20010315

工場閉鎖に揺れる職場
職場と家族を守るのは闘いだけ

自分の首を切られるか、経営陣の首が切られるかの闘い

三菱自動車労働者(大江工場)の手記・岩崎 宏一


 失業率は過去最高を続けるなど、景気後退は深刻である。そして大企業は、三菱自動車の九千五百人削減・大江工場閉鎖、石川島播磨重工が三千人削減など矢継ぎ早にリストラ策を発表している。これからがリストラの本番といわれ、ますます大量の労働者が街頭に放り出され、下請け企業がつぶされようとしている。こうした中でミツミユニオンが山形県鶴岡工場閉鎖に反対し一月十五日、全国九工場で二十四時間ストで闘ったように、労働者は黙って首切りを許すわけにはいかない。三菱自動車工業は、業績悪化のツケを労働者、下請けなどにしわ寄せし、生き延びようとしている。だが、閉鎖予定の大江工場では、労働者の不信と怒りが高まっている。同工場の労働者から寄せられた手記を紹介する。

 三菱自動車工業は二月二十六日、「ターンアラウンド計画」という名のリストラ策の骨子を発表した。
 それは、資材費の一五%削減、生産能力の二〇%削減・国内乗用車組み立て四工場のうち一工場の閉鎖(大江工場が有力)、国内グループ人員の一四%(約九千五百人)削減、プラットフォームの半減などで二〇〇三年度までに営業利益率四・五%を達成するというものである。
 今回のリストラ策は、過去二回のリストラ策と同じように経営の失敗を私たち労働者に転嫁することだけで会社再生をはかるものであり、マスコミからも何ら収益向上策を示せていないといわれている。
 八六年の米国でのセクハラ事件、翌年の総会屋事件と連続して反社会的な不祥事を起こした三菱は、同じ年のアジア通貨危機を契機に転落への過程を歩みだした。九七年度決算は当初予想の三百五十億円の黒字から、一転して単独赤字二百三十億円、連結赤字千百億円となった。
 その後、新聞紙上などで大江工場閉鎖の記事をはじめ、三菱のリストラが頻繁(ひんぱん)に報道され、「この先どうなるのだろう」と職場は不安につつまれ始めた。
 九八年秋には「RM二〇〇一」なるリストラ策が出されたが、大江工場に関しては、「一部敷地の売却」「合理的な生産ラインへの再編成」という内容で発表が行われ、板金・機械部品工場などの移転にともなう岡崎工場などへの人員移動は実施されるが、「閉鎖はなくなった」と安どしていた。ところが、「RM二〇〇一」での経営目標(九九年度は株主配当の復活の実現、連結黒字の実現、二〇〇〇年度は単独経常黒字五百億円以上、連結二百億円以上)が達成不可能となるや、次に「ハートビート二一」という二回目のリストラ策が昨年はじめに発表された。
 この計画の具体的提案では、大江工場は「二〇〇一年五月までに現行生産車種を岡崎工場やパジェロ製造へと移管し、乗用車組み立てラインは一時休止する。その後、次期世界戦略車を二〇〇二年度から生産」とされていた。
 しかし、この提案直後、大規模なリコール隠しが発覚し、三菱は発足以来の隠ぺい体質・反社会的企業行動のツケを支払わされるはめになった。「ハートビート二一」で経営目標は完全に破たんし、ついに私たちが働く大江工場の閉鎖が発表された。

