20010605

生活危機にあえぐ労働者、下請け
トヨタ1兆円、日産3300億円 大もうけ

「会社に血や肉を吸われてしまう」


 労働者や下請けが、長期の不況で生活危機に苦しんでいる。一方、上場している大企業は膨大な利益を上げている。とりわけトヨタ自動車が五月十一日発表した二〇〇一年度三月期決算は、連結益が史上最高の九千七百億円となり、連結経常利益は一兆円を超えることになった。また、日産自動車も三千三百十一億円の利益を出し、昨年は約六千八百億円の赤字であったことから、損益が一年で一兆円を超えたことになる。これらの利益拡大は、日産の「リバイバルプラン」に代表されるように、労働者と下請けへのすさまじい合理化の結果である。あきれたことに、日産労組は、リバイバルプランを絶賛している。こうした大企業の理不尽な攻撃に対し、労働者や下請け企業は、断固闘わなくては生活や営業を守ることはできない。かれら怒りの声を紹介する。


21世紀も「野麦峠」が続くのか
日産労働者 田中 英司


 カルロス・ゴーンによる「リバイバルプラン」によって、日産は約三千億円の黒字になった。前年の赤字が約六千八百億円だから、差し引きすれば一兆円も稼ぎ出したことになる。それも、考えれば当然だ。武蔵村山工場、日産車体京都工場、愛知機械工場などが閉鎖された。下請会社は千百四十五社あるが、来年度には六百社以下にする。しかもコストダウン二〇%が行われたからだ。
 実際に村山工場では、追浜工場(神奈川県)や栃木工場に移動ができないで辞めた人が約五百人以上いるそうだ。京都工場もだいたい同じだから、実に千人もの人たちが職場を失った。
 これは聞いた話だが、一九八五年の日本からの自動車輸出は六百七十万台であったが、二〇〇〇年には四百四十五万台に落ち込んだ。これは、米国での生産が増加したためだが、日本からの輸出だと円高になって、損をするからだ。海外生産を強化すれば、国内が空洞化するのは当然だ。そして、失業者が増加する。
 リバイバルプランで、生産性を上げるため人員は減らされ、仕事は目いっぱいきつくなった。俺の年次有給休暇は、四十日も残ってしまったほどだ。とても休めない。労働組合は、十七日は取得するようにというが、現場では五日とか七日とかが普通だ。みんなは「もっと休みたいが、働かないとメシが食えないのでしょうがない。それに人がいないので休める状態じゃない」とブツブツ言っている。
 こうして人間らしい生活は、以前にも増してできなくなった。腰痛などでコルセットを使う人もいるが、筋肉疲労を取る薬や痛み止めを使う人までいる。職場では、気晴らしもできないためだろうか、うつ病になった人が二人も出てしまった。疲れがたまり抵抗力がなくなってしまっているので、病気になりやすくなっている。こんなことでは死んでしまうのではと、時々ふと思ってしまう。
 現に会社を辞めて、一年半で体重が十キロも増えた人がいる。太ることは不健康に思われるかも知れないが、「会社で血や肉を吸われなくなったからだ」と、仲間内では話が出ている。実際、他社から応援に来ている人たちは「こんな疲れる仕事は初めてだ」と口をそろえて言う。
 また、以前は構内速度八キロというランプがあったが、いつの間にかなくなっている。多分、相当スピードを出さないと部品の配達が間に合わなくなったのだろう。そのために事故も起きている。知らないところで、合理化がやられている。
 ロッカーで着替えるとシャツは汗びっしょりである。日産の回復がもてはやされているが、実態はこんなものだ。「『ああ、野麦峠』が二十一世紀にも続くのか」と思わず、考えてしまう。


