20010101

21世紀 労働運動を再生させる

労働運動活動家新春座談会

(1)


 新世紀は危機の様相が深まる中で明けた。危機を根本的に打開する力を持っているのは、労働者階級だけである。だが、資本のかつてない攻撃を前に連合を中心とする労働運動は無力さをさらしている。労働運動の存在理由と路線が問われているとき、労働党は『戦後日本の労使関係―労働運動の歴史的総括と再生のために』という文書を発表し、すべての労組活動家に問題を提起した。新年に際して、二十一世紀をどう闘うのか、党の文書への感想も含め労働運動の現場の第一線で奮闘している活動家の方々に大いに語ってもらった。

(参加者)

  • 中村 寛三 (司会・労働党労働運動対策部長)
  • 武見 慎一郎(トヨタ労連支部)
  • 川上 裕治 (マツダ労連支部)
  • 佐川 善之 (全港湾支部)
  • 三本 雅彦 (自治労支部)

停滞局面を逆転させたい

司会 明けましておめでとうございます。
 いよいよ二十一世紀の幕が開きました。皆さんも新世紀の新年を決意も新たに迎えられたところだと思います。
 さっそくですが、新年の抱負をかねて自己紹介をお願いします。
三本 おめでとうございます。自治労で支部執行委員をやっている三本と申します。自治労では昨年来、人勧の問題や能力主義、実績主義による人事評価問題が大きな課題となって、議論が始まっているところだ。また、さまざまなリストラ・合理化で仕事がだんだんきつくなっている。
 そうした中で、組合員から「これから賃金はどうなるのか」「退職金はどうなるのか」と切実な相談が来るようになった。これまでは、組合が無視されている状態もあったが、一つの変化だ。職場の仲間は「先が見えない不安」を感じるようになったのだ。
 ちょうどそんなとき、労働党が戦後労働運動の総括文書を発表した。この十年ぐらい労働組合が闘わなくなっていて、私は悶々(もんもん)としていた。この論文では、最近の状況を金融グローバル化の大競争時代と特徴づけて、労働者も厳しいが、資本家もさらに厳しい状態に置かれていると指摘している。資本家が置かれている厳しい状況を見抜けば、闘いようがある、ということが分かり、展望が見えてきた。
 長い間運動をしているが、もう一度初心に返って、職場でどういう労働運動をつくるのか、労働者解放に向かってなすべきことを鮮明にし、がんばりたい。
佐川 明けましておめでとうございます。運輸関係で働いている佐川です。昨年、港湾の規制緩和を最後に、運輸関係の規制緩和の段取りが整った。労働者は、規制緩和にさらされる状態になった。二十世紀の最後に労働者にとってよくないものがつくられた。
 だから二十一世紀は、逆に、やられ放しの労働運動、停滞局面の労働運動をどう逆転させていくのか、問われている。労働運動が生き生きと社会的役割を果たせるようにがんばりたい。
武見 おめでとうございます。トヨタ第一次下請けの部品関係の職場で働いている武見です。組合はトヨタ労連に所属している。
 自動車は文字通り会社の買収・合併の中で、新世紀を迎えている。下請けや労働者へのリストラ攻撃は、さらに強まると思う。昨年、職場の活動家たちの交流をやってみたが、労働者は攻撃が強まれば仲間を求め、連携を強めて次第に闘い始めるようになると実感した。労働組合がきちんとしなければ、厳しい目で見ているし、民主党や共産党に対しても本質を見抜けるような労働者が出てきている。われわれも真価が問われる。私は、現場労働者の信頼を得られるような活動をしたい。
川上 おめでとうございます。マツダの下請け、部品企業で働いている川上です。
 今年はわれわれ部品工場の正念場になる。マツダのリストラ、部品企業の合併・再編の大きな波がいま押し寄せようとしている。昨年の暮れ近くに宇品工場閉鎖、千八百人の希望退職の話が出た。
 そうした中で、マツダ労連傘下の組合も一昨年、昨年と少しずつ闘う労働組合に変わりつつある。数年前にスト権を確立した組合がある。昨年春闘では「非協力行動」として、「時間外の協力は一切やめよう」と闘った組合が出てきた。それを見ても、役員の姿勢次第で、組合の求心力はつくれると思う。
 自分の組合もそうした組合に学んで、組合員の要望していることをくみあげてがんばりたい。

