労働新聞 2002年10月25日号 労働運動

人事委勧告
不当な勧告、撤回迫る闘いを
賃金カット、減額調整に怒りの声

自治労傘下の各県・市職労役員に聞く

 人事院は8月、官民の給与水準を均衡させると称して国家公務員の給与を平均2.03%引き下げ、「不利益不遡及(そきゅう)の原則」(注)に反して減額調整を行うとした勧告を行った。その後、地方の人事委員会でも同様のマイナス勧告が出されている。ここ数年来、連続して「ゼロ勧告」を行い、その上で今回のマイナス勧告である。これは労働基本権の「代償機関」としての人事院・委制度が、自らその役割を放棄したものだ。賃金カットに反対し、労働基本権回復を要求する官公労働者の闘いが求められている。今回、人事委の勧告が出された各地の自治労傘下の市・県職労役員に聞いた。

宮城 -1.78%
「生活設計狂う」の声
仙台市職労 二瓶 顕一書記長

 マイナス率について、根拠については、市当局からは示されていない。実際にこのマイナスの数字が民間と比べた正しい数字だと言われても、これほど下がるということにはならないのではないか。勧告制度初のマイナス勧告で、しかも、不利益不遡及の原則に反する内容ではないか。当然、この内容は違法性もあるということで反対だ。
 社会的に与える影響についても、公務員の給与がこういう形で下がることによって、例えば、年金の問題などすべての面についてマイナスの影響を与えるのではないか。これは当然、容認できるものではない。
 「民間が下がっているのでやむを得ない」という声もあるが、組合員はローンをはじめとする月々の負担もある。これまでは定昇分があってその分、給料は上がってきたのに、一転して下がれば、生活設計が狂うという声が実際出ている。減額調整の問題についても、「今まで使ったものを返せ」という話であり、これはおかしいという声は多い。
 また、仙台市は市の外郭団体も多く、そこで働く職員もかなりの数になる。今後、そこに与える影響も大きい。
 自治労傘下ということもあり、中央方針とすり合わせしながら、今後、反対運動をしていきたい。

静岡 -2.03%
ストライキ視野に闘う
静岡県職労 船山 祐治 書記長

 今回勧告の中身を見ると、人事委員会が労働基本権の代償機関としての役割を果たしていないと言わざるを得ない。本来、各県の人事委員会は労働基本権の代償機関であるはずなのに、マイナス勧告すること自体、容認することはできない。
 しかも、今回出された勧告を見ると、不利益不遡及の原則を踏み外している。すでに受け取っている4〜12月分の月給差額を来年3月の期末手当で調整するということだから、これは実質的に不利益を遡及する形であり、法律的にも疑問がある。
 また、2.03%という数字も国の人事院勧告とまったく同じであり、その根拠もあいまいだ。
 10月下旬から県との団体交渉が始まるが、県の回答によって、闘い方を決めていきたい。基本的に私たちが求めている不利益遡及の問題や労働基本権などの問題について、県当局がわれわれの認識とまるで違った回答をするならば、82年以来20年ぶりのストライキや、裁判闘争なども視野に入れて考えざるを得ない。

香川 -2.0%
来春闘への影響を危ぐ
香川県職労 鈴木 義博 委員長

 国の人事院勧告段階から、政府側の圧力があったというふうに聞こえてきている。その意味でも、県がまったく同じ水準で勧告するというのはおかしいのではないか。不当な勧告だ。
 とくに減額調整の問題については、不利益不遡及の原則を国や県が「調整」という形で破ろうとしていることについてはおかしいと主張したい。 
 また、数字についても、実際、民間とわれわれの格差が2%というのは本当に正しい数字かどうか、疑問符をつけざるを得ない。
 今年の人勧がこういった形でマイナスという結果になれば、これは来春闘でも同じような形になり、どんどん官民共に低い給与水準になってしまう。こうした悪循環を、どこかで絶たなくてはいけない。こうしたことも主張しながら、運動に取り組んでいきたい。

熊本 -2.0%
他労組と反対集会準備
熊本県職労 佐々木 義博 委員長

(注)不利益不遡及の原則
 具体的に発生した賃金請求権(確定された給与)を、事後に発生した労働協約や事後に変更された就業規則の遡及適用(過去にさかのぼる適用)により、処分または変更することは許されないという最高裁判所の確定判例。

 熊本の場合、実は2001年度からすでに、特例条例によって2%カットがやられている。しかし、今回、またそこから2%カットするという。これはすなわち、4%カットだ。
 こうした勧告はとてものめない。2001年の交渉時に、給与水準が現行のままという前提ならば2%カットやむなしということで、妥結している。
 また、減額調整の問題だが、すでにわれわれは2%カットされており、「もらっていない給料を返せ」というのはおかしい。これは、なりふり構わない、財源を絞り出すためだけの考えだ。
 これまで人事委員会は、例えば5%ベースアップという勧告もしたが、県当局はそれを値切ってきた。しかし、今回の場合は、このマイナス勧告をストレートに県がのもうとしている。人事委員会は、第3者機関として反省してもらわなければいけない。
 この勧告内容が、来年1月の給与表改定に載るとすればそこからは4%カットというのが現実になるので、それを阻止しなければいけない。減額調整についても、阻止したい。
 今回の勧告がそのまま通れば、熊本県全体の平均賃金もまた落ちるだろう。これは来春闘の民間賃金に影響する。
 「財政再建」と言うが、そのために不要な公共事業の見直しは進んだのか。こうした検証もなく、さらに給与を下げるやり方は働く者として納得できない。
 県の職員というのは「不夜城」といわれるくらい、働いている。仕事もほとんどサービス残業でこなしている。
 熊本は公務員が多く、ある意味、熊本の「基幹産業」と言ってもいい。民間では地場大手で壽屋、ニコニコドー、大手建材会社の東南産業などが民事再生法手続などでバタバタ倒れている。われわれの給与が、熊本県全体の給与水準を支えているという実際がある。
 今月25日には、連合とのタイアップの下、民間労組、官公部門連絡会などとと共に反対集会を開く。


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