人。その内訳は、民間で働く労働者が四千四百五十一万人(八八・九%)、官公労働者が五百五十六万人(一一・一%)、さらに民間労働者のうち五百人以上規模の事業所で働く労働者を便宜的に大企業労働者、それ未満を中小企業労働者としておおざっぱに区分すると、大企業労働者は千二百三十七万人(二四・七%)、中小企業労働者は三千二百一万人(六三・九%)となる。
 では、労働者階級の生活条件、その中心をなす賃金はどうであったか。この期間、民間労働者が働いて生み出した付加価値の分配をマクロで見ると、経営者側が株主への配当も含め成果を独り占めし(五年前の二〜三倍に激増)、労働者側への分配はマイナス、労働者の犠牲の上に企業は空前の高収益を謳歌(おうか)し続けている実態が浮かび上がる。
 しかし、もう一つ注目すべき特徴がある。九〇年代後半以降、労働者階級内部に賃金格差が著しく拡大、とりわけ大企業と小企業の労働者の格差は、「一人当たり人件費」で計ると二〜三倍にも広がっており、歴史的な「二極化」が進んでいることである。つまり、全労働者の六割を占める中小労働者の賃金水準が大きく低下し、大企業労働者との格差がかつてなく拡大しているのである。
 労働者内部の格差問題は大きな社会問題となり、マスコミでも、労働運動内部でも、パート、派遣など非正規と正規、またフリーター問題、男女間の切り口で取り上げられてきた。しかし、われわれはあえて大企業と中小企業の格差問題に第一義的に焦点を当て実態を分析してきた。そうしなければ格差問題の実質に迫れず、したがって具体的に打開の道を見出せないと考えるからである。
 こんにちの日本では、労働者は生きるために、どんな雇用形態であろうとどこかの企業に雇ってもらわねばならず、そこで働いて付加価値を生み、賃金を得ている。企業中心の資本主義社会である以上、働いている企業の競争力が強いか弱いか、もうかり具合がどうか、一般的には資本金が大きいか小さいか、大企業か、中小企業かの違いこそが労働者の賃金、労働条件の違いを決定付ける主な要因になっている。正規か非正規かは二義的に過ぎず、正社員でも大企業の正社員と中小企業の正社員には厳とした賃金格差があり、同じパート労働者といっても大企業と中小企業では超えがたい格差がある。したがって、中小企業で働く労働者(正規であれ非正規であれ)が賃金格差を是正しようとするなら、なによりも自分が働いている企業の経営者を相手に要求を出し、闘う以外にない。これは当たり前のことだが、肝心なことで、闘い方は工夫が必要だとしても、働いている企業、経営者に対する闘いなしには、どんな格差是正の社会的キャンペーンも具体的成果を保証しないのである。
 今回はさらに立ち入って、なぜ九〇年代後半から大企業と中小企業の労働者間に賃金の格差拡大が進んだか、背景を見ることで打開の道に接近しよう。

(2)大企業の海外展開、東アジアベース分業体制下で中小企業への収奪強化
 まず第一に指摘しなければならないのは、電機、自動車をはじめとする大企業が、生産拠点を東アジアなど海外に移したこと、その影響である。
 冷戦後のグローバル化時代の世界的競争に勝ち残るために、わが国製造業大企業は低賃金の中国をはじめ東アジアに工場を移し、最大限利潤を追求する東アジアベース分業体制を構築する下で、国内下請中小企業との取引関係を大幅に見直した。それは、下請関係の解消から発注先と発注量の制限、二〇〜三〇%に及ぶ下請単価切り下げなど、下請中小企業の存立を脅かすほどの収奪、再編支配の強化であった。大企業は部品内製化、部品共通化・点数削減、製品ライフサイクルの短縮化、ネット購買等を推進し、下請企業の競争を激化させた。さらに、「原料高の製品安」、支払日当日の値引き要求、週末発注・週初納入、金型図面の無断流用など非価格関係による収奪も強化された。
 また長期不況も重なって、九〇年代後半から大企業は「選択と集中」、大規模な合併、企業再編によって生産と資本の集中をいちだんと進め、その方面からも下請企業に対する収奪、再編支配が強化された。
 加えて、多国籍化した大企業は「高コスト構造の是正」を叫んで、流通その他低生産性部門の効率化を要求、小泉「改革」政権によって大幅な規制緩和が進められ、非製造業中小企業は深刻な打撃を受けた。

