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労働新聞 2021年7月25日号 トピックス

世界のできごと

(7月10日〜7月19日)

G20新課税で大筋合意も問題山積
 イタリアで開かれていた主要二十カ国(G20)財務相・中央銀行総裁会議は七月十日、国際的な法人課税の新ルールの大枠で合意した。巨大IT(情報技術)大手などへのデジタル課税と国際的な最低法人税率一五%以上などの新ルール導入が柱で、十月のG20サミットでの最終決着と二〇二三年の実施へ向け前進した。多国籍大企業が世界で巨額の利益をあげるなか、各国では対応できない税制の抜け穴を埋める狙い。米国は新ルール導入に消極的だったが、バイデン政権は巨額の財政投入のための増税や広がる格差拡大への対応姿勢を示す必要性などから新ルール支持に回った。だが米議会内にも慎重論があり承認を得るのも容易ではない上、新ルールの各論では例外措置を求める各国の意見が対立している。加えて国連専門家委員会や国際運動団体などからは「富裕国のための取引、途上国はメニューが決まった後にテーブルに招かれている」などとして、実際に稼ぎが生じている源泉国での課税重視や最低法人税率の引き上げを求める声が出ており、新税制を通じた格差是正への道のりは依然遠い。

「サイバー攻撃」で中国を共同批判
 米国やその同盟国は十九日、中国が世界各国でサイバー攻撃を仕掛けていると非難する声明を発表した。声明には米国や日英、豪州、ニュージーランドや、北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)が参画、世界各地でIT大手マイクロソフトが狙われたサイバー攻撃などについて「中国当局が関与」とし、「責任を取らせるための行動を排除しない」と攻撃的姿勢を示したが、具体的な根拠を示せず、中国に対する制裁措置などは盛り込めなかった。米国は同盟国といっせいの非難声明を出すことで中国包囲網の拡大を狙うが、世界中でスパイ活動を行う米国に批判する資格はない。

米「ASEAN重視」演出の外相会議
 米国と東南アジア諸国連合(ASEAN)は十四日、オンラインで外相会議を開いた。影響力を拡大する中国をにらみ、ASEAN重視の姿勢を印象付けたい米国は、中国とASEANの一部が領有権を争う南シナ海をめぐって「米国は東南アジアの側に立っている」などと訴え、安全保障面での連携やワクチン供給など新型コロナウイルス対策での協力を確認した。米国はトランプ前政権時代に対ASEAN外交で中国に大きく遅れたが、バイデン政権として初の外相会議で巻き返しを狙う。しかしASEANにとって中国は最大の貿易相手国で、ワクチンも中国に依存する国が多く、各国は米中双方の動きを冷静に見ており、米国の思惑通りには進んでいない。

南アで「民主化」後最大の暴動
 南アフリカで十一日、最大都市ヨハネスブルクをはじめ各地でズマ前大統領の収監に抗議するデモが暴動に発展、一九九四年にアパルトヘイト(人種隔離政策)が撤廃され以降で最大の規模となり、三百人以上が亡くなる惨劇となっている。南アではアパルトヘイト後も「世界最悪レベルの経済格差」や政治腐敗や政府内部の根深い対立など長年の構造的問題が横たわっていたが、コロナ禍で国民の半数近い貧困層の生活はさらに悪化、そこに起こった大規模暴動により生活苦と社会的混乱、政治の流動化が起こっている。コロナ禍が資本主義社会の矛盾をいっそう拡大させている一例だ。

人民のたたかい

(7月10日〜7月19日)

 ブラジルのサンパウロ市と大サンパウロ市圏をつなぐ州鉄道公社(CPTM)の労働組合が十五日、ストライキを行った。ストは、労組側が求めた給与調整に対し、当局がいっさい応じなかったため、組合員の大半が参加する大規模ストに発展した。
 ポルトガルで十七日、空港職員が賃上げを要求してストライキを敢行。リスボン空港など全土で二百便がキャンセルとなり、カウンターには長い行列ができた。
 エクアドルで十二日、バナナやコメ、サトウキビの生産農家八千人が、生産物の最低支持価格などの協定を無視し続けるラッソ大統領に対して無期限ストライキを開始し、政府に対する抗議行動を行った。


日本のできごと

(7月10日〜7月19日)

