20000515


市場万能でない政策を
国民の財産森林を守れ

全林野労働組合・道林 實委員長に聞く


 規制緩和や市場万能論の中で、農業とともに林業も衰退させられている。そうした中で、全林野労働組合などは、林業活性化の運動を進めている。地方でも森林・林業などの活性化を求める意見書が二十五の県議会、八百五十の市町村議会で採択されている。国有林で働く職員を組織している、全林野労働組合の道林實委員長に聞いた。


 現在、日本の森林・林業は危機的状況にある。原木は自由化で一番最初にやられた。いまは国内の木材製品関係で残っているのは五%位だ。農産物と同様に米国から規制の撤廃を求められている。しかしすでに、国内消費量の八割は外材が占めている。その結果、国内の森林・林業がまったくダメになっている。
 こういう現状だが、国内世論は地球規模での環境保全、森林保全や炭酸ガスの排出規制などが重要だといわれている。しかし、現実は矛盾している。森林を守るにはきちんと金も使って山づくりをすることが必要だ。ところが市場万能で外国材に勝ち、自助努力で勝ちなさいとなっている。そうした中で環境、森林を守ることは困難である。これが最大の問題であり、人間の生存には欠かせない水、空気、土をつくり出す政策をきちんとしないと日本の森林はだめになる。これが実情だ。

山を守るのは政治の責任

 現在、人工林は約一千万ヘクタールある。そのうち六、七割は間伐をしなくてはならない時期に入ってくる。間伐をしないと将来よい木にならない。だが、外国の木材と比べて高いということで、国内の木材はほとんど使われていない。しかも間伐の予算は補助金でまかなわれている。だから、自治体や民間などの所有者が一定の負担をしなくてはならない。民間は「切って出せば赤字になるから切らなくてよい」と言って放置している。こうした現状だから、将来を見据えて日本の森林・林業をどうするのか、政策としてきちんとしなくては、どうにもならない。
 都会の人びとも山に来れば森林があって気持ちがよいし、山に木があるから保水や台風などの災害防止に役立っているなど、森林の重要性は理解されている。政治の世界で予算が付けられていないのが最大の問題になっている。最近は、循環型社会などといわれるが、これまで大量消費、大量生産、市場万能、競争原理でやってきたので、そう簡単には変わらないのではないか。
 われわれは森林を守る大事な仕事をしているという自負をもっている。だが、林業を担う労働者がいない。国有林、民間林を含めて九五年で八万六千人である。五年前の九〇年は十万八千人であり年々減っている。しかも年齢は年々上がっている。五十歳以上の人が七〇%以上を占めている。つまり後継者がいない。
 森林労働者が減っている一方で、不況やリストラで林業に応募してくる人は多い。しかし、二、三割しか定着しない。それほど山の仕事は簡単ではない。かなりの技術が必要だし、斜面での重労働だ。そういう中で間伐したり、木を植えたりしながら、われわれは山を守っている。
 山づくりについて一部に誤解があるが、山は放置していてはだめだ。全部切ってはだめだが、適度に切って、手入れが必要だ。また、針葉樹だけではだめで、広葉樹も必要だ。原生林に行けば分かるが、下草が生えていない。つまり、光が入らないので草も生えない。それは、草食、肉食動物も生息せず、他の微生物もいないことであり適切な生態系になっていない。やはり手を入れて、草も生え、小動物もいるような環境が、森を守ることになる。

環境保全、自給率向上を

 これまで合理化問題などで林野庁と交渉をしてきたが、予算が付かないと解決しないということで二十年前くらいから予算獲得の運動を始めてきた。また国有林が赤字になったのは七八年からで、政府が赤字だからと合理化を推進してきた。だが、赤字だというが、単年度で決算されている。しかし、木は五、六十年で育つのであって、毎年の決算ではなく、環境や公益機能の効果などを含めたトータルでみるべきだ。
 現在、林業は置き去りにされている。だから林業活性化議員連盟をつくってきた。これは国会にもあるが、地方のほうが山を知っているので、地方から運動を進めようとしている。地方の議員連盟主催で集会などを行っている。そうやって地方から国を包囲することを目指している。
 また、農業基本法が改正されたが、林業基本法も二年遅れで出来ているので、改正の時期になる。それに向けて運動を強めている。そして地域では山を見る会、森林ボランティア、体験学習など緑の問題についてさまざまな運動を進めている。
 当面は間伐材が出てくるが、使い道がないのではなく、使わない。木材も代替えの方が安いと、板壁にしても安いビニールやクロスなどを張っている。だが、アトピーや火災の際には猛毒ガスを出すなどの問題になっている。林野庁ももっと木の重要性を宣伝すべきだ。また、外材では柱を細くしたり、強制乾燥でひずみも出やすい。だから最近の家は二、三十年でだめになる例が多い。昔の家は百年単位だった。

長期展望の国づくりを

 資源循環型、環境保全などといわれるが、実際には市場優先、効率性万能の社会になっている。だから、日本は実際には電機、自動車に偏重し農林業などはその犠牲になっている。また、あれだけ海外進出すれば、失業者が出るの当たり前ではないか。
 今後の運動だが、現在、各県で集会を行っている。また、二十八の県議会と八百以上の市町村議会で決議が上がっている。こうした運動を続けながら、森林を守る運動を盛り上げたい。また、漁協で森林を守る運動が始まったり、自治体で学校などの机などを地元の木材を使う運動がある。こうした運動との連携を大事にしたい。
 最後は国づくりの問題、政治の問題にもなるが、長期的な展望をもった山づくりをめざしていく。そのためには、地方、山林、農山村をどうするのか。森林、環境、町づくりを考える運動が大事だ。こうした運動で中央を包囲するようにしていきたい。


森林・林業、木材産業に関する基本政策の確立について 岩手県議会の意見書(3月28日・要旨)

 国においては、多様・高度な機能をもつ森林の保全とその資源の有効な利用をいっそう促進するため、次の事項を踏まえ、森林・林業、木材産業に関する基本政策を早期に確立されるよう強く要望する。
1、森林の多面的な機能が十分発揮されるよう、新しい財源措置を含め、森林を健全に維持するための総合的な森 林整備政策の展開を図ること。
2、意欲ある林家、森林組合、林業事業家などの多様な担い手の育成を図るとともに、その経営や施業の集団化を通じて、森林を持続的に管理・経営できる仕組みを構築すること。
3、木材産業の体質強化を図り、国産材の加工・流通体制の整備や需要拡大を図ることにより、再生可能な森林資源の循環利用を促進すること。
4、戦後、積極的に育成された人工林資源が着実に充実しつつあり、その有効利用を図るため、公共施設への国産材利用を促進する助成策を講じるとともに、国産材の乾燥化や木造住宅の建築に対する助成の充実を図り、もって、国産材の利用促進を図ること。
5、国民の安全で豊かな暮らしに不可欠な役割を果たす森林の機能の維持・充実を図るため、その存立基盤である山村の活性化を図ること。
6、森林に対する国民のニーズの高度化・多様化や森林資源・木材需要構造の変化など、森林・林業、木材産業を取りまく環境の大きな変化に的確に対応した新たな基本 法の制定を検討すること。


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