労働新聞 2002年10月5日号 労働運動

世界経済揺るがす
米港湾労働者の闘い
国際的支援に取り組む

全港湾・伊藤 彰信書記長 に聞く

 9月末から約2週間に渡って、米国西海岸29港が閉鎖されるという事態が起きた。港湾労働者で組織されている国際港湾倉庫労働組合(ILWU)は、6月から、使用者側である米太平洋海事協会(PMA)が打ち出している労働協約の改悪、合理化の提案に反対し闘っている。これに対し、PMAは職場から労働者を追い出し、ロックアウトするという挙に出た。この港湾封鎖の影響はすさまじく、米経済への打撃は1日あたり最大20億ドル(約2500億円)にものぼり、米国への輸出に依存しているアジア経済にも大きな影響を及ぼしている。こうした事態に対し、ブッシュ米大統領が介入、封鎖を強制解除した。しかし、闘争が再燃する可能性は高い。グローバル経済を揺るがした米港湾労働者の闘いについて、ILWUに支援を行っている全日本港湾労働組合の伊藤彰信書記長に聞いた。

福利厚生の後退、合理化に反対し闘う

 今回の港湾施設の封鎖は、大きく分けて2つの問題が発端だ。
 1点目は、協約解約問題だ。その中で、例えば医療福祉制度について言うと、ILWUの場合は、組合員、OB・OG、並びにその家族の健康保険が全部、船会社が出している拠出金をもとに成り立っている。だから、指定病院に行けば、ほとんど労働者は自己負担なしで受診できる。そこをなんとか減額したい、というのがPMAの狙いだ。
 2点目は、コンピュータによる合理化の問題だ。すでに米国では、港湾のコンテナターミナルの中における管理・運営が情報化されている。
 コンピュータに関係する仕事は、港湾労働者、経験者でなくてもできるわけだ。
 ILWUの組合員約1万500人のうち、いわゆる検査部門などのコンピュータ関係の仕事に従事している労働者は、千数百人いる。コンピュータ化の進展にともなう合理化で、そうした労働者の職域がなくなってしまう恐れがある。船会社としてもILWUからこうした職域を奪って、組合の力を弱めていこうという狙いがある。
 また、昨年9月の同時テロ以降、港湾に対する規制・管理強化というのが非常に強まっている。港湾施設は重要で米経済にも大きな影響をもっていることが、今回の事態でも証明された。だから、「もしILWUがストに入れば『反国家的行為』であり、軍を導入してストを破ってでも荷役を確保する」ということを、ブッシュ大統領は再三いっている。こうしたことを背景に、PMAはILWUに圧力をかけている。
 米国の船会社の多くは、すでにデンマークやシンガポールなどに買収されており、物流の国際競争力強化のためコスト削減にしのぎを削っている。
 今回、ブッシュ大統領は24年ぶりに労働管理関連法(タフト・ハートレー法)に基づいて封鎖を強制解除した。80日間のクーリングオフ(冷却期間)をおいて再度交渉が行われるが、ILWU、PMA共に譲る気配はなく、クーリングオフが切れる今年年末以降から再度、問題が発生するだろう。

労働者の日雇い化、労働組合の弱体化狙う

 ILWUは世界の港湾関係労組の中でもいちばん強い組合だから、ここを突破されたら日本に及ぼす影響は大きい。
 日本でも、船会社から一定の拠出金が出て、それを労働者の福利厚生や年金に使っていたりしている。そして、これは港湾料金に上乗せされている。
 かつて、日本で港湾の規制緩和が持ち上がったときに「港湾料金が自由化されるのだから、料金に付加されている拠出金は必要ない」という議論も行われた。
 今回のように米国では、船会社が、港湾労働者にカネを出さないと言い出しているのだから、当然日本でもまたそういう話が出てくるだろう。
 いま、世界の船会社は、労働者に対して「働いたときだけ賃金を出せばいい」という考え方だ。船会社は福利厚生や雇用保障、年金などにはお金は出したくないと。港湾労働者の日雇い化を狙っている。同時にILWUなど、国際的に力の強い労組の職域をどんどん狭めていって、弱体化を狙っている。

各国と連携して支援
労働者の国際連帯が重要

 ILWUの闘いをきちんと支援していくことは、世界の港湾労働者の課題でもある。全港湾としても、連帯をして闘争支援を続けている。
 今や各国の船会社は外国資本との合併・買収が進んでいる。それに従って、労働組合も交渉相手が、外国資本となる場合も多い。
 ILWUと全港湾は友好協定を結んでいて、お互いに可能な支援をしていこうと決めている。交渉ヤマ場の今年7月には、ILWUの代表が来日して情報交換を行った。また今年8月、カナダ・バンクーバーで開かれた国際運輸労連(ITF)の大会でも、ILWUへの支援決議が行われた。
 今月にオーストラリア海事組合(MUA)の代表が来日したときには、全国港湾労働組合協議会(港湾関係労組で構成。全港湾も加盟)、全日本海員組合と三者連名で支援の共同声明を出した(別掲)。この共同声明には、韓国の労組からも参加の申し入れが来ている。環太平洋レベルで各国で支援していこうという流れになっている。
 ILWUの闘いは、使用者が外国資本でもあり、国際的な船会社の合併・買収の流れの中で、労働組合も1国だけの闘いだけではなくて、どう国際連帯を築いていくのかが課題となっている。

ILWUを支援する共同声明(要旨)

 ILWUは、PMAの執拗(しつよう)な攻撃に対し、果敢に闘っている。先の、ITF第40回大会はILWUの闘いを支持し、ILWUが早期に公正な労働条件を達成するまで支援することを決議した。全国港湾もこれまで、全日本海員組合などと共同してILWUを支持する表明を内外に行ったり、PMA内で主導的な立場にあるとされるマークス社に対する申し入れ行動を進めてきた。
 MUAと鉱山・エネルギー労組(CFMEU)は、米国、ニュージーランド、日本、南アフリカの海事労組および鉱山労組とともに、ILWUへの全面支援とPMA加盟企業に対する抗議運動を含む協約に合意した。
 ILWUへの組織攻撃は、日本とオーストラリアの港湾労働者にも重大な影響を及ぼすものである。また、世界の港湾労働者の連帯を導いてきたILWUへの攻撃は、グローバル市場で港湾労働コストの削減や労働組合権の否定の攻撃を展開する船社や荷主による世界の港湾労働者への攻撃でもある。
 われわれは、ILWUへの攻撃は全国港湾、全日本海員組合、MUAに対する攻撃として認識するものであり、断固として抗議する。
 われわれはこのILWU闘争を強く支持し、この交渉の持つ特別な意義を日本とオーストラリアの港湾労働者の問題としてとらえ、独自の判断でILWUに連帯することを決意し、局面によってはわれわれとしての可能な限りの行動をとることを決議する。
 全国港湾とMUAは、職場や生活の手段からロックアウトされた労働者に共同支援を表明するために、ILWUに応援団を派遣する。
 われわれは、日本およびオーストラリア国内でILWUを支援し、PMAに抗議するための効果的な運動・行動を促進するために、相互に、またILWUとも緊密に連絡を取り合っていく。

全国港湾労働組合協議会
 議長 安田憲司
全日本海員組合
 組合長 井出本榮
オーストラリア海事組合(MUA)
 全国書記 パドレイ・クラムリン


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