五輪のための緊急事態もバブル破綻
 菅政権は七月十二日、新型コロナウイルス感染の再拡大が深刻化している東京都に八月二十二日までの緊急事態宣言を発出した。沖縄県に適用されていた宣言も同期間まで延長した。東京五輪開会強行に伴う人流拡大を見越した措置だが、五輪関係者からの感染を防止するために選手や運営関係者を隔離し外部と接触させない「バブル方式」は、検査体制が不十分でルールも守られず、選手村で陽性者が続出するなどお粗末な運営が明白になっている。五輪を震源とした新たな感染拡大が現実となりつつあり、菅政権の罪はきわめて重い。

防衛白書、「中国の脅威」執拗に強調
 防衛省は十三日、二〇二一年版の防衛白書を公表した。台湾情勢が「日本の安全保障にとって重要」と初めて明記した。また初めて米中関係についての節を設置、尖閣諸島関連のコラムを掲載し周辺海域での中国の活動を「国際法違反」と記すなど、「中国の脅威」を随所で強調した。四月に行われた日米首脳会談の共同声明に沿ったもので、米国と歩調を合わせて中国への軍事的包囲網を強化し東アジアの緊張をあおる危険な内容だ。

日銀が脱炭素化に新制度で対応
 日銀は十六日、気候変動対応の投融資を後押しする新たな資金供給策の骨子案を決めた。環境対応の投融資を手がける金融機関に対し金利〇%で長期の資金を供給、脱炭素などにつながる企業の投資を促す。気候変動や環境分野での技術開発などをめぐる国・企業の競争は激しさを増しており、先行する欧州を中心に中銀も政策的に後押しするなど政策を総動員する動きが広がっている。日銀の決定はそうした流れをにらんだものだが、識者からは「欧州より小粒」などの指摘も。環境問題に対する菅政権の戦略の欠如を示してもいる。

連合が三者協定断念、野党共闘不透明
 立憲民主、国民民主の両党は十五日、連合と総選挙に向けた政策協定を締結した。連合は当初、立憲・国民との三者の協定をめざしたが、先の東京都議会議員選挙で進めた立憲による共産党との連携強化に国民や連合内の産別が反発、連合と両党が別々に同じ内容の協定を結ぶこととなった。協定は「コロナ危機の克服」五項目で構成、「左右の全体主義を排す」とも明記された。これについて会見で国民の玉木代表は「共産主義、共産党のこと」と話したが、立民の枝野代表は「具体的な特定をしていない」とした。総選挙に向けた両党間の不協和音が改めて浮き彫りになった格好で、野党共闘路線にしがみつく共産党は今後いっそう政策的屈服を迫られるだろう。

最賃引き上げ目安最高も依然低額
 中央最低賃金審議会(厚労相の諮問機関)は十四日、二一年度の最低賃金を全国平均で二十八円を目安に引き上げることを決めた。審議会はこれまで都道府県の物価や経済状況に応じて四つのランクごとの目安を示してきたが、今回は一律二十八円とし、目安通りに上がれば最高額の東京は千四十一円、最低額は沖縄など七県が八百二十円となる。引き上げ額は現行の目安制度方式となってから過去最大で、また最賃目安が全国同額になるのは一〇年以来十一年ぶり。前進でもあるが、依然として労働者の生活を保障するには低すぎる金額で、国際的に見てもお話にならず、地域格差も依然残されている。また、菅政権は賃上げを中小零細企業の淘汰の道具とする姿勢で、これを許さない最賃大幅増額と中小企業支援策が求められている。

「黒い雨」再び勝訴、国を断罪
 広島への原爆投下直後に降った放射性物質を含む「黒い雨」を浴びたのに国の援護対象外とされた地域の八十四人(うち十四人死亡)が広島県と広島市に被爆者健康手帳などの交付却下処分の取り消しなどを求めた「黒い雨」訴訟で、広島高裁は十四日、全員を被爆者と認定した一審判決を支持、県や市、訴訟に参加する国側の控訴を棄却し、交付を命じた。昨年七月の広島地裁に続き、原爆がもたらした被害を幅広く認定、国に救済を迫った。菅政権は、援護対象を狭めてきた被爆者行政が二度にわたり司法から違法とされたことに真摯(しんし)に向き合い、控訴せずに高齢化した被爆者全員を一刻も早く援護対象に加えるべきだ。


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