 内閣府の調査によれば、〇一〜〇三年度の間に、八割の上場企業が取引先や取引条件の見直しを行い、そのうち一割の企業がこれをコスト削減効果のもっとも大きかった施策としてあげている。
 (グラフ8)は、その収奪強化の結果の一端を示すもので、九一年以降〇五年まで、下請中小企業の受注量、受注単価は一貫して前年同月比を下回っている。

(3)中小企業は激震に見舞われて分化、生き残るためにパート労働者にますます依存
 多国籍化した大企業による時期を画するような収奪の強化によって、中小企業はまさに存立の危機に立たされた。折りしも金融危機が起こり、銀行の貸し渋り、貸しはがしに襲われた。
 こうした苦難に見舞われる中、中小企業の「下位層」、小零細企業が多くが倒産、廃業を余儀なくされる一方、開発力・技術力のある「上位層」は浮上し、下請企業比率も低下するなど、中小企業の分化、階層化が進んだ。
 (表2)は、八一年から〇四年の製造業事業所数の推移を見たものである。九一年から〇四年にかけて、全規模で大きく減少したが、中でも「下位層」の減少率が激しく三分の一以上が廃業、倒産の憂き目にあったことになる。
 (グラフ9)は、製造業企業の資本金階級別に見た売上高経常利益率の推移である。この数値は、企業活動の最終的なパフォーマンス(成果)をあらわす指標で、九〇年代後半から十億円以上規模の大企業が右肩上がりに収益を伸ばし(〇一年〜〇五年はとくに)、それ以下との格差が拡大していること、とりわけ一千万未満との格差はますます拡大しており、ここには多国籍化した大企業による収奪の痕跡を見ることができる。

 大企業による収奪の強化の下で、浮上した上位層以下の「中下位層」が生き残るには、ただ一つ、人件費コストを切り下げる以外になかった。中小企業の下位層では、これまでも安い人件費コストに依存して経営を維持してきたが、新たな収奪激化の中で、ぎりぎりまでその依存度を高め、女子パート労働者の比率を高める対応策を推し進めたのである。前回、事業所規模別に非正規労働者が占める比率とその推移の表を載せたが、小規模になるにしたがって比率が高まり、一〜二十九人規模では四割近くがパートなど非正規労働者となり、パート労働者全体の五六%が百人未満の事業所で働く事態になっている。
 以上見てきたように、労働者階級内部の著しい格差拡大は、大企業の海外展開にもとづく東アジア分業体制構築下での中小企業に対する収奪強化が進められる中で起こった。中小企業は生き残るために、ぎりぎりまで労働者の人件費コストを削る攻撃に出たのである。
 こうした大企業と中小企業間関係の激変、中小企業における労使関係の変化をリアルに把握することによって、われわれは打開の道を見出すことができる。
 だが、その前にこうした事態の進行の中で、連合を中心とする労働組合はどう対処したのか。この間の春闘における統一要求設定の放棄が格差拡大を助長する結果を招き、それに危機感をもった中小労組が中小共闘を旗揚げするにいたったことなど、総括が必要である。


