20020525

メディア規制法案

取材活動規制は危険

「言論の自由」守るため廃案に

長村 中・日本放送労組副委員長に聞く


 現在、国会では有事法制関連3法案と平行して、個人情報保護法案と人権擁護法案のいわゆるメディア規制2法案も審議されている。同法案に対しては、各界から反対と憂慮の声が噴出している。NHKの労働者で組織されている日本放送労働組合(日放労)も5月9日、常任中央執行委員会で有事法制関連3法案とともに、メディア規制2法案に反対する声明を発表した。長村中・日放労副中央執行委員長に聞いた。


■本末転倒な法案内容
 まず、国会に上程されている、個人情報保護法案と人権擁護法案については基本的には本来の趣旨に基づいてつくるべきだという基本姿勢だけは確認したい。つまり、行政がもっている様々な個人情報の乱用を防止し、個人が自分の情報がどのように扱われているか、間違っているのであれば修正をする権利も確立されるべきであり、その意味でも個人情報を保護する法律は必要だ。また人権擁護法案についても、国連人権規約委員会から日本政府は「人権後進国」と指摘されており、人権を守り、人権尊重の考え方を広げていくという趣旨のものは必要だ。
 しかし、今回提出された法案の中身は本来の趣旨とは違って、行政や公権力に甘く、私人間の人権侵害に対しては厳しいなど、本末転倒の内容になっている。そして何よりも、言論の自由を脅かしかねない内容になっている。このことについてはわれわれとしては到底見過ごすことができないというのが基本的なスタンスだ。
 この法案にしろ、有事法制もそうだが、今、政府は、どちらかというと自由でパブリック(公共的)という概念を優先するというのではなくて、管理や、規制を強化する国づくりの方向にもっていこうとしているのではないかとの疑念を抱かざる得ない。

■視聴者・市民のための報道こそ重要
 われわれにとっても突然だったが、有事法案にある「指定公共機関」の中に、公共放送であるNHKが入れられていることが分かった。これは、先の大戦時に言論機関がどういう役割を果たしたかを思い返さないわけにはいかない。その意味ではメディアのもっている責任は大きい。
 仮に「武力攻撃」の事態が起これば、本部長である総理大臣に相当な権限を持たせてしまうであろう。そういう条文も実際、有事法案にはある。
 このことをとってみても、到底この法案に「賛成」などとは言えない。現在、NHKは災害対策基本法にもとづいて、指定公共機関に入っている。
 この理屈で有事法制の中に入れられている。災害が起きれば視聴者・市民の生命と財産を守るために報道機関がどういう役割を果たすのかということになる。災対法の中に書かれている精神を当然最大限優先して、NHKの責任において、とにかく視聴者・市民に対して、安全な情報を的確に早く伝えるべきだということはお上からいわれるまでもなく、自分たちの責任としてやってきたつもりだ。その意味で、「有事」といわれるときにおいてもNHKは、視聴者の受信料で成り立っている公共放送であり、視聴者・市民のためにどういう報道をすればいいかという視点に立って、放送ができる環境が絶対に確保されなければいけない。そうでなければ、先の戦争の時のように政府の発表をそのまま流すことになってしまう。

■職場集会開き、危険性訴える
 当時の森政権時代、法案が検討されていた段階で、組合機関紙の号外を出して「いまこそ言論・放送の自由のために」と法案の問題点を打ち出した。これはメディアに働くわれわれだけではなく、一般の人たちにも、この問題について分かってもらおうと、あえて号外という形で出した。また、3法案のできた経緯などをまとめて一般の人たちにも知らせたり、各種シンポジウムなどの資料に使うなどの活動を続けてきた。
 メディアに携わる者として、自分たちだけを守るために反対をしていると思われないためには、自助努力をどうやって視聴者、市民に見せていくかが重要になってくる。BRC(放送と人権等権利に関する委員会)、BRO(放送と人権等権利に関する委員会機構)という第3者機関の機能が今のままでは不十分かもしれない。あらゆるところに、出向いていって問題点と、自分たちが何をするのか、何をしなければいけないのかと説明している。
 機関紙の最初の号外を出した時に、全国の職場でこれを題材にした職場集会を開いた。とにかく自分たちの問題であり、ここで問われているのは私たち1人ひとりなんだというメッセージを出している。できる限りすそ野を広げて運動を展開してきたい。
 通常、一般の市民が入っていけないところに報道機関は取材を通じて入り、ある時は暴いたり、ある時は情報公開を迫ったりして、その情報を広く知らせている。それは市民社会の中で一定の認知もされているはずだ。
 ところが、この法案はこうした取材活動自体に委縮効果や規制をもたらす危険性があるわけで、名は内容を現していない法律だということを分かってもらわなければいけない。そのためにもいったん廃案とした上であるべき趣旨の法律を制定すべきである。

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