各職場から不信と怒りの声

 今回の大江工場の閉鎖を含むリストラ策の公表にあたり会社は、「本日の発表内容は骨子のみであり、動揺などきたさず、冷静に受け止められますよう…」との文書を職場に配布した。
 それを見た労働者は、「何を今頃バカなことを言っているんだ。いまさら何があってもおどろかんよ」「これまで何回計画を変えたか知ってるか、みんな。昨日言っていたことが、今日また変わる。何回そんなことがあったと思ってるんだ。嫌気がして何人が辞めていったか」「閉鎖するならはじめから言えばいいんだよ。何がクリーンでオープンな会社だ。どこまで人をだませば気がすむんだ。言っていることとやっていることがアベコベじゃないか」「これまでさんざん動揺させておいて何をいまさら。これまでの会社のやり方は、結局俺たちを辞めさせるために、コロコロと計画を変えてきたということじゃないか」と心からの怒りを口にした。
 今回のリストラ計画についてある新聞は「再建へ『三度目の正直』」と皮肉な見出しをつけて報道したが、職場段階では、三度目どころか数え切れないほどの設備移動の変更や人員移動計画の変更が行われてきた。そのたびごとに職場の労働者は、職制から配転先の打診を受けた。実際に職場が変更されたが、また元の職場や勤務地に戻されたりと、それこそ引っ張り回されてきた。
 春闘期間中に出された今回のリストラ策について、労組支部は「職場報告会」を開いた。主催したのは各職場の職場委員である。発表の翌日には委員会が行われたが、そこでの説明は「新聞の発表は憶測です。あくまで社長と副社長の言うことだけを信じてください」という信じられないものであったという。
 ほとんど何の情報も与えられないまま報告会にのぞんだ職場委員に対して、「なぜ執行部は出てこないのだ。今日あいつらは何をやっているんだ。意見要望を言えと言われても『大江工場を閉鎖しないように』としか言いようがないではないか」「いまさら会社の言うことを信じろとはどういう了見だ。組合は何を考えているのだ。組合のいうことを信じてくださいというのが普通だろう。春闘期間中ということも認識しているのか」「執行部はこれまで『新聞は憶測だ』と言ってきたが、新聞のいう通りになってきているではないか。俺は新聞の方を信じる」「一週間前の集会で『大江工場は閉鎖になるんですか』と執行部に聞いたら、『いまのところは閉鎖はありません。乗用車ラインはいったん休止するだけです』と言ったじゃないですか。みんなも聞いていたでしょう。もう信じられないよ」「意見、要望を挙げてくれと言うが、これでは意見の挙げようがないではないか。何の情報もないのに何を言えというんだ。仮に何か言ってもどうせ通らないじゃないか」「新聞に惑わされないようにと言ったが、だったら執行部が来て説明してほしい」「組合の方針はどうなっているのだ。会社の方針は分かったが組合の方針はどうなんだ」との声が各職場で上がった。
 主催した職場委員の一人も「以前から皆が組合方針を聞きたいと言っているが、職場に来てほしいと言っても出てこない。『危機感はあるんですか。本当に闘う気があるんですか』と聞いたら、『職場委員からそんなことを言われるいわれはない』なんて言うんだ。あいつらは全然危機感がないんだ。あいつらはもう就職先が決まっているんだよ」と怒りをぶちまけている。

会社と御用組合に幻想なし

 今回のリストラ策の発表にあたり三菱は、これまで用いた戦術をとってきた。
 それは、まずマスコミに工場閉鎖、人員削減などの大規模なリストラ策をリークし、労働者に動揺を引き起こさせる。次に組合の御用幹部をたたいてリストラが避けがたいものと思わせ、春闘交渉に水を差す。そして、春闘での決着をそれまでにない超低額で妥結させて幕を引き、工場閉鎖・人員削減といったリストラ受け入れの準備(思想的屈服)を整えさせる。これが、これまで三菱が採用してきた労務対策戦術の大筋である。
 ただ、これまでと異なっているのは、過去二回のリストラ策では明確には打ち出させなかった資材費の一五%削減を第一番目に位置づけている点にある。これは、ダイムラー資本が入ってこそ実現可能という経営の判断である。その内容は、日産のリバイバルプランとまったく同じである。しかし、資材費の一五%削減は私たち労働者にとって何を意味するのだろうか。それは、関連の中小・零細企業の破壊とそこに働く労働者の首切りを引き起こし、底辺労働者のいっそうの貧困化に拍車をかけざるをえない。
 九千五百人の人員削減は、国内の三菱自動車グループだけの数であり、工場閉鎖にともなうグループ以外の期間労働者、派遣労働者、工場関連の労働者、販売会社の労働者、中小零細に働く労働者、そしてその家族。ここには生きて働いている人間がいる。すでに関連の中小零細では、希望退職という名の首切りが先行している。
*   *
 いま大江工場の労働者は、会社や御用組合幹部への幻想を敢然と断ち切り、自分の職場と家族を守る闘いに立ち上がっている。自分の首を切られるか、ダイムラー・クライスラーと三菱の経営陣の首が切られるかの闘いでもある。