3、中小企業労働者の組織化が格差是正のカギ

(1)格差拡大に手を貸した大企業労組幹部
 われわれはこれまでの分析を通じて、労働者階級内部の格差拡大の背景に、冷戦後の激化する世界的競争に勝ち残ろうとする多国籍大企業の切り抜け策、とりわけ海外展開によって安あがりの労働コストで最大限の利潤を確保しようとする経営戦略の転換(国内完結型から東アジアベースの分業体制構築へ)があり、その下で国内中小企業に対する収奪強化があったことを明らかにした。多国籍企業は空前の収益を上げて肥え太る一方、少なからぬ中小企業は存立の危機に直面、ぎりぎりの人件費コスト削減で生き延びるか、零落した。
 格差が拡大した結果から見て、労働運動の側がこうした大企業と中小企業の企業間関係の激変に効果的に対処できなかったことは歴然としている。だが、問題点をはっきりさせるためには、それに伴った経営側による労使関係の転換と労働側の対応の側面を振り返っておく必要がある。
 多国籍化した大企業は、中小企業との企業間関係に変更を迫っただけでなく、労使関係も一変させた。九五年の日経連による「新時代の日本的経営」はその戦略的文書で、これまでの終身雇用、年功賃金を核心とする「日本的労使関係」を破棄、正社員を削減し、非正規労働者に切り替え、総額人件費を削減、成果主義賃金を導入して資本効率を上げようとするものであった。トヨタなど多国籍企業は財界の指導権を握り、経済財政諮問会議などを通じて政治的関与を強め、金融や税制、労働分野などの規制緩和を推し進め、この流れを促進した。小泉時代の「改革」政治は、多国籍企業をストレートに支援するものだった。収奪にさらされた中小企業はより厳しく労働者への犠牲転嫁を図った。
 こうした時期を画する経営側の攻撃は、労働側の弱点を突き、巧妙に戦線を分断しながら具体化された。
 これに対し労働運動の側は、どのように対処したか。結論的に言えば、経営側の分断攻撃に翻弄(ほんろう)され、一部には呼応する動きさえあって、戦線が形成できなかった。
 連合を牛耳る自動車、電機などの民間大企業労組は、企業の海外進出、国内工場閉鎖、人員削減、リストラに抵抗しないばかりか、積極的に協力した。「企業をパートナーと見る労使協議=参加路線」の信奉者、鈴木電機連合委員長(当時)は、日経連に呼応して「海外進出は歴史的必然」「失業率一〇%やむなし」などと公言し、成果主義賃金への切り替え、派遣労働の自由化などを説き、「労使合意による社会的合意」を唱えて労働者の抵抗を封じる役割を果たした。こうした大企業労組幹部たちの協力によって経営側は、日産のリストラはじめ電機大手各社の万を超す人員削減、定昇凍結、賃金カットを推し進め、世界的競争力を回復したのである。彼らはさらに、「産別自決」「横並び賃上げ春闘の改革」を叫んで、〇二年には連合としての賃上げ統一要求基準を放棄させた。
 要するに、労働側は闘う戦線を築けず、すでに形骸化していたとはいえ連合春闘は名実ともに崩壊した。結果、定昇制度がなく、一時金もあるかないかの中小企業労働者と、大企業労働者の格差はかつてなく拡大した。
 〇四年、JAM、UIゼンセン同盟、全国一般など中小労組を抱える産別を中心に「中小共闘」が旗揚げされた。これは中小企業労働者の危機感のあらわれであり、統一闘争を放棄した大企業労組への異議申し立てにほかならない。
 ここまでの経過を踏まえるなら、経営側の分断攻撃に無力さをさらさざるを得なかった労働運動側がもつ弱点を、組織構造上の弱点まで踏み込んで総括する必要がある。この過程でもっとも打撃を受け闘わざるを得ない状況に置かれ、人数から見ても最大多数派である中小企業労働者が圧倒的に未組織のまま放置されてきた問題、これこそ今正面にすえて解決すべき労働運動の最大の課題ではないか。

