労働新聞 2002年11月25日号 労働運動

深刻化する高校生の就職問題
教え子に働く場を
日教組 問題はグローバル経済下の改革政治

木下 哲郎 日教組高校・大学局次長 に聞く

 長引く不況は高校生をも直撃している。11月14日に発表された、厚生労働、文部科学両省の調査によると、来春卒業予定で、就職を希望する高校生のうち、9月末現在で就職が決まっている割合(内定率)は33.4%と、過去最悪を記録した。求人倍率も0.72倍と過去最低だった。職を求める声は高校生にも広がっている。こうした中、日本教職員組合(榊原長一委員長)は、行政や経済団体への申し入れなどを通じて、高校生の就職問題に取り組んでいる。木下 哲郎・日教組高校・大学局次長に取り組みなどについて聞いた。

厳しさ増す学卒者の就職難

 高卒男子の就職内定率が昨年同期(9月期)より、4.3ポイント減、女子が2.9ポイント減と、かなりの下がり方だ。
 東北、北海道、九州など地方は特に厳しく、内定しているのは、5人に1人という状況だ。とくに沖縄では、求人倍率は0.12倍という低さだ。 ちなみに成人の失業率も全国平均の倍だ。いままでは学校が1人につき1社ということで、きちんと就職させていたが、もうそれでは間に合わない状況だ。
 また女子や、定時制に通う生徒、障害をもっている生徒たちはさらに就職が困難だ。
 この数値では求職活動をあきらめた生徒は入っていない。成人の失業率5.4%、360数万人(今年9月時点)だが、これはハローワークに行って職を求めたが、職に就けなかった人たちの数値だ。これと同じように、高校生の間でも数値に表れない部分が深刻だ。
 こうした状況は数年来続いているが、そうした中で、やむを得ず「進学」を希望する生徒が多くなっている。ただ、それは就職活動がうまくいかないことの、「次善の進路」としての進学だ。ただ、こうした選択ができるのは、保護者が経済的に余裕がある生徒たちに限られている。しかも、「次善の策」として進学した生徒も、卒業する2年後、4年後に、就職できるという保証はない。
 また、こうした問題と同時に家計の状況が厳しく、卒業後の就職も見通せないということで、「このまま高校にいてもしょうがない」ということで中途退学する生徒も多くなっている。
 工業高校などの職業高校では、いままでは自分の勉強して得た知識や技術を身につけて希望を胸にして就職していった。しかし、例えば建築科などは建築業自体が、構造不況に陥っており、なかなかその成果が生きていない。
 これまでは、1社不採用でも次のチャンスがあり、なんとか就職することができた。しかし、いまは1回落ちると次の採用がないというような状況だ。
 昔は教師自身が会社訪問しても数社から「ぜひ来て下さい」、そういう感じだったが、いまはそういう状況にはない。教師が足を棒にして会社回りを行っている。

問われる政治・経済のあり方

 こうした状況の背景には、やはり「聖域なき構造改革」の結果として、デフレ不況が深刻化していることがあげられる。また「不良債権処理」ということで厳しさはより増そうとしている。約360万人とも言われる完全失業者が生み出されていることでも明らかなように、経済の失策が原因であり、小泉政権の責任は大変大きい。
 私たち現場教職員の努力はもちろんだが、決定的なのはこうした政治・経済のあり方だ。そこを変えないといけない。
 保護者が職を奪われて、子供たちは社会への夢と希望を持って社会に参加する道を奪われてる。高校生の就職難は教育問題であると同時に、政治・経済の問題でもあると考えている。
 各地から報告として上がってくるのは、グローバル化の中で、企業が海外などに生産拠点を移したり、いままで安定的に学生を採用していた企業がドンドン倒産しているという状況だ。こうしたいまの政治・経済の運営原理である市場主義に歯止めをかけ、持続可能な地域再生の道を求めていくことが必要だ。

改善めざし要請行動行う

 日教組はこうした高校生の就職難の問題に対して、中央、地方一体となった取り組みを開始している。
 10月22日には、全国26単組の代表が、文部科学省、厚生労働省、また経済団体などに就職問題の解決を訴える「新規学卒者の雇用中央行動」を行った。
 この要請行動では参加した地方の単組代表からそれぞれ、厳しい状況が訴えられた(別掲)。
 また、連合の中央委員会でも、日教組として新規学卒者の就職状況の厳しさを訴え、理解と協力を求めている。先の連合の雇用確保集会で高校生が壇上にのぼり、厳しい就職状況を直に訴えた。
 今後も、中央段階で行った要請行動をそれぞれ地方でも展開する方向で動いている。
 また、JAMと「ものづくり教育研究チーム」を立ち上げて、本当の意味での職業教育を組織していこうと考えている。広い意味で、机上ではなく実際に合ったモノづくりの教育が必要だと思っている。こうしたことも就職問題の解決への1つの糸口になるのではと考えている。今後、展開によってはもっと広範に呼びかけて広げていきたい。
 就職難という状況がこれ以上続けば、「職が保証されるなら軍需産業でも」という議論に行き着きかねない。就職難の問題は平和問題と根底のところはつながっていると思っている。
 私たちは戦後、「教え子を再び戦場に送るな」というスローガンを掲げてきたが、同時に今は、「教え子に働く場を」と訴えている。
 平和と雇用確保の2つの課題が車の両輪のような形で運動に取り組む。要請行動や緊急調査など中央、地方一体となって取り組んで、生徒たちが、最後まで一人残らず明るく卒業できるよう努力したい。

要請行動で出された各地の現状報告

【熊本】
 内定率は悪く20%台。ある学校では昨年20人の未定者を担任一人に任された状況もあった。今年はそれが倍増するのでは。
【大阪】
 未就職者は卒業生の10%を超えている。大阪の中でも地域差があり、泉州地区は極端に求人が低い。
【岩手】
 内定率は県内全体で24%しかなく、全国ワースト3だ。中でも障害児学校の卒業生の行き先がない。また、男女雇用機会均等どころか「女子はいらない」などという企業もある。
【宮崎】
 高校の就職指導担当は、何度も企業に出向き、頭を下げ、お願いするが、生徒に能力があっても、採用段階で切られてしまう。
【静岡】
 女子のフリーターの割合が高い。中学校でも家庭の経済事情で、卒業後働く生徒も増加している。


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