工場閉鎖、希望退職、総額人件費抑制
ないがしろにされる労働者

司会 金融グローバル化の大競争を勝ち抜くために、資本の側は資本効率重視で「選択と集中」を進め、かつてないリストラ攻撃が続いている。それぞれの職場にはどういう形で出ていますか。
川上 ご承知のようにマツダ労連は、九九年九月の定期大会で「ものわかりの悪い組合」に方針転換することを決定した。これまでは「話し合いで解決する」ということだったが、これからは「是々非々で対応する」となった。
 その背景には、フォード資本が入ってきて、露骨にグローバル・スタンダード(世界標準)、連結決算などでリストラが次々とやられたことがある。下請け企業でも資本の入っているところでは売却されたり、集約される攻撃が続いている。販売会社でいえば、再編して同じ地域の会社を一つにしたりなどの徹底した効率化を図っている。
 フォード派遣の社長は任期が数年で、その間に実績を上げるためには、なりふり構わぬ無理なやり方をしてくる。
 組合の方針転換の一つの契機になったのは、宮城マツダという販売会社の倒産だ。当時のミラー社長は労連にまったく相談なく、断行した。米国では当たり前かもしれないが、日本では通用しない。
 リストラされる会社には労働者がいる。「もうけ至上主義」で、労働者がないがしろにされている。そうした労働者の不満の高まりが、労連の方針を変えさせたと思う。
 宇品工場の閉鎖問題は、地域的に不安と動揺が広がっている。県が雇用対策本部を設置したり、広島市がゼネラルモーターズ(GM)に部品などで仕事が取れないかと視察団を呼んでいるが、そんな対応ではどうにもならない。
武見 トヨタは、国内ではほとんど独り勝ちの状態にあり、仕事量としては確保されている。そのため、人員削減を伴うリストラはない。
 しかしそれは本工だけだ。社外工や派遣の人たちは、いつでも首が切られる状況にある。だから、豊田の職安に行けば、社外工だった人がたくさん来ている。
 トヨタでは、本工や一次下請けで賃金制度を変えてきた。トヨタでは十三年前に職能給が導入された。そして昨年、ほとんど資本の思い通りに完成した。事務系では、年功給がまったくゼロになった。技能系では、ごくわずか一〇%程度残っているが…。
 トヨタは、かなり戦略的な政策に基づいて労使関係を築いてきており、労働者、下請けからきっちりと搾り取ってきた。だから、人を切らなくても切ったぐらいの効果がある。例えば「台数生産性」、つまり一人当たりの生産台数だが、GMの二倍の生産性があるといわれている。
 それ以外にも、総額人件費の削減・抑制が図られ、昨年七月から福利厚生でも、ポイント制度を導入してきた。これまで食事代の半額補助、作業服の購入や旅行などのさまざまな福利厚生面での補助があった。それをポイントの上限をもうけることにし、最高七十五ポイント、金額で七万五千円までにした。実際には、食事補助だけで約六十ポイントになる。だから、それ以外の福利厚生はほとんど利用できないことになる。「自由に選べますよ、だが枠内ですよ」となっている。
 また雇用の流動化が進んで、本社の女性事務はほとんど派遣労働者になっている。
川上 五工場閉鎖など大リストラをやった日産は、昨年十月三十一日、ゴーンが誇らしげに記者会見し、「予想より早く深く進んでいる」と豪語した。二〇〇一年に連結決算で利益が二千五百億円と過去最高になるという。昨年九月の中間決算の営業利益は前年同期比で二・三倍の千三百六十六億円。主な増収要因は、リストラによる部品などのコストダウンで千二百億円利益をあげた。
 人員削減は八千八百人にものぼる。リバイバル・プランは労働者の首を切り、下請け会社にコストダウンを強要した。日産の利益は、労働者と下請け企業の犠牲の上に成り立ったものだ。
武見 三菱自動車もリストラ計画「ハートビート 」を発表している。一昨年の日産リバイバル・プランの発表直後に、三菱自動車グループは一万人削減計画を出した。
 三菱の場合は、ダイムラークライスラーとの資本提携があり、最高責任者をダイムラーから迎えた。その後にリコール隠し問題で、経営が非常に揺れている。リストラ計画もコロコロ変わっている。
 昨年末ぎりぎりに名古屋市の大江工場の工場閉鎖が発表された。それまでは、二千七百人のうち千三百人の移動を発表していた。すでに面談が始まっていたが、岡崎工場と岐阜にあるパジェロ製造への移動だった。しかし、この面談の最中に人数が変わった。結局狙っていたのは、工場閉鎖だった。
 マツダの話を聞いて感じるのは、リストラに組合がどういう態度をとるのか、とても大きな問題だということだ。
 日産の労働者から最近聞いたが、ゴーンは労組にもはからずリストラ策を決めたと言っていたが、事前に組合に相談し、組合が了解を与えていた事実が明らかになった。こうなると組合は、資本の側と一体で、事前協議があったとしても、労働者にとっては何もならない。リストラを容認するような参加型労働運動ではどうにもならない。
川上 マツダ労連も「ものわかりの悪い」労働運動に転換したと言ったが、組合実態が十分機能していないというのが正直なところだ。なぜかと言えば、組合執行部が闘い方が分からない、ストのやり方が分からない、組合員の結集の仕方を知らない。長く労資協調でやってきたツケがきている。
 「共闘、共闘」と言いながら、口だけの共闘で実態のあるものになっていない。部品共闘があり、そこで不満ある回答が出たときには、統一行動を行えば力になるはずだ。
 しかし、実が伴わなくても上部団体の方針の転換は、闘わざるを得ない方向になってきている証拠だ。だから、自分の組合の足元をしっかり見てがんばれば、変化はつくれると思う。組合員が何を考え、何を要求しているのか。組合に何を期待しているのか。そのへんを十分に見極め、組合員の思いと同じことをするように心がけたい。

