20011215

教育基本法 改悪の動きを許さない

見直しは改憲への一里塚

樋口 浩・日教組副委員長に聞く


 遠山文部科学大臣は11月26日、中央教育審議会に「教育振興基本計画の策定」と「新しい時代にふさわしい教育基本法のあり方」を諮問した。諮問は「日本人的自覚」、「伝統文化の継承」などをあげている。日本教職員組合(日教組、榊原長一委員長)は、教育基本法の見直しに反対し、キャンペーンに取り組んでいる。諮問が出された背景や狙い、運動の進め方などについて、日教組副委員長の樋口浩氏に聞いた。


 戦後、1947年に教育基本法は公布・施行されたが、これまでに、大きく分けて4回もの改悪の動きがあった。 一回目は、50年代中期から60年代初頭にかけてだ。50年の朝鮮戦争とレッドパージが進み、52年には当時の天野文相が「『日の丸・君が代』のすすめ」を唱え、修身科復活論が出てきた。また55年の保守合同の直前には、当時の民主党が「憂うべき教科書の問題」を発行して教育基本法の改悪を主張した。
 2回目は、60年代中期から70年代初頭にかけて表れた。教科書検定と指導要領の法的拘束性の強化が行われた。75年から80年過ぎには、全国で主任制反対闘争が闘われた。
 3回目は、80年代中期で、中曽根政権のもとで臨時教育審議会(臨教審)が設置され、基本法見直しが企図された。
 4つ目の大波が90年代末から現在までで、96年には「新しい教科書をつくる会」が発足し、99年には「国旗・国歌法」などが成立。2000年には「新しい教育基本法を求める会」がつくられた。そして、教育改革国民会議報告から今回の諮問という流れだ。
 いずれにしても、これまでの見直し論議がすべて憲法改悪、「再軍備」とからんでいる。こうした動きの背景には国家主義的、復古主義的な動機と政治的意図が強く働いており、こんにち的にはグローバリズムに名を借りた市場経済万能主義ともセットになって出てきている。国会に憲法調査会が設置され、活発に議論される中で、教育基本法が標的になっているとみざるを得ない。教育基本法の改悪が憲法改悪への一里塚となっている状況である。
 平和・基本的人権・国民主権の憲法のもとに、われわれみんなが生きているんだ、ということをあらためて確認したい。
 そのことが忘れられたように、99年にいわゆるガイドライン関連法、盗聴法、国旗・国歌法などの悪法が成立した。さらに「国際協力」の名のもとに、テロ対策特措法や自衛隊法改悪がきわめて短期間のうちに国会を通過し、公然と海外派兵が行われる。その流れの中で、いよいよ憲法の明文改悪ということが政治日程にのぼり、その突破口に教育基本法改悪が据えられたという段階だと思う。
 憲法の「理想の実現は根本において教育の力にまつべき」ということでつくられたのが、教育基本法の性格だ。首相の私的諮問機関である教育改革国民会議や文部科学相などは、「新しい時代にふさわしい教育基本法」が必要と言う。しかし、日本ペンクラブが昨年、声明を出したが、そこでは、「世界の平和と人類の福祉、という理想は50年や60年で古くなるものではない」と言っている。
 したがって、教育基本法の準憲法的な性格を変えたり、憲法の理想が変わらないのに教育基本法の理念を変えることは、許されることではない。

国際競争担う選別教育狙う

 施行後50年あまりの間に、4回も改悪攻撃の大波をかぶっているということは、政府・与党が教育基本法をまじめに実現しようと力を入れた時代は、ほとんどなかったことを意味している。
 だからこそ、日本の学校は、トイレに代表される、劣悪で居心地の悪い施設設備のままに放置されているのである。3K(暗い、臭い、汚い)とか5K(3Kに怖い、気持ち悪いが追加される)といわれる。
 今こそ、教育基本法の理念を実現しなければならない。つまり個人の尊厳、平和的で民主的な国家社会の形成者などの「教育の目的」(1条)にもとづく主権者教育であり、障害の有無や国籍、親の財産や収入とは無関係に教育の機会均等を保障(3条)、地方分権と学校自治(10条)など、現代的課題の大半が教育基本法に規定されているのである。
 子供の意見に耳をかたむけつつ、保護者・地域住民と共につくる学校施設、30人学級の実現などによるきめ細かい指導、教職員みずからの自己変革など、学校改革の余地が大きく広がっている。こうした学校現場や市民レベルの教育改革運動によってはじめて、教育基本法を守ることができると考えている。
 文部科学省などは、「国際競争力をつけるためには独創的な人間が必要だ」、「ノーベル賞学者をつくる」などと言って「これまでの教育は悪平等で画一的だ」と言う。そうして「飛び入学」などの選別教育を進めようとしているが、こうした市場原理主義による「改革」もまた、戦後復興と高度経済成長を支えた日本の初等中等教育の枠組みの破壊にのみ終わると思われる。

幅広いネットで改悪止める

 日教組はこうした国家主義と市場原理主義の混交物である新保守主義の方向に断固反対していきたい。  わが国の教育はさまざまな問題を抱えているが、教育というのは、社会の持続可能性を担保するものであり、未来の文化を創造するものである。したがって、国民全体の合意にもとづく改革でないと、成功がおぼつかない。日教組はそのためのたたき台を近く「21世紀の公教育を考える委員会」から提起する。
 「新しい時代にふさわしい教育基本法のあり方」が中教審に諮問された事実は、戦後55年間の流れを見た場合、やはり護憲・平和の民主勢力総体が弱ってきた証拠とみるほかはない。この事態を「本当の危機」と、とらえたい。
 日教組としてはこのことを訴えて、断固として「憲法と教育基本法を守れ」という運動を広げる。
 教育・憲法学者をはじめ、市民運動レベルの幅広いネットワークに期待して、教育基本法改悪反対運動の連帯を追求する。時あたかも、2002年の3月31日は、教育基本法施行55周年であり、これを盛大に記念する意味でも、広範なネットワークの連携づくりに努力したいと考える。

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