(2)労働運動再生の戦略課題に挑戦しよう
 (表3)を見ていただきたい。企業規模別に見た労働組合の組織状況の推移である。この十年間に千人以上の大企業を中心に組合員が激減し、組織率が急速に低下している。注目していただきたいのは、中小零細企業と言われる百人未満規模の労働者二千五百万人のうち、組合に組織されているのはわずか三十万人足らず、一・二%に過ぎないという事実である。ちなみに、パート労働者の組織率は大企業を中心に三・三%である。

 さらに、連合などナショナルセンターの組織構成を示す(表4)を見ていただきたい。連合は、恵まれた大企業の企業内労働組合と、身分が安定している官公労働者で組合員全体の七割以上を占める構造になっている。格差是正の切実な要求をもち、闘いを望んでいる中小企業の組合員は少数派なのである。

 こうした連合の組織構造を変革することなしに格差是正を実現することなど空語と言わねばならない。連合が〇一年以来、「企業別労働組合からの脱却」と言い、「中小労働者、非正規労働者を重視する」「社会的労働運動」を唱えながら、掛け声倒れに終わっているのはこうした組織構造にも条件付けられているのである。
 われわれは、〇七春闘に際して労働運動の再生を願う先進的活動家の皆さんに訴えたい。どんなに困難であろうと本格的にこの仕事に挑戦しよう。圧倒的多数の中小企業労働者の組織化とそのエネルギーに依拠して闘ってこそ、格差社会にストップをかけることができる。こうした中小企業労働者の組織化と経営に対する具体的闘いと結びつかなければ、格差是正も一過性のカンパニアに終わり、非正規労働者の均等待遇も不徹底なものになろう。さらには敵の「再チャレンジ支援」を掲げての「労・労対決」、公務員バッシングの分断策動に抗して闘う戦線を構築できない。
 この仕事は、言うまでもなく中小企業労働者自身の事業である。すでに組織されている中小組合では連合の内外を問わず、闘っており、組織化を進めている。連合の「中小共闘」「パート共闘」、地方連合会での中小・地場共闘、地域ユニオンなどの闘い、連合外の闘いも貴重な手がかりで、これを支援するところから始めなければならない。
 全港湾や全日建連帯関西生コン支部の闘いなど、中小労働者の労働条件を改善するために労働組合の団結を重視し、地域共闘を強めながら、大企業の収奪、不当取引に抗して中小企業主との連携を追求した経験もある。そうした闘いを広げながら、中小労働者を組合に組織し、労働運動に本格的に引き入れる努力を強めなければならない。
 この闘いは、目前の格差是正を実現するための闘いにとどまらず、わが国労働運動の再生、階級的発展にとって戦略的課題である。中小企業とその労働者は、わが国多国籍企業の世界的競争力の主な源泉の一つとなっており、その経済支配を支える支柱となっている。日経連は、戦後一貫して中小労働運動を「空白地帯」にしておくために、系統的に努力してきた。そうした中で総評が中小企業対策オルグを配置し、その組織化に取り組んだ経験があるが、こんにちまで十分に解決できず、残されたままになっている。
 中小企業の組織化の問題は、労働運動の全局にかかわる課題であり、わが国政治の変革にとっても彼我の力関係に影響を及ぼす戦略的課題である。
 困難ではあるが、この偉大な闘いに向かって共同して挑戦することを訴える。
 〇七春闘に際して問題提起すべき課題は、まだある。
 一つは、「主張する外交」を掲げて登場した安倍政権の政治軍事大国化を阻止するために、労働運動が国民運動の先頭に立つことである。米国追随で再びアジアに覇権を唱えようとする時代錯誤、亡国の道に反対し、独立・自主でアジアとともに繁栄する道を対置して闘うべき時である。
 もう一つは、格差是正、国の進路の闘いを前進させ、政治を転換させる上で、保守二大政党制をめざす小沢民主党には幻想を抱けず、新たな議会の党を準備する問題である。いずれの問題も重要だが、別の機会に譲らなければならない。


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