規制緩和でまかり通る「解雇自由」

司会 中小のところには、大企業のリストラの影響がどう現れていますか。
佐川 物流産業で働くところから見ると、荷主に当たる自動車産業を含む大企業は、企業合併、統合をどんどん進めている。そして、その系列の物流を担う事業者は、生き残りをかけてダンピングに応じている。応じなければ生き残れない。ものすごいダンピング攻勢だ。そのため、労働条件の切り下げがやられ、企業に見通しが立たない。
 もちろん、影響は大手にも及んでいる。大手も、再編の中でどこが生き残るか指定席はない。極端にいえば、入札価格で労働条件が決まる。これまで営々として築いてきた労使関係など歯牙(しが)にもかけない。だから自ら料金を下げる。大手は競争力をもっているので集中してある部門を取ることは可能だ。だが、中小零細では競争力がなく、簡単に競争に負けてしまう。企業ごと放り出されるか、下請けに入るしかない。
 港湾の規制緩和はこれからが本番だ。国際競争に勝つことを視野に低コストの港をつくり、港間競争に勝てるようにする。
 例えば、福岡に新しい港をつくり、これまで外国貿易の中心だった神戸、横浜にとって代わろうとする。そうなれば、荷物の流れが変わる。こうなるとその港だけの問題ではなく、全国的な問題となる。
 港には、荷物が入る時期と入らない時期があり、「波動性」と呼ばれている。その「波動性」に対応するために、センター常用労働者制があった。センターに登録した労働者が、企業の枠を超えて仕事をする。規制緩和でそれをなくし、それぞれの企業常用労働者の派遣で対応するようになった。
 組合がよほどきちんと闘わないと、日雇いを限りなくゼロにするどころか、日雇い労働者が膨大に出てくる。
 もう一つ大きな問題は、米国の規制緩和圧力に負けて「整理解雇四要件」((1)人員削減の必要性、(2)解雇回避の努力義務、(3)解雇基準の選定の合理性、(4)解雇手続きの合理性)をないがしろにし、労働力市場を流動化しようとしていることだ。解雇の自由を進めようとしている。裁判所が、「整理解雇四要件」を満たさない不当解雇を容認する判決を次々と出している。解雇された側が裁判所に訴えて闘おうとするが、労組がらみなら解雇OKとなっている。
 さらに、雇用対策なき会社分割法や民事再生法などリストラをやりやすくする法律改悪が進められた。
 労働側からすれば、欧州のEU指令に学び、「解雇制限法」をつくること、身勝手な解雇を許さない法律をつくる闘いが切実になった。

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