労働新聞 2002年10月5日号 労働運動

労組幹部インタビュー
全国一般労働組合
浦 俊治委員長に聞く

統一要求基準の設定求める
要求なくして労働組合はない

 

全国一般労働組合(4万6400人)は、8月に定期大会を開催、春闘の再構築に向けた取り組みや、合同労組運動の強化などを盛り込んだ運動方針を決めた。中でも春闘について、連合に対して統一要求基準設定を強く求めたことは大いに意義のあることである。今大会で新たに中央執行委員長に就任した浦俊治氏に聞いた。

 現在の小泉政権の性格、そしてそれを取り巻く経済状況を見た場合、やはり、グローバル経済の下で、大企業の生き残り、競争原理のみが最優先され、一方で社会的に弱い立場の者を切り捨てる、というのが当たり前のようになってきている。一言でいって、小泉改革は弱者切り捨てだ。
 組織減などで見られるような労働運動の弱さが、こんにちの雇用情勢、そして有事法制の提案を許してしまうような状況をつくってしまっているともいえる。
 全国一般がどういう経過で結成され、どう発展をしてきたのか、ということを今一度確認したい。
 1955年に企業の枠を超えて春闘という大衆運動の提起があって、その中で、最低賃金の法制化、最低賃金以下の労働者をなくそうという運動が始まった。当時のナショナルセンターであった総評が、最賃制法制化に向けた大衆運動を全体に呼びかけ、同時に未組織労働者の組織化、中小合同労組の結成という3つの柱でナショナルセンターとしての役割が果たされていた。

春闘の再構築めざす 
闘わないことで弱まる労組の力

 しかし、今は春闘を見ても、「賃金を下げていけば雇用が守られる、要求を下げれば雇用が守れる」というパターンが繰り返されている。こうしたことがこんにち、労働運動の弱さをいっそうつくりだしたのではないか。やはり、要求をキチンと出すことが、労働組合運動をつくり上げていく点で大事だ。企業論理の枠内で主張するような現状ではダメだ。
 特に思うのは、労働組合のないところはもとより、労組があるところでも、企業サイドの考え方、「雇用さえ守れば何してもいい」というのが当たり前のようになっていることだ。しかし、その雇用も十分守られているとはいえず、また、正規雇用から非正規雇用への一方的な変更なども多く行われている。
 よく、労働組合の組織低下の要因として、「厳しい経済情勢だから」「リストラ・倒産で組合員が減ったから」などと言われるが、決定的な要因には、やはり闘わないことで、労資の力関係の差が大きく開き、社会的影響力を労組がもてなくなっている、ということではないか。このことに注意しなければ、本当に労働運動を強化していくような方向にはなっていかない。
 今年の春闘の結果が証明している通り、要求もしない、春闘をしない、雇用を守る反合理化運動もしない、平和を守る運動もしない、こうなったら労働組合の役割はなくなってしまう。


大会では各地本から活発な発言が相次ぐ(8月25日、鳥取県米子市)

春闘放棄に等しい要求基準見送り

 各労働組合がお互い、それぞれの闘いの歴史の違いを踏まえた上で、どう発展させかということを考えていかないと、労働運動は後退の連続になっていくのではないか。
 春闘の問題で要求基準を示さないというのは、まさに春闘放棄だ。全国一般の立場からいうと、職場に春闘要求がなくなった時には、中小労組はつぶれてしまう。  
 労働組合が要求基準も示さなかったら、職場の仲間というのはどんどんあきらめていき、個人解決をしていく方向になるだろう。そうなれば労働組合に結集する意味や労働組合自身の存在価値がなくなっていく。本来、労働組合の役割というのは、どんなに厳しい中でも絶えず生活改善を求めていく、職場を民主化していく、雇用を守る要求をしていくということだ。そしてその中で団結の力をつくりだすことだ。例え要求が通らなくても、一定程度、対等で緊張感がある労資関係がつくられていく。
 雪印や日本ハムなどで見られる企業の不祥事は、労働組合のチェック機能の低下が原因の1つではないだろうか。労働組合は経営側の無責任な体制、経営内容のチェックなりしていくべきだ。全国一般の組織あるところに倒産は少ない。
 また、人事院勧告で初のマイナス勧告が出たが、これも民間の労働組合、労働者の闘いが弱くなったから、「民間準拠」という形で、「公務員は賃金は高い」と切られてしまう。官民の労働組合が分断されている流れが定着するのではないかという危ぐをもっている。「社会合意性」などと言って闘いを起こさないというところにいまの労働組合の弱さがある。