俺たちには関係ないさ
今日も傷をなめながら働く
トヨタ労働者 赤井 孝明


 朝刊を見て驚いた。会社の二〇〇一年度三月期決算で収益が九千七百億円余となり、過去最高だという。職場の休憩所でそんな話を始めたが、誰からも反応はない。「会社がどんなにもうかっても、俺たちには関係ないさ」がA君の弁。世間では長引く不況で倒産が相つぎ、同業他社では工場閉鎖、首切りリストラ、遠隔地への配転、賃下げが当然のように進められ、全国のハローワーク前は失業者であふれているというのに。
 しかし、この会社だけは別格のようだ。その証拠に、俺たちがどんなに疲れているか、どんなに怒っているかもお構いなしに、車はコンベアの上を次から次へとどんどん、どんどん流れてくる。まるで地獄の底からわいてくるかのようだ。
 俺はそんなラインで今日もTシャツを汗まみれ油まみれにして部品を組みつけている。俺の手は、油と汗とゴミで真っ黒けだ。爪先はゴミが詰まって洗って洗っても落ちないんだ。そればかりか、時間に追われてあわてて組むものだから、手や腕をボディーの鉄板に引っ掛けて、あちこちが切り傷だらけだ。血が出てもバンソウコウを張っている時間もないから、いつもなめておしまいさ。だから俺たちが組んだ車には、俺たち労働者の血がついているんだ。
 今日もストップウォッチを首からぶら下げた生産調査室の連中が何人もやって来て、俺たちの後ろに立って部品を持つ時間、工具を持つ時間、歩く歩数などを秒単位で計っていやがる。
 一人の奴はビデオカメラで一人ひとりの作業を撮っている。作業分析とやらで、どこに「ムダ」な動作があるかを発見して、人減らし合理化につなげるのだという。虫眼鏡で昆虫を見つめるようにして俺の動きをメモに採っている奴がいるので、「お前たちがいるのが一番ムダだ! 邪魔だからあっちへ行ってろ!」と怒鳴りつけ、「自分でやってみろ! 一番よく分かるぞ!」と言うと、今度は向かいのA君にへばりついている。全くを吸血鬼みたいな連中だ。
 会社は常日頃から「経済情勢は厳しい、賃金競争力の維持・強化の観点から慎重に判断すべき」として、労働者には裁量労働制、職能給賃金による賃金抑制、福祉厚生費のカットなどを強制し、下請けへの単価切り下げも工場閉鎖に陥った日産ですら二〇%カットなのに、この会社は三〇%の単価切り下げを迫っている。これでも飽きずに、まだまだ人減らし、コストダウンをやるというんだ。どこまで、俺たちを苦しめたら気が済むんだ。
 資本主義は、利潤の追求のための社会であり、企業がどんなに収益を上げようとも労働者の生活はさほどよくならず、労働者を搾取し続けなければ維持できない社会であることを改めて実感した一日である。


貯金を切り崩し給料払う
単価9割切り下げられた
下請工場経営者


 うちは、A社の五次下請けになるが、コストダウン要求がどんどん下にまで押しつけられ、単価が十分の一にまで下げられてしまった。だから、本当は会社を辞めたいが、いまいる従業員のことがあるので、簡単には辞められない。これまで会社を支えてくれたんだから。
 また、辞めるにしても、その時には社会保険のことなどいろいろな手続きも必要だし、仮に辞めても同じ町に住んでいるので、顔を合わすことを考えると、ちゅうちょしてしまう。
 従業員の給料は、会社の収益以上に必要だから、しかたなく貯金を取り崩している。しかも、仕事が減っているので、いつまで仕事があるかどうかも分からない。
 また、すでに家も土地も担保に入っているので、銀行から金を借りることもできない。例え、借りられてもいつまで仕事があるかどうか分からない状態では、返す当てがない。
 もう一つは、数年前のことだが、工場が駅に近いが、再開発の話があった。市の方は、すぐにでも始まるようなことをいうので、移転先を押さえておいたが、いっこうに始まらない。結局、再開発は延び延びで、具体化はいつになるか分からない。この市のいい加減な話のせいで、結局、数百万円もムダにしてしまった。
 これがダブルパンチとなって、かなりこたえている。こんな毎日だから、夜も眠れずノイローゼになりそうだ。

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