組織強化に向けて
地域闘争構築し、労働運動の発展を

 かつての総評時代は地区労が象徴しているように、全国各地で地域の運動があった。地域の運動というのは、未組織労働者に対する影響力を多く持っている。私自身も地域の運動の中で組織された。現在でも地域の未組織労働者の仲間に見える運動というのをしているところと、必ずしもそうではないところでは歴然と未組織労働者への影響力は違う。地域闘争の強化・拡大も重要ではないか。
 組織強化・拡大の取り組みは今大会の大きな柱でもあった。私たちが今大会で議論したのは、やはり地域において団結し、企業の枠を超えて合同労組運動を基調とする運動を担えるような全国一般を、どうつくっていくかだ。地域支部づくりだとか、いろいろな地域共闘ができるようにならなければいけない。本当の意味で、未組織の仲間に信頼される運動の展開が重要だと思っている。
 全国一般はいっそう、賃金闘争の強化と雇用を守る闘いを全国の職場・地域から起こしていくつもりだ。そして反戦平和の運動もやはり地域から起こしていく。
 いま、労働組合の組織率はきわめて低く、多くの労働者は未組織だが、われわれ組織労働者の運動しだいで広範な未組織労働者を組織化し、労働運動の大きな発展が可能な状況ともいえる。

職場からの組織づくりこそ大事

 労働組合の活動というのは日常、どこに目線をおいているのかが問われている。職場に目を向け、職場の仲間がどれだけ生活に不安をもっているのかという、生の声を吸い上げないと、運動の発展はない。私がこれまでの闘いで経験してきたのは要求が「通る、通らない」という結果も重要だが、どれだけ「職場の仲間を守る闘い」をしてきたかどうかで、労働組合に対する信頼、役員に対する信頼というのが勝ち取られていく。
 それを「いまの経済情勢は厳しいから要求はガマンしよう。闘いは抑えよう」というのでは、絶対に組合員の信頼というのは勝ち取れない。だから組合離れになって、個人解決をしていくような現状がつくられていく。
 もう一度、闘いの歴史を振り返りながら、運動の組み立て方も含めて、地域から起こしていかないと本当に労働組合はつぶれていくのではないかという危ぐをもっている。
 福岡の全国一般の組織拡大が進んでいるというのは、組合員自身の拡大活動によるところが大きい。個々の組合員が組合の運動方針、具体的な運動の展開について、「この組合だったら大丈夫」と自信を持って未組織の仲間に飛び込み、組織化をしたり、職場の組合員の拡大も積極的に行っている。
 いまの労働運動に欠けているのは、そういう当たり前の活動、基本線ではないか。こうした基本にもう一度、考え直さなければいけない。
 私が、先輩から教えられたのは、「組合員と目線をいっしょにする」という態度だ。だから専従になっても常に職場回りをしている。組織づくりの基本というのは職場からだ。特に中小運動は、職場からの組織づくりというのは労働組合全体として軽視されているようにも思うが、これは主張し続けていかないと、職場の仲間というのは元気がでてこない。
 いま、労働組合の組織率はきわめて低く、多くの労働者は未組織だが、労働者の状態はますます悪化している中で、逆に言えばパート労働者も含め、広範な未組織労働者を組織化し、労働運動の大きな発展が可能な状況ともいえる。


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